#03 大名、名乗ってみました。
「大沢城城主、橋本整備士航太である!!」やべぇ今はただのボロ屋だけど凄く気分良い!それと勝手に末館を大沢城に改名したり、整備士を官職名っぽくしちゃったけど問題ないよね!
「本気かぃ?航太夫よぉ、まぁここに住むっつうなら修理を村んものと手伝ってやるが……」
「航太です。いや、ちょっと思いついちゃいまして……それより村の方々に修理してもらっていいんですか?」
「構わんだろうよ、困った時はお互い様ってやってるからな!」
「ここまでされちゃうと俺も手伝わないとですね……」
翌日、朝から『村の野郎共』みたいなイメージの人たちが大沢城(無断改名)にやってきて腐った木材部分を張り替えたり草抜きをしたりで住める程には修復が終わった。流石にちゃんとした城みたく馬場とかの整備まではしてないけど。
「案外この館って広かったんだなぁ!航太夫の奴が住むって言わなけりゃ気づけなかったぜ!」
なんか村の中でも"航太夫"って呼ばれてる。もしかして"航太"で止めるのが不自然なのか?と思いつつ訂正する。
「航太です。ほんと、何から何まで手伝っていただいてありがとうございます」
「いいってんだよ!そもそもこんな片田舎に人なんてそうそうこねぇし春は特に楽な時期でもあるからよ!」
「落ち着いたら村で何か手伝わせてください、流石に助けられっぱなしで……」
「そうだなぁ……秋やったら猫の手すら借りてぇとこだが……折角なら畑増やすか!」
うげっ運動イベント来たよ!と思ったが流石にそのぐらいやらないと村の神様方にお世話になりっぱなしだ。
それと今のうちから収穫を増やせることはメリットがある。一村民としても、趣味としても。
と、村の男達のまとめ役ともいうべき茂造と話していると航太さん航太さんと呼ぶ声がする。
この村で唯一名前を間違えずに読んでくれるこの声は一郎丸だ。
「ここの館の修復はだいたい終わりました。しかし、和尚さまが邪気払いに幕と旗印を作るべしとおっしゃってますが航太さんの家の紋が分からず作れずにおりますのでお尋ねしにまいりました」
「そこまでしてもらわなくてもいいって、趣味でここに住んであわよくば……とか思ってるだけだから」
しかし家紋か……俺の家に家紋なんてあったかなぁ……?
「いえいえ、面白い江戸からの流れ者が大沢に来たとこのあたりの村々ではその話で持ち切りで、ここ大沢でとうとう商いが始まっており豊かになりつつありますから……」
一郎丸がいろいろ言っているがそれどころじゃない、どこかで見た覚えがあるという所までは思い出しているのだけど……
あれだ!!
「丸に違い鷹の羽だ!五大紋のひとつの!」
転生一年前の夏、祖母について行った墓参りの墓石に丸に違い鷹の羽の家紋があった。その家紋について俺がもっと小さい頃に祖父からこれが橋本の家紋だと聞いていた事も思い出せた。
「五大紋というのはわかりませんが、丸に違い鷹の羽ですね、和尚さまにお伝えしてきます」
「ってだからそこまでしなくても……」
引き留めようとしたが間に合わなかった。
「航太夫よ、一応お前さんは苗字も持つ武士なんだからこのぐらいのもてなしもしなきゃならんってことだ。お前自身は全然武士らしくないがな!」と茂造。
あぁそうか、初めて名乗った時に『橋本 航太』って言ったからか。
この時代じゃ苗字を持ってるのは武士だけなものだから自然と格上になっちゃうわけだ。自分の趣味としてはそれで問題はないんだけれども。
「もう駄目、動けん」
ドサリ、と畑に着くや否や倒れこむ俺。
「お前本当に大丈夫か?まだ畑まで歩いてきただけだぞ?」
「30分ずっと未舗装の道を登山とか聞いてませんよ……」
「さんじゅっぷん?いやそれはいいんだがほれ、やるぞ!」
そういって兵三さんが投げ渡してきたのは一枚刃の鍬、え?まさかこの鍬で開墾する気なの?
というよりもこれは即、問題を二つ解決できるな。取り敢えず本当にこれだけで広げる気なのか訊いてみる。
「なんですかこれ」
「鍬に決まってんだろ?こいつで畑を広げるんだよ」
「いえ、もっと楽にできますよ、これは」
?と首をかしげる兵三さんに俺の思いついたことを伝えてみる。できるかどうかは出来るかできないかの二分の一だ。