#25 豪族、卒業しました。
大曲での戦いから戻って来て翌日には大森城攻め、戦国時代は誰もが完全週休零日制。休みなど甘ったれるなと言わんばかりの世界ぐるみのブラックっぷりである。
「殿、全軍用意は出来ておりまする!御命令を!」
吾六が俺を呼びに来る。現在時刻は午前七時、昨日の大曲の帰りに伝えた通りに俺が起きるまでに部隊をもう編成し終わって待機状態らしい。有能!正直その辺のなんちゃって武将よりも有能だぞ橋本家臣団!
「遅れて済まないな。全軍大森城へ向かえ!場所はわかるな?昨日通り抜けた所だ」
「承知!足軽大隊!我に続け!」
吾六の足軽大隊が無駄に高揚状態になる。別に士気が高くて悪い事も無いからわざわざ鎮静化させる必要もないけどな。
しかも今回の攻略目標、大森城の防衛部隊はどうもいろいろ問題を抱えているように思える。何故かはわからないが三度も俺達を倒す絶好のチャンスがあったにも関わらず一度も動きを見せていない。城主の康道が実は相当な臆病者なのか策士なのか冷静なのか……
どのみち実際の所は行ってみないとわからないけどな。
マジか……
俺達は今、どう考えても大森城の射程圏内だろう位置でのんびりと持ち込んだ投石器を展開をしている。
しかし予想外にも弓での応射すらない。城門を閉じている事以外は全くの無抵抗だ。
小野寺の旗印は見えるから味方の城を攻撃しようとしている可能性は無い。仮に味方の城だとしたらすぐに小野寺の旗印は下げるだろうし伝令だって送って来るだろう。今はしっかりと橋本の旗印を揚げているから味方ならすぐに気づけるだろう。
「投石器、組み上げました!いつでも放てます!」
信本が報告に入る。
「えーこれでちまちま削ってくのー?めんどくさいから突っ込もうよー!」
馬鹿が直ったかと思えばこれだ。悠香が嫌がるが、今回は犠牲を少なく抑える事が目的だ。この様子だと下手すると被害ゼロで大森城を落とせるかもしれないしな。
「投石器、撃ち方始め!悠香以外敵に突っ込んでいくなよ?」
「私一人が突っ込んでも駄目でしょ!部隊を突っ込ませないとただの的だよ!」
「部隊を突っ込ませてもただの的な事は変わらないしここならノーダメージで一方的に削れるみたいだがそれでもお前はダメージを受けに行きたい馬鹿なのか?」
「でもめーんーどーくーさーいー!」
「そんなに突っ込みたければ一人で逝ってろ。その方が橋本家の為でもあるからな」
ってこんな会話してるがここ、戦場だぞ?最前線だぞ?某世界で一番長い戦争宜しく一発たりとも敵側から攻撃が飛んでこないぞ?俺達は攻撃しまくっては居るけども……
しばらく投石作業だけ淡々と続けていると矢がかなり前方に一本だけ飛んできた。
「ようやく敵方も戦い始めることですな!殿!この吾六にお任せ……」
「よく見ろ吾六、あれは矢文じゃないか?」
「な、見てまいりましょう」
吾六が矢を回収して戻って来る。
「確かに何か書かれてはおるようですが……殿……」
「何て書いてあるんだ……?なるほど、わからん」
手紙を書くときは相手が読めるようにきれいに書いてくれ……
楷書体で!俺は古文専攻じゃないから草書体みたいな筆で書いたふにゃふにゃの字は読めないんだよ!
「誰かこの筆の字が読めるやつは居るか?」
「文字も読めないのー!?かしてー!」
奪い取るように俺の持っていた矢文の紙を持っていく。
まさかこいつに読まれちゃったりとかはしないよな?
「でこうたぁー、なんて書いてあんのー?」
こいつ一瞬前になんて言ってたかすら覚えてないのか!?
「『我ラ攻ニ下ル、之ヨリ人ガ向カウ、人生カス可シ』どうやら降伏の使者を寄越す故、攻撃を止めてくれ、と言いたいようですな。誤りが多いようでありますが……」
成武が読み上げる。成武さりげなくその辺の教養あるな?面接で百姓よりは学があると言っていたがどんな出自なのか気になるところだ。
「ならば撃ち方止め!敵の攻撃あるまでは攻撃するなよ!」
投石器の射撃が止まる。すると城の門が開き数名の人が出てくる。一人は騎乗して他の四人が徒歩だ。
「大森城の降伏の使者か?」
前に出てきた徒歩の一人に尋ねる。
「はっ我等に戦意は初めから御座いませぬ。大森殿は無事に城兵と己を逃がすならば城は明け渡すと仰せです」
なんか向こうがこっちを見下しているような言い草が気に食わないがそれで済むなら貰おう。
康道に無事逃げてもらい、橋本家に敗北しても酷い目には合わないと輝道にアピールしてもらう事で少しは橋本家に対して敵対心を緩めてもらう事が出来るかもしれない。
戦乱の時代などでは国問わずよく反乱の後に見せしめとして殲滅戦がよく行われていたけどもそれじゃ逆に警戒されるだけじゃないの?と俺は思う。
確かに反乱常習犯はこれじゃ対処しきれないかもしれないが、殲滅戦となると他の勢力が意地でも抵抗し続ける原因になりかねない。その点歴史上の人物は若干自業自得な気もする。
「罠じゃないだろうな。そっちが戦意を示さない限りは俺達もこれ以上は手を出さない。それでいいか?」
「了解しました。大森殿もきっと納得されるでしょう。では私めはこれにて」
降伏の使者が騎乗した人物のもとへ歩いて行き何か報告をしているのだろうか少し立ち止まった後、騎乗した人物がこちらへやって来る。近づいてきて初めてその人物が恐らくは俺以下の年齢だろうことが分かった。
「何だ?とりあえず構えておけ」
まさか単騎で突っ込んでくる筈はないだろうが、一応警戒する。
すると騎乗した……おそらくは武将だろう……が馬を大きく右に向けてこちらへ、
「この小野寺康道を見逃してくれた事、礼を言う。せめて大森を俺より上手く治めてくれ。今度はまともな戦場で相見えることを願っている」
小野寺康道、1582年では10歳ぐらいだったと思う。それでいて城を任され、ここを守っていた。が力不足は否めなかったのだろう。それでここまであっさりと降伏したのか……はたまた投石器という謎武器に威圧されただけか……どのみち小野寺を従えたらわかる話だろう。
とりあえず今は大森城のちょっと壊れた柵の修復と城下町の民心を集めることからだな……
「大森城に入れ。康道に託された通り、大森を都市に育て上げるぞ!」
応!と勇ましい声と共に何処からか勝ち鬨が沸き起こる。それに引っ張られて部隊全体が勝ち鬨をあげる。
鋭!鋭!応!のよく知られた勝ち鬨。
そういえば初めて聞いたかもな。全く戦わなかったと言っても初の単独戦果だからだろうか?
ともあれようやく橋本家は豪族もどきではなく独立した戦国大名として初めの一歩を踏み出すことができた。




