#02 空き城、みつけました。
予想通り町に出ることが出来た、そして年代もおおよそ掴めた。村の様子から今は室町から江戸初期ぐらいだろう、主に建物と農具から判断した。しかし現在地はここは日本か日本によく似た所だという事しか分からない。
他にすることも体力もないのでとりあえずこの村の御厄介になることにした。安全かどうかはこの際賭けになる……運はないことに自信があるけども……
流石にゲームのように勝手に寝泊りするわけにもいかないので村長に面会することにした。
特に村の衛兵などはおらず道行く村人に村長の家を訪ねて普通に見つけられ、特に苦労することなく面会できた。
面会、よりも単に事情を転生してきたなどという言ってもまともに取り合ってくれなさそうな箇所を伏せながら説明しただけだったのだが……
「おぬしがこの大沢に居着くことは認めても構わんじゃろう、じゃが空き家と言うと大沢には覚えがないのぅ」村長の彦一困ったように言うと……
「おやじ、空き"家"じゃねぇべがあれがあるべ」と彦一さんの息子、兵三さんが思い出したように言う。
「あやつか……兵三、この者を明日そこに連れてってくれぬかの?」
「任せとき、おやじ!」
勝手に話が進んでいるが何かあるみたいだ。
「あの、今日は……?」
「ここを宿としてくれても構わんよ、どのみち儂らだけでは持て余し気味じゃからのぅ」
「ありがとうございます」
本当にこんなよくわからんもやしを止めてくださり感謝です……!
転生した時の乱暴者よりもこのご老体の方がずっと神様に感じた。
「あんちゃん、どっから来たで?」
「俺は東京で生まれて、そのあとに京都から来たんだ」
「東京?って唐国の町でしょうか?」
「あー東京ってのは江戸だ」
「江戸かぁ、それはずいぶんな遠回りをしたことですな」
「だなー」
「そう、だな」
今相手をしているのは彦一さんの孫の一郎丸と六助で一郎丸は数え年で16、六助は7歳で興味本位でどこから来たのか気になっていたようだが一郎丸との会話で少なくとも江戸時代以前かつ日本とほぼ同じ世界という事がわかって何よりほっとした。
「航太夫さんや、夕飯食いますけ?」
声をかけて来たのは『たけ』さん、一郎丸達兄弟からみると祖母で彦一さんの奥さんでもある。
「航太です。飯は持ち合わせてるので大丈夫です、迷惑も掛かっちゃいますし……」
「別にええやで、もう春に入りやしたし魚もたんと釣れて食うもんにも困っとらんからの」
「ですか、なら少し頂きます」
この時代は税やら税やらで結構食べ物に困るのが普通だったイメージが強かったけど、案外そんなこともないのかな?
白米は流石になかったものの雑炊に自家製のアザミ入り味噌汁に、行者ニンニクとイタドリ、ダイモンジソウと俺にとっては聞いたこともないような名前の山菜も少しずつ入っていた。後から引っ張り出した植物図鑑データによるとどれも普通に食べられるものだった。
ここまでならまあ普通のものではあったのだが、焼き魚が一人一匹食べられると聞いて無理してないかと尋ねてしまった。
しかし、子供たちもさも当然のように食べている所を見ると普通らしい。案外良い暮らしだったんだなと思いながら自分も食事をとった。
翌日になって出そろった情報だが、学問好きの一郎丸によるとここは出羽国の大沢で現在は天正十年の弥生、つまり1582年3月という事が分かった。どうやら俺はレーザーの時代から一気に火縄銃時代の戦国の世界に来てしまったらしい。
期待していた冒険ものの異世界生活からは大きく外れてはいたが、日本の戦国時代ならノートパソコンにもしっかりとインストール済みの俺が大好きな歴史ゲームが入っているしそれなりに分かる時代だ!
若干、言葉遣いに揺れがあるみたいだけどもむしろそれは適度にわかるようになっているとありがたく解釈しよう、きっとあの乱暴者のおかげだ。
そんなこんなで勝手に一人で盛り上がっていると兵三さんが声をかけてくる。
「ほいじゃいくぞ航太夫!いうても村から見えるとこなんだがな!」
「俺は航太です」名前なんざぁわかりゃいいんだよ!と威勢のいい父ちゃん、兵三さんについて行って空き"家"ではない何かを確認しに行く。
「空き"家"じゃないってのは結局何なんですか?」
「うーん、村のもんの間じゃ『あばら山』って所か?」
あばら山?
「見えたぞ!あれが空き館だ、村のもんも別に行く理由もないもんでだーれもいかんのだがな!」
「空きってことはあそこにはどこの家もいないのですか?」
「??あぁ、まさか本気であれに居着くつもりじゃなかろうな?」
「そのつもりです」
あばら山と呼ばれていたのは築城途中で放棄されたかのような中途半端な丘城だった。少し前に西の方に拠点を持つ小野寺家の兵が整地をしていたんだと言う。
しかし、堀や館もある程度出来上がったのにも関わらず小野寺家の追洲流の旗はたつことはなかった。
確かに俺の居た時代のゲームでもこの場所に館があった。
末館、館主は伝えられておらず、立地的に軍事と舟運の特性があるだけの支城とすら言えないような城で歴史欄に『小野寺氏の由利十二頭に対する押さえの城として機能していたと推測される』とだけ書かれている。
だが地元民にもあばら山だの空き館だの言われる様子からも情報が少ない原因がわかった。
少なくともこの世界の末館は築城こそしたものの城主が入らないそのままに放置された空き城になっていたのである!この時点で俺の考えは決まっていた。
俺のやっている戦国ゲームでは支城だとしても必ず城主を任命しておかないといけない。城主の居ない城に流れ着いた浪人が城に入ると勝手に新しい大名家として名乗りを上げてしまうからである。
ここで、浪人に橋本航太を代入してみる。
目の前に城主の任命されていない空き城。
ここに異世界から流れ着いた浪人、橋本航太。
これが足し合わさると……?