#13 燻り出し作戦、成功しました。
俺は沼館に放火後、逃げる最中に流れ矢を恐らくは首に受けて瀕死の重症を負った……と思う。
断言できないのは俺が首筋に強い衝撃を受けたとしかわからない上に、まだヘルメスの前に引きずり出されていない事が原因であるからなのだが……もう一つ、
俺に深々と刺さっている筈の矢の痛みが全くないから……である。
だが起きない。一つはっきりしている情報として俺は今、悠香をからかっているからである。
「死なないで航太!あんたが今ここで死んだら橋本家は私が貰えるけど……」
「させるか!この空き巣泥棒が!」
俺も大概だけどな。
「あ、起きた」
一瞬で泣き止む悠香。よもやこいつ……策士特性持ちだったとは……
「良かったぁ~治癒スキルが効いてて……」
治癒が効いてて何よりって待てい。
「何だ治癒『スキル』って、お前応急処置の資格かなんか持ってるのか?」
「あれ?言わなかったっけ?私転生した時にチート能力として『死んでなければどんな傷でも治せる』っていう『治癒スキル』をガイアさんから貰ったって話」
……
「畜生ヘルメスめぇぇぇ!!!」
あいつ俺になーんもチート能力よこさないで転生させやがってぇぇ!!
異世界転生構文に従うならチートの一つや二つは貰えるものだろうがぁぁぁ!!
「いきなり何!?まさか転生したっていうのにチート能力が無いの?」
「大正解だよこん畜生!ヘルメスとかいうヤクザの神に『運動不足だ!』とか言われて転生して来たんだよ!何も貰わずに!」
ひとしきり疫病神に対して怒りをぶつけた後、俺の状態を悠香に聞く。
「そういや俺の首に矢が刺さったと思うんだがどうなってるんだ?」
「それよ!あんたそれ大丈夫なの!?」
「?」
手を首の後ろに回すと矢が突き刺さっているのが判明する。しかしこの痛みが全く感じられない……
「矢……だよなこれ。全然痛くないんだが」
「何?あんた痛みが通じない体にでもしてもらったりしたの?」
「いや、奴に限ってそんな事ないと思う……足とかはめっちゃ痛いし……」
矢を適当に引っ張る。すると服の立襟が少し引っ張られて……矢がそのままとれた。
「え?」
「航太、あんたその服どうなってんのよ……」
どうも立襟が矢を防いでくれたようだ。案外、軍服(を模したものだが……)も侮れない……というか立襟に救われるとは思ってもみなかった。
そういえば初日に最前線勤務員にはレーザーの時代だったもとの世界では全く役に立たないが拳銃の実弾程度なら弾くとかいう防弾仕様の制服が配られたな、俺の制服もそれなのかもしれない。
「よし、大丈夫だったんだから敵が来る前に盛安の陣まで行くぞ。どうせ小清水あたりは俺達を切るか戦うかしないともう我慢ならないだろうしな」
というか500メートル程離れたここからでもよく燃えていることが分かるぐらいにやられてちゃ流石に黙っている筈もないだろう。
盛安本陣
「何者か」
戸沢の兵の一人に止められる。
「九郎殿が友、橋本航太だ。各々敵襲に備えた方が良いぞ」
本陣の見張りが仲間に何か尋ねた後、すぐに通してくれた。恐らくは橋本航太とは何者かという事を知る同僚にでも訊いたのだろう。
「橋本殿、殿の命により我々は既に戦備えを終えております。橋本殿のお心を煩わせぬよう、心して掛かります」
俺は盛安に今夜、沼館城に放火するとは伝えていたが夜襲の警戒をするようにとは言っていなかった。しかし小野寺の兵が俺達の掃討と共に夜襲を仕掛けてくる事も予測し、既に全軍に夜襲警戒を指示しているようだ。
その上、敵方を油断させるためなのか松明もほとんど照らされていない。しかし陣に入ってみると足軽は既に武装し、騎馬は騎乗して待機していることが良くわかった。
「そこにいるのは航太殿ではないか?」
年のわりに少し老人じみた口調の声が聞こえる。まぁ戦国時代なんだから現代から比べると古いのは当然かもしれないが……
「九郎殿!本陣に居なくても平気なんですか?」
「薄井の城には兄上に残ってもらっている。それで困る事もないはずだ」
兄上……というと戸沢盛重。盛安の死後、隠居の身でありながら戸沢家臣を一からやり直しとなったせいなのか謀反を起こした人物、と記憶している。ただ盛安の存命中はそのような行動を取らなかったから兄弟仲は良かったんじゃないかと勝手に俺は思っている。なので信頼できる相手ではあるのだが……この人まさかこのまま突っ込んでいったりしないよね?
「そんな事より航太殿、この闇でも目を輝かせているこの者は?」
俺の隣を示して盛安が言う。
確かに今にも……いや、既に興奮状態の悠香が居た。
「ハイッ!!三島悠香!十五歳です!」
「何故か俺の城に転がり込んで来た騒々しい居候です」
これが迷惑者であることを全力でアピールする。しかし盛安は、
「ははっ、航太殿も隅に置けないな。大事にされよ。航太殿」
あーこいつ、盛大に勘違い……いや、からかってるのか。
「ま、精々橋本の為にこき使ってやりますよ。それで九郎殿、兵の備えは万全。ということで?」
「あぁ。そろそろ沼の小清水あたりが顔を真っ赤にして飛び出してくる頃合いだろう。燃える沼館とどちらが上だろうな?」
「小清水に一票」
「俺もだ航太殿」
夜も更け俺の腕時計は午後十一時を示している。といっても簡易的な日時計を作ってそれの十二時に時計を合わせているだけなので合っているかと聞かれれば微妙である。大体の時間が分かれば良しだ。別に空港で厳密に時間管理しなきゃいけないわけじゃないんだし。
「沼のものと思しき兵が向かっております!旗は追洲流!殿!御下命を!」
来たか!恐らくは小清水蔵人!さながら俺にとってはゲーム最序盤の中ボス的存在のヤツとの二度目の戦いになるな……!
「九郎殿、くれぐれも先走らぬようにお願いします。死んでは元も子もないですからね」
「忠告、有難く受け取ろう。だが俺の武もそんなものではないと示してやるがな!」




