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アカルディアの森で⑤

「おい、考えなしに先に行くな!」

ラグとニアに追いついた俺は二人にげんこつをくらわす。

「ひげぇ!」

「きゃあ!」

ラグはいてぇいてぇとわめき、ニアは「なんであたしまで」とぐちぐち言っている。

「…なんだか、大変なんですね。」

抱えているサフィーナが同情の目を向けてくる。

「頼むから、お前もあいつらみたいに自分勝手に行動するなよ。」

「はい。」

じろっとにらむと「はいぃ!」とサフィーナが敬礼した。

「それより、ここから出るにはどうすればいいんだよ。」

俺はジメジメした洞窟を見まわす。落ちてきたのだったら、もしかして崖を登る必要があんのか?勘弁しろよ…。

「あ、帰りは楽なんです。洞窟を引き返せば…ほら。」

「おぉぉお!」

ラグが歓声を上げる。俺たちはいつの間にか、飛び込んだ崖の上にいた。

「ありがてーな、こりゃ。」

「すげーな、瞬間移動じゃねーか。俺もしたい!」

どうればできるんだ!とサフィーナに詰め寄るラグをげんこつで黙らせる。

「お前は、エルフに追われてここに飛び込んだことをもう忘れたのか、間抜け!さっさと、森から出るぞ。でないといつ攻撃されるかわかんねーからな。」

「そうだね。また弓矢で攻撃されるのもごめんだし。」

ニアがうなずく。

「それじゃあ行くぞ。サフィーナ、森の出口を教えろ。」

いい加減腕も疲れてきたので、サフィーナを地面におろして尋ねる。

「案内します!」

こちらですと先を歩き出すサフィーナの後ろをラグがついて行き「なぁ、こっそりでいいから教えてくれ」と懇願している。

「しつけーぞ、アホンダラ!ってかてめぇーのケツに剣の柄突っ込んでやるからちょっと来い!」

「はぎゃああああああ!」

「ちょっと!あんたらうるさいよ!」

悲鳴を上げながら逃げ出すラグを全力で追いかけていると、ニアが注意してくる。

「っ!いたぞ!」

「あ、やべ!」

アホのペースに乱されて思わず大声を出してしまったら、エルフどもに見つかってしまった。

逃げ足だけは早いラグがあっという間に見えなくなる。

「くそぉぉおぉお!またかよおぉ!」

俺は急いでサフィーナを抱きかかえ、ダッシュでラグを追った。


「はぁ、はぁ。なめやがって。」

俺のまわりには3人のエルフが倒れいている。逃げ回ることにもイライラしてしまい、ニアにサフィーナを預けた俺は、1人で引き換えし、エルフどもをボコボコに殴ってやった。半ば八つ当たりのように殴ってしまったのでしばらく立ち上がることはできねーだろうな。」

「よし、さっさとアホどもの所に戻るか。」

「狂戦士オレグ。」

踵を返そうとすると、気に入らない声に呼び止められた。無視して進もうかとも思ったが後々めんどくさくなりそうなんで、一応振り返る。

「お綺麗な勇者様が俺に何の用かねー?」

そこにいたのは勇者様だった。珍しいことに取り巻きはおらず、1人のようだ。

「…いつまで遊んでいるつもりだ?」

「あぁ?俺が遊んでるように見えんのか、お前?」

ちっと舌うちする。本当にこいつは俺を苛立たせることしか言わねーな。

「お前は俺を助けるための存在だ。さっさと来い。」

「俺は幼馴染と一緒に行くって最初に言ったはずだ。勇者様は言葉もわかんねーアホなのか、おい。」

「っ!いい加減にしろ!あんな馬鹿で弱い男が本当に魔王を倒せると思っているのか!魔王は絶対に滅ぼさないといけない!あんな愚かな男に構っている暇なんてないんだ!」

「そう思うならさっさと魔王を倒しに行けよ、こんなところで油売ってないで。」

「だから、それにはお前が!」

「1人で魔王を倒そうって気概もねーのか。情けねー勇者様だ。」

はっと鼻で笑ってやると、勇者様のお綺麗な顔が怒りで赤く染まる。

「俺の幼馴染は『俺1人で魔王ぐらい倒せる!』って真顔で言うやつだぞ?まぁ、アホかもしれねーけど、その言葉を現実にするために血反吐吐くような努力を怠らねー奴だ。お前なんかとは格が違うんだよ。わかったら、さっさと守ってくれる女たちのとこに帰んな。」

「あの男だってお前に守られている!」

「なんで俺があのアホを守らんといかんのだ。俺が守るのは女子供だけだ。」

遠くから勇者を探す聖女の声が聞こえる。うげ、あいつ嫌いなんだよ。

「じゃあな、勇者様。せいぜい強くなれよ。」

「後悔するぞ!」

後ろから勇者様の声が聞こえたが、もう振り返るつもりはなかった。

「後悔なんて…する訳ねーだろ。」

くくっと笑っていると「うわ、笑い方気持ちわるぅ!」という声が前方から聞こえた。

「いや、気持ち悪いわ、その笑い方。悪役みたい。俺、悪役の仲間とかいらねーんだけど。」

俺を待っていたのか、切り株に座ったラグ好き放題しゃべり出す。

「しかも独り言とかマジ根暗じゃねーかよ。かっこいい俺の仲間に根暗男とかマジ勘弁。」

「…あんた。」

「そろそろやめといた方が…。」

ニアとサフィーナが冷や汗を流しながら忠告するが、「だって本当のことじゃねー?」とラグが笑う。

「お前の望み道理、女の子にしてやるよ…。」

「え?ちょ、離せ!離してーーーー!」

ラグの襟をつかんで、ずるずると木立の中まで引きずる。



「あぁぁぁああああああ!いやぁぁあああああ!」


「女の子に」

「なっちまったな…。」

森中に響くラグの悲鳴を聞いて、サフィーナとニアは長い長い溜息をついたのだった。

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