アカルディアの森で②
♪~♪~
なにかが聞こえてくる。誰かが歌っているようだ。しかも、ものすごくリラックスできる。
「くぁ…。」
ぱちりと目を開け、あくびをすると、ロリエルフがこちらを見て「おはようございます」と声をかけてきた。
「はよ、起きるの早いなお前。」
ロリエルフはすでに身支度を整えていた。ニアもすでに朝食の準備を始めている。
「歌ってたのって、もしかしてお前?」
「あ、すいません!うるさかったですよね、すいません!」
「いや、別にうるさくねーけど。」
ぼりぼりと頭をかいていると、ロリエルフが泣き出しそうな顔で頭を下げてくる。
「家族からもうるさいから歌うなって言われて!でも私歌うのだけが心の支えで。」
「ふーん、ならいいんじゃねーの?…お前はいびきうるせーんだよ、くそったれ!!」
ロリエルフの後ろで「ぐごごごごご!」とうるさいいびきをかいているラグにかかと落としをくらわす。
「うごぉぉぉ!」
「お前の歌、なんかリラックスできるし。歌いてーなら歌えばいいだろ。」
「あっ…。」
ロリエルフが小さな声で「ありがとうございます」とつぶやく。ラグは腹のめり込んだ俺の脚をどけようとしながら「胃液がっ…胃液…!」とうめいていた。
「よーし、それじゃあ幼女を村まで送り届けるぞー!」
ラグがえいえいおーと気合を入れる。「ほら、君も!」とラグに言われたロリエルフが恥ずかしそうに「おー。」と手を上げる。そいつの言うとおりにしてると馬鹿になるぞ、ロリエルフ。
「私、自分で帰れます…。」
「だめだよ、小さいんだから、俺に任しときなよ。」
「いや、そいつエルフだからお前なんかよりずっと年上ってさっき説明しただろ。」
「お兄ちゃんの後ろからちゃんとついてくるんだよ?」
「聞けよ、ロリコン!」
ラグはロリエルフを連れてさっさと出発してしまった。
「あいつ、まさかロリコンなのかい!?」
ニアがドン引きして聞いてくる。思わず「そうだ」と言いたかっただ、幼馴染のよしみで否定しておいた。
「それにしてもきれーな森だな。」
アカルディアの森はエルフに管理されているからなのか、神聖な雰囲気満々だ。しっとりと濡れた植物に、咲き誇る色とりどりの花。何かは分からんが、時折ほわほわと淡い光が浮かんでいる。
「そうなんです!この森は森のエルフの自慢なんです!何千年も大切に大切に管理してきて!」
ロリエルフが聞いていたのかこちらを振り返って熱弁する。
「聖気も多くて、心の病んだ人間も数日滞在すればあっという間に治ってしまうんです!」
ロリエルフがエッヘンと胸を張る。本当に1000歳超えてんのか、こいつ。
「へー、立派な森なんだな!まぁ俺の生まれ故郷には適わねーけど!」
ラグ対抗して大声で話しだす。嘘つけ、俺たちの村、昼間から酔っぱらってそこらへんでげーげー吐いてるおっさんばっかじゃねーか。
「そうです!私の自慢です!だから私が後継者になりたかった…。」
ロリエルフがうつむく。
「そんなに後継者になりてーなら、また親父とやらにチャンスもらえばいいだろが。そんなに早く世代交代しないといけない理由でもあんのか?」
「…。」
「言いたくねーなら別にいいけど。」
黙ってしまったロリエルフを追い抜いて、ラグと隣に並ぶ。
「なんかあのロリエルフもいろいろ抱えてるみてーだし、送ってったらさっさと出発するからな。余計なことに首突っ込んだらケツにお前の剣の柄ぶち込むからな。」
耳元で脅してやると、ふんふんとご機嫌で進んでいたラグは「ひぃ!」と小さい悲鳴を上げて自分の尻に手を当てた。
「あ、着きました。ここが村の入り口です。」
しばらく進むと、大きな湖が見えてきた。その湖の中心には島があり、そこに渡るための橋が架かっている。
「サフィーナ様!!」
村の入り口の警備なのか、橋の両脇に立っていた男のエルフ二人がロリエルフに急いで近寄ってくる。
「どこに行っていたんですか、サフィーナ様!どれだけ心配したと!!」
「…ごめんなさい!」
「謝って済む問題ではありません!あなたはいつだって村のみんなに迷惑を!!」
「…幼女が謝ってんだからもういいだろ!」
おい、ラグ。俺は余計な口は挟むなと忠告したつもりだったんだがな。ラグをにらんで、剣を抜く仕草をすると、さっとおびえた顔になり、尻を守るように手を当てた。
「…よそ者には関係ない!黙ってろ!」
「なんだい、随分と乱暴なんだね、エルフってのは。もっと物静かだと思ってたけどがっかりだよ。」
ニア、お前も余計なこというな。
「なんだと!人間風情が!」
一触即発な雰囲気になってしまい、ニアが今にでもエルフにとびかかりそうになっている。お前、意外に喧嘩っ早いのな!!
「やめてください!私が悪いんです!どうかその方々に危害を加えないで!」
お、ロリエルフ良いこという。攻撃したことは許してやるぞ。
「みなさん、ここまで送っていただきありがとうございました。もう一度、お父様にチャンスをもらえないか頼んでみます。」
「ということだから、ラグ、ニア行く…。」
「その必要はない、サフィーナ。」
俺の言葉にかぶせるな。てか、今度はなんか偉そうなエルフたちが村の方からきやがった。めちゃくちゃ面倒事持ってきた予感がするぞ、おい。
「お父様…。」
なんだよ、森のエルフのトップがきちまったよ。
「お前は結局、アカルディアボアは倒せなかった。もうお前に期待するのは疲れた。今日をもって正式な後継者はニコーラとする。」
「そんな!まってくださいお父様!もう一度だけチャンスを!」
「何度チャンスを与えたと思っている!私の力が弱まっていることはお前もすでに知っているはずだ。我々が管理している神聖武器を破壊するため、多くの魔族が送り込まれてくるようになった。早急に世代交代が必要なのだ。」
「私、頑張ります!もっと強くなりますから!」
「もう遅い!未だ幼体のままで戦闘能力もニコーラにはるかに劣る。そんなお前にこの森は任せられない。」
「そんな…。」
力なくその場にへたり込むロリエルフ。おい、てか今このジジィエルフ、聞き捨てならんこと言ったな。
「神聖武器があるのか!!」
「ちょ!お前!近づくな!」
「ほぎゃあ!」
興奮したラグがジジィエルフに近づき、お付きのエルフから殴られる。
それでもラグはめげない。
「どこにあるんだ!なぁ、どこにあるんだ、それ!なぁ!なぁ!」
「しつこい!長、こいつしつこいです!!」
何度振り払われてもひっついて来るラグの姿に恐怖を感じたのか、お付きのエルフがジジィエルフにSOSを出す。
「なんだ、こいつらは。…む。そなたは狂戦士…。」
やめろジジィ。その名前で呼ぶな、恥ずかしい。
「聖女様が狂戦士は偽勇者にだまされて、無理やり一緒に行動させられているとおっしゃっていたが本当だったのか。」
警備のエルフが叫ぶ。おい、なんだそのデマは。俺がこんなアホにだまされるわけねーだろ、吹っ飛ばすぞ。
「ええい、うるさい!サフィーナ。ニコーラは神聖武器を取りに行くため、勇者様たちと『試しの祠』に向かった。ニコーラが帰ってきたら正式に長就任の儀式をする。お前はそれまで村でおとなしくしてろ!」
「試しの祠にあるってさ!オレグ、ニア行くぞ!」
ラグがぱっとしがみついていたエルフから離れ、走り出す。
「おい、待てアホ!その祠がどこにあるか知ってんのか!」
「あ、わかんねー。」
「この鳥頭!」
「サフィーナが知ってるんじゃないのかい?」
ニアが言うと、ラグは方向転換してロリエルフのそばまで駆け寄る。
「知ってるか?」
「え、あ、はい…。」
「じゃあ行くぞおおおおお!」
「きゃあああ!」
「サフィーナ!!」
ロリエルフを抱え上げたラグがいっきに走り出す。
「サフィーナを連れ戻せ!」
「「「はっ!」」」
ジジィエルフが命令して、警備のエルフたちが次々に矢を放ってくる。
「くそがぁ!ラグ、絶対お前の尻に剣突っ込んでやるからなぁぁぁ!!」
飛んでくる矢を剣で次々に叩き落としながら、「女の子になっちゃううううう!」と悲鳴を上げながら走るラグを追った。