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とりあえず王都を目指しましょう

「装備もそろったし、早速出発するぞ。」

「俺の装備ないじゃねーかよ。」

俺が言ってもラグは無視して天にこぶしを突き上げ、「やるぞー!」と気合を入れている。

やっと街の出口まできた。

「そもそも魔王と倒すってどうするんだい?直接魔族の国に行くのか?」

「その通り!」

「んな訳ねーだろ、馬鹿野郎!」

ニアに嘘を吹き込もうとするラグを止める。こいつ、本当にでたらめしか言いやがらねえ。

「俺たちだけで魔王が倒せると思ってんのか?」

「もちろん。」

「いい加減にしろよ、この鳥頭!」

「ぎゃああ!」

自信満々でうなずくラグにヘッドロックをかますと、顔を真っ青にして「ギブギブ!」俺の腕をたたいてくる。

「魔族の国の国境には壁があって、魔族が四六時中警備してる。そこを突破するのは勇者様でも無理なんだよ。だから王都にいる賢者に頼んで転移魔法かけてもらって侵入するんだ。それに魔王を消滅させる神聖武器も必要だ。大体3人だけで倒せるわけねーだろ!」

「あんた、苦労してるんだねぇ…。」

ニアがおよよと泣きまねをする。そうなんだ、俺苦労してるんだよ。誰か癒してくれよ。

「そうか。ならさっさと王都に行こう!」

ラグがさっさと歩きだす。

「神聖武器はどうすんだよ!」

「俺の拳があれば十分だ…。」

ラグがこぶしを握り締めにやりと笑う。

「お前、このパーティーで一番自分が弱いのわかってんのか!!!」


何を言っても「王都に行く!」と行って聞かないラグの説得は1時間であきらめた。今は、街を出てすぐの場所にある「アカルディアの森」に入った。襲ってくるような凶暴な魔獣も確認されていないし、森のエルフが管理している安全な森だ。そのはずなんだ。

「なのにどうして俺たちは追いかけられてんだぁぁぁぁあああ!!」

「うるさいよ!黙って走りな!」

俺の横を全速力で走っているニアに怒鳴られる。

「うぉぉぉぉおおお!」

ラグの野郎は誰よりも全速力で俺たちの一歩前を走っている。

「おい、くそラグ!なんでお前が先頭なんだ!お前が怒らせたんだから、お前が処理しろぼけえぇええ!」

「うぉぉぉぉおお!」

「聞けぇええええ!」

「ぶもおおおおおおお!」

俺たちの後ろから追いかけてきているのは、この森に生息している固有種のアカルディアボア。本来なら心優しいイノシシで人間を襲うなど聞いたこともない。体の大きさも犬程度で、ペットとして飼っている家もあるぐらいだ。

しかし、俺たちを追いかけてきているのは体長5メートルはあろうかという巨大なイノシシ。どうやらこの森の主のようだ。鼻の横についてる琥珀色の2つの牙をぶんぶんと振り回している。

「あいつが俺の飯を食うから!」

「そんなもんくれてやればよかっただろ!!」

叫んでいるラグにニアが追いつき、その頭を激しく殴る。

そう、森に入ってさっそく腹が減ったと言い出したラグのために、ニアが事前に作っていたサンドイッチを分け与えたのだ。するとその匂いにつられてアカルディアボアの群れが近づいてきた。俺とニアは少しずつ分け与えたのだが、ラグは「お前らにはやらん!」といって追い払おうとした。悲しそうな子イノシシの声を聞いて心配になったのか、主がのっそりとやってきて、ラグの体に軽く体当たり。驚いたラグは手からサンドイッチを落としてしまった。それをもそもそと食べだした主にキレたラグが何度もタックルをくらわしていると、とうとう主もキレた…というアホな流れだ。

「ラグ、どうするんだ!このままじゃ埒があかねーぞ!!」

「くそ!!」

走っていたラグが急ブレーキをかけ、アカルディアボアに向き直る。

「俺とやろうってのか。怪我するぜ、お嬢ちゃん。」

「いいからさっさとやれ!」

「うぉぉぉぉぉおお!」

剣を抜いたラグが正面からイノシシに向かっていく。

「お!偽勇者の本領発揮かい?」

その実力が見れるのかとニアが目を輝かせる。

「そうだな、本領発揮だな…。」

俺は乱れた息を整えながらラグのほうを見る。

「ぶもおおおおお!」

「ふべぇ!」

ラグはアカルディアボアが振り回す牙に直撃し、吹っ飛んだ。

「へ?何あの子弱いじゃないか!」

ニアが驚愕の声を上げる。

「誰も強いなんて言ってないだろ。」

俺は近くの木によりかかって戦いを傍観することに徹する。

「ちょっと、あんた!助けにいかなくていいのかい!」

ニアが寄ってきて俺の腕を引っ張るが「なんで俺が」と振り払う。

「なんでって!あんたあいつの護衛なんだろ!」

「は?護衛じゃねーよ。俺あいつの幼馴染なだけだし。」

「そんな!」

ニアが絶望したような声を出す。

「あたし、癒しはできるけど、戦いなんてしたことないんだ!街を出てさっそくひとり死ぬなんて冗談じゃないよ!」

「うるせーな。大体弱いとは言ったが負けるとは言ってねーだろ。」

ニアのポケットから煙草を奪い取り、火魔法で火をつける。

「何言って…。」

「何しやがるこの獣風情がぁぁあああ!」

「ぶもおおおおお!」

「ほら。」

先ほどイノシシの攻撃を受けて死んだように倒れこんでいたラグがぶんぶんと剣を振り回して、再び突っ込んでいく。頭から少し血を流しているが、致命傷ではないようだ。

「あいつ、あきらめ悪いんだよ。」

うぉぉぉぉおおおお!とイノシシから攻撃を受けつつもラグは剣を振るい続けた。


「だーっはっは!俺の力を思い知ったか晩飯よ!」

「2時間かかってようやく倒したくせによくそんな大口たたけるな、お前。」

泥仕合を繰り広げていたラグイノシシの脳天に剣を突き刺し、ようやく勝敗が決した。暇だった俺はラグの戦闘が終わるころにはもう日が暮れてるだろうと思って、離れたところで火を起こしていた。

「あんたって、ほんと頭おかしいんだな。」

「ふべええ!」

ニアが全力の癒しの拳をラグの頭に落とす。傷だらけになっていたラグの体はあっという間にきれいになった。

「何が俺は怪我なんかしないだよ!旅の始まり1日目で死にかけてるじゃないか!」

「こんなもの怪我に入らん!」

ぶんぶんと腕を振り回すラグを見てニアががっくりと肩を落とす。

「ニア、アホにかまうだけ時間の無駄だ。おいラグ、さっさとイノシシの肉そぎ落としてこい。」

「あいよ。」

「ニア、飯の準備頼む。」

「はぁ、わかったよ。」

俺は薪でも探してこようかと腰を上げた瞬間、背後から殺気を感じた。

「ちっ!ニア、ラグ伏せろ!」

「ぎゃああ!俺の顔があああ!」

二人に声をかけるが、一足遅かった。飛んできた弓矢が顔をかすめたラグがじたばたとのた打ち回る。そんなに大した顔じゃねーだろうが!

「お前たち、動くな。動いたら脳みその詰まってないスカスカの頭に1本ずつ矢をお見舞いしていやる。」

両手を上げながら声の方向を向くと、そこには弓矢を構える幼女がいた。

「お!エルフだ!ロリエルフ!」

「っ!黙れ罰当たりが!!」

「ほぎゃあ!」

幼女が放った弓矢がまた顔をかすめたラグは号泣しながらその場に倒れた。あいつの脳みそほんとにスカスカなんじゃねーか。


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