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装備を揃えましょう

「おい、腹も一杯なったんだろう。さっさと街出るぞ。」

食いすぎたと道に座り込んでいるラグにげんこつをくらわし、無理やり立たせる。

「偽勇者だとかいって興奮してるやつらもいるから、早めに出たほうがいいかもね。」

店を切り盛りする両親に「ちょっとアホな偽勇者から金もらうために旅出てくる」と雑な説明をして、店を飛び出したニアが助言してくれた。

「うぃーす。」

よろよろと立ち上がるラグだが、街の出口とは正反対の方向に歩き出した。

「おい、馬鹿野郎。どこに行くつもりだ。」

「二人とも装備がいるだろう?それに俺の装備も取りにいかねーと。」

「お前の装備はアホな民衆にボロボロにされただろ?」

「それでもあれが俺の装備だ。」

行くぞーと今度はすたすたと先に行くラグに小走りで追いつく。

「本当にあれでいいのか?」

「いいさ。だってあれは俺に初めてプレゼントされたもんだし。」

勇者たるもの物を大事にしねーとなと笑うラグ。

「馬鹿野郎が。」

笑うラグの頭にげんこつを落とす。あの鎧はラグの両親が何とか金を工面して旅に出るラグにプレゼントしたものだ。ごてごてとした装飾重視のあの鎧の防御力は低い。ラグは両親の前では「こんなダサい鎧着れるか!」と言っていたが、村を出た後、滂沱の涙を流して感謝していたのを思い出す。

「ちょっと、勝手に二人だけの世界を作らないで。何よ付き合ってんの?」

「付き合うわけねーだろ!!」

ふざけたことを言うニアの脳天にも容赦なく拳を叩き込んでおいた。


「おぉぉ!あったあった!」

俺たちが立ち去った後も民衆に蹴られたりしたのだろう。ラグの鎧はさっき以上にボロボロになっていた。しかしラグは気にせず、自分の服で鎧の泥を落としている。

「ラグ、さっさと鎧着ろよ。装備屋に行くぞ。」

「おう!」

未だ泥だらけの鎧を身に着け、ラグは意気揚々と歩き出す。

「ほんとに変わってるね、あの子。」

ニアが俺の隣に寄ってきて話しかけてくる。

「ただアホなだけだ。」

「そうね、アホね。」

二人でけらけら笑っていると装備屋に着いた。

「あああああああ!またかよぉぉぉ!」

そりゃそうだよな。これから旅に出るんならいるよな。装備屋から出てきたのは勇者一行様だ。

「オレグ、ニア!俺と来る気になったのか?」

勇者が目を輝かせるが俺もニアも無視した。

「オレグ様、無駄ですわ。この装備屋には何もございません。」

勇者の後に店から出てきた聖女が駆け寄ってくる。俺って清純派興味ないんだよな。でも気になることも言ってんな。

「装備がないってどういうことよ。」

ニアがぷはーとタバコを吸いながら聞いている。おい、お前タバコ吸うのかよ。似合いすぎだろ。

「私たちやオレグ様にふさわしい装備はありません。どうも高齢の夫婦がやっているお店みたいで。別の店に行きますわ。ですからオレグ様も一緒に。」

おい、そのささやかな胸を押し当ててくるのはやめろ。わざとじゃねーだろうなこいつ。

「ふさわしい装備って随分と上から目線だね、あんた。」

「まぁ、わたくしそんなつもりでは。」

聖女の目がうるうると潤む。そして俺を下から上目使いで見てくる。うわ、ロリコンが好きそう。

「おーーーい、オレグ、ニア!何してるんだお前ら。ぐふぅ!」

店からラグがダッシュで出てきて勇者の背中にぶち当たる。前を向いて歩けないのかあいつ。

「…。」

勇者様が無言でしりもちをついたラグを見下ろす。

「大丈夫かいラグ。あんたも突っ立ってないで手ぐらい貸してやればいいだろ。」

ニアがラグに歩み寄って手を貸してやった。

「…こいつは俺の偽物だ。わかってるのか。」

「知るか。私にとっては将来店のための金をくれる男さ。」

「金が必要なら俺が…。」

「あんたからの金なんてごめんだね。」

ニアが勇者様にひらひらと手を振る。

「ニア!あんたの装備見つかったぞ!」

どうもさっそく買い物をしてきたようだ。ラグが満面の笑みで袋から取り出したのは真っ白なエプロンだった。

きょとんとした顔をしたニアはすぐに爆笑し始めた。

「あんた!本当にあたしを料理人として雇ったんだね!」

「?最初に言っただろう?」

「話にならん!」

ラグとニアのやりとりを見ていた勇者が憤慨してその場を立ち去る。聖女は「いつでもこちらにおいでください。」と言って勇者の後を追った。やっといなくなったわ、あいつら。

ころころと笑いながらエプロンを身に着けるニアに視線を移すと、何かがおかしいことに気づく。

「おい、そのエプロンなんかおかしいぞ?」

「え?」

ニアが顔を上げる。

「だろー?これ、店のおばあちゃんが亡くなった娘さんを思って何年もかけて織り上げたやつらしいんだ。めっちゃかわいいよな。」

たしかに真っ白な生地にピンク色の花の刺繍がちりばめられたエプロンはかわいらしいが、俺が気づいたのはそんなことではない。

「このエプロン、かなり強い『守りの加護』が付いてんぞ。」

意識を切り替え、エプロンのステータスを見ると確かに加護がついてる。しかも勇者の武器にも及ばない強さだ。

「お前、これ売ってたのか?」

「いんやー、おばちゃんと話してたらやるって言われた。亡くなった娘さんの写真が飾ってあってな。『もう忘れないとね』って言うからこんな美人の娘さん忘れなくていいだろとか、一生忘れずに泣いてたって自分の勝手だしいいだろっていったらくれた。」

「くれたってお前。」

「なんか勇者様からもう忘れなさいとか言われたらしいな。そんなん自分の勝手だろう?」

なぁと聞いてくるラグにそうだなと返すと、満足したように笑う。

「んで、俺の装備はどうした?」

「あ?野郎の装備なんて、股間に葉っぱで十分だろうが。」

「お前、頭の毛むしりとるぞ。」



装備品

ニアのエプロン

スキル:料理上手(守りの加護)


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