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まずはヒーラー

身体がボロボロで歩けないラグをなんとか宿まで連れて行ったが、この状態のまま街を出るのは自殺行為だ。

「やっぱり先に医者だなー。おい、行くぞ。」

「おぉー。」

頭から血を流し続けるラグはいよいよ意識がもうろうとしているのか、目線が定まらない。

「こりゃやべーな。」

俺はラグの体を荷物のように小脇に抱え、ある場所へと急ぐ。ラグが偽勇者と知った民衆が侮蔑の目でこちらを見てくるがそんなことはどうでもいい。10分ほど走って着いたのは医者ではなく、この国特産の酒、メストをかたどった看板が目印の居酒屋「ロデオロン」だった。

「おーい、ニア。」

俺は勝手知ったように扉を足で開け、中に入る。

「げっ!」

「うぎゃあ!」

店に入った瞬間、この世で一番見たくないものを見てしまい、その場にラグを落としてしまった。突然地面に叩き落とされたラグはぎゃああ!と悲鳴を上げながらのた打ち回っている。うるせぇ。

「オレグ様!やはり戻ってきてくださったのね。」

そこにいたのは先ほど別れたはずの勇者御一行様だった。目を輝かせた聖女が俺に近寄ってくる。

「うそだろぉ、なんでここにいるんだよ。きらきら勇者御一行様がよー。」

力が抜けてしまい、手近な椅子に座り込む。

「そりゃあ、私がきらきら勇者様の幼馴染だからじゃないの?」

ご注文は?と声をかけてきたのがニアだ。真っ黒なショートカットと同じ色の瞳。雪のような肌とボンキュボンのナイスバディ。この居酒屋の看板娘だ。

「おー、ニア。お前に頼みがあってなー。」

とりあえずメストを二杯頼む。そして床に倒れこんでいるラグを無理やり椅子に座らせた。

「あら、偽勇者様。だいぶ体調が悪そうね。逆切れした民衆に暴力でも受けたの?」

「その通り!」

「馬鹿ね!」

ニアがころころと笑うと居酒屋にいる野郎どものほほが赤く染めて、ニアを見つめる。

「そうだ、その男は勇者の偽物だ。ニア、俺とともに来てくれ。俺が必ずお前を守る。」

きらきら勇者様がニアに膝まづいてその手をとる。

「君はこんな店にいるような女ではない。力不足は気にしないでほしい。必ず俺が君を守ってみせる。」

わーお。きらきら勇者様の告白を間近で見ちまったよ。告白の仕方まできらきらしてるんだなこいつ。

「え?いやよ、何言ってるのあんた。」

ニアはべしっと勇者の手をはたき落とし、急ぎ足で厨房に行き「メスト二杯―!」と大声で叫ぶ。

「なっ!」

イエス以外の言葉を想定していなかった勇者が焦ったように立ち上がる。

「なぜだ、ニア!俺は君を!」

「なぜって当たり前でしょう?なんであんたに着いていかないといけないのよ。いやよ、勇者様のお飾りなんて。」

「お飾りなんてそんなつもりはない!俺たちは愛しあって!」

「1ヶ月前までね。でもあんたが今愛してるのはそこの清純派聖女様でしょ?」

突然名指しされた聖女様がぽっと頬を赤く染める。いやいや照れるところかよ。

「そんなことは!」

「男慣れした女よりも君のほうが魅力的だよ、聖女…って口説いてたらしいわね。男慣れしてて悪かったわ。」

「それは!」

おーおー、勇者様随分とお盛んなだねー。俺はニアが持ってきたメストを一気飲みして喉を潤す。一方ラグは大きいビアカップに顔を突っ込んで静止している。やべえ、こいつ死にかけてる。

「おい、ニア。ちょっとラグ助けてくれねーか。こいつ死にかけてる。」

メストを飲みながらラグを指差すと、ニアがその大きな瞳をさらに見開く。

「ちょっと、そういうこと早くいいなさいよ!」

もう!といってニアがずかずかと近寄ってくる。

「助けるなんて、ニアにできるはずがないよ。そんな偽勇者に近づく必要はない。聖女よ、彼を助けてくれないか?」

勇者様が聖女に頼む。

「…オレグ様の頼みであれば。」

聖女が上目使いでちらちら見てくるが無視。気持ち悪いなこいつ。やべぇ、ラグの体がびくびくと痙攣し始めた。

「ニアー。急いでくれ。」

「あいよ。」

ニアがはぁーと握りしめた自分のこぶしに息を吹きかける。

「ラグー、歯くいしばれよー。」

聞こえてねーか。

「そぉぉぉぉい!」


ごんっ!!!!!!


ニアの全力のげんこつがラグの脳天にのめりこむ。ラグが頭を突っ込んでいたビアカップも粉々に割れた。相変わらずの力だ。

「ひぃ!」

お上品な聖女様がドン引いている。

「二、ニア!たしかに偽勇者だが、そこまでしなくても。」

勇者も引いてる。おい、お前の元彼女だろこいつ。もしかして知らないのか?

「かぁーーーーーー!元気になったーーーーー!!」

「ぎゃあ!」

突然立ち上がったラグにビビッて聖女様が腰を抜かした。おいおい、そんなんで魔王討伐とかできんのか。

「いやー、死んだと思ったわ。」

にこにこと笑うラグの頭のげんこつをくらわす。

「実際死にかけてたんだよ。」

「いてぇ!そうか迷惑かけたな。」

ニア、ありがとう!とラグが笑いかけ、早速メストともう一杯と今日のおすすめランチを注文している。切り替えが早すぎる。

「あいよー。」

またニアが注文を言いに行く。

「ど、どういうことだニア!君は癒しの力を持っているのか!?」

勇者が大声を上げる。うるせーな。黙っとけよ。

「は?そうだけど。」

「どうして教えてくれなかった?」

「は?聞かれなかったし。」

「それでも付き合っているなら!」

「は?関係なくない?」

ニアにまったく相手にされない勇者様。それでもめげない。

「癒しの力があるならなおさらだ!俺と一緒に行こう。君に癒しの力を国とために振るってくれ。聖女の助けにもなる!」

またニアの手をとって力説する勇者。

「あんたって本当にアホね。なんで私が自分の男を寝取った女を助けないといけないのよ。死んでもお断りね。」

「っ!」

おい、勇者そこで黙るなよ。まじかよ、二股してたのかこいつ。

「それに、そのおきれいな聖女様もあんたが私を誘ってる時にめちゃくちゃ嫌そうな顔してるわよ。」

「そっ、そんなことありませんわ!」

聖女よ、俺もそのめちゃくちゃ嫌そうな顔見えてたぞ。

ニアは俺たちや客に料理を運びながら勇者をあしらっている。本当に邪魔だなこいつら。

「うめぇえええ!これめっちゃうめぇ!」

ラグ、お前は少し回りの空気よめ。

メストと今日のおすすめランチを貪ってるラグが顔を上げる。

「ニアの店の料理ってほんとうめぇな。ニアと結婚する男ってほんと幸せもんだ。」

「…そうだな。」

にっこりと笑うラグの顔に毒気を抜かれてしまう。

「でも俺たち魔王討伐の旅に出るからしばらくこれねーんだよな。」

しょんぼりするラグ。おい待て、聞いてねーぞ。

「魔王討伐ってだいぶかかるだろ?その間ここの飯が食えねーと俺死んじまう。」

魔王討伐ってなんだよ。

「大体俺もオレグも飯作れねーし。」

魔王ってなんだおい!

「そうだ!ニア一緒に行こうぜ!」

「魔王討伐ってなんだ、お前!偽勇者でこりてねーのか!」

「ぐおお!」

ラグに全力のげんこつをくらわすがこれぐらいでめげないのは長年の付き合いで分かる。

「だって俺勇者だし。魔王倒さないとさ。」

「偽物だってもうばれただろ!」

「俺が勇者だと言ったら勇者だ。」

「ガキか!」

「ニアー?どう?」

ラグがニアを見ると、ニアはぽかんとした顔でこちらを見ている。

「ラグ、あんたもヒーラーとしてあたしを連れて行きたいのか?」

「ヒーラー?そんなもんいらん。俺は怪我なんぞしなかいからな。それより飯。」

メストをぐびぐびと飲むラグ。

「魔王倒したら金も入るだろうし、この店もっとでかくしようや。昼時とか多すぎては入れない時あるし。どう?」

「あはは、あんたってほんと馬鹿ね!!」

ころころとニアがそれはそれは嬉しそうに笑う。

「いいよ、料理人としてあんたたちについて行ってあげる。たまに気が向いたら癒してやるよ。」

勇者が悲鳴を上げているのを気にせず、ニアはにっこりと笑った。




ニア

性別:女

職業:料理人ヒーラー

技:めちゃくちゃうまい飯作り(癒しの拳)

スキルレベル:99(99)

特徴:ナイスバディ


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