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アホ奪還作戦

前回と同じく黒い穴から出ると、そこは森の中だった。

「グィンガン、お前ぇ!!」

最後に穴から出てきたグィンガンの胸倉を掴む。

「何勝手なことしてんだ、お前!殺されてーのか!」

「…。」

グィンガンは黙ってうつむいている。

「なんか言えよ、おい!」

一発殴ってやろうと右腕を振り上げる。

「や!やめてください!」

しかし、その腕にサフィーナがしがみつき、振り下ろすことができなかった。

「悪いのは呪縛魔法を解けなかった私です!殴るのならグィンガンさんじゃなくて私を殴ってください!」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしたサフィーナが訴えてくる。

「ほんとにそうだな。歯くいしばれよ、ロリエルフ。」

「!何言ってんだい、やめな、オレグ!」

サフィーナに向き直る俺を見てニアが止めようとするが、「ニアさん、いいんです!」と本人が止める。

「どっちも冷静になりな!そんなことしたって何の解決にもならないよ!」

ニアの言葉を無視して、サフィーナを睨み付けながら右腕を振りかぶる。

「オレグ!!」


ぺちっ。

「へ?」

ぎゅっと目をつぶっていたニアが頬に感じた柔らかい掌の感触におそるおそる目を開ける。

「まったく、お前のせいだぞロリエルフ。」

俺は右手の掌でサフィーナの柔らかい頬をぺちぺちと叩いてやる。

「オレグさん…。」

サフィーナの目から先ほど以上に大量の涙があふれ出す。

「いいか、お前がこれからも俺やラグに着いてくるつもりなら、魔王と戦わないといけねんだ。その前にはもちろん魔族との戦闘もある。あんな見た目だけの聖女様の魔法に負けてるようじゃ今後どうすんだ。」

「はい…はい…。」

サフィーナは首がもげそうなほどぶんぶんと頷いている。落ち着け。

「ニア、お前もだ。回復は申し分ねーけど、戦闘スキルはいまいちだろ?もう少しレベルアップしてもらわねーと困る。」

「…ごめんよ。確かに修行が足りなかった。」

ニアが申し訳なさそうに答える。

「んで、グィンガン。八つ当たりしちまってすまん。俺も油断してたのに。」

「いや、謝る必要はない。」

グィンガンがにこっと笑う。

「あのアホじゃねーけど、お前の笑顔かっこよすぎてむかつくな。」

「え!このタイミングで!?」


とりあえず休憩しようと呼びかけ、その場に座る。グィンガンに確認したら、ここはモリアルゴンから半日ほど歩いたところにある森のようだ。

「めんどくせーけど、あのアホの回収にいかねーと。サフィーナはここで待っとけ。」

日もかげってきたのでたき火をしながら指示すると、サフィーナが「え!」と声を出す。

「夜の闇にまぎれてモリアルゴンに侵入して、アホを回収する。隠密で行動してる時はできるだけ少人数で行動した方が見つかりにくいんだよ。」

「でもでも…。」

ロリエルフの上目使いはなかなか可愛いな。思わず頭を撫でてしまう力がある。

「俺を誰だと思ってんだ。勇者も聖女も話にならねーよ。」

「夜ってことは今から行くんだろ?俺も行く。」

グィンガンが立ち上がる。

「夜は魔族の力が活発になる時間帯だ。何かと役に立つだろ?」

「そうだな。それにお前を連れて行かないと勇者たちがラグとの取引に応じねーだろうし。」

「え?グィンガンさん引き渡すんですか?」

「え!そうなの!」

サフィーナの問いにグィンガンがおろおろとあわてだす。

「そうだ。さよならだな、グィンガン。」

「そんなあああ!引き渡さないでくれぇえ!」

グィンガンが足に縋り付いてきたので、軽く蹴とばしておく。男が触るな。

「オレグ、あんまりグィンガンをいじめるのはやめな。」

ニアが苦笑する。

「あんたがいないとラグを隠したままで引き渡しの現場に連れてこないってことだろ?さっきあんたが握り潰してた風魔法に取引条件でも書いてあったのかい?」

「おー、気づいてたのかニア。」

実は先ほど、俺宛に風魔法の文書蝶が届いた。ひらひらと飛ぶ文書蝶は、メッセージを送る相手まで飛び続け、見つけると耳に直接送り主の言葉を届ける。俺の耳に届いたのは勇者の声だった。

「狂戦士オレグ。偽物の勇者を無事に返してほしければ、魔族を引き渡せ。それに加えてお前とニアがこちらのパーティーに加入することも条件だ。それができないのであれば、偽勇者は一生暗闇の中で苦しみ続けることになる。」

メッセージを聞いた後、すぐに握りつぶした。おそらくラグは聖女の隔離魔法の中に囚われて幻想でも見せられてんだろうな。聖女が全神経を注いでる隔離魔法の中にいるラグを見つけるのはさすがの俺でも時間がかかる。今回はそんな悠長に構えている時間もないしな。

「てなわけでグィンガンとニアは連れてかねーといけねーんだよ。サフィーナはここで旅の荷物と金を守っててくれ。金だけは死守しねーと、アホが帰ってきた時にぎゃーぎゃーうるせぇからな。」

「は、はい!」

いい返事だ、ロリエルフ。もう一度頭を撫でてやると、サフィーナは嬉しそうにはにかむ。

これははまりそうだな。今のうちにやっとかねーとアホがむかつくこと言い出すだろうし。

俺はニアに「いい加減行くよ!」と急かされるまで無言でサフィーナの頭を撫で続けていた。


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