マッチョヒゲと遭遇②
「ずびばぜんでじだ(すいませんでした)。」
抱きつかれたラグが「助けてくれ」というだけで具体的なことを言わないマッチョヒゲにとうとうぶち切れ、拳で黙らせた。マッチョヒゲはホールの隅で正座をし、深々と頭を下げる。
「しつこかった…このマッチョヒゲしつこかった…。」
息を荒げたラグが何度も繰りかえしている。
「よーし、マッチョヒゲの始末も終わったし、宿に行くぞー。」
「あいよー。」
「わかりました!」
「うぃーす。」
マッチョヒゲをその場に放置して、去ろうとすると「待って!」と今度は俺が追いすがられる。
「お前、俺はラグみてぇに甘くねーぞ。歯くいしばれ変態野郎。」
「あんた、悪役みたいな顔になってるよ。」
そんなん知るか。俺はさっさと宿に行って休みたい。一発腹にぶち込むかと考えていると、「弟子を探してほしいんだ!」とマッチョヒゲが叫んだ。
「弟子ぃ?」
ラグが首をかしげる。
このマッチョヒゲ、やっと具体的な話しやがったな。
「そうだ、俺の唯一の弟子だ!そりゃー可愛くて、可愛くて。自慢の弟子でな。このモリアルゴンでも『可愛い』って有名だったんだ!」
「ほぉ、可愛いと。」
マッチョヒゲが必死な形相で訴えてくる。おい、ラグ。ちょっと興味引かれてんじゃねーぞ。
「…んで、その自慢の弟子がいなくなったのか?そりゃ残念だったな。自警団にでも捜索依頼しろ。じゃあな。」
まためんどくさそうなお願いをされそうな予感だったので、さっさと逃げようとするが、どうせラグあたりが話を聞くんだろうな。
と思ったら、いつの間にかラグは俺の前をすたすた歩いていた。
「おーい、何してんだ行くぞー。」
ラグがこちらを振り返り、手を振ってくる。
「…珍しいな、お前が無視するなんて。」
ラグに追いついて話しかけると「俺だって誰でも助ける聖人君主な訳じゃねーよ。それにマッチョヒゲはタイプじゃない。」
結局見た目か、こいつ。
「かぁー、ここの飯をうまいな!」
「確かにそうだな。」
「そうだね。今度、再現してやるよ。」
「さすが、ニア!」
「…あの。あの人無視してていいんですか。」
「サフィーナ、見ちゃだめだ。野良犬は目が合うとずっとついてくるからね。」
ニアがサフィーナに忠告する。野良犬扱いかよ。
さっさと学術大学を出た俺たちは、すぐに宿を探して、部屋をとった。しばらくゆっくりした後、晩飯を食いに街に出たのだが、まさかのマッチョヒゲなストーカーができてしまったのだ。しかし、こちらを何か言いたげにジッと見てくるだけで危害を加えられることはないので放置している。
「でもあのマッチョヒゲさん、かっこいいですよ。」
サフィーナまでマッチョヒゲ呼ばわりしている。
確かにマッチョヒゲはいい顔をしている。ちらっと視線を向けると、堀の深い顔で、印象的な紫の瞳。緩いパーマがかかった黒い髪がその瞳に少しだけかかっている。本来なら随分と男前なんだろうが、今は悲しそうな顔でこちらを見つめている。こっち見んな。
「あ!」
俺の視線に気づいたマッチョヒゲが嬉しそうな声を上げたのですぐに視線をそらす。いかんいかん、野良犬に懐かれても飼えないからな。
「そうか、ロリエルフはああいう男がタイプか。ならナンパしてきたらどうだ?」
そう言いながら飯をかきこむと、サフィーナが「ロリエルフって言うのはやめてください!」と怒り出す。
「だってすごく泣いてたし…。弟子さんのことが本当に心配なんじゃないですか?」
珍しくしつこいな、ロリエルフ。
「…だとしてもなんで俺たちが助けてやらないといけないんだ?俺たちは困ってるやつらを助ける勇者御一行様じゃねーんだ。そっちがいいなら、金ぴか勇者様に頼んでパーティーに入れてもらえ。」
「…。」
俺が睨み付けると、ロリエルフは苦々しい顔をしながらうつむく。
「うわ、また幼女いじめてる。そういう趣味なのかお前…。」
「お前はちょっとでいいから黙ってろ。」
「ふごぉ!」
ラグの顎を掴んで徐々に力を入れて睨み付けるとコクコクと頷いたので離してやる。
「大体、あのマッチョヒゲが安全なやつっていう保証もねーだろ。変なことに巻き込まれてーのか?」
「その通りでした…。すいません。」
サフィーナがぺこりと頭を下げたので「分かればいい」と腕組みをする。
「面識もねーのにいきなり助けてくれなんて言ってくるやつに碌なやつはねーよ。まぁ、金持ってるなら話は別だが。」
正直、旅の仲間が増えて装備やら食費やらでお金がかなりかかっている。このままでは王都までもたない計算だ。
「いくらだ!いくらほしい!!」
「ぎゃあ!」
突然マッチョヒゲが俺たちの席にきて、テーブルを強くたたく。飯に集中していたラグが悲鳴を上げた。
「金ならある!だから俺の話を聞いてくれ!」
くそ!変態マッチョヒゲに話を聞かれちまった。
「金っていっても店が一軒建つぐらいはもらわないとあたしたちは動かないよ。」
おい、ニア。お前は何を勝手に交渉してる。店一軒ってお前、ラグとも金の約束してたよな。まさか二号店開くつもりかよ、こいつ。
「そんな額、朝飯前だ。だから話を聞いてくれ!」
「…ほんとに払えるのかい?」
ニアが訝しげにマッチョヒゲを見る。
「ほら、これが前金だ!」
「「「「おぉぉぉお!」」」」」
マッチョヒゲがテーブルの上に札束を2つドンっと置き、俺たちは歓声を上げた。
「なんだよ、マッチョヒゲ!早く俺を頼れよ、水くせーな。」
あんなに抱きつかれるのを嫌がっていたラグがマッチョヒゲと肩を組む。
「あたしに任せときな。必ず弟子を連れて帰ってやるよ。」
ニアが親指を立て、ニッと笑う。
「え、あの、頑張ります!」
ロリエルフは相変わらずだ。
「まぁ、女1人を連れ戻すぐらいならすぐ終わるか。金の払いもいいみてーだし、引き受けてやるよ。」
札束を手に取り、懐へとしまう。
「あ!お前ひとり占めすんな!」
「お前がなんでもかんでも使うんだろうが!!」
ぶーぶーと不満を言うラグを睨んで黙らせる。
「それじゃあどんな女の子なのか教えてくれよ。」
ニアが聞くと、マッチョヒゲはきょとんとした顔をした。
「誰が女の子なんて言った?俺が探してほしいのは、『勇者様のお役に立つんだ!』って言って大学を飛び出した俺の愛弟子の男だ。」
「全員解散――――!」
ラグの声と同時に俺とニアも全速力で走り出すが、マッチョヒゲが「逃がすか!」とそばにいたロリエルフを捕まえてしまい逃げられなかったのだった。




