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はじまり

「この偽物!」

「勇者様を騙っていたなんて!私たちに嘘をついていたの!」

「この街から出ていけ!」

「なんて罰当たりなやつだ!」

幼馴染が民衆に囲まれ罵倒されているのを俺は蚊帳の外で聞いていた。人々から石を投げられ、額から血を流しながら号泣している幼馴染。地面に四つん這いになりながら嗚咽を漏らしている。しかし、誰もあいつには同情しない。なぜならあいつが勇者を騙っていたのは事実だからだ。

「俺は!俺は!」

あーあ、いっつも自信満々で態度のでかいあいつが鼻水たらして泣いてやがる。勇者を気取って身に着けていた白銀の鎧も民衆に奪われ、泥まみれになっている。そんなあいつを見下ろしている美形集団。それが、本物の勇者御一行様だ。あいつの髪はくすんだ金髪だけど、本物の勇者様は日に光ってきらきらと輝くプラチナブロンド。少し青みががかった目と違って空の群青を切り取ったかのように光る美しい瞳。175センチという微妙な身長と違い、180を有は超えるその長身と鍛え上げられた体。あいつは本物の勇者に何一つ及んでいない。

「偽物よ、お前がこれまで行ってきた俺を騙った行動をすべて許そう。」

「まあ!勇者様はなんて寛大なんでしょう!さすが本物の勇者!」

「勇者万歳!」

「いやしい偽物め!早く出ていけ!」

民衆の一人があいつの腹を足で蹴り上げる。あいつは口からゲロを吐いて倒れこんだ。

「もうやめさない。この男もいつか自分を悔い改め反省する時がくるでしょう。」

「聖女様!心までお美しい!聖女万歳!」

本物の勇者と聖女はまるで一対の絵画のようだ。

「そろそろ行こう!我々には魔王討伐の任が待っている!」

本物の白銀の鎧を身に着けた勇者がすらりと剣を抜き、天へ伸ばす。それと同時に、あいつに暴力を振るっていた民衆も熱狂して勇者たちをたたえた。

民衆の足元にうずくまったあいつの体は見えない。しかしその泣き声だけはどんなにうるさくても俺の耳に入り込んでくる。

「うぅ、うぅ!うぁああ!」

苦しそうに悲しそうに泣くあいつ。いつも態度がでかくて、俺を小間使いのように扱う

あいつ。

「さぁ、行くぞ。狂戦士、オレグよ。」

勇者が手を差し伸べたのは、勇者を騙っていたあいつではなく、ぼーっと突っ立ている俺だった。

「狂戦士オレグ!オレグ!」

民衆がこぶしを天に突き上げ、俺の名を呼ぶ。狂戦士とかめちゃくちゃださくて恥ずかしいんだが、それが正式名なので仕方がない。

勇者を騙ったラグの幼馴染である俺は正真正銘、勇者御一行様の仲間になるべき男だ。勇者、聖女、魔法使い、賢者などこの国で一番の実力を持つものがそろった勇者パーティー。その中に、ほかの国にもその戦闘能力の高さから恐れられている俺は入ることになっていた。決まったのはすでに戦線に出ていた15歳の時。18になったら勇者のもとに行く予定だったが、幼馴染のせいで段取りがめちゃくちゃになったのだ。

「さぁ、行きましょうオレグ。私たちとともに世界を救うのです。」

ほかのパーティーメンバーも期待のこもった目で俺を見ている。俺はゆっくりとパーティーの方に歩き出す。民衆は俺に道を譲りながらも熱に浮かされたように声を上げている。

「うあぁあ!」

未だに泣き続けるラグ。

「さぁ!行くぞオレグ!!」

勇者も俺に近づいていくる。

「うぁぁぁあああ!」

身体が痛むのか泣き止まないラグ。



「はぁ、お前いつまで泣いてんだよ。もう18だろ。いつまでもガキみてーに泣いてんじゃねーよ。」

俺はいつものようにポケットからハンカチを取り出し、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったラグの顔をふく。

「うあぁぁあ!痛てぇよーーー!」

「うるせえよ、だから俺は勇者の真似事なんてやめろっていったんだよ。ばれたらやべぇって何度も言っただろ!」

「うっぅぅぅあああ!いてぇええ!」

「人の話を聞けこの間抜け!」

頭にげんこつを入れるとラグは手足をばたつかせてさらに激しく泣き始めた。よくこれで勇者になろうなんて思ったなこいつ。

「とりあえず、宿に帰って荷物とり行くぞ。この街にはもういられねーし。」

「まだ特産のマギノ鳥の煮込み食ってねーぞ!」

「うるせぇ、馬鹿!」

民衆からひどい暴力を受けて立つことができないラグの体を引っ張り上げ、歩けるように支える。

「行くぞ。」

「おぉー。」

頭でも蹴られたのかラグは意識がぼんやりしているようだ。とりあえず医者に見せた方がいいかもしれねーな。

「オレグ!どこに行くのです!」

よろよろと歩き出した俺に聖女様が声をかけてくる。

「あー?見てわかんないですか、聖女様?俺忙しいですよ。」

「オレグ様!そんな偽物のことなんてほおっておけばいいのです!」

「偽物め!早く消えろ!」

聖女に続いて民衆も言ってくるが無視することにする。

「・・オレグ。俺にはお前の力が必要だ。俺とともに来い。」

勇者が俺をまっすぐ見つめてくるが、男に見つめられもキモいだけなんだが。

「いや、俺にお前は必要ねーよ。おい!さっさと歩け馬鹿!」

歩くのをさぼって俺に引きずられているラグの頭を殴る。

「…オレグから離れなさい、この偽物!」

聖女が走ってきて、ラグの体を引っ張る。

「そっ、そうだ!離れろ!」

民衆もそれに加わり、ラグの体を殴りはじめる。

「うぐ!」

ラグの口から苦しそうな声が漏れ始める。


「うるせえええ!」

いい加減イライラした俺は背中の大剣を抜いて地面に突き立てる。

ひぃ!と悲鳴を上げる民衆の腹を蹴り上げ、道をつくった。

「オレグ!」

勇者の声にも腹が立つ。

「なぜ偽物の方に行くのだ。」

「偽物とか偽物じゃねーとかどうでもいいわ。俺、こいつの幼馴染だから。」

ラグは馬鹿だがら、魔族からの攻撃に疲弊した人々を元気づけようと勇者の振りをした。本当に馬鹿な奴なんだ。

「オレグー、いつも迷惑かけてすまんなー。」

「そう思うなら少し賢くなってくれねーか?」

ははっと力なく笑うラグを俺は捨てられない。変わりに勇者御一行様の立場とやらを捨ててやるさ。


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