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冒険少年とエルフの姫  作者: 早村友裕
04.中央研究所
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 朔はあの後一度、中央研究所の船に捕まったらしい。

 追ってきた船は6隻。朔はそのうち半分を沈め――あれは火山研究所のものだから、寛二が聞いたら発狂しそうだが――さんざん暴れまわった後、おとなしく捕まった。

 これで当分はソラたちが追われることはない。

 そう思っていたのそうなのだが。

「中央研究所は、思った以上に姶良を真剣に狙っておった」

 朔は険しい表情で目を細めた。

 いつもと違うその顔に、ソラはどきりとする。

「ミホシとソラには言っておらんかったが、実は俺とカリンは一度、中央研究所に捕まっておるのだ。灰の海を越えた辺りで力つき、秘密裏に保護された。そして、中央へつれて行かれ……隔離された」

 昏海からやってきた、新しい人種。

 そんなものを中央研究所が放っておくはずもないだろう。ミホシの母、カリンが月白種族であったのならばなおさらだ。

「……その時の話は、楽しいものではない。思い出したいものでもないのでな。黙っておったのだ。申し訳ない」

 朔は言葉を濁した。

 その響きに、胸がずきりと痛む。

 ミホシに対して、絶対に見つかっちゃいけない、と言ったのは、もしかすると朔自身の経験があるからなのかもしれない。

「ミホシが生まれたのはその時だ。俺とミホシは、相川所長……当時の火山研究所所長に助けられ、匿われた。それからはずっと、ミホシと二人だ。途中で晃が所長になり、俺は研究員の一人として扱われるようになったのだ」

「そうだったんだ」

「ああ。だから、中央研究所は、こちらが思う以上に姶良の事を知っておるし、思う以上に執着しておるのだ。火山研究所に知られず密偵を送り込み、さらに姶良への侵入のため掘削船を用意する程度にはな」

 ソラは口をつぐんだ。

「今回、中央研究所の動きが異様に早かったのは、その密偵たちのせいだ。思った以上の数が入り込んでおったようだ。この切羽詰まった状況でミホシを送り出せたのは奇跡だったな」

 朔はそこで小さく息を吐いた。

 ソラは、おずおずと口を開いた。

「……中央研究所は、なにを狙ってるの?」

「『永久機関』だ」

 朔はきっぱりと言った。

 永久機関、という言葉で、リンが息を飲んだのが分かった。

「無論、それだけではない。珍しい蟲や(きのこ)、歯車機械の技術。この姶良の文化自体、すべてが研究対象であり、搾取の対象であり、手に入れるべき資源だと言っておった」

 苦々しげな表情で。

「姶良への侵略に特に力を入れているのは、中央研究所の副所長である園山(そのやま)だ」

「園山?」

「ああ。火山研究所におった園山女史の、父親だ」

 ソラの耳に、がみがみ怒る園山の姿がちらついた。

 ガミガミ怒るし、ミホシに冷たい言葉を投げかけるし、さらには中央研究所の味方だったなんて。もう、許すつもりはない。

「みすみす搾取させるつもりはない。俺は晃と寛二の協力で一人脱出し、姶良へ状況を伝えにきたのだ」

「父さんも来てるの?!」

「ああ。寛二と共に、掘削船に乗せられておった。おそらくは、道案内のために。まあ、晃が口を割るとは思えんから、研究所に残っていた資料を漁られたのであろうがな」

「……助けないと」

 ソラは、どぉん、どぉんと鈍い音を繰り返す天井を見上げた。

「ああ、俺も伝令を終えたら晃と寛二を助けに戻るつもりだ。危害を加えられることはないと思いたいが……手放しで信じることは出来ん」

 ソラは思わず声を上げた。

「朔さん、オレも行く。父さんたちを助けたい」

「だが、ソラ」

 言い淀んだ朔の目の前に、左手首に装着した鋼鉄の輪を突きつけた。

「オレだって、昇降機を使える。ユグドラシルを上るのだって、今なら簡単だ」

 本当は簡単なんかじゃない。先導してくれるヒトがいないと、ソラはまだ飛ぶ方向の判断ができない。

 つまり、半分はハッタリだったが。

「朔さんと一緒に行く。オレだって、じっとしていられない」

「私も行く。姶良の一大事だ。その『くっさくせん』ってヤツを誰かが確かめてこないと」

 リンも横から手を挙げた。

 緑の宝石のような瞳に、強い意志が点っていた。

「もうすぐ、神楽ちゃんがくるはずだから、到着したら伝言を頼もう。私とソラと朔さんは、その、アキラって人とカンジって人を助けにいく。ついでに、『くっさくせん』を偵察してくる。どう?」

 仕切るようにまとめたリンが、朔を見上げる。

 驚いて目を丸くしていた朔だが、何か納得したように目を細めた。

「リンは日輪の娘だって言っておったな。もしや、母は弓弦姉さまか?」

「そうだよ」

 リンが答えると、朔は声を上げて笑った。

「ああそうか。なるほど、しっかりしているわけだ」

 そうか。弓弦さんは、朔さんのお姉さんなんだった。よく知っているはずだ。

 気の強そうな美人で、一分の隙のない弓弦を思い出す。よく考えてみると、朔さんとも面影がある気がする。特に、笑った顔なんてよく似ている。弓弦さんは、あんまり笑ってくれなさそうだけど。

「分かった。ソラ、リン。一緒に行こう。だが、無茶をしてはいかんぞ。危なくなったら、何を置いても逃げるのだ。上の人間たちは昇降機を持たん。ユグドラシルに入ってしまえば、追っ手をおいそれとも出せんだろうからな」



 夙夜が暮らしていた洞窟に勝手に入り込み、装備を調えた。

 ソラが着てきたもこもこのコートが残っていたので、それを着込む。小腹がすいたので、保存用に干してあるピンク色のキノコをいくつか口に放り込んだ。

 かみしめると、思ったより甘みがあって驚く。聞けば、子供たちにおやつにするようなものなのだという。

「おそらく掘削船が動くことはないだろう。すでに地面に向かって楔を打ち込んだ後だ。このように、太い心棒を地面に向かってねじ込むように打ち出しているのだ」

 朔はテーブルに拳を打ちつけるようにねじった。

「どうにかして、止められないかな?」

「分からん。もしかすると、寛二ならば理解するかもしれない。いや、まてよ。夙夜がおれば、あの程度の船、簡単に理解するだろう」

「夙夜さんは御苑にいるよ。すぐにつれてくるのは無理かも」

「ではやはり先に、晃と寛二を救出しよう」

 朔はテーブルに指で図を描きながら説明した。

 そのおやつをかじりながら、テーブルで掘削船の様子を聞いた。

 火山研究所から出航した船は残り3隻、掘削船が2隻、中央所属の船が4隻。だいたいの船の配置と、朔が逃げたときに3人が乗っていた船。

「俺が逃げたせいで拘束場所を変えられた可能性はある。が、それほど大きい船ではない。まあ、最悪、探せば見つかるだろう」

 最後は何とも楽観的な結論を言い渡し、作戦会議は終了。

 それでもまだ神楽が到着しなかったので、3人は軽く仮眠をとることにした。



 人の気配で目覚めた。

 数人の足音や衣擦れの音がする。

 目を開けると、洞窟の入り口から誰かが入ってくるところだった。神楽が選抜した護衛部隊の面々だ。

 しかし、それを率いているのは神楽ではなかった。

「朔!」

 大きな声で、朔とリンも目を覚ます。

 寝ぼけ眼をこする暇も与えられず、朔は地面を転がった。

 洞窟に入ってきた弓弦が、地面に寝ていた朔を乱暴に蹴り転がしたのだ。

 いたた、と頭を押さえながら起きあがる朔は、弓弦の姿を見てきょとん、とした。

「弓弦姉さま?」

「お前は……何をやっているんだ!」

 怒号が響き渡り、リンはひぃっと肩をすくめた。母親の怒鳴り声だ。いろいろと、思い出があるのだろう。主に嫌な思い出が。

「娘だけ先に帰すとは何事だ。しかも、聞けばお前自身は足止めに残ったと……お前は、本当に何も変わっていないな」

 辛辣な声音で言い切った弓弦。

 朔は返答できず、退いた。戦術的撤退。

 が、弓弦はそれを許さなかった。目にもとまらぬ速さで距離を詰めると、朔を壁際に追いつめた。

「さあ、話してもらおうか。お前が見た、外の世界を」

 朔は困ったように笑って、こくこくと頷いた。


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