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本日、2話更新しています。


 夜には――夜と言っても、太陽のない姶良では一日の半分のうちの休む方、なのだが――ミホシとソラを歓迎する宴が行われた。

 見上げるような断崖の上にある御苑から使者がやってきて、リンたちと共にそのまま連行された。

 気が付けば、先ほどまで見上げていたはずの御苑までやってきていた。


 部屋は、すだれがかかった窓が一面につけられた広い部屋だった。籠灯りではなく電力のランプがともっていて、街の中とは比べ物にならないくらいに明るい。廊下は木の板が張ってあるようにみえるが、おそらくこれまでの事を考えると木の板っぽいキノコなのだろう。姶良に植物はないと言っていたから。

 部屋を仕切るのはドアではなく扉だった。それも、美しい絵の描かれた布のようなものを枠に貼ってある――これは、『(ふすま)』と呼ぶらしい。そして、この部屋に敷き詰められた藁のような絨毯の事は『(たたみ)』と呼んでいた。

 部屋に入る前にソラは靴を脱がされた。

 足に巻いていた包帯はそのまま、ブーツを手にして部屋に入った。

 最後まで案内してくれた神楽が『ちょっと待っていてください』と言って部屋を出て、そこには夙夜と凪と、ソラとミホシだけが残された。

「たぶん、この姶良で一番偉い(のぞむ)さんと、護衛部隊の責任者の弓弦(ゆづる)さんが来ると思うよ。宗主一族の姉妹なんだけど、二人とも朔さんのお姉さんだよ」

「あれ、(のぞむ)さんって、神楽のお母さんなんだろ? じゃあ、神楽もミホシの従妹じゃないか」

「ん? そうか。そうだね。忘れてた」

 あははは、と笑う夙夜。

 どうやらこの人はとってもマイペースらしい。日輪先生にもそんな事、言われてたし。

 朔といい夙夜といい、いい大人なのにまるで子供のようだ。もっともそれは、晃も寛二もみんなそうなんだけど。何かに夢中な大人はすぐに子供に戻ってしまうみたいだ。

 そのまっすぐさは憧れもするけれど。

 そう考えると、日輪先生はとてもしっかりしているように見えた。優しそうだし、先生だからとてもいろんなことを知っている。何より、ヒト型の凪を作ってしまうくらい歯車機械の得意な夙夜の、歯車技師としての先生でもあったらしい。

 すごいなあ。

 ソラは、姶良へ来てから垣間見える歯車機械に興味を持っていた。もちろん、キノコが中心の文化も面白いのだが、それより何より、動力をすべて歯車で伝える機械の一群がとても興味深いものに見えた。機会があれば、ソラも歯車機械について学びたいと思うようになっていた。

 とても機械と思えない凪の横顔を観察していると、不意に部屋の戸が開かれた。

 そして、ぞろぞろと宗主一族が入場してきた。

 皆、一様に藍色の衣に身を包んでいた。見慣れていないソラから見ても豪奢だとわかる、装飾の多いその衣装は、きっと宗主一族を示すものなのだろう。

 最初に入ってきたのはリンだ。先ほどまで着ていた服と違って、足を隠す大人しいデザインの衣装だから、なんとなく印象が違って見える。目元に紅も差しているのか、女の子らしく見えてびっくりした。

 リンは、日輪先生と気の強そうな女の人に挟まれていた。朔と同じ淡い金髪の綺麗な女性は、きっとリンのお母さんだ。話を総合すると、きっとあれが弓弦(ゆづる)という護衛部隊で一番偉い人。

 次に入ってきたのは美少女然とした容姿の少年、神楽。弓弦とは対照的に優しそうな女性に連れられている。女性だけれど、神楽とそっくりだった。きっとあれは(のぞむ)なのだろう――姶良で、一番偉い人。

 皆が並び、ソラたちと向かい合うように座った。

「ようこそ姶良へいらっしゃいました」

 (のぞむ)を筆頭に、全員が頭を下げた。

「私が姶良宗主の(のぞむ)と申します。お久しぶりですね、夙夜さん」

「こんにちは、(のぞむ)さん」

 夙夜も頭を下げた。

「その女の子は?」

(なぎ)だよ。僕が作った歯車機械の人形」

 にこにこ笑いながら言う夙夜だが、望は目を見張った。

 ソラもすごいな、と思ったが、やはり姶良でもかなり珍しい技術らしい。

 詳しい話は後程、と言い置いた。

「こっちがソラ。天蓋の上、外の世界で生まれて育ったらしいんだ。でも、体の造りは僕らとそんなに変わんないみたい。13歳だっけ?」

 夙夜の言葉にうなずいて、ソラは頭を下げた。

「ソラです。よろしくお願いします」

 ちらりと見ると、リンが小さく手を振っていた。

「それから、この子がミホシ。朔さんと、カリンの娘だよ」

「まあ」

 望が相好を崩した。

 嬉しそうに笑い、小首を傾げた。

「ようこそ、いらっしゃいました。貴方に会えて本当に嬉しいわ。ねえ弓弦(ゆづる)

「そうだな」

 表情を固めていた弓弦も、そこで微かに微笑んだ。

「だが、必ず帰って来いと言ったのに、あいつは何をしている。娘を一人、帰すとは何事だ」

「朔さんも、きっとすぐ来るよ。ここへ来る前に、外の世界でちょっといざこざがあったんだって」

 夙夜がそう言ってたしなめた。

「まあ、よいだろう」

 鼻を鳴らした弓弦を見て、望がくすくすと笑った。

 目つきの鋭い弓弦は怒っているようにも見えたが、それよりもソラとミホシの来訪を喜んでいるように見えた。

 一通り、挨拶をし終えた望は立ち上がった。

 つられるように日輪先生と弓弦も立ち上がる。

「食事を用意させました。輝夜(かぐや)も後程来ますから、子供たちだけでお(くつろ)ぎ下さい」


 夙夜は残ろうとしていたのだが、聞きたいことがたくさんあるからキミはこっち、と日輪先生がずるずると引っ張って連れて行ってしまった。

 残されたのは、子供たちばかり。

 外からきたソラとミホシ。それから、歯車機械の凪。宗主一族の娘リンと、年長者の神楽。

 大人がみな部屋を出て行ってしまってから、リンは足を投げ出した。

「あー疲れた。こんなかしこまって挨拶なんてしなくていいのにさあ」

「リン、女の子なんですから足を広げないでください。輝夜(かぐや)を見習ったらどうですか」

「……ほんと、神楽ちゃんは妹の輝夜(かぐや)が大好きだよねっ」

 リンはそういいながら、ミホシの方へと寄ってきた。

「私はもっとミホシちゃんと話したかったんだ!」

 リンはミホシに抱き着くようにしてソラを押し退けた。

 弾かれて、ソラは仕方なく神楽の方へ向かう。

 御苑の部屋は街に比べるとかなり明るい。灯りの中で見ても、神楽は女の子のように繊細な顔立ちだった。宗主の望にそっくりだ。銀に近い金髪も、真っ白な肌も、灰白色の瞳も同じだ。溶けてしまいそうなくらい儚い白。

 神楽はソラの視線に気づいて、軽く唇の端を上げた。

「今日の昇降機の訓練では、凄かったですね。初日で二段以上飛べる者は今までいなかったんですよ」

「そうなのか?」

 もしかすると、空中を闊歩する昇降機での移動は、ソラにとても向いていたのかもしれない。

「ええ。二段跳べるなら、あとは次々に跳ぶ方向と、菌糸を張り付ける場所を見つけられるならいくらでも跳べますよ。見た限り、判断力もありそうでしたし、樹海ならおそらく、体力の続く限り地面に下りずに行けると思います」

「そうかあ。明日も練習するか」

「その前に、格闘術はどうです? もし、護衛部隊の訓練を受けるなら何か武器を選べますが」

「神楽の武器は?」

(サイ)です。弓弦さんは旋棍(トンファー)、朔さんは(コン)であったとお聞きしています」

 どれも聞いたことのない武器だった。

 そもそもソラは、同級生や先輩と喧嘩くらいはしたことがあっても、武器を手にして敵と戦ったことなどない。

 自分の戦う姿は想像できなかった。

「そのうち考えるよ。オレ、自分が戦ってる姿は想像できねえもん」

「きっとソラは、体の芯がしっかりしていますし、身体能力が高そうですから、強くなると思いますよ」

 ソラは運動が得意だ。少なくとも、クラスでは一番。

 何より、褒められたようで嬉しくなった。

 と、その時、ふと気づいた。神楽の視線がちらちらとソラではない方向に向けられている。

 視線は、ただじっと座り込む凪に向かっていた。

「神楽は凪が気になるのか?」

 ソラが声をかけると、神楽はびくりと肩を上げた。

「いや、ボクは……」

 そういいながらも、視線は凪から離れていない。

 凪は全く動じていない。

 機械だから感情がないのか、話せないからなのか、表情も少ないのか。それとも、単純にソラたちに興味がないのか。

「ボクはこれでも宗主一族で、弓弦さんを継いで次期護衛部隊の総隊長になる予定です。だから、初めてなんですよ、同年代の女の子に負かされたのは……悔しいんです」

「それだけじゃなさそうだけど?」

 神楽はおそらく、ソラより2・3、年上だろう。

 でも、学校の友達にするように、するりと近寄って耳元に囁いた。

「凪って可愛いもんな。機械には見えないよ」

「かっ、かわい……っ」

 神楽は絶句した。

 女の子みたいな顔が、みるみる赤くなる。

「キミはいったい何を言ってるんですか?!」

 神楽が立ち上がって、そう叫んだ時だった。

 窓の外から、どぉん、と大きな音が響いてきた。


 その音で、楽しそうに話していたリンも照れていた神楽も一瞬で表情を引き締め、外を覗き込んだ。

「何だ、今の音……?!」

「樹海の方です。リン、すぐに出ますよ」

「わかった、私が先行する。神楽ちゃんは護衛部隊で選抜して……10人はいらないと思う」

 二人は、宗主一族の護衛部隊だ。

 姶良に異変が起きれば、駆けつけねばならないのだろう。

「オレもっ」

 ソラは考えるより先に叫んでいた。

「オレも行っていいか? もしかしたら、朔さんが到着したのかもしれない」

 神楽は一瞬、迷ったようだった。

 が、昼間のソラを思い出したのだろう。

 来い、というように軽く手を振った。


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