おかえりなさいという言葉
「おかえりなさい」
一人暮らしが長くなり、もうこの言葉を聞かなくなって随分経つ。
実家にいた頃は、当たり前だったこの言葉が今ではとても恋しい。
そんな日々の中、優しそうに微笑む絵に惹かれ、とあるサイトの個人の番組を視るようになった。
そのサイトは、その番組の来場者数が来場した人にもわかる仕組みで、それを見るといつも来場者数は二十人未満。
来場者数が多いところだと、百人以上、もっと多いと千人以上もいたりするので、少ないのがお分かり頂けるだろうか。
初めて番組を視聴した時の「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」という優しい口調と、どこか安心する音楽が耳に届いた事を、今でも覚えている。
「あ、ここ、私に合っているかも」と感じた事を覚えている。
そして、二回目から、ニックネームと「おかえりなさい」という言葉がつくようになった。
互いに本名も知らず、顔も知らず、もちろん一度も会ったことがない人に言われた何気ない言葉。
相手にしてみたら、多くの視聴者の内の一人に過ぎない。
だけど、その口調が、そしてバックに流れる音楽が組み合わさり、それは私に衝撃を与えた。
嬉しかった。ただ、嬉しかった。口元が自然と綻んだ。
それは、まるで久々に実家に帰ってきたかのようにほっとした感情を私に与えた。
その時から、私にとってこの番組は特別なものになった。
そして、私はその時、初めて分かった。
ネットだけのつながりでも、誰かに安心を与える事は出来るということを。
誰かにほっとしてもらうことができるということを。
それから、私は時間を見つけて、この番組を視ている。
いつも、穏やかに笑って話しているこの番組を視ている。
いつか、この人のように誰かに、ほっとしてもらえるようになりたいと思いながら。
私も、誰かのために、優しくありたいと思いながら。