記念館
僕たちは跳躍港のひとつ手前あたりの駅で列車を降りた。透明な氷のような質感のある外壁で作られた、先進的な形をした駅舎から外へ出ると、真っ直ぐな、横幅の広い道が続いていた。道の両脇には涼やかな色彩の緑の木々が植えられている。そして道の奥には、白亜の、古代ローマの神殿を思わせる建築物が立っていた。
「あそこに見える建物が記念館になります」
ミカさんが歩きながら僕たちの方を振り向いて言った。
「……あそこが……」
僕は目の前に見える、美しい建物をぼんやりと見つめながら呟いた。
記念館へと続く道は一見すると普通の道路のように見えたのだけれど、実際には動く歩道になっていて、僕たちは比較的短時間で記念館の前に辿り着くことができた。
記念館の前にある石碑には、僕たちはわからない、英語の筆記体を思わせるような文字で、何かが刻まれていた。恐らく、ランダー世界の文字で、ここが黒鬼族記念館であることが記されているのだろう。
建物の入り口は白い制服を着た二名の警備員が立っていた。彼らは正面を向いたままぴくりとも動かないので、まるでロボットか何かのように思えた。僕がそう思って感想を述べると、ミカさんが僕の顔を見て、実際にそれがロボットであることを教えてくれた。
「彼らは何か異変が起こったときにのみ、作動するようにセットされています。といっても、この記念館に金目のもはありませんから、まず盗難等の心配はないんですけど、一応形式上に設置されています」
ミカさんは僕の顔を見てそう説明してくれた。建物に入る直前にちらりと、その二つのロボットに視線を向けてみると、その顔は人間の男性そっくりに作られていた。所謂アンドロイドと呼ばれるものなのだろうかと僕は思った。
入った建物の天井は高く、内装も白亜だった。そしてその空間のなかにはところ狭しと様々な展示物が展示されていた。記念館は時間帯のせいもあるのか、訪れている人々の姿はまばらだった。子供連れの夫婦と、老夫婦が数名いるだけだった。
そのうちの数名は何かで僕たちが遠い異世界から来た人間であることを見知っていたのか、僕たちの姿を認めると、感激したように表情を輝かせた。女性のひとりが僕たちのところへ歩いてきて、僕たちにはわからない言語で何か言いながら握手を求めてきた。
僕たちは彼女の求めに応じて握手を返しながら、むず痒いような気持ちになった。僕たちは特にまだ英雄的な行動等何もしていないのに。僕は握手しながら、彼女を騙しているようで申し訳ない気持ちになった。
入り口から入って少し歩いた、中央部には、巻貝を彷彿とさせるような、黒い、複葉機程の大きさの展示物が展示されていた。僕がこれはなんだろうと思って立ち止まって見ていると、横からダンが、
「これは、黒鬼族の、小型戦闘機だ。機動力に優れていて、やつらが俺たちの世界に現れたとき、この戦闘機に、多くの仲間が殺されることになった」
と、僕と同じように、黒い、巻貝を彷彿とさせる機体を見つめながら、苦々しい表情で告げた。
「……黒鬼族の戦闘機……」
僕は恐ろしく思って、目の前に展示されている、黒い機体をじつと見つめた。巻貝のような形状をしているところが、いかにも人間の作ったものではないという感じがして、気味が悪く映った。
記念館のなかにはそのほかにも、黒鬼族の爆撃によって、破壊された都市のあとの写真や、その爆撃のせいで被害を受けた人々の写真などが展示されていた。なかには、黒鬼族によって食べられた人間の残骸と思われる写真も展示されていて気分が悪くなった。
ランダー世界の一部が一時的に黒鬼族に占拠されたとき、そこには謂わば生ゴミ処理場として使われていたのか、無数の人間の死体が転がっていた。
黒鬼族は人間の体を真っ二つに切り裂いて食べる習性があるのか、どの人間の死体も真ん中から綺麗に切断されていた。そして恐らく生きたまま食べられたのか、その顔は恐怖で恐ろしく歪んでいた。僕は彼らが絶命する瞬間に感じた激しい恐怖や痛みを思うと、体が冷たい液体に濡れていくような不快な感覚を覚えた。




