王との対談
定例会議のあと、僕たちは再びホテルの一室のような場所で軽く休憩を取ったあと、要請を受けて、ザラワン王と対談することになった。ミカさんの説明によると、ザラワン王は、僕たちの世界(ランダーや他の異世界で僕たちの世界のことはルワナと呼ばれているらしい)について詳しく知りたいと望んでいるとのことだった。
待機室を出たあと、僕たちは廊下を歩いて、エレベーターに乗り、いくつかの通路を歩いて、やがて木製の大きな両開きの扉の前に立った。その扉の前には武装した警護兵のような人物がふたりにいて、その人物は僕たちの姿を確認すると、両開きの扉を開いてくれた。
部屋のなかに通されたのは、僕と明美と和司さんの三人だけだった。ミカさんとダンのふたりは外で待機することになるようだった。
なかに広がっていたのは、五十畳以上はありそうな広々とした空間だった。部屋には赤い絨毯が敷き詰められていて、その部屋の奥にはザラワン王と、それから、女の人のような綺麗な顔立ちをした人物……ロザナが、椅子に腰掛けて待機していた。部屋にはふたりの姿だけではなく、警護兵と思しき人物が、何か鎧のようなものと、銃のようなものを携えて待機していた。ザラワン王と、ロザナのふたりの人物は僕たちが部屋に入ってきたことに気がつくと、それまで腰掛けていた豪奢な椅子から立ち上がって、顔に笑みを浮かべた。
「ルワナからの訪問者よ、よく来てくださった」
ザラワン王は僕たちがふたりの前まで歩いていくと、両手を広げて歓迎するように言った。意識の周波数帯を調節する装置はこの空間のなかにも設置されているのか、僕たちはザラワン王の言葉を理解することができた。ロザナはザラワン王の隣で感じよくニコニコと微笑んでいた。彼の身につけている白銀色の鎧が目に眩しく感じられた。
「かけてくれたまえ」
ザラワン王は近くにある、自身が腰掛けていた、豪奢な椅子と同じタイプの椅子を手で指し示して言った。それから自らも再び椅子に腰を下ろした。僕たちは国王と対談する等というのははじめての経験だったので、ひどく緊張しながら、その天鵞絨張りの座面に金色の金属で縁取られた、豪華な椅子におずおずといった感じで腰を下ろした。もちろん、座り心地は良かった。かなり。
「さて。きみたちにここまで来て頂いたのは、他でもない、きみたちに直接確認したいことがあったからなのだ」
ザラワン王は僕たちの顔を見回すと、改まった口調で言った。僕たち三人はザラワン王の顔を見つめると、軽く頷いてみせた。ザラワン王は僕たちの仕草を確認すると、頷いて言葉を続けた。
「我々が得ている情報に拠ると、きみたちは、驚いたことに、跳躍船を用いることなく、エストラル世界へ渡ってきたそうだが……それはほんとうのことなのだろうか?」
和司さんはザラワン王の問いに、静かに首を縦に動かした。
「それは、一体、どのようにして?」
それまで黙していたロザナがやや姿勢を前のめりしながら確認してきた。和司さんはロザナの方へ顔を向けた。
「それが……俺たちにも理由はよくわからないのです」
和司さんは告げた。
「ただわかっているのは、俺たちは独自の方法を使って異世界と接触しようと試みていて、そのとき、エストラル世界を、装置を通して観ることができていたということです。そしてそのとき、俺たちの実験室に黒鬼族と称するひとりの男が入ってきて、俺たちはかなり追い詰められていました。もうあと一歩で彼らに捕らえられるというところまでいっていました。そしてそのとき、不思議なことに、俺たちは気がつくと、異世界……エストラルにいたのです。エトラスルの世界の人たちと話したところによると、俺たちが跳躍船を用いずに世界を跨ぐことができたのは、俺たちの身体に何か特別な秘密があるからなのかもしれないとのことでした。特にこの……」
と、和司さんはそこで言葉を区切ると、振り向いて僕の顔を見た。
「この、勇気という人間の身体に、何か特別な秘密が備わっているのではないかという話でした」
和司さんの言葉を受けて、ザラワン王と、ロザナの視線が、僕に集まるのがわかった。僕は自分が過度の期待を受けているようで落ち着かない気分になった。
「……といっても、自分では何か特別なことをしたという認識もないんです」
僕はザラワン王とロザナの顔を見つめ返すと、やや強張った笑顔を浮かべて答えた。ロザナは僕の言葉に真顔で頷くと、また僕の瞳をじっと見据えるようにして、
「しかし、そのときのことで、何か覚えていることはありませんか?つまり……エストラルに飛ぶ直前に考えていたこととか……」




