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_ロザナ

「……うーむ。意識を乗っ取ることによってか……それについては今まで考えてみたこともなかったな」

 ザラワン王は腕組みすると、険しい表情で言った。


「もし、それがほんとうだとすれば、事態は思ったよりも深刻なのかもしれん」

 中央席に腰掛けている、青い、光沢のある、ゆったりとしたドレスのような服を着た、白人系の、ややふっくらとした体型の四十代半ばくらいの男が顔を蒼白にして述べた。


「黒鬼族はきみたちの世界で……人間の身体を借りて何を作ろうしていたのか、わかるだろうか?」

 ザラワン王はスクリーンに映っている僕たちの顔を見つめると、更に訊ねて来た。


ザラワン王の問いに、今度は明美がおずおずといった感じで片手をあげた。ザラワン王は彼女の発言を許可するというように軽く頷いてみせた。明美はそれを確認すると、立ち上がり、スクリーンの方を見上げながら口を開いた。

「……彼らは入り口を作っていると言っていました。そして、入り口を作るのに、わたしたちの身体が必要なのだと言っていました」

「……入り口だと」

 明美の言葉に、ザラワン王は驚いたように大きく目を見開いて呟くように言った。


                10


「入口……つまり、黒鬼族は既にそなたがたの世界へと通じる侵入口を完成させたと言うことなのだろうか?」

 ザラワン王は明らかに動揺している様子で言った。


「……いえ、まだそこまではわかりません。というか、まだわたしたちの世界が黒鬼族からの攻撃を受けていないということは、まだその入口は建設段階で、完成していないんだと思われます」

 明美はザラワン王の姿が映し出されているホログラムを見つめながら真剣な表情で答えた。ザラワン王はまだ入口は完成していないと聞いて、ほんの少しだけその表情の強張りを緩めたけれど、でも、まだ以前としてその表情は険しかった。ザラワン王は俯き加減に何かを考えている様子だった。


「……まだ入口は完成していないと聞いたからといって、安心することはできんな」

 いくらかの沈黙のあと、ザラワン王は眼差しを伏せたまま、憂を帯びた声で言った。


「話から察するに、その入口が完成するまでそれほどの猶予はないのであろう」

 ザラワン王がそう述べたあと、沈黙が満ちた。誰もが深刻な表情を浮かべて黙っていた。


「何としても、その入口の完成は阻止せねばならん!」

 沈黙のあとで、ザラワン王は顔を上げると、断固とした口調で言った。


「……こうなったら止むを得ませんな」

 中央の席でそれまでずっと沈黙を守っていた、金髪の長い髪の毛の男が口を開いて言った。その人物は女の人のように綺麗に整った顔立ちをしていた。白人種らしく、色が白く、瞳の色は青だった。装いは鎧のようなものを身につけていた。白銀色の鎧には金で彫刻が施されている。見ていると、中世時代の騎士のような出で立ちだった。


「……このことはまだ実験段階なので、黙っているつもりでしたが、事態がそこまで切迫しているとなると、この際、駄目元でやってみる価値があるやもしれません」

 白銀色の鎧のようなものを身につけた、女の人のように綺麗な顔立ちをした、二十代後半から三十代前半くらいと思われる人物は、物静かな声音で続けた。


「彼はロザナ。サウシリアという異世界の、国王の弟に当たる人物です」

 僕の横でミカさんがそう小さな声で説明してくれた。僕はなるほどと思いながら、男性の僕から見ても、綺麗だと思える人物の顔に意識を向けた。


「実は、今、我々の世界で、極秘裏に開発中の技術があります」

 ロザナという人物はホログラムの方へ眼差しを向けると、訴えかけるような口調で述べた。


「その技術を使えば、不確定ながら、遠方世界へ跳躍することが可能です。つまり、我々の世界へと侵入可能な出入り口であるもうひとつの世界線へと移動することができるのです」


「それはほんとうなのか!?ロザナ殿」

 ザラワン王は信じ難いといようにロザナという人物の顔を見つめると言った。ロザナはザラワン王の方へ顔を向けると、首肯した。


「しかし、問題も多くあるのです」

 ロザナは軽く目を瞑って、どこか苦しそうな表情で告げた。ロザナは閉じていた瞳を再び開くと言葉を続けた。


「先ほども申し上げましたように、その技術はまだ開発したばかりで、非常に不安定なのです。わたしたちは過去にたった一度だけ、先程、お名前を名乗って頂いた、多世界の人々の世界へ跳躍することに成功しましたが、それ以外は全て失敗に終わっています。跳躍船は跳躍中にどこかの亜空間に飲み込まれてしまい、船の乗組員は全て命を落とすことになりました」


「……なるほど。そうであったか」

 ザラワン王は気遣わしげな目でロザナの顔を見つめた。


「しかし、この際、迷っている暇はないと思われます」

 ロザナはザラワン王の顔を見つめて、決然とした表情で言った。


「黒鬼族が侵入口を完成させつつある今、もはや、これしか方法はありますまい。本当を言えば、開発中の技術をもっと安定させてからと思っていたのですが……至急、我が世界で有志を募り、遠方世界……ルワナまで向かいたいと思います」


 ザラワン王はロザナの科白に軽く目を閉じた。そしてしばらくのあいだそうしていてから、やがて閉じていた瞳を開くと、いくらか疲弊した表情で口を開いた。

「……うむ。ロザナ殿の言う通りであろう。多少の危険を冒してでもやってみる価値はありそうだ。早速、我がランダーでも有志を募ることにしよう」


「……ザラワン王、そんなに思い詰めた表情をしないでください」

 ロザナはザラワン王に対して優しく微笑みかけて言った。


「今、わたしたちにはルワナ世界から直接この世界を訪れている人物がいるのです。彼らからもっと詳しく話を聞くことができれば、わたしたちの新しい技術をより安定させることができるかもしれません」

 ザラワン王はロザナの言葉に彼の顔を見つめ返すと、そうだなといように、いくらか弱く口元を微笑みの形に変えた。


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