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ランダーの王

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 その異世界の定期会議が行われるという会議場は相当に規模が大きかった。東京ドームくらいの広さはあるだろう。そしてただ単に大きいというのではなく、金や銀を多様した、豪華絢爛な空間でもあった。


 恐らく、建物の最上階に位置していると思われる会議場の天井は透明で、半球形型をしていた。半球形の透明な天井からは直接空が見えた。会議場は階段教室状に座席が配置されていて、それは最下層にある、中央の席を円の形でぐるりと取り囲むようになっていた。まるで古代ローマのコロッセオみたいな感じだ。


 円形に配置された席にはかなりの数の人間が腰かけていて、ほとんど空席は見られなかった。最下層の席には七つの、天鵞絨張りの豪奢な席があり、その席には各世界の代表者と思われる人物が腰掛けていた。各世界ごとに風俗が異なっているのか、代表者の装いはそれぞれに異なっていた。そしてそれぞれの代表者の装いは、ミカさんや、ダンとは違い、身体にピッタリとフィットするような機能的なものではなく、どちらかというと装飾的で、豪華で、一見すると、着膨れしているようにも見えるものばかりだった。たとえば、古代日本の和服みたいに。何重にも重ね着をしているみたいにも見える。


 僕と明美と和司さん、それから、ミカさんとダンのふたりは、階段教室状に配置された座席の最上部あたりに、言ってみれば客品のような感じで座っている状態だった。近くにシュナールの姿はなかったので、恐らく、中央部にある、七つあるうちのひとつの席に腰掛けているのだろうと思われた(僕たちが腰かけている席から中央の席までは結構距離があり、席に腰掛けている人物の顔までは把握できなかった)。


 また付け加えて置くと、中央部の天井近くの空間には光のホログラムがあり、そのホログラムは、各世界の国旗のようなものを順番に表示していた。僕がそれを目物珍しく思って眺めていると、隣に腰掛けているミカさんが、百合を象ったものが、ミカさんたちの世界の紋章であることを教えてくれた。


 僕たちが席について程なくすると、会議場内に会議開始を告げるベルの音のようなものが鳴り響いた。と、同時に、ひとの声がすぐ近くから聞こえてきた。


「これより異世界連合の定期会議を開始する」


 聞こえてきたのは、しわがれた老人のような声質のものだった。 僕が一体どこから声が聞こえてきているのだろうと思って回りを見回していると、

「今、喋っているのは、ランダーという世界の、国王に当たる、ザラワンという人物です」

 と、ミカさんが僕の動きに気がついて説明してくれた。僕は振り向いてミカさんの顔を見つめた。


「国王?」 

 僕は不思議に思ってミカさんの言った言葉を繰り返した。

「といことは、その人物は、今、中央にある、だいぶ距離が離れたところに座っているわけですよね?それなのに、どうしてこんなはっきりと声が聞こえるんだろう……しかも、すぐ近くで話しているみたいに声が聞こえるし……」


「それは転送機によってです」

 ミカさんは僕の顔を見つめながら、解説してくれた。

「あの中央の席付近で話された言葉は機械によって回収され、その後、わたしたちの耳元まで転送されてくるのです。調整次第によってはその逆を行うことも可能です」


「……すごいですね」

 僕はなんとなく今自分が話していることが、ランダーという異世界の国王に聞かれているのではないかと思って思わず小声になって言った。


 ミカさんは僕の言葉に頷くと、言葉を続けた。

「転送機のすごいところはそれだけではないんです。当然、ランダーとわたしたちの世界では話している言語も違うんですが、それを瞬時に翻訳してわたしたちの耳に届けてくれているんです。更言えば、言葉というのは各世界、他の六つの世界ごとに違っているのですが、機械はそれを各民族ごとに、正確にそれぞれの言葉に翻訳して伝達してくれるのです」


「……そんなことができるんですか?」

 僕はミカさんの言葉に驚いて目を見張った。


「翻訳というよりかは、意識の周波数を調整しているとった方が正しいだろうな」

 ダンが僕の顔を見ると、口元にからかうような笑みを浮かべて言った。


「周波数?」

 僕は問うようにダンの顔を見据えた。ダンはそうだというように首肯して続けた。


「人間の意識にはそれぞれの周波数というものがあるんだが、機械はその周波数に働きかけて、言葉が違っていても相互理解できるようにしているんだ。この技術はランダーで開発された技術で、まだとても俺たちの世界では再現することができない」


「……それって、一種のテレパシーみたいなもの?」

 明美がダンの顔を見て訊ねた。ダンは明美の顔を一瞥すると、


「正確には違うが、おおよその概念としてはそれで間違っていないだろう」

 と、答えた。


「……今度はテレパシーと来たか」

 和司さんが半ば呆れたように言った。


「ついでに説明しておくと」

 ダンは僕たちの顔を見ると、からかうような笑みを口元に浮かべたまま続けた。

「あの空間の中央に浮かんでいるホログラムに意識を集中すれば、自分の見たいと思う映像を見ることができる」


 僕はダンに言われて、空間の中央部で相変わらず、各世界の国旗のようなものを表示し続けているホログラムを見つめた。


「自分が見たいものをちょっと思い浮かべるだけでいい」

 ダンが僕の横顔に向かって声をかけてきた。


 僕はちらりと横目でダンの顔を一瞥すると、頷いて、さっき聞こえてきた、老人の声を意識してみた。すると、信じられない現象が起こった。それまではただ順々に各世界の国旗だけを表示していたホログラムの映像が、突然、老人の姿を映した映像に切り替わったのだ。


 映像に映し出されたのは、七十代後半くらいと思われる、白髪の老人だった。白人系で、やせ細っていが、しかし、その瞳のなかには知的で、何事にも動じなさそうな強い意志の光が宿っているように思えた。彼は王冠のようなものを冠り、首回りにはエリマキのようなものを身につけていた。装いは和服に近い、奇妙に膨らみのある、赤く、光沢のある服を身に纏っていた。そしてその赤い服には金でところどころに幾何学的な模様が施されていた。


「……信じられん」

 僕と同じ映像を目にしたのか、僕の隣で和司さんが独白するように言った。


「……彼が、ランダーの王?」

 明美が呟くような声で言った。


「彼は長く続いたランダー世界の王家の、代百三十七代目にあたる王です。彼の治世は既に四十年以上続いています。彼は黒鬼族の侵攻があってから、初代の王です。ちなみに、彼の父親である、前王は、黒鬼族との戦闘で命を落としたそうです」

 ミカさんもホログラムで、王の姿を見ているのか、正面に視線を向けたまま答えた。ミカさんの瞳はまるで眩しいものでも見るかのように心持ち細められていた。


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