超空間移動
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しばらくすると、黒色の頑丈そうな感じのする機体の側面が開き、そこからタラップが僕たちのいる方へと向かって降りて来た。僕たちはシュナールという人物を先頭にして、船のなかに乗り込んだ。船内は外装と同じで、無駄な装飾を一切排した無骨なデザインになっていた。金属がむき出しになった壁には配管のようなものが見え、内装も黒色だった。通路は狭く、ひとがひとり通るのがやっとという感じだった。船内は三層構造になっているのだ、と、歩きながらミカさんが説明してくれた。一番下の階層が倉庫になっていて、二階は船の従業員用のスペース。そして、今、僕たちが居る三階が一応客室使用になっているという話だった。
タラップから入って最初の通路の突き当たり奥の扉を開くと、広々とした空間が現れた。一般的な大学の学食くらいの広さはあるだろうか。そこの空間もやはり黒色で統一されており、その空間のなかにはたくさんの椅子とテーブルがあった。
「ここは、食堂兼、会議室になっています」
歩きながら、ミカさんは振り向いて言った。
なるほど、と、僕は思った。空間の奥を見てみると、確かにそこには自動販売機のようなものや、厨房のようなものがあるのが確認できた。先頭を歩いていたシュナールとその随員たちの姿はいつの間にか見えなくなっていた。どこか別の部屋へと移動したのだろう。
僕たちは食堂のなかを直進し、入ってきた扉とは反対側にあるドアを開いた。すると、また通路が現れ、その通路に沿っていくつかの部屋が並んでいた。僕と明美と和司さんの三人はそのうちの部屋のひとつに通された。
案内された部屋はそれほど広いとはいえないものの、一応、三つのベッドと、ソファーとテーブルがあった。それから、ユニットバスが収まっていると思われるドアも。部屋のなかは豪華とはいえなものの、黒を基調とした、気品のあるデザインになっていた。壁の一部は巨大なスクリーンになっていて、そこに映る映像は写真のスライドショーのように定期的に変化した。映っているのは、海や花畑といった、目に優しいような景色のものばかりだった。きっと閉鎖的な空間に長時間いることになるので、気持ちを和ませるためにこのようなものが存在するのだろうなと僕はなんとなく思った。
「船はもう間もなくランダーに向かって出発します。ランダー到着まで十時間近くかかりますので、それまではこの部屋のなかでおくつろぎください。午後七時頃になったら先ほど通って来た食堂に食事が用意されますから、食べてください」
「あと、それから」
と、ミカさんはふと思い出したように言って、スボンのポケットのなかから、財布のようなものを取り出した。そしてそのなかから金色に光る硬貨のようなものを取り出すと、それを僕たち三人にそれぞれ手渡した。
「もし、何か飲み物とかが欲しくなったら、その硬貨で先ほどの食堂にある販売機で購入することができます」
ミカさんは僕たちの顔を見ると、微笑んで言った。
「……でも、頂いてしまっていいんですか?」
明美がミカさんの顔を見つめて、戸惑っている表情で言った。
「もちろんです」
ミカさんはにっこりと笑みを深めて言った。
「大した額じゃありませんから。それに、みなさんの滞在にかかる費用は国から出る事になっているので、問題ありません。それに、今回のランダー行きは、わたしたちの方からお願いしていることでもあるので。またもし足りないようなことがあったらいつでもおっしゃってください。わたしとダンはみなさんの隣の部屋で待機していますので」
「……すいません。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
と、明美は恐縮している様子で頭を下げた。僕と和司さんも軽く頭を下げた。
「それでは諸君、また夕食のときにでも会おう」
と、それまで黙っていたダンが冗談めかした口調で言った。それから、ミカさんとダンのふたりは僕たちの部屋から出て行き、部屋のなかには僕たちだけが取り残される形になった。
ミカさんとダンがいなくなると、僕たちは部屋にあったソファーに腰掛けた。ソファーはダークブラウンの、デザインのように、座面にボタンが施されたものだった。すっぽりと身体が包み込まれるようで、座り心地も良かった。部屋の右側には丸い形をした窓があり、そこからは外の世界を臨むことができた。ちなみに、今窓の外に見えているのは、天然の洞窟のような空間だった。
「これから船は動き出すって言ってたけど、一体どんなふうになるんだろうね?」
僕は少し不安に思って誰に向かって訊ねるでもなく言ってみた。
「確かに、超空間移動っていうものがどんなものなのか、気になるよな……」
和司さんは思案顔で窓の外に目を向けると、呟くような声で言った。明美も、確かに、と、というように窓の外を向けた。
と、その瞬間、窓の外の景色が縦に引き延ばされるように歪むのが見えた。と、同時に、身体がどこかに向かって下降していくような感覚を覚えた。ちょうとエレベーターが動き出したときのような。気がつくと、窓の外に見える景色は、七色の光が不安定に揺らめく不思議な空間にへと変わっていた。
「……これが、超空間?」
明美が窓の外の景色をじっと見つめながら、小さな声で言った。
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