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跳躍港


 その後、僕たちはそれまで待機していた部屋を出ると、最初に僕たちが今居る施設を訪れる際に到着した、巨大な格納庫のような場所まで移動した。格納庫のような広大なスペースには、最初に見たときもそうだったように、流線型をした、卵型の黒い乗り物が無数に止まっていた。そして僕たちがミカさんにつれられてそのうちのひとつの前まで歩いて行くと、ふいに、車の陰から、目つきが少し鋭い、坊主頭の男……確か、ダンという名前の男性が、僕たちの前に姿を現した。


「この世界はどうだ?快適に過ごせているか?」

 ダンという名前の坊主頭の男は、僕たちの姿を認めると、口元にからかうような微笑を浮かべて訊ねてきた。和司さんは彼に対する最初の印象が良くなかったせいか、半ばにらみつけるようにダンという名前の男性の顔を見据えた。


「おい。おい。そんな怖い顔をするな」

 ダンは和司さんの様子に、両手をあげると、戯けた口調で言って少し笑った。

「あのときは不愉快な思いをさせてすまなかった。謝る」

 ダンは続けて改まった口調でそう言うと、腰を折って頭を下げた。それから、顔をあげて僕たちの顔を見ると、

「しかし、あのときは……もうミカからも説明があったと思うが、きみたちがどこの誰だかわからなかったから、一応警戒する必要があったんだ。例の、黒鬼族の例もあるしな」


  和司さんはダンの説明に、完全納得したわけではないのだろうけれど、無言で頷いた。ダンは和司さんの様子に、少しほっとしたように頬を緩ませると、

「改めて自己紹介させてもらう。俺の名前はダンだ。よろしく」

 と、言って、僕たちに向かって手を差し出してきた。僕たち三人はどうするか意志を確認し合うようにお互いに顔を見合わせた。それから、改めてダンの顔に眼差しを向けると、それぞれに名前を名乗って、いくらかぎこちなく彼の手を握り返した。


「さて。無事仲直りも済んだところで、車のなかに乗ってください」

 それまで黙って僕たちのやりとりを見ていたミカさんが口を開くと、微笑んで言った。

「ランダーにはダンも一緒に来てもらいます」


 和司さんはミカさんの言葉に、一瞬だけ不服そうな表情を浮かべたけれど、口を開いて何も言わなかった。


 間もなく、車のドアが垂直方向にスライドして開き、僕と和司さんと明美の三人は車のなかに乗り込んだ。ミカさんも僕たちと同じように後部座席の方に乗り込んだ。ダンは卵型の乗り物の操縦を担当することになっているのか、前方の運転席に腰掛けた。


「……あの、この乗り物で……跳躍……ランダーに向かうんですか?」

 僕は好奇心と不安な気持ちから、僕の隣に腰掛けているミカさんの横顔を見ると、訊ねてみた。


「いいえ」

 と、ミカさんは振り向いて僕の顔を見ると、短く答えた。

「このエアカーで異世界へ跳躍することはできません。わたしたちはこれからこのエアカーで、跳躍港まで移動します。そしてその跳躍港から船に乗って跳躍します」


「跳躍港って、つまり、大きな船が止まるような港みたいなものですか?」

 明美がミカさんの顔を見て、不思議そうに訊ねた。


「少し形状は違いますが、おおよその雰囲気としてはそんなものですかね」

 ミカさんは軽く口角を上げてそう答えた。


 そして僕たちがそんなやりとりをしているうちに、ダンの運転する卵型の乗り物がふわりと宙に浮かび上がったような感覚が伝わってきた。小さな窓から外を覗いてみると、僕たちの乗った乗り物は宙に浮かび上がっていて、音もなくゲートに向かって移動を開始していた。それから、間もなく、僕たちを乗せた乗り物は巨体で壮麗なビルが建ち並ぶ空間に向かって飛び出した。そんな景色を眺めていると、まるで自分がSF映画のなかにいるかのようで、興奮が抑えられなかった。明美もいくらか瞳を輝かせて窓の外の様子を見つめていた。和司さんだけが平然とした、いつもと変わらない表情を浮かべていた。


「空飛ぶ車が、そんなに珍しいものなのか?」

 バックミラーで僕たちの様子を確認したのか、運転席に座っているダンが面白がっているような口調で訊ねてきた。


「ええ。そうですね。僕たちの世界にはこういった乗り物はまだ存在していなかったので」

 僕は前方に視線を向けると、微苦笑して答えた。


「もっと早くに実現すると思ってたけど、全然そんなものができそうな気配もないわよね」

 明美が軽く唇を尖らせて不満そうに言った。


「一体、この車はどういった原理で飛行しているんだろう?」

 和司さんが半ば独り言を言うように言った。

「見たところ、プロペラもなければ、ジェットエンジンもないようだし……」


「まだみなさんがいる世界では実現していないようですけど、このエアカーはプラズマエンジンを使用しています。車体をプラズマで包むことによって、事実上の反重力が生まれるんです」


「……すごい技術だな」

 和司はさんがミカさんの説明に顎に手を当てて、感心したように頷いた。


「同じ世界なのに、こんなにも文明の進度が違うなんてね」

 明美が軽く目を細めながら呟くような声で言った。


「でも、わたしたちがこれから行くランダーという異世界は、わたしたちの世界の比じゃありませんよ」

 ミカさんはからかうような口調で言った。


「そんなにすごいのか?」

 和司さんは軽く目を見開くようにしてミカさんの顔を見つめた。


「確かにあの世界はすごい」

 ダンが運転席でつくづく感心している口調で言った。


「俺も用があって何度かあの世界には行っているが、いまだに驚かされる」


 僕はダンの科白に耳を傾けながら、僕たちがこれから行くことになるランダーという名前の異世界はどんなところなのだろうとかなり気になった。僕はそのランダーという異世界を想像しようとしたけれど、それは全く上手くいかなかった。


「楽しみにしていてください」

 ミカさんは僕の顔を見ると、微笑んで楽しそうな声で言った。


 その後、僕たちを乗せた乗り物は三十分ばかり飛行を続け、やがて、眼下には山林ばかりが見えるようになった。そしてそれは唐突に姿を現した。それは、巨大な構造物だった。ざっと見ただけなので詳細はわからないのだけれど、全長四十キロ近くはありそうに思えた。空から見ると、それはちょうどドーナツを彷彿とさせる形をしていて、構造物はあるアルミニウムのような質感のある、銀色の物質で塗装されていた。


「見えてきました。あれが跳躍港です」

 ミカさんが告げた。


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