ランダーへ
夕食の時間になると、ミカさんが部屋のなかに料理を運んできれてくれた。運ばれてきた料理はオムライスだった。かかっているソースは少し不思議な味のするものだったけれど、料理としてはオムライスそのものだった。ライスがふわりとやわらかいたまごに包まれている。夕食を取ったあと、僕たちは部屋のなかに付いているシャワーを浴び、そのあ特にすることもなかったのでベッドで眠った。ベッドの寝心地は悪くなかった。
翌朝目覚めると、またミカさんが朝食を運んできてくれた。朝食の内容は、ロールパンに似た形状をしたパンと、目玉焼き、それから紅茶に似た味のするお茶のセットという組み合わせだった。どうやらこちらの世界の食生活は僕たちの世界と基本的にほとんど変わらないようだった。
朝食を済ませたあと、僕たちはミカさんに案内されて部屋を出た。ミカさんの説明によると、昨日話していた通り、これから簡単な検査を受けてもらうことになるということだった。
僕たちは通路を歩いて移動し、昨日乗ったエレベーターに乗った。それからまた通路を歩いて、僕たちは白衣を来た研究者がたくさんいる、巨大な研究室のような場所に通された。そして僕たちはそれぞれMRIのような外観をした巨体な機械のなかに入れられた。機械のなかに入るときは不安な気持ちで一杯だったけれど、ミカさんが昨日述べていた通り、それは痛くも痒くもなく、五分程度ですぐに終了した。検査が終わると、また僕たちはもといた部屋に戻されて待機することになった。
再びミカさんが僕たちの部屋にやってきたのは、午後の三時前だった。
僕たち三人は例によってこれからどうしたら良いかということを話し合っていた。黒鬼族についてや、今、自分たちにできることについて。
「何度もお邪魔してすいません」
と、ミカさんは部屋のなかに入ってくると、少し恐縮しているような表情で言った。
「検査の結果が出たのか?」
和司さんがミカさんの顔を見ると訊ねた。ミカさんは首を振った。
「いえ。それについてはまだもう少し時間がかかると思います」
ミカさんは簡潔に答えた。
「今回、みなさんのもとをお伺いしたのは、お願いしたいことがあったからなのです」
と、ミカさんは僕たちの顔を見つめながら真剣な顔つきで言った。僕たちはミカさんの言葉の続きを待って黙っていた。
「実はこれからランダーで、異世界連合の会議があるのですが、その会議に、みなさんにも参加してもらいたいのです」
と、ミカさんは続けた。
「ランダー?」
僕は怪訝に思って言った。
「ほら、昨日ミカさんが言っていた、他の異世界連合の中心になっている世界のことよ」
と、明美が僕のとなりでささやくような声で教えてくれた。
「ああ」
と、僕はやっと理解した。
「あなたがたがわたしたちの世界に突如としてやってきたことは、異世界連合のなかでも今かなりの話題になっています。そして明日、ランダーにおいて異世界連合の定期会議があるのですが、その会議に、異世界連合の盟主であるランダーから、ぜひみんなさんにも参加してもらいたいとの要請が入ったのです」
「……それは構わないが、俺たちがその会議に参加して何か役に経つんだろうか?」
と、和司さんはどうも腑に落ちないというような表情で言った。
「もちろんです」
と、ミカさんは即答した。
「みなさんが体験したことを話して頂ければ、今、黒鬼族がどういった動きをしていて、どうすることが必要なのか、参考になると思います」
「……そういうことだったら、俺たちはべつに構わないが」
和司さんはいくらか難しい表情を浮かべて首肯いた。
「じゃあ、今からそのランダーという異世界へ移動するんですか?」
と、明美がいくらか不安そうな表情を浮かべて訊ねた。
「そういうことになります」
ミカさんは明美の顔を見て答えた。
「これからわたしたちの世界からランダーという世界に向かって船を使って跳躍するわけですが、しかし、跳躍と言っても、亜空間を利用して移動することになるので、わたしたちの世界からランダーまでは十時間近くかかります。今から移動しなければ間に合わないのです」
「……十時間」
僕は思わず小さな声で呟いていた。ミカさんから跳躍と聞いていたので、異世界への移動はもっと一瞬で、短時間で終わるものだと僕は思い込んでいたのだ。
「……来て頂けますか?」
僕たちが黙っていると、断れると思ったのか、ミカさんが心配そうな口調で訊ねた。
「もちろんです」
と、明美は力強く首肯いて言った。
「これはわたしたちの世界にとっての危機でもありますから。わたしたちにできることであれば出来る限りのことはさせてもらうつもりです」
そう言った明美の瞳のなかに強い意志が宿っているように思えた。




