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妹達と歩く異世界-シスター・テイム・ワールド-  作者: 大岸 みのる
第一章:陽花 理玖は、それでも妹を見捨てられない
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episode『008』 育成訓練Ⅲ

 空の色は相変わらずの黒と紫の闇。太陽は小さい白い点かと思えるほど小さい。これは魔王お兄ちゃんによる仕業だと俺は聞いた。この世界も残すところあと二日。この世界に昨日転移したばかりの俺にできる事は、生き残る為に世界を救う事だ。そして、その為には妹と呼ばれる仲間の好感度を片っ端から上げていき、強くすることなのだ。

 俺には本当の妹が一人いる。その妹に刺されて、妹という存在そのものにトラウマを植え付けさせられた筈なのだが、そんな俺に神は妹と仲良くしないと世界を救えないという試練を与えてきた。なんで俺だけがこんな苦労をさせられるのだろうか。

 世界終末まであと残すところ二日。

 今日は、仲間になった妹達とデートという名の訓練に出向いてる。と言っても、金髪アフロのブランドォー曰く、一緒にサバイバル演習デートというのは戦闘訓練をしている筈なのに好感度はまったく上昇しないらしい。なので、街に出て普通のデートをしなければならない。

 必然的に御洒落な格好をすることになった俺は、この街の中心である時計塔の下で妹の一人を待つ。昨日とは違って、全身黒タイツに黒コートという変態的な服装ではなく、白いシャツに青い七分丈までのチノパンに黄色いマフラーにデッキシューズと、ファッションに疎い俺が仕立て上げられた。

 洋服は全てブランドォーの知り合いの物らしい。サイズが俺と全く一緒なのは黙っておこう。

 中心街は中々の盛り上がりを見せる。相変わらず、同年代くらいの男は少ない。恐らく、戦闘や戦士業に必要な指揮者(コンダクト)というのが俺らのような年齢の男にしかできないという事なのだろう。

 前の世界で滅多にナンパされない俺でも、さっきから何回もまぅまぅのような年齢の子供から、干された妻のような年齢の人まで「妹にしてください」と頭を下げてきた。正直な話、まぅまぅくらいの年齢の子供は分かるが、おばさんが「妹にしてください」というと「あんた言葉の意味わかるか?」と聞きたくなったものだ。喉まで言葉が出かかった。

 他に多いとしたら、商店街に歩み寄る女の人達だろう。彼女達は契約に成功したのか、きっと武器を買ってこいと言われ、購入をしているのだろう。だが、明後日が決戦日なだけに、武器・防具屋の商売は繁盛してるのか、どこのお店も品薄になってきている。

 時計塔を見ると、前の世界と違って時計が逆方向に進んでいる事に気付く。この世界では時計の針は反時計回りのようだ。時刻は昼の十時だ。

 時計を見て、ブランドォーのお店であるサバイバル演習場がある方向から、何者かが俺に向かって走ってくる。彼女は髪の毛の先をカールさせて、御伽の国のお姫様のような格好で、中心街を駆け抜けていた。桜色の髪が舞うたびに、周囲にいる人たちの目を引いていく。

 だいぶ距離を走ったのだろう。息を上げてようやく俺の元に辿り着いた。


「お、お待たせして……申し訳ありません!」

「いや、別にいいけどよ……」


 走ってきた子の名前はまぅまぅ。縮めた愛称である。彼女は俺がこの世界に来て目覚めたときに初めて妹となった子だ。桜色の髪の毛を震わせる姿は、桜の木そのものかと思ってしまう。幼いわりには整っている顔は、将来美人になる素質を秘めているなと俺でも思ってしまう。

 だが、妹だ。恋愛感情なんて沸かないし、そもそも、デートとか本来したくない。だけど、世界を救う為なのだ……。仕方ない……。

 昨日と違うのは服装にある。学生服・ペンギン服・パジャマと一日に三回着替えたまぅまぅは、ゴスロリのような格好だった。黒いお嬢様のようなドレスに白のレース。そして、メイドさんが着用していそうなヘアバンド。それが似合っているから凄い。

 まぅまぅは呼吸を整え、俺の手を握った。


「それでは、デートを始めましょ? お兄ちゃ――――――痛っ……」

「お前は名前で呼べと言っただろうが」

「ですがですが~」


 まぅまぅだけには、「お兄ちゃん」と呼ぶのを許してはいない。これは勝手な事なんだけど、他にいる真央や蘭は「お兄ちゃんと呼ぶな」と言ったら簡単に殺されそうな怖さがある為、そういう事を言えないのだ。それに今更指摘するのがメンドクサクなってきたのもある。

 他の二人は出会いが出会いだったから、俺はまぅまぅほど強くは喋れないのだ。だから、名前で呼んでいいのは、まぅまぅだけだという意味で受け取ってほしい。

 俺の後を追いかけるまぅまぅに振り返り、手を後ろに差し出す。


「……ほら、デートなんだろ」

「わぁっ! いいんですか? いいんですよね? いいんですね!」


 口端を吊り上げて、まぅまぅは俺の片手を嬉しそうに握った。小さい手なので、俺が本気で握ったら痛いだろう。そんな事を気にして握っていたら、昔の理沙を思い出す。

 ――――理沙にもよく手を繋いでやったな……。

 物思いに耽っていると、突然俺の手が強く抓られる。あまりに痛かった為、すぐにまぅまぅの手を離そうとしたが、コンクリートにでも手を入れたかのように動かなかった。

 隣にいるまぅまぅは不機嫌そうに頬を膨らませて、俺から視線を背けた。


「理玖様はデートしているのに、まぅまぅ以外の女の子の事を考えるのは禁止ですっ!」

「い、いやぁ……俺が誰の事を考えてようが勝手だと思うんだけど」

「デート中はとにかく、デートしてるまぅまぅに失礼なので、やめてくださいっ! あ、でも、他の真央ちゃんや蘭ちゃんとのデート中は、まぅまぅの事考えてもいいですよ?」

「断る」

「むー理玖様は釣れませんね~」

 

 ふふっと笑うまぅまぅはいきなり上機嫌になった。この年頃の乙女はよくわからないなと思う。幼い手を繋いで街をゆっくりとした足取りで進む。街の人々は皆仕事やB・Iを操作する手を止めて俺とまぅまぅを微笑ましい目つきで見てきた。そんな視線を知らずにまぅまぅはスキップしながら、街を駆ける。俺との歩調がそれでも離れないのは、まぅまぅがまだ幼いからだろう。

 中心街から外れた場所に、ブランドォーオススメのクレープ屋さんがあるらしく、まぅまぅは絶対に好きだと耳に入れられた。せっかく一応はデートなのだから、まぅまぅの好きな物を食べさせたほうがいいかと思い、クレープ屋に到着する。

 まぅまぅは首を傾げながら、俺の視線の先を追う。


「やっぱり理玖様もお腹が空いてたんですか?」

「まぁな。それよりも、お前に食わしたいものがあってな」

「え、まぅまぅにですか……?」

「ああ。絶対に気に入ると思うぞ」

 

 前の世界のように小さい車でクレープを売る。というわけには、さすがにいっていなかった。小さなテントを張っており、そこに簡素なカウンターを設けて木製の椅子が所狭しと並んでいる。中では、ようやく俺と同年代くらいの男が一人で働いていた。

 髪の毛は金色で肩にかかるくらい。そして、中世的な顔立ちで身長は恐らく俺よりも高いだろう。なんならイケメンの部類に入りそうだ。

 そんな彼の元には次々と同年代くらいの女の子が「妹にしてください」と言わんばかりの瞳で見つめている。だが、唯一のクレープシェフである彼は、そんなお誘いにも嫌な顔せずに「ありがとうございました」と笑顔で御釣りを渡す。

 中々好印象だった。

 そして、俺とまぅまぅの番になった。

 時間が時間だからか、行列はできていない。だから、注文したらすぐに作ってくれそうだ。

 まぅまぅはメニューを見て、「うぅぅぅぅ……」とうなりながら悩んでいた。きっとどれが一番美味しいのか考えているのだろう。指でメニュー一つ一つを丁寧に選んでいる。後ろに他のお客さんもいないので別に平気だろう。

 そんな中、彼はテント内のカウンターから顔を出した。


「どうしたのかな? どれにするの?」

「あ、えーっと……すいません、まだ悩んでてもいいですか?」

「ええっと…………」


 なんだか会話が噛み合わない様子。一体なんだと言うのだろうか。俺は首を傾げながら、自分自身を指さしてみた。すると、すぐに店員さんは首を二回頷かせる。俺が悩んでいるように思えたのか……。


「俺は何でもいいぜ。あんたの自信作をくれ。金は払う」

「……かしこまりました」

「で、では、まぅまぅも同じので!」

「はい、かしこまりました」


 俺とまぅまぅで対応が全然違う。俺の時は何か言いにくそうな顔で、まぅまぅはいたって普通だ。何も俺が変な格好をしているわけじゃない。むしろ今日はまともだろう。それに顔には何もついてない筈だ。

 まぅまぅに疑問を悟らせないように、とりあえず近くのテーブルで待機していると、クレープはすぐにやってきた。ちなみに、お金の方だが翌日にブランドォーから「王国から報奨金が来てるわよ!」と言われたので素直に貰っておいたのだ。額はブランドォー曰く、お店一軒を立てる事ができるらしい。


「お待たせしました。わたくしのオススメでございます」

「……」

「……理玖様ぁ……」


 明らかに俺とまぅまぅのクレープのボリューム・見た目が違う。いや、まぅまぅの方も綺麗で美味そうなのではあるが、俺のほうが酷い。何が酷いって?


「……同じ筈なのに俺のだけデラックス過ぎるだろう……どう見ても宝石箱だろうが……」


 まぅまぅは潤んだ瞳で俺の事を見つめる。分かっている。その瞳は俺の方のクレープを食べたいのだろう。一応妹という存在そのものが嫌いではあるが、まぅまぅや真央・蘭の事はそこまで嫌いじゃない。だから、ちゃんと交換してあげた。それを受け取ったまぅまぅは、首を傾げた。

 俺的解釈すると、食べていいのか聞いているのだろう。だから、首を頷かせた。すると、まぅまぅは先ほどまでの潤んだ瞳をやめてクレープに噛り付いた。


「うわああああああああッ!」

 

 突然奇声が上げられたので、そちらを見ると先ほどのイケメン店員が両頬に手を当てて叫んでいた。一体何なのだろうか。騒がしい。

 仕事を中断させたイケメンはこちらに向かって走ってきて、まぅまぅが食べていたクレープを取り上げた。とられたまぅまぅは悲しそうな眼で俺に「取り返して!」と訴えかけてくる。当然、俺はそのジェスチャーを受け取り、席を立った。

 そして、俺よりも長身のイケメンを睨みつけた。


「何だ? まずかったのかよ。俺とコイツは同じもん頼んだんだよ」

「まずいよ! だって……僕は……僕は……」


 今度はいきなりオドオドし始めた。病気かなんかなのか知りたくなる。そこで、決意を固めるように生唾を飲み込んだイケメンは俺に頭を下げた。その勢いは凄まじく、俺の前髪が浮くくらい速かった。きっと謝るのだろう。

 彼はきっと俺の言っている意味が分かったのだろう。そう思っていた。

 だが、すぐに俺の考えは打ち消された。


「僕を妹にしてくださいッ!」


 ――――ま、またこのパターン!? これ以上妹を作るのはゴメンだぞ!? そう思って隣のまぅまぅを見ると、生クリームを付けまくった口のまま席を立った。まぅまぅは口の中にクレープが入ってるからか、もごもご言いながら、イケメンの姿をした女に襲い掛かった。

 イケメンの姿をした女は、まぅまぅをスルリと躱す。そのせいで、まぅまぅは俺のほうへと倒れこむ。


「あ」

 

 そのときに、まぅまぅと二度目のキスを果たした。

 二度目のキスはなんだか甘ったるかった。

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