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妹達と歩く異世界-シスター・テイム・ワールド-  作者: 大岸 みのる
第一章:陽花 理玖は、それでも妹を見捨てられない
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episode『007』 育成訓練Ⅱ

 小さな子供達四人が、大きな大きな保存大樹の下で輪っかになるように手を繋ぎながら、瞳を閉じて祈るように視線を俯かせている。その様子は完全に何かお願いをしてる雰囲気だった。

 空は大樹によって遮られているが、太陽の眩い光によって大地にはライトグリーンの日差しが照らし出されている。その光の当たる所には彼ら幼子達くらいの大きさの石碑が置かれ、それぞれが赤・青・緑・黄に染まり出す。

 大樹の葉達は、風になびくように流れ揺られている。その様は、五月に行われる鯉のぼりのように空を気持ちよさそうに優雅に泳ぐ。流れた緑葉は木枝から離れ、桜のように散る。多くの緑葉が地面へと降り注がれる。そして、落ちた緑葉は動かない。

 子供達も動かない。しかし、それぞれ繋いだ手から光が大樹に向かって伸びる。光は大樹が吸収し、四か所に設置された石碑に何かしらのパワーを運んでいた。

 瞳をゆっくりと同時に開けた子供達は大樹の方へと一斉に振り向く。その様を目にした彼らは両手を上げて喜んでいた。


『やった! 大樹様が復活した!』

『って事はお兄ちゃんと一緒に冒険できるのかな!』


 嬉しそうに話す男の子と女の子。何かお願い事でもしたのか、それともこの樹に何かあったのだろうか。

 その隣ではまた別の男の子と女の子。


『お、俺もお姉ちゃんと一緒に冒険したい!」

『できるといいね!』


 この二人も嬉しそうだった。

 一緒に冒険することが夢なのか。不思議な子供達だと心の中で思う。しかし、どこかで見たことある光景だなと感じていた。

 石碑から、それぞれ竜型の光が顕現され、子供達は光を見つめる。


『我を呼んだのはお主等か?』

 

 色とりどりの竜は声を発する。突然こんなものが出てくれば子供は驚くだろう。その証拠にお姉ちゃんと呼んでいた男の子は縮こまってしまった。反対に、お兄ちゃんと呼んでいた女の子は強気な事に前に誰よりも前に出向いた。

 そして、竜に向かって一喝した。


『そうだ! あたし達が呼んだんだ! 文句あるか!』


 その勢いに動じる事なく、その場に浮遊する赤色の竜は漂い続けた。ただ、じっと強気な彼女を見つめた。そして、不敵に笑った。

 そんな竜を視界に入れた女の子は、半歩後退しそうになるが、竜を睨み付けて前屈みになって竜の威厳に対抗しているようだった。その姿は高校二年生の俺から見ても、中々勇敢だった。彼女はきっとこの小さな男の子を守りたいのだろう。それで自ら強くなろうとしてる。

 なぜだか、俺にはそれがわかった。


『面白いな……いいだろう。また十年後。ここに来い。そして、その時に我の下した試練を超えれば、貴様の願いをまず叶えてやろう』

『言ったな! 絶対約束だぞッ!』


 最後まで強気な女の子だった。

 竜はそれだけを告げると消えた。石碑の光も大樹の光もすべてが空気へと融解され、吹かれていた風も徐々に力を弱めていった。

 子供達は緊張が解けたかのか、皆がしゃがみこんだ。

 

『ありがとう、理沙ちゃん』

『ううん、大丈夫だよ。晴ちゃん』

『ちゃ、ちゃん付けで呼ばないでよ』

『お兄ちゃんは大丈夫?』

『理沙はちょっと無理し過ぎだね。弱虫のくせに』

『そうだよ。ちょっとは私達に任せてもいいんじゃない?』

『月島さんは黙ってて! お兄ちゃんに良いとこ見せるのは全部あたしなの!』


 それから、彼ら四人は喧嘩を始めた。

 俺が見たのは、幼い頃に願い事が叶うという樹に、皆でお参りをしに行った時の事だった。この後、晴と俺が盛大な殴り合いの喧嘩に発展するのだが、それを止めようとした波留と理沙が今度は喧嘩になるという大惨事に発展したのだ。

 それで四色の竜が出てきたという事実が掻き消されたのだろう。


 視界が暗い。もう、寝てからどれくらい経っただろう。この世界の時間の事を聞くのを忘れたから何とも言えないが、寝たのは日が落ちてから一時間後くらいだった筈。それからお風呂を借りてすぐに寝た。

 疲れの取れ具合から、もう八時間は寝ててもおかしくない筈だ。だけど、目の前は暗い。そして、今気づいたけど体が重い。元気な筈なのに重い。やっぱりまだ寝たりないのかな。

 俺は思いっきり寝返りをした。すると、ずどんずどんずどんと思い物が三つ落ちる音がした。その瞬間視界は明るくなり、落ちた何かを確認しようとしてベットの下へと視線を送ると、そこにはパジャマ姿のまぅまぅと真央に蘭が転がっていた。

 まぅまぅは頭から落ちたのか、床に打った所を涙目で摩っている。真央は尻から落ちたのか、お尻を撫でている。蘭は腰みたいで腰を抑えている。そして、全員涙目だ。

 俺は半分ほど開いた瞳で、全員を睨み付ける。


「……お前らはお前らのベットで寝ろよ」

「まぅまぅは理玖様と一緒じゃなきゃ眠れない病なのです!」


 反撃してきたのはまぅまぅ。昨日、一番最初に出会って色々教えてくれた子だ。当初はペンギンの着ぐるみを愛用していたのかと思われたのだが、今は生意気にも俺の学生服を改良して着用している。今は寝間着であるパジャマだが。

 桜色の長い髪は寝癖がついて、先端がクネクネしている。

 まぅまぅは女の子座りをして、両手を膝の前に置いて俺を睨み返す。


「嘘だろうが」

「本当です! 理玖様がこれ以上浮気をしないか心配で心配で……」

「お前の彼氏か」

「彼氏……」

 

 頬を真っ赤に染め上げるまぅまぅ。そのまま両頬を抑えて顔を左右に振って頭から湯気を蒸発させていた。面白いのでこれ以上は何も言わないでおくことにした。

 すると、今度は真央に引っ張られた。


「にいーちゃん」

「なんだ」

「痛かったー」

「ああ、悪かったな」

「だから、ちゅーして?」

「断る」

「じゃあ、えっちな事でもいいよ?」

「断るっつってんだろうが! つか話が飛躍してんじゃねええええ!」


 真央は元魔王。本名はない。その為、昨日俺と真央とブランドォーで名前を考えたのだ。その名前に満足してるらしいからいい。

 まぅまぅと同じく小学六年生くらいにしか見えない容姿で、雪像のような美貌を放つ子供だ。しかし、能力はとんでもなく高く、炎を扱って爆発させることができる。弱点はニート男。いや、全般的に男だと思う。なぜ、俺が苦手じゃないのかは、きっと俺の中の属性のせいだろう。

 空のような綺麗なスカイブルーの長い髪の毛は、まぅまぅと違って、寝癖はつかずにストレートなままだ。それをブワブワと浮かしながら、俺に抱き付いてくる。


「お兄様。その子は誰なのですか」

「あ、ああ。真央は蘭に紹介してなかったな」

「にいーちゃん! 我もこのビッチを紹介してもらってないぞ! 紹介してもらっても脳内容量に無駄を作ることになるので、記憶しないと思うが」

「なんだと!? 私だってお前のようなチビぺちゃに用はない」

「チビぺちゃだと!? 言ったな! このデカいだけが取り柄のババぁが!」


 二人は喧嘩を始めた。その二人のやり取りを、まるでテニスの試合でも見るかのように視線を交互に移動させ続けるまぅまぅ。あたふたとしている姿が可愛いものだ。普通に人間としてだよ?

 そんな中、俺らの部屋の扉が豪快に開かれる。そこには金髪アフロのブランドォーが裸エプロンという地獄絵図を朝っぱらから、俺らに公開してきた。

 ご機嫌な裸金髪アフロブランドォーを見た俺らは、全員口を開けて固まった。ここまでエプロンが似合わない人間がいるのだろうか……と。

 あというなれば、お前は男じゃないの!? 妹属性持ってるってあながち嘘じゃないのだろうか。よく分からない。


「あら、どうしたの? そんなに珍しいものを見るかのような顔して……」

「そ、そりゃあ、その格好は公開処刑ものとしか思えなくてな……」

「ま、まぅまぅもちょっと怖いというか……」

「わ、我も見たことにしなかったというか……」

「お兄様……私はどうすればいいですか?」


 そういって妹達は俺の背後に隠れる。多分、怖いのだろう。裸エプロンのブランドォーが。そりゃあ、あれだけ似合わないかつ、ムキムキなエプロンなんてこの世に存在することがないだろう。

 皆が困惑する中、俺だけが先陣を切る。


「ブランドォー……悪いが、その格好はやめてくれないか」

「あらやだ、普通に朝ご飯作ってあげたから起こしに来ただけじゃないの!」

「いや、それ自体はありがたいんだが、どうも皆その奇抜な格好に怯えてるようなんだ……」


 首だけをクルっと後へと向けると、涙目で皆が俺を正義でも見るかのように崇めてくる。まぅまぅが俺のズボンにしがみついて、真央が俺の腰。欄は何故か腕を掴んでいる。皆にそれぞれ引っ張られてる形になってるからか、後に倒れそうになる。

 だが、そんなの三人からしたらお構いなしのようだ。皆力強く引っ張っている。

 そんな中、取り残された裸マッチョエプロンのブランドォーは溜息を吐いて、俺を半目で睨む。


「……怯えてないじゃない」

「いや……怯えてたのは本当なんだけど、引っ張り始めたら、楽しくなったんだろうな。ぐいぐい引っ張る事に夢中になったみたいだ」

「そ、じゃあ、朝ご飯は用意してあるから、台所まで来てね~」

 

 部屋から出ていったブランドォーは当然裸エプロンだったが為に、尻が丸見えなのだがかなり引き締まっていた。それを目にした三人の妹達はまた汚らわしい物を見たようで、必死に俺に慰めの言葉を求めていた。

 ――――朝ご飯作ってくれたのは嬉しいんだけど、食欲がなくなってないと良いな……。

 顔の左半分を引き攣らせて、部屋を出るブランドォーに笑って見せた。

 それから、嘔吐を訴える妹達に必死にブランドォーは悪気があってやったわけではないと伝え、数分後には食卓の場に着いていた。ブランドォーは既に裸エプロンではなく、サバイバル演習場のユニフォームなのか、ぴっちぴっちになったTシャツに着替えていた。白の汗を良く吸い取りそうな生地で水色の曲線がワンポイントで入っている。下は膝までの短パン。これもぴちぴちだ。上下どちらもマッチョな為、洋服達が悲鳴を上げてないか心配だ。究極の肉体美と表現した方がよろしいだろうか。

 そんな彼――いや彼女なのかは定かではないので、とりあえずブランドォーが作ってくれたのは……。


「はい、ササミと卵の白身だけを使った特製ブランドォー筋肉モリモリミキサージュースよ!」

「これを朝食と呼ぶバカはお前しかいないぞ」

「え? 毎朝ちゃんとあたしは飲んでるわよ? じゃなきゃ筋肉がつく気がしなくてね」

「じゃあ、悪いけど、俺らの分も飲んでくれないか?」

「ええ、いいわよ」

 

 白身は茹でであるのだろうか、白く染まっており、卵の白身は透明なままミキサーにかけられる。とてもじゃないけど、飲めそうにない。いや、絶対に無理。

 そのとき、冷蔵庫に何故か卵とササミが多かった事を思い出した。もしかしたら、ブランドォーが毎朝これを飲む為に沢山買い込んでるのかもしれない。でも、見るからにマズそうだ。

 まぅまぅや真央、欄達も頬を引き攣らせて、ブランドォー特製ドリンクを眺めている。まぅまぅは額から冷や汗が浮かび出ており、真央に至っては手で鼻と口を抑えている。欄は顔を全て手で覆っていた。

 そして、ブランドォーは俺達の為に作ってくれた(そこは申し訳ないのだが)特製ドリンクをビールを飲むかのようなスピードで口に放り込む。

 何せ四人分あるのだ。一人で片付けるのは無理だろう。


「だ、大丈夫かブランドォー……なんなら、俺はやっぱり……」

「大丈夫よ、これ本当に美味しいんだから!」


 ブランドォーが全てのコップを空にした。

 それを黙って見続けていたのだが、最後のグラスを置いたとき、ブランドォーの顔はゲッソリとしていた。


「ご、ごちそうさ……うぉえっ」

 

 吐きそうなブランドォーに皆が一喝入れた。


「「「「美味しいんじゃないのかよ!?」」」」


 それからブランドォーはサバイバル演習場開店までトイレと仲良くお友達だった。

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