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妹達と歩く異世界-シスター・テイム・ワールド-  作者: 大岸 みのる
第一章:陽花 理玖は、それでも妹を見捨てられない
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episode『004』 異世界転生Ⅳ

 サバイバル演習場にて。

 アフロ頭のブランドォーが額をポリポリとかきながら、困った顔で一人の少女を眺めている。少女はかつて世界を破滅へと導こうとした元魔王。だが、今はサバイバル演習場の筋力アップ機器をいたずらに壊す幼女だ。


「あはははっ! こんな物では我の力を受け止められないぞ!」


 サンドバックが破裂する音。遂にブランドォーは盛大な溜息を吐いた。そして、俺に目線を移す。


「……お引き取り願いたいんだけど」

「断る。まだ報酬を貰ってない」

「いやいやボウヤんちの子が、報酬掻っ攫うくらいは受け取ってるわよ」


 確かに機器の代金と一回の個人利用料金だと果てし無く釣り合わない。


「それよりも、お前にこの結果が見えてたのか?」

「ええ、もちろんよ。ボウヤなら魔王くらいは落とせると思ったからね」

「根拠を知りたいな」

「根拠はないけど、女の勘ってヤツよ」

「はぁ……」


 ブランドォーとかいう名前のくせに女だと言い張るつもりのようだ。そもそも女がこんなに俺よりもマッチョでよろしいのだろうか。

 魔王を追いかけるまぅまぅが転んだ。顔を思いっきり床にぶつけて、泣くのを我慢してる。そろそろ、元魔王とまぅまぅの救出を考えなきゃならなそうだ。


「おい、お前ら。そろそろ行くぞ」

「はい! 理玖様!」

「あーいにいーちゃん!」


 二人がトテトテと歩み寄ってくる。

 筋力アップを目的に頑張ってたお客達は、ようやく魔王が遊ぶのをやめたことによる喜びに包まれている。

 受付まで戻ってきた魔王とまぅまぅは、ブランドォーを見上げる。


「そういえば、我は初見で思ったのだが、貴様にいーちゃんに惚れているな?」

「あらやだ。気付かれちゃった? 鋭いのね」

「まぁな。だが、にいーちゃんに指一本触れてみろ。全ての手足を斬ってやる」


 まさかの魔王はヤンデレ妹らしい。纏う雰囲気とかは違うけど、魔王はどこか理沙に似てる。ヤンデレは世界共通という事か。

 だが、ブランドォーは大人の余裕があるのか、軽く魔王をあしらった。


「それはまたの機会にしてもらうわ。ところで、いつまで裸でいるつもりなの?」

「実は俺も目のやり場に困っていてな。何しろ金がないから洋服も買えないってんで俺のブレザーで代替えしてるんだが……」


 魔王に関して困ったこと。先ほど倒したニート男の服を借りるという手もあったのだが、どうしても嫌らしく、ついでに言えば俺の服がいいとかで結局ブレザーだけ貸したのだ。


「それなら、ちょうど余ってる服があるし、それでも着てみる?」

「ああ、頼む」

「了解」


 そう言ってブランドォーは事務所に消える。

 数分後。


「なんで俺が着替えなきゃいけないんだ」

「だって魔王ちゃんがボウヤの服がいいって聞かないもんだから……」

「俺が着替えさせられるとは思わなかった……とりあえず制服返せ」

「無理よ」

「なんでだよ!」

「もう魔王ちゃんサイズに仕立てちゃったし」

「ま、マジかよ……」


 ブランドォーの手によって俺の学生服は消失してしまった。ついでに言うなら、俺の服は全身黒タイツに黒コート。どこの変態だと叫びたい。

 一応サバイバル演習場では洋服も売ってるらしく、そこの試着室で着替えた魔王がカーテンを開ける。

 俺のブレザーが縮み、完全に波留や理沙が日頃着用している制服のネクタイバージョンに変わっていた。

 学校指定のズボンとスカートは燕尾色のチェックであるので、本物と変わらない。


「どうだ? にいーちゃん、惚れ直した?」

「惚れてないし、お前のお兄ちゃんになった覚えはない」

「なるほど。今のがツンデレか。にいーちゃんも分かりやすいな!」

「勝手にツンデレだって決めつけるな」


 魔王は服が嬉しいのか、くるくる回って鏡でおどけてみせる。そして、匂いを嗅んで嬉しそうに頬を垂らす。

 ただのバカだ。

 そんなバカを眺めていた俺の背中が突つかれる。後ろへと振り向くと、頬を膨らまして涙目のまぅまぅが睨んでいた。


「どうしたトイレか?」

「違います! なんでまぅまぅはお兄ちゃんって呼びたいのに、ダメなんですか! それに服だって……」


 やたら文句を言うまぅまぅ。きっと魔王が服を着てるのを見て羨ましいんだろう。その気持ちはよくわかる。理沙にばかり新しい物を買う父と母には文句をよく言ったものだ。

 魔王にだってお兄ちゃん呼ばわりするのを許可したわけじゃないけど、怒ると殺されそうで怖いので何も言わないだけだ。


「我慢してくれ……お姉ちゃんだろ?」


 何度も言われ続けた言葉。聞かされる度にイライラしたものだが、まさか自分が誰かに言う日が来るとは思わなかった。

 その言葉を受けたまぅまぅは瞳を輝かす。


「お、お姉ちゃん!」

「そうだ。今日からまぅまぅは魔王のお姉ちゃんなんだ。しっかりと妹の面倒を見ろよ?」

「は、はいっ!」


 喜んで魔王に近寄るまぅまぅ。服の皺などを伸ばしていた。だが、徐々に匂いを嗅ぐことに執着してきて、最後は魔王と一緒に頬と涎を垂らす。


「ブランドォー。まだ俺の学系服の布は余ってるか?」

「あるわよ?」

「まぅまぅの分も作ってやってくれ」

「いいわよ。料金はあたしとの契約でどう?」

「断る」

「あらやだ。冗談じゃないの!」

「冗談に聞こえないんだよ」


 それからブランドォーに頼み、残りの布を使ってまぅまぅにも同じものを作って貰った。それを惚けているまぅまぅに手渡すと、すぐに着替えた。

 なんで、俺だけ黒タイツなんだろう……っていう悩みは置いておこう。一応まぅまぅも頑張ったから、これくらいのご褒美は良いだろう。


「そういえば、ボウヤ達はどこかに泊まるの?」

「あ、そういえば、宿とかってあるのか?」

「このあたりだと……」


 多分ラブホテルの事だろう。

 俺は波留以外と入る気はない。


「いや、断る」

「そう? 残念。安くて可愛いところがあるのに」

「それが余計なんだよ」

「はいはい。じゃあ、今夜はここのに泊まったら? それが一番だと思うわよ」

「あーそれは確かに名案かもしれないな……」

「じゃあボウヤはあたしと同じ布団に――――」

「断る」

「最後まで言ってないわよ! つれないわね……」


 肩を落とすブランドォー。きっと俺と一緒に寝るとか訳のわからない事を言うに決まっている。もし、ブランドォーと寝るくらいなら野宿のがマシだ。


「じゃあ二階にある部屋を使って」

「ああ、すまない」


 それからまぅまぅと魔王は色々と話し込んでいたようなので、俺は自分達が今夜眠る部屋を拝見した。

 室内は客人用なのか、ベットが二つに証明器具が一つ。窓からは夕闇にさしかかった空が見える。

 俺は窓を開けて空を眺める。

 この世界はあともう少しで終わる。だが、魔王が俺たちの仲間になったわけだから、もしかしたら、まだ生き延びる可能性があるかもしれない。

 今頃、波留や晴。そしてバカ妹である理沙は何をしてるんだろうか。そんな事を考えてると、お腹が鳴る。

 そういえば、今日は一日何も食べていなかった。まぅまぅや魔王も腹を空かしているだろうと思い、キッチンを探す。

 冷蔵庫と思われる機器を開くと、わりかしまともな食材管理がされていた。何故かササミと卵が多いのかは疑問だが。


「何してるの?」

「あ、ブランドォー。ちょっと腹が空いたから、簡単な物でもと思って。キッチン借りてもいいか?」

「全然構わないけど、料理できるの?」

「まぁちょっとだけな」


 将来自分の店を持つことが夢である俺。料理できるの? と聞かれて「少し」と答えておくのは、まずかったときの保険だ。

 米もあるし、なんならケチャップまである。この世界が微妙に俺らの住んでいた世界に文化にそっくり似てて助かった。

 フライパンを出し、バターと油を少量ずつ温める。そこにかき混ぜておいた卵を流し込む。

 その間にボウルにケチャップと米を混ぜ合わせる。そのボウルを別のフライパンに乗せて……。


 数分後。

 黄色くフワフワトロトロしたオムライスが出来上がる。それは一つだけ。後は卵を丸めてケチャップライスの上に乗っけたままだ。


「理玖様? これはなんですか?」

「我も見た事がないな……」

「ボウヤ……これって……」


 俺は他三つ並べられたオムライスの上に乗る卵をナイフで一閃する。全ての卵にナイフを入れていくと、ケチャップライスに卵が垂れる。効果音にしたらトロ~だろう。

 その瞬間を目に収めた三人は歓声を上げる。


「こ、これを食べていいんですか!?」

「にいーちゃんにいーちゃん! 匂いと見た目だけでお腹が鳴ったぞ!」

「あ、あたしの分もあるのよね!?」


 俺は全員に向けて、首を縦に振る。


「ああ。食え食え。そんでもって感想くれるとありがたい」

「「「いただきます!」」」


 三人は一心不乱にオムライスを口に頬張る。この中で一番勢いのある魔王は喉を詰まらせたようだ。


「む、むぐー!」

「ほらほら、あんまり急いで食べるから……」


 魔王の背中を軽く叩いて、水を飲ませる。そして、全てを呑み込んだ魔王が目を輝かせて叫んだ。


「おかわりっ!」

「ねーっつの!」

「じゃあにいーちゃんのいただきっ!」

「あ、こらっ!」


 俺の分であるオムライスが奪われる。すると、すぐに魔王は食べ終える。見た目小学生の魔王は育ち盛りらしい。すると、まぅまぅも食べ終えたらしく、名残おしそうに皿を眺めていた。


「あーわかったから、まぅまぅ。ちょっと待ってろ」

「い、いや、大丈夫です! まぅまぅはお腹いっぱいです!」

「そうか。まずかったんだな」

「い、いえ! とても美味しかったです!もう一回食べたいくらい……」

「観念したな。俺の分も食われちまったし、作るよ」

「あ、ありがとうございます……」


 まぅまぅは顔を赤くさせながら俯いた。きっと魔王のように沢山食べるのが恥ずかしいのだろう。こういうときは、お兄ちゃんから……っていかんいかん。俺は妹がトラウマなんだった。

 再びフライパンに火をつける。

 作業をしてる間に気になった事を、魔王に聞くことにした。


「なぁ、お前って名前あるのか?」

「はふへ(名前)?」

「ああ、呑み込んでからでいいぞ」


 魔王はオムライスを呑み込み、瞳を閉じて考え込んだ。


「我に名前なんてなかったと思うぞ?」

「……どういうことだ?」

「名前がどうこうの以前に、生まれたときから我は全ての人間に嫌われていた。だから、魔王になったのだ」

「そう……なのか」


 なんだか悲しい過去を持っているようだ。てっきり魔王って名前だから、生まれたときから世界を滅ぼす事になったのかと思っていた。

 だが、どんな生ある者にも事情があるというわけか。

 そんな暗いムードになり、まぅまぅが机を叩いた。


「な、なら! まぅまぅ達が決めればいいだけです!」

「そうね、オチビさんの言う通り。魔王ちゃんの名前をあたし達が決めればいいだけよね」


 まぅまぅとブランドォーが視線を合わせて微笑んだ。


「そうだな。魔王って名前じゃ可哀想だから、真央(まお)なんてどうだ?」

「まお……?」

「そうだ。俺がいた世界では真央って名前の人はよくいたぞ」

「おー! 真央! じゃあ今日からは真央になる!」

「ああ、そうしろ」


 俺は喜ぶ魔王こと真央の頭を撫でた。

 その間、ブランドォーとまぅまぅが渋い顔をしてたのは、きっと俺のネーミングセンスを疑ってるのだろう。


「まぅねえーちゃん。心配してくれて、ありがとう」


 真央が笑顔でまぅまぅに頭を下げた。お礼を言われたまぅまぅは恥ずかしそうだった。

 そんな姉妹を横目に、ブランドォーが浮かない顔で俺を見つめた。


「どうした?」

「いや、ボウヤ異世界人だったのね……」

「あ、ああ。そういえば言ってなかったな」

「ボウヤは信頼できるから良いけど、実はね、お兄ちゃん魔王も異世界人なの……」

「…………」


 俺は固まった。

 この世界を滅ぼそうとしてるのが異世界人。つまりは、俺と同じ世界に住んでいる人間と戦わなければいけなかった。


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