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妹達と歩く異世界-シスター・テイム・ワールド-  作者: 大岸 みのる
第一章:陽花 理玖は、それでも妹を見捨てられない
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episode『003』 異世界転生Ⅲ

 子供の頃。保存大樹とかの下で遊んだりする事が結構あったと思う。大きな木の下で約束事なんかをしたり。それこそ、俺や波留。理沙や晴なんかはよく遊んだものだ。

 そんな懐かしい記憶を蘇らせる程の巨大さを誇る大樹。緑は一切なく、葉はすべてが紫。木肌も茶色などではなく灰色だ。終末を予言する木っていう名前のほうが大変似合っていると思う。

 

「到着したはいいけど、暗いな」

「そうですね。なんだか、すぐ逸れちゃいそうです」

「手は握らねーぞ」

「い、意地悪です……」

「それはそうと、ここで寝てる子って誰なんだ?」

「ここに眠るのは、お兄ちゃん魔王の前の魔王です」

「っていう事は、ほぼ封印されてるようなもんじゃねーか。それを起こして文句言われても知らないぞ……」


 つまり、この大樹にはかつての魔王が眠ってると。そういう事になるね。普通に起こせるのか疑問でもある。もしかしたら、殺されるかもしれない。

 いや、だが、魔王を起こして、今のお兄ちゃん魔王を戦わせたら世界の猶予は増える。そういう考えなのかもしれない。それならば起こしたほうがいいと国王とやらは思ったのか。


「さて、入るか」

「……はい」

 

 なんだかやる気がないまぅまぅ。魔王を起こすクエストなんて普通は存在しないから、しょうがないとも言えるな。

 大樹の中は案外広く、なんかの儀式をする間みたいに広い。それこそ、東京ドーム分くらいはあっても変じゃない。

 薄ら寒い空気に鳥肌を立たすまぅまぅ。


『我に何の用だ』

 

 突然頭の中に声が流れた。どこから声がしたんだと探していると、真正面に、氷漬けにされた少女が眠っていた。

 背丈はまぅまぅと変わらない。だが、裸だった。

 その少女は瞳を閉じたまま体育座りをして固まる。動かないと分かっていても動きそうで怖かった。

 俺は声を上げた。


「お前が元魔王か!」

『元……? 面白いな。我の次なる魔王が現れたという事か。ふふ、血が踊ってきたぞ……』


 なんだか、話の読みがうまいなぁ。魔王って頭良くなきゃなれないのかもしれない。少しづつ緊張が解れ、肩から重みが下りていく。


「俺はあんたを目覚めさせてくれと頼まれたんだ!」

『ほぅ……瀕死に追い込まれ封印されたと思ったら、今度は解放して今の魔王を倒せ……か。随分貴様ら人間は調子こいてるようだな……』

「……」

 

 人の考えでも読み取れるのだろうか。それくらい頭がいいぞ。もしかしたら、恨みとかでアドレナリンが頭脳にいってるのかもしれない。

 とりあえず、こいつを解放するのはやめたほうがいいかもしれない。

 俺はまぅまぅにヒソヒソと話しかける。


「まぅまぅ。ここは逃げたほうがよさそうだな……」

「……もう逃げる事はできませんよ」

「え?」

 

 まぅまぅは溜息を吐きながら、俺ではなく氷漬けの少女を見つめている。

 そして、次の瞬間。

 氷が割られ、周囲にガラスのように破片が散らばった。

 裸の少女は背伸びをして、欠伸をしながら、俺の事を笑いながら睨んだ。


「我を目覚めさせた者よ。解放条件はなんだか知らなかったのか?」

「知らない」

「それは我の言葉を返す事だ!」

 

 叫びながら、こちらに全力で襲い掛かってくる全裸魔王。右腕に光がともり、そのまま指先を俺の心臓めがけて突き刺そうとしてくる。

 慌てて俺は回避しようとするが、間に合わない。

 そこにまぅまぅが割って入り、俺の心臓をガッと掴み、聖剣・リクカリバーを抜き出す。そのまま魔王の指先とまぅまぅの聖剣は鍔迫り合いにになる。

 

「くっ! 理玖様には指一本触れさせません!」

「クククッ! 面白いぞ! お前!」


 全裸魔王は右腕の光を更に強めると、まぅまぅに押し勝つ。

 だが空中で受け身をとったまぅまぅは無事に着地する。

 

「理玖様! 時間を稼ぎます! 逃げてくださいッ!」

「な!?」

「まぅまぅじゃ時間稼ぎくらいにしかなりませんから!」

「で、でも、それじ――――」

「いいから早く逃げてくださいッ!」


 まぅまぅが怒気にあてられて、激しく叫ぶ。

 魔王に再び走りぬける。

 そのまま聖剣を上段に振りかぶり、降ろすも、魔王の血肉には届かない。聖剣を容易く右腕で止めた魔王は左手にバレーボールほどの大きさの炎を具現化させる。


「聖剣の扱い方を知らないようだな! 消えろ!」

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」


 爆発音にも似た炎の破裂。全裸魔王の姿は見えるのに、まぅまぅは爆風の中だ。

 俺は逃げられず、闘う事もできず、ただ跪くことしかできなかった。

 炎は煙と変わり、中から黒焦げになったまぅまぅが倒れる。どうやら、完全に吹き飛んではなかったらしい。

 

「さて、次はお前か。お前はどっちがいい? 腕を斬られて生きるのと、足を斬られて生きるか。選べ」

「……」


 まずい殺される。完全に腕か足は持っていかれる。ここで逃げても逃げ切れる自信はない。それにこの全裸魔王強すぎる。

 俺は生唾を飲み込み、腕か足を真剣に悩んだ結果。答えた。


「足か腕。どっちかを失うなら、両方失ったほうがマシだぁあああああああ!」

「よかろう。貴様の思うが儘に……」


 そこで魔王は手を止めた。腕の光は消えた。

 魔王は俺を見てない。というか、入口を見てる。

 俺は彼女の視線を追うと、その先にはニート男が大量に入って来ていた。相変わらず、フケをまき散らして爆発させていく。

 もう一度全裸魔王に視線を移すと、完全に顔が青ざめていた。


「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺の背後に隠れる魔王。先ほどまでの威勢はなく、完全に縮こまっている。ガクガクと震える肩。流れる涙。色っぽい息遣い。急にただのか弱い年頃の乙女になった。

 彼女の叫びが響いた瞬間。ニート男のターゲットは全裸魔王に集中される。彼らは腕を垂らし、千鳥足で全裸魔王に歩み寄る。


「い、いやぁあああ……た、助けて……」


 俺の学生服にしがみつく全裸魔王。だが、まぅまぅを攻撃した奴を助ける義理なんてない。

 俺は全裸魔王の手を振り払った。


「自分で何とかしろ」

「ひぇ!? げ、外道だ! 貴様は鬼畜外道だ!」


 涙と鼻水を同時に流しながら、大泣きする魔王。そこにはもうニート男が迫っている。

 俺はウィンクしながら、魔王に呟いた。


「あでゅー!」

「いやああああああああああああああああああああああ!」


 魔王は数十体はいるであろうニート男の舌でペロペロされている。全裸だからか、あらゆる部分がペロペロされてて、気持ち悪い音がさっきから鳴り響く。吐き気を感じながらも、俺はまぅまぅに近づいた。

 倒れたまぅまぅの着ぐるみは、ちらほらと燃えた個所がある。

 首を支えながら、まぅまぅを起こす。


「大丈夫か?」

「あ……理玖様……すいません……負けてしまいました……」

「別にいいさ。それよりも、まぅまぅは俺の手足なんだよな? じゃあ、俺はその手足がなければ逃げられないよな?」

「え……?」


 突然変な事を言ってるのはわかってる。だけど、たとえトラウマでも、死んでほしくはない。まぅまぅは一応契約した妹なのだから。

 

「俺はお前なしじゃ逃げられない。だから、二度と逃げろとか言うなよ?」

「は、はいっ!」


 なぜか元気になったまぅまぅ。

 そのまま自分で体を起こしたまぅまぅはニート男の群れを見て、同じように顔を青ざめさせた。


「そ、そういえば、あれの特性を聞いてなかったな」

「は、はい……あ、あれは女性に群がる最低な魔物なんです。魔王お兄ちゃんが生産したらしいのですが、あまりにも気持ち悪くて……。ちなみに極端に魅力が高かったり、お兄ちゃん属性が高いと、目標を変えるので気を付けてください」

「え?」


 俺が首を傾げた途端。一部のニート男の目標が俺に切り替わる。


「と、とりあえず、俺に聖剣を貸してくれ!」

「え!? り、理玖様!?」

「お前に剣を降らせるわけにはいかない! ちょっと待ってろ!」


 リクカリバーをまぅまぅから受け取り、フケ爆発をさせながら勢いよく殴りにかかるニート男。その数およそ六体。

 剣なんて晴とチャンバラして以来降ってないけど、まぅまぅが怪我をしてるときくらいは、俺も闘わなければならない。

 聖剣・リクカリバーを両手で構えると、ずっしりとした重みがあった。


「行くぞ! この豚男共ぉおおおおおおおおおお!」


 俺は走り、ニート男共に剣をふるった。

 そのとき、一撃が七色に輝き、あたり一面を虹色の光に包んだ。


「え? なにこれ」

「理玖様……もう遅いんですけど、理玖様が聖剣で攻撃した場合――――テイム率が百パーセントになります」

「テイム……?」

「つまり、モンスターと契約する事です」

 

 七色の光は消え、ニート男共が全員涎を垂らしながら、俺に近づいてくる。


「お兄ちゃん~」

「お兄ちゃん~」

「脛かじらせて~」

「ご飯まだ~」

「今月のおこづかい~」


 俺に近寄るニート男。なるほど、男でもテイムできるのね。いらないよ、そんな機能。

 笑顔でまぅまぅを見つめる。


「契約解除してくれ」

「はい!」


 まぅまぅはB・Iに手を掲げると、ニート男たちは全員消滅した。

 あう~とか言ってたけど、来世では働くんだなと思った。そして、最後に一人だけ、全裸魔王が残った。

 やはり、彼女はちょっと特殊だからか。簡単にはテイムなんてされないだろうし、またも闘う事になるだろう。

 彼女は起き上がり、俺を睨み付ける。


「…………」

「……コイ」


 コイと一言だけ呟いた全裸魔王。

 この空間は静寂に包まれた。

 そして、ひたひたと裸足でこの広間を歩く音だけが響く。

 俺とまぅまぅは生唾を飲み込み、ただ全裸魔王の行動を警戒する。

 そして、俺とまぅまぅの前まで来て、立ち止まる。何かするのかと思えば、まぅまぅの頬をいきなり叩いた。


「きゃあっ!」

「まぅまぅ!」

 

 倒れるまぅまぅ。すぐに助けようとした瞬間。

 唇をふさがれた。

 それは全裸魔王の唇。肌は白く、薄水色の長い髪が揺れる。

 まぅまぅが驚いた顔で、俺と全裸魔王を見つめる。

 魔王は俺から顔を離し、笑顔で告げる。


「これが恋ってものなのだな! おにーちゃんっ!」


 本日。三人目の妹ができました。

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