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放課後2

 リヒトとしっかりと手を繋ぎ、美香子は廊下を歩く。学校内をリヒトにうろちょろされたらまた怒られてしまう。

 保健室に連れて来られた時は気分が落ち込んでいて周りを見る余裕がなかったせいか、リヒトはキョロキョロと辺りを見回し、興味津々だ。たまに手を引っ張られリヒトが勝手に走り出そうとするので、美香子は絶対に離すものかとその度に力を入れ直した。

 なんとかリヒトに逃げられずに、美香子は下駄箱までたどり着く。下駄箱から自分の靴とリヒトの靴を出していると、同じように帰ろうとしているクラスメイトや友達に、体育教師に怒られた件で同情されたり励まされたりした。


「休み時間になると美香子はすぐにリヒト君のところに行っていたからね。皆、心配してたんだよ」


 かよが上履きを靴に履き変えながら言った。


「そっか……」


 怒られたことで若干、気分が落ち込んでいた美香子は、皆が心配していたことを知って嬉しくなる。リヒトに疲れて落ちていた気持ちも浮上した。


「早く帰ろう」


 すでに上履きを片付けていたかよに、美香子は急かされた。リヒトもすでに自分の靴を履いていて、美香子待ちの状態になっていた。


「ああ、ちょっと待って」


 美香子は急いで履き変え、かよとリヒトと一緒に下駄箱を出る。自転車を取りに、自転車置き場へ向かった。


「自転車に乗せるから、リヒト大人しくしてよ」

「そういえば、じてんしゃってなんなのだ?」

「リヒト君って自転車を知らないの?」

「知らないのだ」


 リヒトは知らないものが多い。ゲームから出て来た時も、家の中にある色々なものを珍しそうに見ていた。


「美香子がほぼ毎日、乗っているのに見たことないの?」

「あー、あまりリヒトの前で乗ってないから。自転車取って来るから二人はここで待ってて」


 自転車置き場の手前で二人を待たせ、美香子は走って自転車を取りに行く。

 これ以上、リヒトがおかしなことを言い出す前に、家に着いてしまいたい。

 美香子は自転車を取り、二人のもとへすぐに戻る。リヒトの前で自転車のスタンドを立てた。


「これは学校に来る時に見かけたのだ! これが自転車と言うのか?」

「そう。ほら乗って」


 リヒトの脇の下に手を入れて、美香子はリヒトを持ち上げた。そのままリヒトを自転車の荷台に乗せる。


「おおーっ」


 初めての自転車に興奮するリヒト。宙に浮いた足をバタバタと動かし、自転車を揺らす。


「ちょっとリヒト! 危ない!」


 慌ててハンドルを掴んで、美香子は倒れそうな自転車を支えた。


「ふふっ。可愛いね」


 かよがリヒトの行動を見て笑う。

 確かに、目をキラキラさせてはしゃぐリヒトは可愛らしいが、それに振り回されていると思うと素直に可愛く思えない。

 それをかよに伝えると、なんだか育児疲れの母親みたいだと笑われた。

 実際の母親はもっと大変だと思うが、身体にも精神的にもくるこの疲れは、それに似ているかもしれない。


「しっかりサドル掴んでてよ」


 美香子はサドルを軽く叩き、リヒトに掴む場所を教える。自転車を押してゆっくり歩いていても、自転車の荷台から落ちたら危ない。


「分かったのだ」


 リヒトがサドルを掴んだのを確認して、美香子は自転車のスタンドを外し押し始めた。ふらつくのを支えるのは大変だが、リヒトの歩くスピードに合わせていると日が暮れてしまう。

 帰り道はリヒトのあれ何これ何攻撃で美香子はぐったりした。どれもこれもリヒトにとっては珍しいらしく、何でも知りたがった。かよも答えてくれたから多少は楽だったが、一人だったら根を上げていたかもしれない。


「着いた〜」


 家の前でリヒトを降ろし、美香子は自転車を片付ける。


「今開けるから待ってて」


 カバンから家の鍵を取り出し、扉を開けた。


「ただいまなのだ」

「おじゃまします」


 家の中に入り、玄関にカバンを置いて、美香子はキッチンに向かう。


「飲み物を持って行くから、かよは先に私の部屋に行ってて」

「了解。カバン持ってっておくね」

「ありがとう」


 キッチンに入り、美香子は冷蔵庫からジュースを取り出す。三人分のコップを出して注ぎ、盆に載せた。


「あとはお菓子」


 キッチンの戸棚を開けて出したクッキーを、皿にザラザラと入れて並べる。それも盆に載せると、盆の上はいっぱいになった。

 盆を持ち、美香子は二階の自分の部屋に行く。


「お待たせ〜」


 部屋に入るとかよがゲームを出して準備をしていた。それを興味深そうにリヒトが見ている。


「おっ、ありがとう。さあ、早くゲームやろう」


 部屋に入って美香子はテーブルの上に盆を置く。


「すぐ出すよ」


 いよいよかよに話す時がやってきた。

 信じてもらえるか。

 変なことを言い出したと信じてもらえないか。

 これはもはや賭けだった。

 ドキドキする胸を落ち着けながら、美香子はゲームを机の引き出しから取り出す。


「実はね、かよ」


 どうか変人だとは思われませんように。

 祈る気持ちを込めながら、美香子はかよの前にゲームの携帯機を出した。


「ゲームがおかしなことになってて」

「おかしなこと?」


 美香子はかよに携帯機ごと渡した。


「画面が写らなくて……」


 そのかわり画面からリヒトが出て来た。なかなかその言葉が出てこない。


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