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対話2

「あー、ええと、何。今度は召喚? そんなにあなた達の世界からこちらへ来ているわけ?」

「ん? いや、正確なところは分からない。私はかなり田舎に住んでいたのでな。街に遠出した者がそういう噂話を持ち帰ったのを聞いただけだ。次元を越えて呼び出され、そこは人族だらけの世界だったと。こちらに来るまではただの噂だと信じてはいなかったのだが、実際に飛ばされて来れば信じるしかあるまい」


 美香子の頭が痛くなりだした。そろそろ頭の容量の限界が近い。


「次元を越えるだの飛ばされただのよく分からないんだけど、どうやってこっちに来たの?」

「魔法陣だ」


 狼男が指先で宙に円を描く。


「こういった丸の中に様々な幾何学模様と呪文を描く。そして、そこに魔力を注ぎ、二つの世界を繋げる」


 美香子は狼男が描いて見せたそれに見覚えがあった。リヒトが出て来たあの丸い模様。それにも丸の中に図形と文字が描いてあった。


「私は偶然その魔法陣を踏んでしまい、こちらに飛ばされた。何故か森の中に魔法陣が繋いだまま放置されていて、何かの転送用魔法陣だと気付いた時には遅く、飛ばされた後だった」


 その時のことを思い出したのか、狼男は悔しそうに顔を歪める。


「それからは逃げられ追われ、飢えかけたところで同じ世界の力の臭いを感じ取り、その臭いを追った。そのうち追いかける力もなくなり、隠れているところにお前達が来た。もし、あのまま会えていなかったらと思うと……。本当にありがとう」


 狼男はまた頭を下げた。美香子は慌てて狼男の頭を上げさせる。


「それはもういいって。あなたのおかげでリヒトが何なのかもぼんやりと分かったし。こっちも助かったから」


 まだまだ分からないところもあるが、とりあえずリヒトがこの世界の人間ではないことが分かった。それは、リヒトのこれからを考える上で大切な情報だ。その情報をリヒトから引き出そうとした場合、どれだけの時間がかかったか分からない。

 他にも色々と聞くことが出来そうで、美香子は内心ほっとしていた。


「そういえば、その子供以外に向こうの世界の者はいないのか?」

「魔法陣から出て来たのはリヒトだけだけど?」


 さすがに仲間が子供だけだと心細いのだろうかと美香子は首を傾げる。

 狼男は思案するように腕を組んだ。


「ふうむ。王に連なる種族の力の臭いを感じたので、誰か付き添いがいるものだと思っていたのだが……」


 狼男から思わぬ言葉が出て、美香子はぎょっとした。


「え?」

「位の高い者なら戻り方も知っているのではないかと思っていたのだが、子供だけだというのならば無理そうだな」


 狼男は美香子にとってさらに大事な発言をした。


「え! 戻ることが出来るの? いや、その前に王に連なるってどういう……? いやいや、先に戻れるかどうかが大事!」


 美香子は少々混乱気味だ。


「あなた達はあなた達の世界に戻ることが出来るの?」

「ああ、確信はないが出来ると思う。そうでなければ、向こうの世界でこちらの世界の噂が出るわけがない」


 それもそうかと美香子は納得する。リヒトが帰りたいそぶりも見せないので、出来ないものだと美香子は勝手に思い込んでいた。


「そっか……。じゃあ、リヒトも元いた世界に帰せるかもしれないんだ……」


 リヒトと共にいたのはたった二日間だけだが、リヒトの相手をするのは大変だった。ましてや、子供を育てるなど今の自分には無理だと、この二日間で美香子は思い知らされていた。帰すことが出来るという情報は、そんな美香子にとって最も嬉しい情報だった。

 だが、喜んでばかりもいられない。


「あとリヒトが王に連なる種族ってどういうこと?」

「そのままだ。私には魔力から種族を嗅ぎ分ける能力があるのだが、その子供からはある種族の臭いを感じる。それは、私の世界で魔の力の頂点にいる者の種族、現魔王の種族だ」

「それは、つまり……」

「その子供は時期魔王候補だ」


 リヒトが次期魔王。それは衝撃的な事実だった。


「何でそんな子供がこんなところに……」


 王候補の子供が別の世界に飛ばされる。それは、リヒト達の世界にとってかなりまずい事態ではないのだろうか?

 美香子がそんなことを考えていた時、玄関から物音が聞こえた。


「ただいま〜」


 母親が帰って来たのだ。

 これはまずい。

 美香子は慌てた。母親が帰って来る前に、美香子は狼男を隠そうと思っていた。驚きの連続で話が長引いてしまい、母親が帰って来る時間になっているのに、美香子は気が付かなかった。


「まずいまずいまずい! い、犬に戻って! 早く!」


 早くしないと母親がリビングに入って来る。狼男なんて見られたら、大騒ぎになるのは必須だ。

 美香子は狼男の両肩を掴み、ガクガクと揺さぶった。


「早く犬に! 犬に!」

「犬ではない。狼だ!」


 狼男が訂正を入れてくるが、美香子はそんなのにかまっている場合ではなかった。


「いいから戻って戻って!」


 リビングのドアノブが、ガチャリと音をたてて動いた。

 母親がもうそこまで来ている。

 美香子はとっさに狼男を背中に隠したが、狼男の方が大きいので全く隠れてはいない。

 ドアが開き、母親が入って来た。


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