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8話



 未曾有の大事件から数日、調査は依然継続されているものの火急の事態ではないと判断したカイルに付いて、俺はスタビノア家に帰ってきていた。

 もちろんあの飛○石もどきも一緒にだ。


 これにて今回の俺の役目は終了である。

 あとはカイルと父親のウラジミールが石の処遇を決めるだろうし、専門家が石の効力と山の浮遊現象との因果関係を解明してくれるたずだ。

 浮遊を目撃した領民へのアフターケアに関しては俺の出る幕はない。

 さすがに記憶の抹消や洗脳は、ねぇ?


 若干無責任な気はしなくもないが、とりあえずこれで俺はお役御免だ。

 未だに現地に残って仕事に追われている調査隊の皆様には謝るしかないな。


「今日も元気にマ○クが美味い!」


 そんな訳で完全フリーな時間を得た俺は、青空の下でハンバーガーを頬張りつつ目下魔法の練習中である。

 日本人の感覚からすると個人が所有する邸宅の敷地内とは思えない広大な庭の片隅で、思い付くまま、しかし可能な限り出力を押さえて魔法を試し撃ちしていた。


 敷地内で魔法使ってる姿を見られたらどうすんだって?

 その辺は抜かりない。


『インビジブル・エリア』


 それが今、俺がここら一帯に展開している魔法である。

 この魔法の効果範囲内に居る者の姿はエリア外から関知することができない仕様になっている。

 加えてエリア外の人間の意識からも外れるという効果も付けてみた。


 つまり『インビジブル・エリア』内の人間や出来事は、視認はおろか知覚すらできないようになっているのだ。

 内緒話にはもってこいだな。


 最初は透明人間にでもなろうかと思ったが、それじゃ俺の手から離れた魔法は周囲に駄々漏れだということに気付いた。


 山の浮遊に何もない場所から急に飛び出る多種多様な魔法。

 そんな超常現象に立て続けに見舞われてはスタビノア家に不安や心労で倒れる人が出るかもしれない、という俺なりの配慮の結果がこれである。


 そんな不可侵領域の中で百を越える炎の矢を生み出したり、二メートルはある氷柱を地面から生やして岩を貫いたり、風を圧縮したブーメランで木々をなぎ倒したり、雷のレーザー光線で地面を抉ったりして時を過ごす。

 お陰で緑豊かだったはずの景色は見るも無惨な光景に成り果てていた。

 さすがにやり過ぎた。


 最後の一切れを口に放り込み、咀嚼しながら新たな魔法を行使する。


『リカバリー』


 エリア内の破壊痕をきれいさっぱり修復する。

 荒れ果てていた景色が一瞬で元通りになった様を見て、魔法の便利さを再認識した。


 ちなみにハンバーガーや謎鉱物を生み出した魔法にも『マテリアライズ』という名前を付けた。

 どっかから取り寄せてるのか新たに生成されているのか、ハンバーガーはまだしもあの謎鉱物さえ生み出せたんだから答えは後者だろう。


『インビジブル・エリア』を解除して大きく背を伸ばし、屋敷に向かって歩きながらさっきまでの練習を思い返す。


 あれだ、神様が言ってた“人類史上最高の才能”ってのはマジかもしれん。

 そう考えてしまうほど頭の中で思い描いた通りの魔法が使えた。

 ……いや、正確に言うなら思い描いたイメージ以上のものが出来すぎた。


 炎の矢は無数というイメージで発動させた。

 精々十個程度だろうという軽い気持ちだったが、実際に現れたのはその十倍以上の炎の矢。

 あまりのことにビビって魔法は即中断した。


 ならば今度は数を抑えようとした氷柱は、数を減らした代わりに大きさと威力を増したとでも言わんばかりに岩を易々と貫通した。

 いくら氷柱がデカイからって強度的にそれはおかしくね?


 数と威力を揃って落としたはずの風のブーメランはそれでも予想以上の殺傷能力だったし、逆に思い切って一点集中をイメージした雷レーザーは自分でやって引いちゃうくらいの威力だった。

 どれもこれも対人では恐ろしくて使い物にはならない。


 だが対人以外、モンスターを相手にするならむしろこれくらいの威力がないと不安である。

 別に率先して一狩り行こうぜ!とモンスター達をSA・TSU・GA・Iするつもりはないが、自分のピンチを切り抜ける自衛手段くらいは多少過剰でも持っておかないとおちおち出歩けないしな。

 バリオスさんみたいに単騎でゴブリンの集団に挑まなければならない状況に陥らないとも限らない。


 そういった意味じゃもーちょっと魔力の出力を上げて色々試してみたいんだけど、そうなると『インビジブル・エリア』だけじゃカバーしきれないんだよなぁ。

 特に雷レーザー。

 さっきも危うくエリア外までぶっぱなすところだった。


 何か良い方法はないか頭を悩ませながら自分の部屋へ歩みを進めていると使用人の一人に呼び止められた。


「カイト様」


「はい、なんでしょう?」


 声がした方に目を向けると、そこにあったのはTHE・無表情。

 ロングスカートのメイド服に身を包み、鎖骨の辺りまで伸ばしたマリンブルーの髪をゆるく二つ結びにした可憐な乙女、メリッサちゃんである。


 年は俺の一つ下。

 なんでそんな年で使用人してるの?とか、その無表情でよく面接通ったねとか疑問はあるが、可愛いのでオールオッケー!


「旦那様がお呼びでございます。書斎までご案内致します」


「ああ、分かったよ」


 脊髄反射でそう返答したが、旦那様とな?

 そいつはつまり俺やカイルの父親であるウラジミール・スタビノアで相違ない。


 どうも以前の俺は既に見限られていたらしく、部屋に引き籠ってからは一度も口をきいていない。

 まあそれは昨日までの話だが。


 今回の一件でカイルが俺の活躍――というほどのもんじゃないが――を父親に報せようと、またもや報告会とかいうのに強制召集されたのは昨夜の事。

 ただまあ報告会のメインは事件の詳細と謎鉱物についてなので、俺の話なんてそれこそ刺身のつまみたいなもんだったが。


 父親は父親で出先から戻ってみればいつの間にか俺が部屋からひょっこり出てきてることにちょっくら驚いた様子で、そんな父親を見てカイルはしてやったり的な顔をしていた。

 まさかアイツら俺がいつまで引き籠ってるか賭けでもしてたんじゃねーのか?


「まさか、な」


 自分で考えといてなんだがカイルがそんなことするとは思えん。

 それにカイトの記憶によれば父親も実力主義の堅物みたいだし、んな不良親父の真似事はしないだろう。


「どうかなさいましたか?」


「なんでもないよ。ただ、このまま父さんを待ちぼうけさせたらどんな顔をするかと思ってね」


 俺の呟きを拾ったメリッサちゃんが何事かと尋ねてくるが、アホらしい考えを誤魔化した結果、よりしょーもない言葉が口をついて出た。


「それはお勧め致しません。旦那様は怠惰と無礼を何よりも嫌っておりますので」


「耳が痛いよ。確かに僕は父さんにしかめっ面を向けられた記憶しかないや」


「申し訳ありません。カイト様を貶める意図はございませんでしたが、不快に感じたのであれば……」


「ああ、いいよ気にしてないから。それよりも」


 メリッサちゃんの言葉を遮って感情の色が薄いグレーの瞳を見つめる。

 どこまでも無感動だった。


「私の顔に何か付いていますでしょうか?」


「いや、むしろ足りていない、かな」


「気付かぬ内に目を片方落としでもしてしまっていますか?」


「目と耳は二つとも付いてるし、鼻と口も顔の中心にしっかりあるから安心して。でもね、四日前に初めて会ったときから思っていたけど……」


 わざとらしく間を作って、俺は言い放った。


「君には笑顔が足りない」


「……笑顔?」


「そう。あ、無表情がダメとか言ったり笑顔を強要するつもりはないからね?」


 むしろ無表情系は俺得ですし。

 無表情+蔑んだ視線とかやられちゃった日にはMもイケる俺からするとご褒美みたいなもんである。

 だがしかし。


「でもさ、ここでこうして働いているなら、いつか笑顔を見せてもらえたら僕としては嬉しいかな」


 まあ笑顔に限らず怒った顔だったり照れた顔だったり、要するに無表情とのギャップを見せてほしいなーという話だ。

 カイト・スタビノア、ギャップに萌える男である。


 そんな情熱を知ってか知らずか「善処致します」と軽々受け流したメリッサちゃんについて父親がお呼びだという書斎まで到着する。

 なんかこっちに来てから誰かの後ろについて回ってばっかだな。

 俺はカルガモの雛かよ。


「カイト様をお連れしました」


「入れ」


 Vシネ俳優顔負けの渋い声が重厚な扉の向こうから聞こえる。

 こっえー。

 昨日に続き、自分に精神強化の魔法をかける。


 こうしておかないと強面で威圧感のある父親やバリオスさんの目を見て会話することが不可能なのだ。

 バリオスさんのメンチ切り食らった時はちょっと漏れちゃったかんね。

 今回の準備は万端である。


「失礼致します」


 扉を開けると意外なことにそこにカイルの姿はなく、俺と父親が二人っきりという空間が出来上がってしまった。


「掛けろ」


 とりあえずその指示にしたがってソファに腰を降ろす。

 ってすっげぇフワフワだな!?

 お尻が沈みすぎて逆に落ち着かない。


「改めてになるが、此度の一件よくやったようだな」


「僕はあくまで兄の手助けをしたに過ぎません。別段手柄を上げたわけではないのでお褒めの言葉をいただいても困ってしまいます」


「過ぎたる謙遜は侮辱となるぞ。あの鉱物の特性を即座に見抜く眼力、そこから組み立てられた真実に迫る仮説。どうやら私は自分の息子の能力を見誤っていたようだ」


「謙遜ではございません。鉱物の特性に気が付いたのは兄の指示にしたがって魔法が行使されたからであり、イェスタ氏の言葉がなければあの仮説に至らなかったのは間違いなく。

 まして僕の仮説が正しい保証などありません。小心者の身としてはあまり買い被られるとむしろ心苦しいのですが」


「ふん、これからはそのように暢気なことは口に出来ないと知れ」


 何やら不穏な空気。

 すげー嫌な予感がするよ!


「……それはどのような意味でしょうか?」


 背中に冷たい汗をかきながら聞き返す。


「カイト、お前は私の後を継げ」


 それはある種の死刑宣告のようで、有無を言わせぬ絶対零度の瞳を前に――


「お断りします」


 それでも俺は満面の笑みでノーを叩きつけてやった。

 んな面倒事、やってられっかボケェ!




8話にしてようやく血縁以外の女の子が出てきました。

いやほんとやっと出せました。

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