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6話



 明けて翌日、調査二日目。

 調査隊の皆さんの気合いの入り様といったらそれはそれはすさまじく、ハンパない緊張感を保ちながら周辺の探索を進めている。

 昨日と今日では調査に臨む姿勢が段違いだ。恐らく昨日は移動の疲れもあったんだろう。


 そんな中俺は何をしているのかというと、調査隊の本営となる仮設テント――元の世界で言うモンゴルのパオみたいな感じ――で山が浮遊した原因についてあーでもないこーでもないと意見をぶつけ合っているカイル達をぼけーっと眺めていた。

 こんなのに参加する気は一ミリもなかったのだが、腰巾着よろしくカイルの後に着いていったらこの席に座ることになっていた。


 まあいいけどね。ここで俺が発言することなんてないし。

 すでに仕込みは昨夜の内に済ませたので、あとは調査隊の皆さんによって“アレ”が発見されるのを待つだけなのだ。

 つまりここで議論を交わすことに全く意味がない。


 しかしんなことを口にできるわけもないので顔だけは真剣に考えるようなポーズをしつつ、頭の中ではカッコイイ必殺技を編み出そうと思案中だ。

 魔法があれば漫画やアニメの中二迸る必殺技達を再現できるかもしれないからな!

 夢もロマンも無限大だ。


「カイト、さっきから難しい顔をしているけど何か思う所があるのかい?」


 ふとカイルが俺に水を向けて発言を促す。そのせいで会議の参加者全員の注目が集まる。

 マジでこういうのやめてくれよ……真面目に聞いてないからなんて言っていいか微塵も分からんのだけど。

 とりあえず当たり障りのない感じでお茶を濁しておこう。


「皆さんの意見はどれも憶測による机上の空論としか言えませんが……現状あまりにも情報が不足しているため致し方ないでしょうね。原因がある程度絞れていれば具体的な策も練りようはあるのですが」


 嘘だけど。凡夫で素人の俺なんかが逆立ちしたって具体策なんか捻り出せるはずがない。

 暗に大人しく調査隊の報告を待とうぜ、と言ったわけだがそれは全員が理解していたようである。俺の意見に「まあそうだよな」的な空気が広がっていく。

 日本人として鍛えられた極力自分に責任が被らない曖昧な表現スキルは異世界の地でも役に立つらしい。


 ここではなまじっか発言力がある立場だけに立ち回りには細心の注意を払わねば。先遣隊だって発案は俺がしてしまったわけだし。

 これで何か問題が起きたらカイルが責任を追求されるだろうが、カイルを守るためにブラウンの爺さんあたりが俺にソレを擦り付けてくる可能性もある。

 おお、怖い怖い。


「カイト様、少しよろしいか?」


 かなり今更ながら内心でブルッていると、会議に参加していた精悍な顔つきをした四十代くらいのおっさんが俺に声をかけてきた。

 昨日の会議にもいたような気がするけど……ダメだ、名前も役職も思い出せんわ。


「なんでしょう?」


「先程のお言葉に気になる点がございまして。まあ本筋とは関係のない些細なことなのですが」


「はぁ」


 おっさんの言葉が要領を得ず小首を傾げる。

 何か変なこと言ったっけ?


「“キジョウノクウロン”とはどういった意味なのでしょう?」


「ああ、それは僕も気になった」


 おっさんの疑問にカイトが追従し、他の皆さんも頷いている。

 もしかして机上の空論という言葉が存在していないのか?まあ別に秘密にする必要もないし素直に教えるとしよう。


「異国の古い言葉でその意味は『頭の中だけで組み立てられた根拠を伴わない理論』といったところです」


 だったよね?細かな違いはあるかもしれんが、概ねこんな意味合いだったはず。


「頭の中だけの理論……」


「ええ。故に机上――机の上だけで展開される空っぽの理論ということです」


 苦笑しながら今まさに眼前で周辺の地図を広げられている木製の机を指で二度ほど叩く。


「成る程、これは上手いことを仰いますな」


 おっさんがはっはっはっと大仰に笑い声を上げ、他のお偉いさんっぽい皆さんも「ほぅ」だの「ふむ」だのと息を漏らしている。

 反感買わなくてよかった!


 そんな感じで自分のターンをやり過ごしつつ、今度は周辺住民への対応と説明について再開された会議への意識は完全シャットアウトする。

 なにせ俺は俺で必殺技の開発に忙しいのだ。

 興味のないことに思考を割く時間はない。


 毎度そんなことだから失敗するんだという批判は受け付けないぞ。

 俺は失敗を恐れない男なのだ。


 それから妄想の海に浸ることしばらくして。

 恐らく一時間以上経った頃だろうか、時計がないため正確なところは分からないが一人の兵士がテントの入り口から顔を覗かせた。


「お話し中失礼します」


「バリオス、何かあったのかい?」


 窮屈そうに頭を屈めてテントの中に入ってきた筋骨隆々の男を前にカイルがその名を口にする。

 あれが俺のせいで先遣隊の隊長をやらされたバリオスさんか。

 とにかく『ゴツい』という形容詞が似合う人だが、カイトの記憶によれば彼はスタビノア家の私設軍の隊長であり、スタビノア家からはもちろん領民からも信頼を寄せられているらしい。


 カイトの記憶にもいくつかバリオスさんの武勇伝があるが、それらが事実ならそりゃ頼りにされますわ、と納得できる。

 領地内のとある村に向かって進軍してきたゴブリンの群を一人で殲滅するとかどんだけだよ。


「ええ、気がかりな物が見つかりましてな。とにかく不可思議で危険物かどうかも判断しかねております」


「不可思議、というと?」


「見た目は翡翠に似た鉱物なんですがね、それがその……浮いておりまして」


 バリオスさんの口から出た“浮く”というキーワードに場がざわつく。

 見事に釣れたクマー。

 俺のロリ魂力が勝利した瞬間である。


「いや、意味が分からん」


 己の思考にセルフ突っ込み。

 なんだよロリ魂力って。や、まあ俺がロリコンなのは全力で肯定するけども。


「そうは申されましてもな。疑いようのない事実です」


 どうやら俺の突っ込みが耳に届いたようで、バリオスさんがこっちを軽く睨む。

 否定されたせいか若干不機嫌なバリオスさんの眼光は、俺の下の口を緩ませる程度の迫力があった。

 分かりやすく言うとちょっとだけおしっこ漏れた。


「ああ、いえ。調査隊の成果を否定した訳ではありませんよ」


 さすがの俺も公衆の面前でお漏らしプレイを敢行できるほどの高みには到達していない。

 なのでこれ以上放流せぬようにバフ効果の魔法を行使して、なんとかバリオスさんに釈明した。


「そうでしたか。これは失礼いたしました……カイト様」


 俺の釈明はなんとか受け取ってもらえたようだ。

 でもその間……バリオスさん俺の名前忘れてたよね?


「宙に浮いた鉱物か……」


 カイルが思案顔で呟く。

 当然ながら山が浮遊した現象の原因ないし関連があると考えるのが妥当だろう。

 それくらい解りやすいように“俺が仕込んだんだから”。


「ひとまず実物を確認した方が良さそうだね。案内してくれバリオス」


「ですが、アレは何一つ効果の判然としない未知の鉱物です。カイル様を危険に晒すわけには……」


「だから指をくわえて見ていろと?僕は部下に危険な道を歩ませて自分は甘露を啜るほど腑抜けたつもりはない」


 ほんともう、俺の兄貴は外も中もどこまでイケメンなのか。

 さらにカイルは、もしやバリオスさんを落としにかかってるんじゃないかと疑ってしまうようなセリフを吐く。


「それにバリオスがいるなら多少のリスクは危険に入らないと、僕はそう思っているよ」


 すれ違いざま、バリオスさんの肩を軽く拳で押すと、カイルは颯爽とテントの外に出ていった。

 その言葉、そして背にあるのはバリオスさんに対する絶対的な信頼。


「やれやれ、兄さんには敵わないなぁ」


 そしてしばし訪れたえも言われぬ沈黙を断ち切ったのは、諦観の色を含んだ俺の言葉。

 ああ、分かっちまったよ……。


 俺の性癖はペドからお姉さん系、さらには男の娘までと幅広い守備範囲を自負している。

 だが、もしかしたらカイルはそれすら凌駕する漢なのかもしれない。


 無精髭の厳ついゴリマッチョなんて完全に射程外だが、それがカイルの歩む道だというなら俺くらいは応援してやらねば。

 そんな決意を胸に俺はカイルの後を追った。




カイル×バリオスはありません。

ありませんったらありません。

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