28話
間隔が空きまして申し訳ありません。
いつもより気持ち長めなのでお許しください。
……決まった。
今のセリフは漫画だったら見開き二ページで“ドンッ!”とか効果音入ってるな。これまでの人生で一番輝いた瞬間じゃなかろうか。
全員がリアル中二設定を目の当たりにして言葉を失う中で唯一、父のウラジミールが思い至ったような口振りで呟く。
「……なるほど、以前本邸でみせた姿を消す魔法もお前の特異魔法か」
「ご慧眼、恐れ入ります」
Exactly(その通りでございます)。さすが高性能な我が父。
あの時から俺が特異魔法持ちだと疑っていたならとんでもない眼力だな。
「……一つ聞きたいことがある」
「何なりと」
厳かな一声の主は顔を伏せた国王。
その重々しい雰囲気は紛れもない国のトップに立つ者のそれだ。
「『コープス』捕縛の際に見せたという幻も特異魔法か!?」
しかして顔を上げた国王の瞳は好奇心に胸踊る少年のようにキラキラと輝き、その声はそんな童心に釣られたかの如く弾んでいた。俺へ向かって身を乗り出すようにして尋ねる国王に、アイゼンシュミットさんら王城側の面々はため息を漏らす。
あれだな、「またかー」みたいな空気を感じる。
「いいえ、幻は『ミラージュ』の術式の一部を書き換えて作り出したものです。オリジナルではなく既存の魔法をアレンジしました」
ひとまず疑問は置いといて国王の質問に答える。
その返答を聞いて国王の瞳の輝きが増した。なんかもう、ほぼ満面の笑みである。
「ほほう!君はそんなことまで出来るのかっ!?」
国王様のテンションが爆アゲしてんな。見た目は若いがとうに六十歳を越えてる体なんだから血圧の管理はしっかりしとけよ。
それにしてもさっきからのこの食い付きようは何なんだろうか。
「もしや騎士団を一斉に転移させた『トランジション』もその類いか?」
「はい。お察しの通りにございます」
「つまり君がアレンジしたという術式を解析できれば我々にもそれが使える可能性があるということになるな」
特異魔法じゃないから理屈的にはそうなんのか?
その辺はそっちで確かめてくれよ。本当に俺以外の人間が使えるか分からんし、上手く行かないからって俺の責任にされんのは御免だぜ!
「ご興味がお有りなら僕がアレンジした魔法の術式をご提供致しますよ」
なので勝手に試してください。
そんな心境で口にした言葉に、国王の瞳が一層ギラつく。さっきまでの無邪気な少年の色は消え、俺を射抜くような視線を向けてくる。
急変すんなよ、こえーから。
「それはまた気前がよいな」
実のところそうでもないけどね。アレンジ魔法とか言っても別に元手がかかるわけでもないし、大した労力も伴わないで出来るものだ。
そんなものに国王が興味持ってるというなら出来た分だけ献上しても構わないんだけど。
「国に住まう民として当然の義務ですよ」
感覚としては納税みたいなもんである。まあ向こうの世界じゃ高校生だったから消費税くらいしか払ったことないけど。
ところが相手方……というか俺とバクを除いた全員にとってそれは当たり前の感覚ではなかったらしい。
皆が皆、信じられないものを見るような顔で俺を凝視してくる。
フハハ、その程度慣れたもんだ。たとえ『アップデート』を使ってなかったとしても怯みはしないぜ。
意味もなく勝ち誇っていると国王が再び口を開いた。
「……君は“義務”と申したな。それはつまり無償で提供を行う用意があると?」
「はい、その様に認識していただいて間違いありません」
「分からんな。義務という言葉を用いればこちらに借りを作らせることもかなわんのだぞ」
いや、初めからそんな気はないんだけど。アイゼンシュミットさんもそうだったけどお偉いさんってこんな疑心暗鬼なの?
ああ、トーリ達の純真さが恋しい。
「皆さんと僕の間では考え方に齟齬が生じているかもしれません。一度僕なりの貴族としての在り方を明確にしておきたいのですが」
「……よかろう、では聞かせてくれ。君は如何様に考えてこのような提案をしたのかを」
「ありがとうございます」
こほん、と一回軽く咳払いをして語り出す。
「まず、当然のことながら国と国民は相互関係に有ります。民は労働に勤め税を納める。それに対して国は国民を危険から庇護し安全に暮らせる権利を与えなければならない。それが国と民のあるべき形です」
いきなり社会体制について語り出したが思いの外全員がしっかりと耳を傾けてくれる。国や国民というワードが含まれているせいか国王も真剣な表情だ。
いやあ、これもとあるセリフを言いたいがための前振りなので若干申し訳ない。まあそれでも口は止めないんだけど。
「ですが僕達貴族はどうでしょうか。中には国政に携わる者もおりますが王族のように国を代表することはなく、しかし領地の民からは税を徴収してその一部を自らの生活にあてている。加えて優遇権なるものまで有している貴族は国と民のどちらに近い存在なのでしょうか?」
この問いかけにすぐさま返答できる人はこの場にいなかった。
ちなみに“優遇権”というのは貴族階級にのみ許された、文字通り様々な面において優遇される権利のことだ。
そしてそれはこの世界に来て驚いたことの一つでもある。
貴族ならオーケーな行為でも平民が同じ行いをすれば罪に問われたり、貴族以上の家柄でなければ購入・所持ができない物があったりするのだ。貴族という存在に馴染みのない環境で育ってきた俺としてはすんなりと受け入れがたい権利といえる。
「……即答できる方がいないように、これが貴族という特殊な立場の現状なのではないかと僕は考えていました。法で統治された国にあって貴族が“法の下の平等”に反した存在に思えてならないのです」
そもそもとしてこっちの世界に“法の下の平等”なんて概念があるかは未知数だけど。
そこはあまり重要じゃないのでスルーして話を進める。
「僕が理想とする“法の下の平等”は貴族階級を廃止ないしその実権をかなり削がなければ実現できないでしょう。それを成そうとすれば大きな反発を招くことは想像に難くありませんし、現在の社会体制を鑑みれば僕自身としても現実的な案とは考えておりません。
故に僕は貴族として果たすべき責務が必要なのではないかという結論に至りました。国と民、その中間に位置する貴族だからこそ求められる立ち居振舞いがあるのではないか、と。
位が高い者であるほど奉公滅私に努め、民の模範となる王家への忠誠や社会的行動を率先して行うべきなのではないか、と思えてならないのです」
そしてここで、俺は満を持してあの単語を口にする!
「それこそが貴族の義務、“ノブレス・オブリージュ”です」
まさかこんなセリフをリアルで消化できる日が来ようとは、人生は何が起こるか分からないね。異世界に来訪しちゃってる時点で何言ってんだって感じだが。
「……“ノブレス・オブリージュ”……」
国王が目を閉じ天を仰ぎながら言葉を反芻する。
そのまま黙すること数秒、やがて徐々に体を震わせ始めたと思うとついには声を上げて笑い出した。
だから感情の振り幅がデカすぎてこえーよ。実は情緒不安定なんじゃねぇのか。
「いやすまない。笑うつもりはなかったのだがな」
国王なんて重責を担っていればそれもやむ無しか、と王の御身を思いやっている俺へ向けて当人はそんな言葉を投げかけてくる。目尻に涙が滲むくらい笑ってますけどね。
何がそんなに面白かったのか。ツボが意味不明すぎる。
「良い話を聴かせてもらった。君のような若者がいるのならばこの国の未来を憂う心配もせずに済む」
いくらなんでも言い過ぎだろ。そんな過度な期待背負えるわけがない。
俺が負えるのは精々修学旅行の班行動のリーダーくらいのもんである。
「身に余るお言葉ではありますが、所詮現実を知らぬ青二才の戯言にございます。国王陛下がお気に留める価値などありませんと、恐れ多くも進言致します」
「あまり己を卑下するな。これは嘘偽り無き実直な言葉である」
余計嫌だわ。
お前がいれば国の未来は安心とかブラスティア王国滅亡フラグじゃね?
「カイト・スタビノアよ」
「はっ」
「ブラスティア王国第十七代国王、グラハム・ヴァン・ベルセリオス四世の名においてそなたを我が終生の盟友であることをここに宣言する」
……あん?どゆこと?
突然のお友達宣言に『アップデート』中の俺もさすがに理解が追い付かない。誰か説明プリーズ。
そんな俺の想いは国王を除いてフリーズしちゃった皆さんに届くことはなく、しばし途方に暮れることになった。
ならば仕方ない、と自ら状況の確認に動く。
「国王陛下、今仰られた“終生の盟友”とは?」
「そのままの意味だ。国王として、また一個人として君が私の友であると明言したのだよ。その肩書き自体に力は無いがな」
早い話が俺は王様の友達になったわけか。なに、時間ある時お城に遊びに来ていいの?
まあそんな軽いノリじゃないんだろうけど、社会的な地位が発生するとかじゃないならお友達認定くらい騒ぎ立てるようなこっちゃないか……いや待てよ。
「僕はマシリス失踪の犯人です。そのような人間と友人関係を結ぶのは陛下のお立場からして易々と決断できるものではないはずですが」
とりあえずぶち込んだ俺の一言にざわつく室内。そりゃ人伝に聞いてても実際に目の前で犯人だってことを自白されれば何か裏があるんじゃないかと警戒するか。
だが俺としてはそんな考えなんて毛頭ない。父との一件でいくら頭が回ろうとも駆け引き、特に政治的な話では足元にも及ばないことを実感済みだ。
なので俺がこういう場で選択するのはストレートごり押しピッチだけである。
「確かに私の臣下の多くは君が述べたことを危惧しているだろうな」
「では何故?」
「理由は幾つがあるが、最大の要因は君の力だ。話に聞く限り君がその気になればこの国を滅ぼすも乗っ取るも思いのままだろう?仮に先の攻撃を無力化するという魔法を自身にのみ行使し『トランジション』で転移されながら戦われたとしよう。それをマシリスすら一撃で退ける者が実行したとして私や騎士団に対抗する術は皆無だ」
確かにそう言われるとムリゲーにしか聞こえないな。
とんだチートキャラだ。まあ自分の話なんだけども。
「陛下、公の場でそのような発言は慎んでいただきたい」
国王の右側一番手に座っていた五十代ほどと思われる白髪の男性が苦言を呈する。ある意味白旗宣言だからな。
ところが国王は肩をすくめると茶目っ気たっぷりに更なる衝撃発言を口にする。
「国としての体面など除外して冷静に考えてもみろ、ゼラフ。カイトは私達が……いや、世界中の力を集結させた封印結界とそれによって抑え込むのがやっとだったマシリスを意に介さないのだぞ?
もはや世界に縛り付けられるような存在ではないだろう。むしろ世界がカイトへ頭を垂れて共存させてほしいと頼み込む立場にあると思うのだが」
最後は俺に向けて「君もそう思うだろう?」とか同意を求めつつウインクまでする始末。
おい。二重の意味でおい。
六十過ぎのおっさんがやっても可愛げねーぞ。
いや、重要なのはそこじゃなかった。今とんでもないこと口走らなかったかこのおっさん。
「僕にそのような意図はございませんが……」
「正直に申せば君が国家転覆を企てていようがいまいが関係無いのだよ。それを成せる力を有している、という事実が重要なのだ」
じゃあ俺が何言ってもダメじゃねぇか。
そして国王の一言に他の人達も重々しく押し黙る。えっ、まさかこれって皆の共通認識なの?
予想外の評価に軽くうちひしがれる俺をさて置いてアイゼンシュミットさんの報告が再開される。
おいおい、この心証じゃ交渉どころじゃないんじゃねーか?
ここからどう立て直したものかと思案する俺に手を差し伸べてくれたのは、アイゼンシュミットさんの報告を聞き終えたフィオナだった。
しかも事前に俺の目を見て安心させてくれるかのようにニッコリ笑ってくれた。やだ、本格的にロリに目覚めそう!
「失礼ながら、陛下。アイゼンシュミット氏の報告を鑑みれば今回彼が挙げた成果や貢献から叛意があると結論付けることはできないと存じますが陛下はどの様にお考えなのでしょう?」
毅然とした態度、無邪気さなど微塵も感じさせない鋭利な声。二百歳児ってのは伊達じゃないらしい。
「うむ、クラインベルン女史の仰ることも最もだ。長きに渡り辛酸を舐めさせられてきた『コープス』をほぼ壊滅状態にまで追い込めたのだ。これ程の功績であれば勲章の授与を検討すべきであろうな」
そりゃまたえらく評価されたもんである。
勲章は著しい国益を挙げた者へ送られる称号だ。日本の国民栄誉賞と似たような位置付けの栄誉と言って差し支えない。
その発言を受けて「それは……」などなど口ごもる奴もいたが、表立って反対する人間はいなかった。
まあ目に見える成果を挙げた上での国王からの発案じゃあそういう反応にもなるだろう。
しかしハッキリと否定を口にする者が一人。
「折角ですがお断りさせていただきます」
そう、俺やで!
頭の中でとある芸人を思い出しながら国王の提案を拒否った。
「叛意が無いというのなら大人しく受け取ってもらいたいのだがな……」
もしかして勲章の授与ってそういう意図があったから?だとしたら悪いことしたな。
「さすがにお気が早すぎると思いまして。それに『コープス』捕縛の功績は騎士団『白き刃』の物とすべきかと」
「つまり君は何もしていなかったことにしろと?」
「そこまでは言いませんが僕はあくまで協力者ですから。そしてその“協力”はまだ終わってはいません」
というかむしろ本題が残っている。最大の難関、マシリスの処遇についてだ。
それを察してか俺を射抜くかのような視線が集中する。わあ、穴空きそう。
「現時点での最優先事項はマシリスの所在確認と再度の封印または討伐と考えて相違ありませんか?」
「ああ、そうだ。君が事態を納めてくれるならば有り難いな」
「僕のような若輩にそんな大仕事は荷が重すぎますよ。なのでその大役は本職の皆様にお任せしようかと」
「ほう、何を考えているか聞かせてもらいたい」
今度はゼラフと呼ばれていた白髪の男性が身を乗り出してくる。
この人はアイゼンシュミットさんの上司で全騎士団員のトップ、ゼラフ総司令だ。引き籠りのカイトでも顔を知ってる有名人である。
「単純な話ですよ。竜騎士団『天の翼』と七帝の方々でマシリスを討伐していただきます」
再度沈黙に支配される室内の空気。言葉にするなら「それが出来たら苦労しねぇよ」って感じか。
「時にフィオナ学園長、仮にマシリスを討伐した場合それを確固として証明できるものはありますか?」
「……そうだね、竜核と称される魔力の核や鱗は個体に比例して大きくなるから、マシリスのものとなれば相当なはず。それがあれば一応の確証にはなるかな」
「なるほど。ではこれなんて如何でしょう?」
デカイ竜核を、と念じながら『マテリアライズ』を発動させる。
次の瞬間、空中に出現したルビーのように真っ赤な石が重力に従って落下。テーブルを叩き割った赤い石……というかもはや岩はその勢いのまま床に突き刺さった。
テーブルと床、後で直さなきゃな。
「……これは何だ」
初めて聞く、国王の呆然とした声。俺謹製の竜核に視界を遮られてその表情は確認できない。
ひとまず国王の疑問に答えなければ。
「竜核です、ベルセリオス陛下」
「竜核だと?これがか?そもそも今どうやって現れたのか……いや、まずなぜこれほどの竜核を持っているのだ?」
「以前倒したドラゴンの物です」
嘘乙。でも『マテリアライズ』の実態を知られるのは非常に不味いんだから誤魔化すしかないのだ。
この魔法があればクラード山を浮かせた鉱物も生み出せることに気付かれるかもしれないからなぁ。
「必要であれば鱗でも骨でも用意出来ます。これらをもってマシリスの討伐に成功した、ということにしていただきたいのですが」
「彼等は名誉だけ与えられて喜ぶ者達ではないぞ?」
「つまり実体を持つマシリスの幻と交戦した上での討伐なら問題はない、ということですね?」
「……何もかも備えは万全、というわけだな。『コープス』の捕縛によって民の支持を得、マシリスの討伐によって他国へ軍事力を示すことができる。さらに術式の提供やどれ程の値打ちになるかも分からん竜核を譲るときた。
以上を持ってして君は私にどのような条件を飲ませようというのかね?」
さすが国王、理解が早い。俺が何を狙っているか見抜いてるらしい。
「マシリスの所有権にございます」
「マシリスを使役するつもりか?」
「如何にも」
予想通り、俺が幼体となったマシリスを連れているのは耳に入っているらしい。まあフィオナが黙ってる理由がないしな。
「そんなことは無理だ、出来るわけがない!」
俺と国王の会話を聞いていた一人の男が突如声を荒げる。
どいでもいいけどそれってマナー的に大丈夫なの?俺はいいとしてもう一人の相手は国王陛下なんだけど……。
「魔獣使い《テイマー》として使役するにはマシリスに服従の意志を芽生えさせなければならんのだぞ?ただ倒しただけでは使役など出来ん!」
男の言葉を聞いて国王やゼラフさんが「あちゃー」みたいな表情を浮かべる。
見事なネタ振りあざーっす。
「それならばお気になさらずに」
俺は椅子から立ち上がり後方に控えていたバクへと歩み寄る。
誰もが事態を注視する中、バクに右手をかざしてこう唱えた。
「フォルム、黒竜」
バクから眩い輝きが溢れだしてその体を覆い隠す。ものの数秒でその光が薄れ、彼の存在に気付いた者から驚愕を露にしていく。
そして俺は抗議の声を上げた男へドッキリを大成功させたような会心の笑みを送った。
「すでにマシリスの使役には成功しておりますので」
「ひぃっ!」
体長は二メートルほどながら黒鱗赤眼のドラゴンが放つ威圧感に気圧されたのか、男は短い悲鳴を上げながら後ずさる。
「グラーバク、国王陛下の御前だよ」
そんな男に構うことなく俺はグラーバクに声をかける。それを受けて彼は地に伏すように頭を下げた。
俺の言ったことを理解し、それに従うように。
「聞かれる前に説明致しますと、これは『フォルムチェンジ』というマシリス……いえ、グラーバクの技能です。
先程までの人型が竜人、幼体の小竜とこの黒竜、そして彼本来の姿である千年竜。以上四種に姿形を変えることが可能です」
誰しもが言葉を失う今日イチの沈黙。父だけはすごい窶れた顔をしてるのが気になるが。
「……ちょっと待ってカイト君。竜人の時と今で魔力の性質が変化しているのはどうして?」
「え、そうなんですか?」
それ俺も知らない。バクを連れててもフィオナに正体を感付かれなかったのはそのせいか。
「何故か分からないかな?」
「そうですね……可能性を上げるとするならグラーバクに僕の魔力を分け与えた影響かもしれません」
「魔力を、分け与える?」
「ええ、僕の補助があれば他の三種に『フォルムチェンジ』させるのは比較的容易だったのですが、竜人だけは手こずりまして。最終的には僕の魔力を流し込んで補助効果を高効率にさせたんです」
あれには苦労した。
といってもバク一人の力じゃ『フォルムチェンジ』できないからまだ未完成の技なんだけど。
「その口振りからしてそれは君の魔法ではないのか?」
「はい。僕は魔力で補助しているだけなので彼自身の技能と分類すべきかと」
「その様な技能を有するドラゴンなど見聞した記憶は無いが……」
「時に陛下、一つお伺いを立てたいことがございます」
「申してみよ」
「不躾ながら竜騎士団における翼竜一頭平均の調教時間とその費用は少なからず国庫の負担になっていると存じ上げますが陛下は如何お考えか」
あまりにも非常識な問いかけに怒号が飛びそうになるのを国王が左腕を軽く上げただけで鎮める。なんというカリスマ。
「返す言葉もないな。一頭をものにするための時間も調教費も、その後の管理費用も馬鹿にならん。が、それでも軍事的観点からして竜騎士団を解体することは現実的ではない」
「なればこそご提案がございます。バクを翼竜の調教に立ち会わせて頂きたいのです」
「どういうことだ?」
「竜人フォルムであればバクは竜の言葉を理解し、それを人の言葉で竜騎士の方々へお伝えすることが可能となります。さすれば調教に掛かる時間と費用の大幅な改善が見込めるのではないでしょうか」
というかその為に竜人になれるよう練習したからな。小竜や黒竜は副次的な産物に過ぎない。
バクを再び竜人フォルムに戻して国王の返答を待つ。
国王は腕を組み思索の海へと潜って行く。きっと俺じゃ考え付かない事態の想定を行っているんだろう。
そうして導き出された答えは
「試してみる価値は大いにありそうだな」
というものだった。
「それはつまり……」
「ああ、カイト・スタビノアにグラーバクの所有権を認めよう」
国王は“マシリス”ではなく“グラーバク”と告げた。これでグラーバクはマシリスの名から解放され、正真正銘カイト・スタビノアの使い魔として認められる。
「「感謝致します、国王陛下」」
英断を下してくれた偉大なる王へ、俺とバクは主従揃って膝を着いた。
俺は仕事を辞めるぞ理事長ォーーー!!
そう叫んで辞表を叩き付けたい。
無理だけど。
更新ペースはあれですがモチベは下がっていないのでエタる心配は無用ですよ!
まあ筆の遅さに磨きがかかってしまってはいるんですが……。




