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27話



 あえて言おう!『コープス』はザコであると!


 騎士団に聞かれたら不興を買いそうなセリフだが、それが俺の率直な気持ちである。

 あいつら元からカスだからね。本来の使い方じゃ「そうですね」で終わっちまうんだもん。

 まあそんなことはどうでもいいのだが。


 なぜ俺のテンションが高めなのか、それには当然理由がある。

 なんせ今回労した策の中である意味結果よりも重要な部分、双方に死傷者を出させないという目標を成し遂げた上で完全勝利を納めたのだ。そりゃ口をつく言葉の威勢も良くなるってなもんである。


 まだクリアしなければならない難所が残されてはいるが、それでもここまでは自分でも驚くくらい順調に事が運んでいる。このまま行けるムードが俺の中では最高潮だった。


 そんなわけで足取りも軽く、といっても魔法で転移するだけだから歩きはしないけど、気分だけは意気揚々と演習場へと舞い戻ってきた。

 指パッチン一つでバリオスさん逹と騎士団の方々、そして拘束した『コープス』の皆さんを一気に運べるお手軽さとかもう便利って言葉を超越するね。


 え?アジトに向かうときのご大層な魔法陣はなんだったのかって?

 そんなもんはただの雰囲気作りだ。本物の騎士団を目にして昂った故の悪ノリとも言うが。

 実際は指を鳴らす動作も不要っぽい。「あそこ行きてー」と思いながら魔法を発動すればいいだけだ。


「そうだ、アイゼンシュミットさん。これをお渡ししておきます」


 ローブの内側に手を突っ込み冊子を取り出す。そこにしまっていたわけではなく、某スキマ妖怪の能力に倣って異空間に放り込んでいたものだ。

 小物の収納スペースには一生困らない予感。


 ……あれ?もしかしてこの魔法を使えば幻想郷に行けちゃう?

 降って沸いた夢が広がる可能性を遮ったのは冊子へ怪訝な目を向けるアイゼンシュミットさんその人。


「これは何だ?」


「『コープス』の各拠点を含めたそれなりの情報です。一応僕の有益さは証明できたと思いますので、あとはそれをご自由に使って残党を捕縛していただければと」


 リーダーのドラスを筆頭に主要なメンバーを取っ捕まえたとはいえ『コープス』は大規模な集団だ。組織立った行動は取れなくなっても犯罪行為から手を引くってわけじゃないだろう。

 かといって部外者の俺がこれ以上捕り物で幅を効かせても騎士団の立つ瀬がない。


 どうせ残りのメンバーは数こそいれどリーダーを失ったことへの混乱で烏合の衆に成り下がったはずだ。そこへ騎士団が各拠点に電撃戦よろしく速攻をしかければ完全崩壊も時間の問題だろう。


「そのような物を易々と受け取るわけにはいかんのだがな……」


「“借りを作りたくない”とお考えなら気になさらずに。王国や騎士団に借りを作るのはむしろ僕の方なので。これはその借りへ対する先払いですよ。

 それでも気が咎めるというのならばこれはここへ捨て置きましょう。あとは所有権が放棄された物をどう扱おうがアイゼンシュミットさんの勝手です」


「……そうか。そこまで言うのならば有り難く受け取らせていただこう」


 警戒しているようだがとりあえず受け取ってはもらえた。使うかは知らんけども。

 別に裏があるわけじゃないんだけどな。そう簡単に信用してはもらえない哀しみが俺を襲う。


「しかし何故このような物を作っていたのだ?」


「実は国王陛下への手土産に『コープス』を一人残らず捕らえようと思いまして、その為に調べを付けていたんですよ。

 父にその計画を伝えたところ“騎士団の面目を潰す気か”と叱責されたので方針を転換することになりましたが。なので今となっては僕が持っていても無用の長物ですし、かといって眠らせておくのも惜しかったのでせっかくならば騎士団に有効利用していただこうと考えまして」


 いやホント、相手のメンツとか気にも留めてなかった俺からすればあの一言はまさに目から鱗。

 そのお陰で王国側を立てるという方向性を明確に打ち出せたわけだ。


「『コープス』を全員、一人で捕らえるか。お主が宣うと冗談に聞こえぬな」


「当然、本気でしたからね。まあ僕一人ではなくバクにも手を貸してもらう予定でしたけど」


「お主同様、あやつも中々に興味深い男だ。あれほどの腕を持った者をどこから見付けた?」


「近い内に分かりますよ。信じる信じないはアイゼンシュミットさん次第ですが」


 たぶん“バク”というより“バグ”と呼んだ方が相応しい存在だからな。千の刃的な意味で。


 アイゼンシュミットさんと雑談しながら騎士団の皆さんが『コープス』の人達を連行していくのを眺める。

 どうなんのかなぁ、あの人達。かなり凶悪な犯罪をしてた人間もいるみたいだし、中には極刑を免れないのもいるだろう。


 俺が自分勝手な理由で捕まえたから……とは思わないけど。因果応報ってやつだね。

 撃っていいのは以下略。


 そのまま何か言葉を交わすこともなく彼等が連行されていく様子を遠目に眺める。

 というかここからどう動けばいいのか分からないので、とりあえず脳内でその光景に警察番組風のナレーションをあてて時間を潰すことにした。


 それから時間にして五分ほど、『コープス』のメンバーが外国人で構成された巨大空き巣グループとして一斉検挙される辺りまで俺のアテレコは続く。

 奴等は一流のピッキング技術を持つ凄腕達という設定だ。


「何か言ったか?」


「いいえ、何も」


 アイゼンシュミットさんに奇異の視線を向けられてしまった。

 いかんいかん、脳内アテレコがつい口から漏れていたらしい。端から見たら不審人物である。

 独り言には注意を払おう、と気を取り直して懲りもせずアテレコを再開しようとしたところで待ったがかかった。


「お待たせして申し訳ありません、スタビノア様」


 俺に声をかけてきたのは黒服のおっさん。

 執事か。どうせならメイドの方が良かった。


「少々時間が掛かりすぎではないか?」


 俺への謝辞なのに受け答えたのはアイゼンシュミットさん。何でだよ。

 しかもなぜか若干お怒りモード。


「真に申し訳なく。当初のご予定より幾分早くお戻りになられたもので」


「だからと言って待ち惚けさせるなど……」


「まあいいじゃないですか。順調過ぎた故の弊害ですし、苦労するよりはずっとマシです。むしろ褒め言葉と捉えるべきでは?」


 アイゼンシュミットさんのお小言が執事さんを襲いそうだったので華麗に口を挟む。


 大体、招かれた来賓ならまだしも今回は俺の方から頼んで話し合いの場を設けてもらったわけで。

 立場上待たされる程度は屁でもない。アウェイ開催で敵地に乗り込んだサッカーA代表並みの歓待くらい最初から覚悟の上だ。

 むしろ五分待ちなんてかなり良心的にさえ思える。


 的な言葉でアイゼンシュミットさんを説得しつつ、執事さんを慰めておいた。


「寛大なお言葉、身に染み渡る思いでございます」


 結果、執事さんが深々と頭を垂れて感謝の意を示してきた。

 うむ、苦しゅうない。時代劇のお殿様よろしくふんぞり返ってその言葉を受け取った。

 まあもちろん、頭の中でだけど。


 それから俺の説得が腑に落ちていないのかイマイチ晴れない顔をしたアイゼンシュミットさんと、俺の三歩ほど後方という良妻的ポジショニングを崩さないバクを引き連れ、執事さんの案内で国王様を初めとしてこの国の要職に就いている人達が待ち構える一室へと向かう。

 道すがらすれ違う執事やメイドが全員足を止めて俺達へと頭を下げてきた。流石はこの国のトップが住まう城、よく訓練された使用人だ。


 そんなこんなで到着したのはきらびやか装飾が惜しみ無く施された、十メートルはある巨大な扉の前だった。

 この奥に国王様がいるらしい。というかこんな質量の扉開けられんの?


 とか思ってたら執事さんが扉に埋め込まれている手のひら大の水晶に触れ、そこへ魔力を込める。

 するとゴゴゴゴゴと音を立てながら扉が独りでに開いた。


 なるほど、これも魔法……魔導器具っていうのか。旧カイトじゃ一生取り扱えないじゃねぇか。

 アイツはこんなとこでもハンデを抱えてたんだなぁと物悲しくなりながら張り詰めた空気漂う室内へと踏み入った。

 すると先導していた執事さんが膝を付き国王様に報告する。


「国王陛下。王立騎士団軍団長クラウス・アイゼンシュミット様、スタビノア侯爵家子息カイト・スタビノア様、その従者バク、以上三名お連れ致しました」


「ご苦労だった、マッキャン。下がってよいぞ」


「はっ。失礼致しました」


 執事さんが退室し、再び物々しい音を立てながら扉が閉まる。

 一瞬訪れた沈黙の後、最初に口を開いたのは国王様だった。


「まずは両名、座ってくれ」


 そう促され空いている席に着く。向かい側にはフィオナがいた。

 学院で見せる無邪気な笑みこそ隠れているが、それでも知った顔があると気が楽になるな。見た目がアレだから超浮いてるけど。


 ちなみにバクの席はないらしい。秘書っぽい人が二名ほど壁際で突っ立ってるし、従者の扱いってそんな感じなのかね。

 バクは今回の主役なんだけど、まあ本人に不満そうな様子はなく壁際で待機してくれてるからわざわざ突っ込むまい。


「では出席予定者の顔が揃ったところで会談を始めさせて頂きます。まずはアイゼンシュミット司令からご報告をお願い致します」


 秘書らしき二人の内、メガネの男が司会進行役を務めて会談が開始された。国王様はさしずめ大物コメンテーター……いや、裁判長ってところだろうか。大岡越前クラスの名裁きに期待しよう。

 そんなことを考えてる内にトップバッターに指名されたアイゼンシュミットさんが起立して『コープス』との大捕物劇を語り出した。


「始めに断っておくがこれから報告する内容は全て真実である。無用な口出しはご遠慮願いたい」


 アイゼンシュミットさんが全員を見渡してあらかじめ釘を刺す。それに出席者達が何事かと困惑する中、フィオナだけがガックリと肩を落としていた。

 後にフィオナから聞いた話だと、俺の席からは確認できない位置に座っていた父も同じような状態だったらしい。


「まずはじめにカイト・スタビノアの転移魔法『トランジション』により王立騎士団『白き刃』第六小隊四十名、及びスタビノア侯爵家の私設部隊二十二名、加えて私とカイト、そしてその従者一名、計六十五名、さらに捕縛者を収容する為の荷馬車十台がバーナム郊外の廃城跡へ転移した」


 その言葉にただでさえ静寂だった空間がさらに静まり返る。

 そういや作戦を成功させることに頭が一杯で、自重するの忘れてたかもしれん。


「次にカイトが事前に極めて精巧な幻を各拠点と地下道内に複数解き放っていたことにより、それらに追い立てられる形で『コープス』が廃城跡へと誘導され、飛び出してきた者達を順次捕縛。最初の十九名は誰一人抵抗の意思なく捕らえることができた。

 そこへ『コープス』の首魁ドラス・ロンターノを含む主要構成員の一団が到着。無差別、広範囲に攻撃性の初級魔法ファーストマジックから中級魔法セカンドマジックを放つも、カイトが展開した直径およそ五十メートル程と思われるドーム状の『シールド』により全ての魔法を撃墜。騎士団、私設部隊を通じて負傷者はゼロ。

 さらにカイトが……あの魔法はなんと言った?」


「『ノット・キリング』ですよ。物理・魔法を問わず“致死の可能性がある攻撃を無効化させる魔法”です」


「……それはもしや特異魔法オリジナルスペルか?」


 堪らず、といった様子で国王様が問い掛けてくる。

 これには釘を刺してたアイゼンシュミットさんも苦笑い。いや、笑ってねーけども。


 そしてまたなんか耳慣れないワードが出てきたな。

 えーっと特異魔法オリジナルスペルは“発現したその個人のみが発動可能な特殊な魔法。今まで確認されている発現人数は歴史上わずか九名とかなり希少であり、特異魔法オリジナルスペルは総じて通常の魔法よりも効果が強力とされている”と。


 なるほど、そんな魔法があるのか。

 カイトの記憶には自分が特異魔法オリジナルスペル持ちなんじゃないかと思って発現させるために特訓していた過去もある。

 自分で新たな呪文を生み出して夜な夜な唱えるとか、俺の同位体だけあって世界を跨いでも中二病をこじらせてたんだなぁ。


 まあそんなもう一人の自分の黒歴史はさておき、問題は俺が特異魔法オリジナルスペル持ちかどうかって話だが、その辺は自分じゃ知りようがない。

 確かにオリジナルの魔法は作ってるけどそれをいくつも持ってたらおかしいよなぁ。二つも三つも発現するようなもんじゃないみたいだし。


 う~ん、この辻褄を合わせるにはどうしたら……よし、こういうことにしておこう。


「確かに僕の『ノット・キリング』は特異魔法オリジナルスペルです」


 そう言った途端、静寂に支配されていた室内がざわつき出す。

 そりゃ歴史上に九人しかいないという特異魔法オリジナルスペル持ち、その十人目となればそういう反応にもなるだろう。フィオナすらも目を丸くしている。

 だが俺のスーパー中二病タイムはここからだぜ!


「ですが『ノット・キリング』が僕の特異魔法オリジナルスペルというわけではございません」


「それはどういう意味だ?」


 混迷深まる国王様と一同。今にして思えば俺が特異魔法オリジナルスペル持ちなんじゃないかと疑っていた可能性が高いアイゼンシュミットさんも眉をひそめている。

 そんな彼らに対して言い放つ。


「僕の特異魔法オリジナルスペルの名は『クリエイト・マギ』。“魔法を創造する魔法”です」




大岡越前の名裁きがほとんどフィクションだと知ってちょっぴり悲しい。

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