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23話(新23話)

前話(旧23話)が急すぎるというお声をいただいたので、25話辺りにダイジェストで書く予定だった部分を新23話として投稿。

なので超短いです。



 さて、「策を立てる」とか言ってもったいぶってみたものの、その内容は別に大したもんじゃない。要するにグラーバクがおっかないドラゴンじゃないってことをお偉いさん達に理解してもらえればいいわけだ。

 そんでもって俺とグラーバクが王国にとって有益な存在だと思わせることができれば文句を垂れる連中も静かになるだろう。


 そのためにはどうすればいいか。

 説得の下準備は俺一人で事足りるけど、その場のセッティングは自分じゃどうしようもない。

 ってなわけでフィオナ、そして父の力を借りようと思う。


 事情を知ってるんだから関係者との面識があるだろうフィオナに「しかるべき場であれば全てを明るみにさらす用意があります」と政治家顔負けの思わせ振りなセリフで煙に巻いて学園長室をさっさと後にした。

 そしてその日の夜、夕食後も書斎に籠りっきりで仕事漬けの日々を送る父の元をこうして訪ねている。


「何の用だ?急ぎでなければ後日に回せ」


 息子が入室しても一切顔を上げることなく書類の束に目を通している父に、俺はど真ん中直球勝負を挑むことにした。


「突然ですが父さんはマシリスの失踪についてご存知ですか?」


 ゴホッ!と父が咳き込んだ。なかなか珍しい光景である。

 そしてこの反応を見る限り父も状況を把握しているらしい。ならば話は早い。


「マシリスが侵入者によって連れ去られたとされていますがその侵入者というのが僕です。ちょっとした事情がありましてマシリスには封印の外に出てもらいました。

 ちなみにこの小さなドラゴンが今のマシリスです。周囲に危険を及ぼさないための処置ですので心配なさらずに。

 ああ、嘘ではありませんよ?精霊族であるフィオナ学園長が間違いなく本物だとお墨付きを下さいましたので。

 とまあこの様な事態ですので迅速な対応が必要なのはわざわざ言葉にする必要もないでしょう。そこで父さんのお力添えでこの度の事情を説明する場を設けていただけないかと相談に参った次第です」


「……」


 父、無言。何か言いたげに口をパクパクさせるだけだ。

 そのまま十秒ほど時間が過ぎ去り、やっとこさ言葉を絞り出す。


「……お前は何を考えている?」


 特にこれといった理由があってしでかしたことじゃないです、とか言ったらぶち殺されそうな雰囲気。仕方ないね。

 正直に打ち明けると大落雷間違いなしなので適当に誤魔化しておこう。


 えーっと、フィオナはなんて言ってたっけ?確かマシリスについて説明してくれたとき、ついでに魔獣にちょっかい出して人間にけしかけてる奴らがいてそいつらがマシリスの周りをうろちょろしてるって教えてくれたよな。


 全部そいつらのせいにすればいいか!

 我ながら人として見下げた根性だと思うが、実際に被害を出してる連中相手ならそんなに心も痛まないしな。

 俺がなんもしてなきゃそいつらが手出ししてた可能性もあったんだし。


 そんな訳でフィオナの言葉を丸パクリしてマシリスの封印が破られる危険性があったこと、それを未然に防ぐために致し方無く強行策に出た旨を説明する。

 でまかせもいいところだが。


「だからといってお前が動く必要性はなかっただろう」


 それが俺の釈明を聞き終えた父の第一声だった。

 まさにその通りである。それでも俺はこのシナリオを貫き通さなければならぬ。


「自らの力を盲信するわけではありませんが、それでもこれは僕にしかできないことだと判断しましたので」


 主に魔力的な意味で。

 なんてったってマシリスは世界中の力を集めても封印するのがやっとの相手らしいからな。

 正直未だに疑わしい話ではあるけど、それが事実ならあれだけあっさり無力化できたのは俺だからこそだろう。


「それは否定せんがその正体不明の集団とやらが本当にマシリスを封印から解き放とうとしていたという確証はあったのか?無いのだとしたら軽挙に過ぎるぞ」


「仰る通り。信頼のおける情報を掴んでいたわけでもありませんし、いたずらに各所の混乱を招いたことには弁解のしようもありません」


「それを分かっていながらなぜ独断専行に走った?」


「万が一の可能性を天秤にかけ、針がそちらに傾いたからです。仮にマシリスの封印が解かれた場合と僕がマシリスを確保した場合。より被害を抑えられるのは後者で間違いありません。

 加えて僕の行動によって生じた王国の不利益を相殺し得る手段を持っているのもまた僕自身です。なればこそリスクを犯しても自らが事を起こしました」


「……」


 再びの無言。

 恐らくどんだけ自分勝手な話してんだコイツ、とでも思っているんだろう。


 とはいえこのまま口をつぐんだり無視をするには事が大きすぎる。父がそう判断を下してくれれば俺の望みに沿う形で話を進めてくれるはずだ。


「お前が何を求めているかは理解した。しかしお前の言う“不利益を相殺し得る手段”とはどのようなものだ?それを踏まえなければ到底了承することはできないぞ」


「勿論です。ならば早速お見せ致しましょう」


 そう、話すのではなく見せるのだ。

 たぶんこうした方がどれだけの言葉を労するよりも納得してくれるだろう。まさに百聞は一見にしかず、というやつだ。

 説得の目玉とも言えるこれを実現させるために今日の午後を丸々潰したくらいだからな。


 フィオナと別れてすぐ“誰にも見られない場所”という指定をして転移。そこでグラーバクにとある裏技を授けようとした。

 それがなかなか上手くいかず予想よりも時間がかかってしまったが、苦労の末なんとか裏技を覚えさせることに成功する。


 そしてすぐさまもう一度転移した。指定したのは“周囲に人目がなく、かつ野生の翼竜ワイバーンが棲息している場所”だ。

 ここからはグラーバクの単独行動になったが結果は上々。裏技を駆使したグラーバクは俺の狙い通りの力を得た。


 ついでとばかりに様々な種類のドラゴンの元へ転移を繰り返す。当然誰にも見られないよう細心の注意を払った上でだ。

 そんな感じで急遽行うことになったドラゴン巡りの旅が楽しくてつい調子に乗ってしまい、気付いたときには日がとっぷりと暮れていた。

 そんなこんなでドラゴンとの触れ合いを堪能しまくって帰宅したのは夕食の直前。つまりはついさっきである。


 いやぁ、マジで楽しかった。途中から完全に目的を忘れてたからな。

 また今度ドラゴン巡りに行こう。


 そんな決意を新たにしつつ、淡々と全ての説明を終えた俺は改めて父に確認を取る。


「以上が僕の揃えた“手段”です。如何でしょう?」


 が、肝心の父は右手で額を覆い大きな大きなため息を一つ吐く。

 おかしいな、即答で賛成してくれると思ったのに。


「……もう何も言わん。お前が望む場は私が用意しよう。だが二つ私に誓え」


「はあ、構いませんが」


「一つ。次からは好き勝手に行動を起こすな、必ず私に報告を入れろ。そして私の判断に従え。

 二つ。スタビノア家が不要に目立つ真似や不利になるような行動は慎め。以上を必ず順守してもらう」


「心得ました」


 大層な物言いだから何を要求されるかと思ったら、要するに派手なことはせずに逐一お伺いを立ててから行動しろってことだ。

 今回の一件はたまたまで、元よりそんな悪目立ちするつもりは……あ、でもこれは一応許可をもらっておいた方がいいかもしれん。


「今すぐという訳ではありませんが近い内に旅行に行こうと思っているんです」


「旅行?」


 いきなりの話題転換に父が怪訝な顔をする。


「ええ、旅行と言っても『トランジション』で各地を転々とするだけですが」


「まあその程度なら止めはしないがどこへ行くつもりだ?」


「実は何頭かのドラゴンと既知の仲になりまして。中でも真竜オリジンと名乗るドラゴンに是非また遊びに来いと誘っていただいたんですよ」


 真竜オリジンは封印されたりしているわけではないみたいだが、まず存在そのものを人に関知されていないようでもし世にでも降ればグラーバクの比ではない大混乱をもたらすことになるらしい。

 大きさはグラーバクの半分程度だったのだが、纏った雰囲気というか放つ風格は確かにグラーバクを凌駕していた。


 そんなドラゴンはどうも退屈な生活を送っているようで、久しぶりに誰かと会話できたことがいたく嬉しかったらしい。機会を見てまた遊びに来てほしいとお願いされたのだ。

 ぼっちドラゴンのお願いを無下にできるほど俺は薄情じゃない。


「なので学院生活がある程度落ち着いたら顔を見せに行こうかと」


「……いや、だからな……ああ、何でもない。くれぐれも面倒事は起こさないでくれ、頼むから」


 そう返答する父の顔がいつの間にか疲れ果てていた。

 まあ許可はもらったから何でもいいか。


「分かっていますよ。では失礼します」


 うし、あとは策を成功させるだけだな。

 先々の楽しみもできたしもう一頑張りやりますかー!


 ある意味この世界に来て最も充実した一日を満喫した俺は

足取りも軽く自室へと戻っていった。




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