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20話



 男二人だけで飯を食うよりは女の子も一緒にいた方が楽しい、という感覚は一般的な年頃の男子なら誰しも持ち合わせている心理だろう。それが可愛い女の子なら尚更だ。

 あわよくばお近づきになりたいという下心満載のお誘いに応じてくれた二人と、トーリにグラーバクも含めて四人と一匹でテーブルに座り料理が届くのを待つ。


「さて、今の内に自己紹介といこうか。僕はカイト・スタビノア。君達と同じくウィンザストン魔法学院の入学試験を受けたばかりの一貴族だよ。こっちはペットのグラーバク」


「キュー!」


「ぺ、ペット?」


 ツインテール少女が目を丸くしながら翼を開いて己の存在をアピールしているグラーバクを凝視する。


「これ、ドラゴンよね?」


「そうだよ。前もって言っておくと僕は魔獣使い《テイマー》じゃないからね」


「じゃあなんでドラゴンなんて連れてるのよ?」


「別にドラゴンをペットにしてはいけないだなんて決まりはないだろう?」


「それは魔獣使い《テイマー》じゃないとドラゴンを使役できないから特に定められてないだけだと思うけど?きっと言うこと聞いてくれるのは幼体の時だけよ」


「なら今の内に絆を育むとしよう。友情を築けば良きパートナーになってくれるさ」


「アンタねぇ……」


 楽観的な俺の言い分にツインテールは呆れ顔。

 といこうかなんでグラーバクは俺に懐いてんだろ?外見は幼体だし各種性能も落ちてはいるが、襲いかかってくるような荒々しい中身は変わってないはずなのに。


「まあ一旦僕とグラーバクは脇に置いてほしい。お互いの紹介を済ませるのが先決だよ。さ、トーリ」


「あはは……ボクはトーリ・ブリッジス。カイト君と同じく入学試験を受けたばかりの身です。ボクは貴族じゃなくて普通の市民ですけど」


 トーリが驚愕の次くらいに見慣れつつある苦笑いを浮かべてやや遠慮がちに自己紹介を行う。可愛い女の子を前にして緊張してるのかもしれない。


「アタシはティナ・ラネスカヤ。コーネリア皇国の出身にしてラネスカヤ家期待の星よ。ここにいる理由はアンタ達が知っての通り」


「は、初めまして、シュレリア・アルルチャーチです。あの、先程は助けていただきありがとうございました」


 ツインテールのティナは不遜に言い放ち、こっちの世界じゃ初めて目にした黒髪のシュレリアは奥ゆかしく頭を下げた。

 なんとも正反対な二人である。だからこそいいコンビネーションなのかもしれない。


「そういえばさっきのは何なのよ?いきなり魔力が消失したんだけど、アンタの仕業よね」


 疑いの眼差しでティナが問い詰めてくる。台詞の内容は質問なのに疑問系ですらない。

 あの状況じゃそれ以外の可能性は低いしそう思われても仕方ないけど。


「やったのは単純なことだよ。君とパトリックの周囲に特殊な魔力フィールドを展開させただけさ」


「「「魔力フィールド?」」」


 トーリ、ティナ、シュレリアの三人が揃って首を傾げる。またか、と思いつつ魔力フィールドについて軽く説明することにした。

 既存の知識に魔力フィールドに該当する言葉が見当たらないから依然としてそのまま使ってるけどこれから先も一々解説するのは不便だよなぁ。


「大雑把にいえば魔力の効果範囲みたいなものかな」


「それは魔法陣とは別物なのよね?」


「ああ。魔法陣は魔力を魔法へと変換させる際の補助装置みたいなものだ。対して魔力フィールドは“魔力によって使用者やその周囲に何らかの影響を及ぼす範囲”の総称さ」


「“魔法”じゃなくて“魔力”ってのがポイントなわけね」


「鋭いね。ティナには素養があるのかもしれない」


 主に中二病の。俺?俺はもう現時点でこじらせてるから。

 この世界じゃ黒歴史モードでもスタンダードだから気にする必要はない。


 一方トーリとシュレリアの二人は俺とティナのやり取りについてこれずぽかーんとしている。まだまだだね。


「それでその特殊な魔力フィールドとやらで何をしたわけ?」


「二人の魔力フィールドを上書きして強制的に魔力の流れを遮断したんだよ。有り体にいえば魔法が発動できない空間を作ったといえば分かりやすいかな?」


 俺の言葉に今度はティナも含めて三人全員がぽかーん顔。

 その中でいち早く再起動したトーリが困惑気味に尋ねる。


「そんな魔法があるの?今まで聞いたこともないけど……」


「正確には魔法じゃないし使い勝手はとても悪いけどね。一々対象者の魔力フィールドを解析して上書きしなければならないから」


 現段階では相手に合わせて個別の魔力フィールドを作らなければならないわけで、もっと汎用性を高めないといざって時に咄嗟に使えない。

 理想は相手に関わらず周囲一帯の魔力と魔法の完全無効化。

 当たらなければどうということはない?それ以前に撃たせなければ当たらずに済むのだ。


「相手の魔力に干渉して魔法の発動を潰す……確かに発動した魔法を防ぐよりもはるかに安全だけど、でも……」


「ラネスカヤ?」


「――あり得ないわ!」


 何事かぶつぶつと呟いていたティナがいきなり爆発した。

 バンと両手でテーブルを叩いて立ち上がったティナはその小柄な体躯にそぐわない迫力を宿している。


「どうかしたのかい?」


「『どうかしたのかい?』じゃないわよ。アンタ今、自分が何を口走ったか理解してるわけ?」


「勿論」


 大きく頷きながらそう返した。俺の脳内設定を反映させた出来なんだから、むしろ俺以上に理解できてる奴がいるわけねぇ。


「なら、どうしてわざわざアタシ達に教えたのよ」


 質問の意図が分からん。

 特に理由があって教えたわけじゃねーんですけど。


「ラネスカヤには何か事情があるように思えただけだよ。僕の勘違いならそれでいいし、たとえ未完成の魔法でも無手でいさせるよりは役立つかもしれないだろう?」


 ナチュラルで俺の脳内設定に対応できたティナには間違いなく中二病の素質がある。

 それを自覚し受け入れられるかどうかは分からないが、同好の士を得る可能性があるなら出し惜しみはしない。この魔法も完成したら教えてやろう。

 教えた理由なんてその程度のもんだ。


「……アンタって」


「ああ、それから僕のことはカイトと呼んでくれないかな?僕自身は構わないんだけど立場上“アンタ”なんて呼ばれるのは外聞がよろしくなくてね」


 ほんと、貴族ってめんどくせー。

 でもカイルや父親のためにも俺がスタビノアの格を下げるわけにはいかないのである。せめてもの親孝行、兄孝行というやつだ。


「はあ……いいわ、分かったわよカイト。その代わりアタシのこともティナって呼びなさい!」


「じゃあ遠慮なく。改めてよろしく、ティナ」


「こちらこそ」


 がっちりと握手を交わす。

 今ここに中二病同盟が結成された!


「あ、あの!私も……」


 ワタクシ!

 そんな一人称使ってる奴をリアルで見たのは初めてだ。シュレリアってお嬢様かなんかなの?

 っていうかまさかシュレリアも中二病同盟に立候補するつもりなのか?

 邪気眼系お嬢様……あると思います!


「私のこともシュレリアと呼んでいただけないでしょうか?」


 違った。呼び名の話か。

 心の中じゃ最初からシュレリアと呼び捨てにしてるので問題はない。


「シュレリア本人が希望するなら否はないよ。僕達のことも気軽にカイト、トーリと呼んでほしい」


「はい。カイトさん、トーリさん」


「あれ、ボクも入ってる……」


「嫌だったのかな?」


 からかい半分で聞き返した俺の言葉にシュレリアがしゅんとなる。

 それを見てトーリが慌てて弁解し出す。


「そんな訳ないよ!でもここにいる三人って貴族だし、市民のボクとしては身分の壁が気になるというか……」


「でもアンタ……いえ、トーリってカイトとはずいぶん親しいように見えるけど?」


「それはカイト君だから、としか言えないというか、あっという間に距離を縮められちゃって……。初めて顔を合わせたのは試験当日だし、こうして会話するのもまだ二回目なんですけど」


「とてもそうは見えません。まるで十年来のご友人のようです」


「あはは、それは言い過ぎですよ」


「でもトーリが言ってることも分かるわ。カイトってなんか気安いというか貴族っぽくないわよね」


 ぎくっ。疑われてるじゃん。

 やっぱ本物の貴族からすると俺の立ち居振舞いはおかしさ満点なのか?言葉遣いはカイトの記憶頼りだけど、受け答えの反応は素でやっちまってる時も多いからな……。


「はい、お待ちどうさま」


 どう言い逃れようかと思案していたところへ女将さんが絶妙なタイミングで注文していた料理を運んできた。

 台車に乗せた料理皿を次々テーブルの上に並べていく。……台車?


「なんか多くない?」


 ティナの疑問もごもっとも。運ばれてきたのは四人分は四人分でも、軽食ではないしっかりめのランチと、グラーバク用だと思われる巨大な生肉だった。


「そりゃあカイト様が奮発してくれたからね。こっちとしても腕の振るい甲斐があるってもんさ」


 女将さんの一言でティナとシュレリアの視線が俺に集まる。その様子にトーリは苦笑い。

 というかいつの間にか様付けになってるし。


「奮発ねぇ、いくら積んだのかしら?」


「人聞きの悪い言い方は止めてくれ。無理をお願いしたんだからせめてもの気持ちだよ」


「この程度のお願いで金貨一枚ならいくらでも頼まれたいもんさ」


 アンタがバラすんかい。

 料理を運び終えた女将さんは愛想のよい笑顔を浮かべながら去っていった。なんという裏切り。

 いやまあ本人にそんなつもりはないかもしれんが。


「金貨一枚って言ってたけど本気?だとしたら金銭感覚を疑うわよ」


「生憎と手持ちに細かいお金がなかったんだよ。それにグラーバクも食欲旺盛だしね」


 足元に目をやればグラーバクが嬉々として自分の体と同じサイズの生肉に食らい付いていた。

 何の肉か分からんが値はそれなりに張るだろうし多めに支払ったのは間違いじゃないだろ。


「それにしたってポンと金貨を支払ったり、さっきの貴族が尻尾巻いて逃げ出したり、実はカイトってかなりいい身分なのかしら?」


「とんでもない。僕自身はしがない貴族さ」


「侯爵家でしがないなんて言われたら他の貴族は形無しだよ……」


「ええっ、侯爵家!?」


 ティナは大声を上げ、シュレリアは両手で口を覆って驚きを露にする。


「なんであっさり口を割るんだトーリ……」


 なんとかうやむやにしようとしていた空気は伝わっていなかったのか。KYとかもう死語なんですけどねぇ。


「あれ、もしかして隠してた方がよかった……?」


「出来れば、だけどね。いずれは知られただろうから絶対ではないけど」


「なんでよ?隠すようなことじゃないでしょ」


 そりゃあこの世界で生まれ育った貴族からすればそうなんだろうが、俺の中身は現代日本の中流家庭に生を受けた極普通の一般人だ。家の格で敬われたり畏れられたりというのは性に合わないんだよ。

 普段から真面目君を演じているだけにもっとこう、ラフな付き合いができる相手がいないと息が詰まる。


 なんて正直に打ち明けるわけにもいかんのだが。


「スタビノア家が侯爵家であることも、その栄誉に見合う功績を挙げてきたのも、父や兄を含めて代々スタビノア家に名を連ねてきた先人達だ。僕はただ単にスタビノア家に生まれたに過ぎない。

 まだ何の力もない僕が家の威光に頼るなんて恥ずかしいだろう?家名には誇りがあるけど今の僕ではそれを名乗るには相応しくないという思いの方が勝っていてね。だから明け透けに家名を口にすることは控えているんだよ」


 そういうことにしておこう。

 なんかこの世界に来てからでまかせが自然と出てくるようになった気がするな。


「なんというか、すごくカイト君らしい考え方だよ」


「間違いなく変わり者だけどね。まあでも、そういう考え方は嫌いじゃないわ」


「はい、とても素晴らしい誇りだと思います!」


 三人の反応は上々。誤魔化すことには成功したようだ。

 しかし良い奴だなこいつら。俺だったら「親の金使ってるくせになに語っちゃってんのお前?結局家の力じゃねーか(プギャー」と煽りの一つも挟んでるところだ。


「感心されるほど大した話じゃないさ。それよりも温かい内に料理を戴こう」


 すでに生肉を半分以上食い進めたグラーバクを尻目に、俺はようやく料理に箸を伸ばすことにした。

 これを平らげてから学院に向かえば到着は昼頃だから、合格発表の混雑も幾分マシになってるだろう。


「そうだ、二人も合格発表を見に行くのよね?せっかくなら一緒に行きましょう」


 食事を始めてすぐティナがそんな提案をする。

 ティナが言わなければ俺の方から誘うつもりだったので渡りに船だ。

 理由?ちょっとでも長く可愛い女の子との時間を楽しみたいからだよ。


 俺、トーリ、シュレリアがティナの提案を快諾する。

 いや、まあ俺の結果は分かってんだけどさ。本当に合格してるか一応確認しておきたいし。


 こうして侯爵貴族、町医者の息子、留学生二人というメンバーで合格発表という名のクエストに挑むことになった。




お久しぶりの上に短くて特に進展もない。

こんな話を書くのに1週間以上かかる俺って一体……。

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