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13話



 大講義室とでも言うのか、教壇側に下っていく半円形の教室。

 そんな感じの試験会場では既に多くの生徒が編入試験の開始を今か今かと固唾を飲んで待ち構えていた。空気が超ピリピリしてる。


 トーリは速攻でこの空気にあてられて顔を白くするが、俺はこういう張りつめた場にいると笑いが込み上げてきてしまう。

 この癖ってよく考えると貴族として致命的だよな。厳粛な式典にでも出席することになったらどうしよう。

 頭の隅でそんなことを考えながら気持ちを笑いから逸らそうとトーリに声をかける。


「ねえトーリ」


「ひゃい」


 ガッチガチやんけ!

 この心理状態じゃまともにテスト受けられないんじゃないか?


「落ち着きなよ。緊張し過ぎると普段の力が出せないというからね」


「それは分かってるんだけど、もしもの事を考えちゃうんだ……今回ダメだったら次のチャンスは一年後だから」


 それでもいいじゃん、とはさすがの俺でも言えない。受験生がどれほどナイーブな生き物かは理解してる。

 ここは何か良い感じに励ましておくか。


「なら特別に必ず受かるアイテムをあげよう」


「えぇ!?そんなものがあるの?」


 面白いくらい素直に食いつくトーリ。そして俺の言葉が聞こえた他の受験生もこっちに耳を傾けているのが分かった。

 そりゃまあそんなアイテムが実際に存在するなら興味を引かれるだろう。


「これさ」


「何、コレ……」


 トーリに手渡した物。それは数多の受験生にとっての必須アイテム。

 そう、コロコロ鉛筆である。


 羽根ペンが主流のこの世界では鉛筆なんぞ見たこともないだのろう。受け取ったトーリは困惑顔だ。


「これはコロコロ鉛筆と言ってね。行き詰まったときに転がすと答えを指し示してくれるのさ」


「そんな効果のマジックアイテムなんて初めて聞いたよ……」


 これをマジックアイテムとしてカウントしても良いんだろうか?

 勿論この期に及んで何の変哲もないコロコロ鉛筆なんぞを渡すわけがない。これは俺が自分の保険に用意した超高性能自動回答型コロコロ鉛筆である。


 だが所詮は素人お手製のなんちゃって発明に過ぎない。効果のほどは使ってみないことには不明なのだ。

 しかしここはトーリの不安を一掃するためにも強気に押しておこう。


「トーリ、魔法薬師エイワーズを目指しているなら少しくらいは魔力を操作できるよね?」


「う、うん。あまり高難度なものはまだ使えないけど」


「基礎の基礎さえ扱えれば十分さ。コロコロ鉛筆にトーリの魔力を循環させてみて」


「こう……?」


 傍目には分からないが、トーリがコロコロ鉛筆に自分の魔力を流し込んでいく。

 所要時間は三秒くらいだ。


「それで準備は万端。あとは本番でどうしても分からない問題があったときは転がすといい」


「ありがとう。でもカイト君の分は……」


「心配は要らないよ。僕も自分の鉛筆は持っているからね」


 まあ使わなくても大丈夫だと思うけど。あくまで保険だし。

 どれだけの効果が発揮されるかはトーリに実証してもらえればいいだろう。


「編入試験を始めます。各自指定された席に着席してください」


 教壇横の扉から試験官らしい男性、その後に続いて十名ほどの男女が入室する。監督官か何かだろう。


「おっと、時間だね。ではお互い健闘を尽くそう」


「あの、ありがとうカイト君」


「その謝辞は合格が決まってから受け取らせてもらうよ」


 さっきの蒼白顔よりは血色の良くなったトーリと別れ、俺も決められた席に腰を下ろす。


 編入試験の内容は筆記と実技に分けられている。

 筆記試験は三教科。魔法の成り立ちと歴史、魔法の基礎知識、一般常識の三つだ。


 実技試験は与えられた課題をこなすものと、自らが最も得意な魔法の難易度や習熟度を競うものの二つ。

 計五つの試験項目によって総合評価を下される。


 まあ実技試験の評価さえ高ければ筆記は低くても受かるらしいけど。つくづく魔法至上主義な社会体制と言える。


「筆記試験開始の時刻になりました。皆さん始めてください」


 試験官の合図と共に教室内の受験生が一斉に問題紙にかじり付く。

 さて、んじゃ俺もやりますか。


 魔法による思考力の加速を開始。

 ざっと問題文を眺めてみると次々解答が頭の中に浮かび上がる。これなら楽勝だ。


 ちなみに筆記試験中の魔法の使用は禁止されていない。あくまで魔法の技能を駆使して解答していると見なされる。

 そもそも魔法でカンニングするというのは難しいらしい。大抵が効果時間的に何度も発動しなければならないし、他者の答案を覗くにもそれが正解である保証もない。

 さすがに答案の入れ換えや魔法による資料の持ち込みみたいな直接的なカンニングは禁止されているので、ほとんどの受験生からすればカンニング技術を磨くよりも普通に勉強した方が効率がいいのだ。


『アップデート』が普及すればまた話は変わってくるかもしれないけど。将来「アップデート勉強法」とか本を出したらひと稼ぎできないもんかな。


 そんな欲にまみれた考えをしていたら魔法が失敗した、なんて落とし穴イベントが発生することもなく、未来のビジネス展望を妄想する余裕を見せ付けて午前中いっぱいに及ぶ筆記試験はつつがなく終了した。

 無論、コロコロ鉛筆の出番はなかった。


「カカカカ、カイト君!これっ……!」


 昼飯はどうしようか思案しながら席を立つと物凄い勢いでトーリが駆け寄ってきた。手にはコロコロ鉛筆が握られている。


「そんなに慌てなくても知りたいことがあれば包み隠さず教えてあげるよ。僕も聞きたいことがあるからね」


 てな訳でやってきたのは屋外通路沿いに点在するベンチの一つ。他のベンチでもウィンザストン魔法学院の制服を着ていない受験生達が各々昼食を摂っている。

 学院内にはいくつか学食があるし受験生にも利用資格はある。

 しかし学食は当然ながら在校生も利用するし、生徒の八割が寮生活を送るウィンザストン魔法学院のシステム上、前の世界でいう春休みに該当する今時期でも利用者は多い。早い話が外部入試組は学食だと肩身の狭い思いをしてしまうのだ。


 故に屋外ベンチで縮こまりながら食事をしている受験生がほとんどである。実際、トーリも学食の雰囲気に気後れしていたのでこうして外まで出張って来たのだ。

 まあハンバーガーを取り出して食うならこっちの方が気楽だからいいけど。


「それでコロコロ鉛筆はトーリの力になったかい?」


「力になった、なんてものじゃないよ!どんな問題でもスラスラと……そもそも勝手に動くなんてどんな仕組みなの?」


「始めにトーリの魔力を循環させただろう?あれによってトーリとコロコロ鉛筆の間にリンクが繋がったんだ」


「リンク?」


「そう。コロコロ鉛筆は勝手に動くんじゃなくてトーリの魔力を借りて動いているのさ」


「何て言ったらいいか……とにかくとんでもないマジックアイテムだよ。こんなに凄いアイテムを貸してくれたカイト君には感謝しきれない。でも、これは……」


 言葉の続きを濁しトーリは目を伏せた。

 ボク、落ち込んでますといった風体。

 恐らくマジックアイテムという裏技――禁止されてはいないけど――を使ったことへの抵抗感があるのかもしれない。真面目だなぁ。


「……ボクは自分の力で自分の歩く道を拓きたいんだ。今はまだ自分一人で出来ることなんてほとんど無いけど、それでも編入試験くらいはボクだけの力で――」


「ストップだトーリ」


 自分語りが始まりそうだったので重低音ボイスで言葉を遮る。トーリの肩……いや、全身がビクッと跳ねた。

 あれ?俺怖がられてる?

 トーリの過剰な反応にそんな疑問が浮かぶが今は無視。


「要するにコロコロ鉛筆を利用して合格してもそれは自分の力じゃないから納得できない。そういうことかな?」


「うん……」


 依然ビビりながら反応を示してくれるが、やだこれ泣きたい。

 怖がるなよー。


「いいんじゃないかな?」


「え?」


「少なくとも僕は誇りある素晴らしい意志だと思うよ」


 結果オーライで生きてる俺には絶対無理な考えだもの。そういう考え方は尊敬するし尊重したい。


「そして朗報だ。コロコロ鉛筆はそんなトーリの意志に反してはいないよ」


「それはどういう……」


「あれはリンクで繋がった人間に答えられる問題しか解答できないようになっている。勉学に打ち込んでいない者、知識の無い者が使用したところで相応の効果しかないんだ」


 俺製コロコロ鉛筆の最大の特徴は使用者の記憶と知識によって発揮される効果に違いが生じるという点だ。

 端的に言うとバカが使っても意味がない。俺にカイトの記憶がなければ宝の持ち腐れになる。

 仮に二〇〇五年日本シリーズ四試合の合計スコアを述べよという問題を出題されてもトーリは答えられない。そういうことだ。


「人の記憶は無数の引き出しのようなものと言われている。知らないと思っている記憶でも忘れているだけで脳は覚えているんだ。

 このコロコロ鉛筆はリンクで繋がった人間が忘れてしまった、または思い出せない記憶や知識の引き出しを開けて使用者の代わりに答えているのさ。

 だから安心するといい。編入試験の結果はトーリが自らの意志で積み上げてきた努力の成果だよ」


「カイト君……」


 俺の説得が高じたのか感極まった様子のトーリ。ここで「じゃあ使わなければ良かっただろう」とか煽っちゃうドSモードが俺に搭載されていなかったのが幸を奏した。


「さあ、午後はいよいよ実技試験だ。“腹が減っては戦はできぬ”という諺もあるし、ちゃんと食事を摂ってしっかり実力を発揮できるようにしておこうか」


 最近主食になりつつあるハンバーガーを右手の掌に出現させる。その光景にトーリは目を丸くしていた。


「それ、どこから出したの?空間魔法の術式もないのに突然現れたように見えたけど……」


「企業秘密さ。でも気になるならお一つあげるよ」


 今度は左手にてりやきバーガー生成してトーリへ手渡す。


「え、温かい!?嘘……本当に転移魔法?でもそんなことがあり得るわけ……」


「ついでに飲み物もどうだい?」


 トーリの反応が面白かったので次は両手にLサイズコーラを出現させる。キンキンに冷えたコーラを受け取るトーリはなぜか諦めたような顔をしていた。


「この魔法はそういうものなんだ……それでいいんだ」


 午後からはいよいよ実技試験かー。どんなテスト内容なのか想像つかねえなぁ。

 とりあえず危険じゃないことを祈ろう。




当然ですが投稿する際は内容に納得してから投稿しています。

なのに改めて読み返すと粗ばかり目立つ。

そしてあまり面白くない。


なぜなのか。

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