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プロローグ



 俺の目を覚ましたのは目覚まし時計でも隣に住む幼馴染みの女の子でもなかった。

 そもそも俺に幼馴染みなぞいないし、お隣に住んでいるのは齢八十のおばあちゃんである。通りすがりに時たま飴ちゃんをくれたりするのだ。

 もちろんそんな優しいおばあちゃんが起こしに来たわけでもない。


「お目覚め下さい!」


 俺を起こしたのは、俺だった。

 正確に言うと俺と同じ顔をしている誰かだが。

 ここで俺が選ぶべき選択肢は……


 1冷静に考えて夢

 2なんだ、ただのイケメンか←ピッ

 3強盗ですね分かります


「目の前にぐうの音も出ないほどのイケメンがいる」


「いけめん?……ってなんですか?」


「なんというボケ殺し……」


 自分と同じ顔した人間がイケメンだということを説明しろとか悪魔かよ。

 つーか誰だコイツ。顔の造形は俺と似通ってるくせに金髪とかハジケやがって。将来禿げても知らねーぞ。


「いや、夢の中でそんな心配しても意味ないか」


「え、これ夢なんですか?」


 俺の独り言を拾う金髪。夢のクセに反応がいちいちリアルだな。

 だいたい夢じゃなかったらなんだってんだ。もう一人の自分ってか?


「ん?」


 もう一人の自分?それってまさか、ドッペルゲンガー……


「成敗!」


「ふぎゃ!」


 必殺の右アッパーが相手の顎をかち上げる。

 金髪はそのまま仰向けにダウン。大の字に倒れた姿を見下して吐き捨てた。


「ふん、雑魚が」


 さすが俺の分身。俺同様、物理防御は濡れティッシュ並みの脆さだな。

 つか右手めっちゃいてぇ。


「何をするんですかっ!」


 殴られた方は脆弱だが、殴った方も貧弱だったせいか大したダメージは与えられたかったようだ。金髪はすぐさま体を起こして抗議の声を上げる。


 しかし、何をすんだと言われても正当防衛としか答えられない。

 自分のドッペルゲンガーを見た人間は近い内に死ぬとかいう伝承を聞いたことがある。つまりこの金髪が俺のドッペルゲンガーだった場合、俺の寿命がヤバイ。


 なら自分が死ぬ前にコイツを倒せばなんとかなるかもしれん。

 しかしドッペルゲンガーって殴れるんだな。幽霊の類いかと思ってたんだけど。

 まあ何はともあれ。


「お前は俺のために死んでくれ」


「ええっ!?」


 いざ臨戦態勢、撃滅のセカンドブリットを放とうとした瞬間に背後から待ったがかかった。


「戯れはその辺にしてくれんかのぅ」


 声がした方へ振り向くと白髪白髭の仙人みたいなジジイが空中であぐらをかいていた。

 見ず知らずの人間の部屋に上がり込んでマジックを披露するとかマジでイミフなんですけど。


「何者だジジイ。名を名乗る前にこっから出てけ」


「ワシの名は――そうじゃな、お前達に分かるように言うなら『神様』じゃ」


 俺の意見はスルーですかそうですか。

 隣では金髪の俺が「か、神様!?」とか衝撃を受けているが、俺からすればこいつらの頭の仕上がり具合に衝撃だ。


 片や自称神様。片や俺と同じ顔。しかも揃って不法侵入の不審者ときたもんだから俺の警戒心は既にオーバーリミットである。

 刃物でも取り出された日には泣き叫んで助けを呼ぶ準備は万全だ。


「自分に様付けとは恐れ入る」


「人間が勝手に付けただけじゃよ」


「あいにく俺は無神論者……でもなかったわ」


 毎年初詣には行ってるし、マークシート形式のテストは大体神頼みによる回答だ。

 俺の自己完結に自称神様はがくっとつんのめる。芸人か。


 いや、違う違う、そうじゃない。何あたかも本物であるかのように話を進めてやがる。


「そ、それで神様が私達に何のご用なのですか?」


「素直すぎるぞ金髪野郎」


 金髪の俺は自称神様を信じたらしい。こういう奴が将来詐欺に引っ掛かるんだろうな。

 つーかこいつらグルじゃないの?


「お前らは『異世界同位体』という言葉を知っておるかな?」


「知らん」


 勝手に話を進行させんなよ。

 同位体は物理だか科学だかの授業で原子だの元素だの云々で聞いたような記憶が薄らぼんやりとある気がするが。

 とりあえずそんな感じのふわっふわした知識しかない。これを知識と呼ぶには疑問も残るが。


「まさか……」


 対して金髪の俺はその言葉に心当たりがあるようで何かに思い至った様子。顔は同じでも中身は俺と違って優秀ですね。


「一人で納得してないで説明してもらえませんかね?」


 おっと、頭の良い人間を前にするとつい敬語になってしまう癖が。


「あ、すみません。異世界同位体というのは読んで字の如く異なる世界に存在する同位体――この場合は同じ人間ということです」


「それで概ね正解じゃ」


「異世界……パラレルワールド?」


「そうとも呼ばれておるの」


 つまりあれか、異世界が実在して、金髪の俺はその異世界の俺で、本当なら同じ世界に存在できない俺達を対面させたのがこの神様である、と。


「あー、そういや今日の一限体育だったわ。早く寝なきゃ」


「ちょっと待ってください!」


 ベッドに潜り込もうとした俺を金髪が止める。


「この状況で寝入るってどんな神経してるんですか!?」


「深夜の三時にこんな与太話を聞かされる身にもなってみろよ」


「まあ別にその体勢でも構わんからワシの話を聞いてくれんかの?」


 俺の態度が気に障った様子もなく自称神様は話を進めようとする。懐が広いのか俺に興味がないのかよく分からんな。

 まあ不審者を部屋に二人も抱えた状況で寝落ちするほど危機管理能力が欠落してもいないので、こいつらが退出しないならどの道話を聞かなきゃいけないのだが。


「んじゃもー言いたいことだけスパッとお願い」


「そうじゃな、端的に言うとお前達の存在を入れ替える」


「な、何ゆえに?」


 俺的にはどうやって?というのが疑問だが、茶々を入れずにさっさと話を終わらせよう。そして寝よう。


「お前達は産まれる世界を違えたのじゃ。カイト・スタビノア、お主は魔法世界の者ながらその身に宿したのは数理の才。

 そして北山海斗、お主は科学世界の者ながらその身に宿したのは魔法の才。

 どちらの才も世界を変えるほどの力にも関わらず、世界が違えば所詮宝の持ち腐れとなってしまう」


「だから僕達を入れ替える、と?」


「そうじゃ。互い違いの世界で自らの才覚を十全に発揮したくはないか?」


「僕は……」


「カイト・スタビノア、お主は魔法が全く使えず周囲から『落ちこぼれ』と侮蔑されておるな」


「……はい」


「北山海斗、お主も同様じゃろう」


「そーね」


 優秀な弟を持つ兄の肩身は狭い。ご近所でも「北山さん家のダメな方」としてその名を馳せているほどだからな。


「故にお主らには互いの世界でその才を輝かせてほしいのじゃ。どちらも有する才は他の異世界全て、過去の人類総てと比べても比肩する存在すらおらん。

 それほどの者が世界を違えたばかりに凡庸に埋没するなどワシには耐えられん。ワシは見たいのじゃ、落ちこぼれの烙印を押されたお主達が世界をひっくり返す、そんな痛快な未来を!」


 神様バリバリ依怙贔屓じゃないっすか。ぱねぇっす。

 まるで舞台に立つ演者を観ているような気分だぜ。不信感もあってとびきりに胡散臭い。


「か、神様……僕、やります!この世界を変えてみせますっ!」


 いたく感銘を受けたようだが詐欺と怪しげな宗教には気を付けろよ金髪。チョロすぎんだろ。


「そうか。北山海斗、お主はどうじゃ?」


「それでいーんじゃないっすか」


 非常に今更ながら俺としては一ミクロンも真面目に聞いちゃいない。

 さっさと長話を打ち切り塩撒いて寝たいので適当に相づちを打つ簡単な仕事に徹している。


「ありがとう。では互いの了承も得られたのじゃ、早速入れ替えを行おう。

 夜が明けた時、それはお主らの新たな門出じゃ。それから生活に不便をきたさぬよう本来の記憶に加えてお互いの記憶を持たせてやろう。記憶の共有じゃな」


「なにそれこわい」


 その平仮名七文字が俺がこの世界で最後にほざいた言葉である。


「では行くぞい」


 その掛け声と共に部屋は眩い光に包まれて、俺は意識を失った。




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