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十二属性戦士物語【Ⅲ】――光と影――  作者: YossiDragon
第一章:五つの封印解除阻止編
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第三話「三つ目の置物」・1

―▽▲▽―


 現在十二属性戦士の一人が命の危機に瀕していた。そう、砂属性戦士の石吹細砂が魔豪鬼神オドゥルヴィアに腹部を貫かれて瀕死の重傷を負ってしまったのだ。

 細砂の顔からは大量の汗が吹き出し、体は熱を持っていて表情も少し辛そうに見えた。頬というか、顔全体が少し火照ったように赤らんでいる。


「細砂、しっかりするッス!」


 残雪が片方の手に氷の礫を作りだし、それを布に巻いて額に当てる。すると、みるみるうちに額に置いた氷が溶けてしまった。それほどまでに体が熱を持ち熱くなっているのだ。

 その時、雷人がその場に駆け付けた。


「やっと来たッス……遅かったッスね、雷人? でもどうしたんスか、そんなに慌てて……」


「はぁ、はぁ……出口が見つかった。急いで向かうぞ!」


 雷人の言葉に少し表情を和らげた残雪は、すっくとその場に立ち上がり荷物をまとめ始めた。


「細砂は私がおぶるから、残雪は私の荷物と細砂の荷物を運んでくれ!」


 雷人が細砂をおぶりながらそう命令した。


「……またパシリってのは何だか不本意ッスけど、今はそれどころじゃないッスもんね!分かったッス!!」


 人がいい残雪は、眉をキッと釣り上げ敬礼のポーズをとると全員分の荷物を持った。

 雷人は黙ったまま首肯すると、さっと方向転換し輝光の待っている脱出口に向かって走り出した。なるべく細砂に振動が伝わらないように労わってはいるが、それでも少しは振動を与えてしまう。だが、それは少し我慢してもらうしかなかった。さもなければ、いつ倒壊してもおかしくない状況であるこの場所で生き埋めになる可能性もあったからだ。

 そして、ようやく脱出口に到着した。ゆっくりと小さなトンネルを抜け、それから抜け道を通った。

 抜け道から出てきた三人を見て輝光は再開の喜びをするが、焦燥の表情を浮かべている義兄を見てすぐに真剣な面持ちとなり、懐中電灯を片手に持ち先頭を歩いた。最後尾が全員の荷物を持たされている残雪で、真ん中を歩いているのが重傷人――細砂をおぶっている雷人、という図だ。


―▽▲▽―


 空間の塔を抜け、最初のエントランスに戻ってきた四人……。

 細砂の体をゆっくりと横にして冷たい床に寝かせる。それから重傷を負っている部位である腹部を押さえ、雷人は血が止まるのを待ちながら、時間の塔に向かった葬羅に連絡を取った。


―▽▲▽―


 葬羅達一行は多少の怪我を負っていたが、持ち前の葬羅の治癒力によって万全の状態に戻っていた。そして現在、四人はエントランス付近の螺旋階段を降りていた。

 その時、葬羅に連絡が届いた――雷人からだ。

 葬羅が応答する。


「はい、もしもし?」


〈葬羅! 急いでエントランスに戻ってきてくれ!! 細砂が、細砂が大変なんだ!!〉


 普段の冷静さからは考えられない雷人の焦り様に葬羅も気が動転したのか、少し顔つきが変わり、恐る恐る尋ねる。


「どうかしたんですか?」


〈実は、空間の塔にもオドゥルヴィア博士が現れてな。その際、細砂が深手を負ってしまったんだ〉


「解りました。すぐに行くので待っていて下さい」


 葬羅はそう言って通信を切り、その旨を時間の塔で時間の置物入手のミッションに同行していた照火達三人に告げた。それを聞いた三人もコクリと首肯し、急いでエントランスへと向かった。


―▽▲▽―


 その頃、エントランスにいた雷人達は懸命に細砂の体から未だ尚溢れ出てくる血を止めようと努力していた。しかし、その努力を全て水の泡にするかのように血は一向に止まる様子を見せない。こういった状況への対応力が欠けている三人には勝手が分からず、途方に暮れていて時間だけが無駄に過ぎてゆくだけだった。顔中に汗を浮かべている雷人も、限界が近づいていた。傍で細砂の事を心配する輝光の顔も少しばかり不安そうだ。すると、時間の塔の方へ繋がる扉がバンッ!と音を立てて開き、緑色の髪の毛を靡かせながら呼吸を荒げている葬羅が姿を現した。他の三人もその後に続く。

 葬羅は急いでその場に駆け寄り座り込むと、雷人から布切れを奪いとるや否や指摘した。


「こんなんじゃダメです! もっと厚いタオルなんかじゃないと! それに、もしかしたら汚れが入ってたりするかもしれませんから水も必要です! しかもこの傷口は相当な大きさです! 急いで傷口を塞がないとこの出血量から見ても出血多量で死んでしまいますよ!?」


「そ、そんな……何か手はないのか?」


 普段とは違い、物凄くハキハキとセリフを喋る葬羅に唖然となりながらも、何か仲間を助ける手立てはないかと思考する雷人はそう、葬羅に訊いた。


「水は……雫さんがいるから大丈夫だと思いますけど、問題はこの傷口が私の力だけで塞ぎきれるかどうか……」


 自信なさげな葬羅の声に肩を落とす一同だが、雷人は違った。


「それでも出来る限りのことをやってくれ!」


「もちろんそのつもりです! とりあえず、何か分厚い布を持ってきてください!!」


 雷人は縦に頷いて何かないかを探した。一応自分の荷物を探すものの、それらしき物は入っていない。

 その時、残雪が口を開いた。


「思い出したッス! もしかしたら寒くなるかもしれないと思って俺の荷物の中に確かタオルが数枚入ってたような気がするッス!!」


 その言葉に雷人の表情は一気に明るくなった。


「ほ、本当か!?」


「た、多分……ッスけど」


 迫り来る雷人にたじろぐ残雪。雷人は急いで残雪の荷物を探し、その中身を確認した。すると、確かに二、三枚タオルが入っていた。


「これでどうだ?」


 傷の具合を確かめている葬羅に雷人が訊く。


「はい! これなら大丈夫です!!」


 笑顔で応える葬羅に雷人の心にも少しずつ安堵が取り戻されてきた。

 一方で、照火がタライを用意して雫に急いで水を出すように急かしていた。


「急げ雫! 水だ水!!」


「わ、分かってるよ! そんなに焦らさないでよ!! 集中出来やしない!!」


 そう言って雫は水を手の上に作り出し、銀のタライに注いでいった。

 葬羅は男性陣をその場から少し下がらせ細砂の衣服を脱がし胸部に布を被せると、タライに注いだ水を薄い布切れに吸わせ、水を絞り傷口に当てた。


「いィつッ!?」


 細砂が小さな悲鳴を上げる。


「我慢してください細砂ちゃん……。後もう少しですから」


 葬羅はそう言って今度は荷物から何やら植物の絵がプリントされた消毒液を取り出し、それを綿棒に垂らして傷口の周囲に優しく当てた。

 傷口に消毒液が染みた綿棒が当たる度に細砂が身をよじらせ唇を噛み締めて拒む。手もギュウッと強く握りしめていた。余程痛いのだろう。周囲にいたメンバーも同情してか、痛そうな表情を浮かべていた。

 そして表上の手当を済ませた所で、葬羅が出来るだけの力を振り絞り、治癒によって回復を始めた。

 刹那――みるみるうちに腹部の大きな傷跡が塞がってゆく。


「す、すげぇな……」


 爪牙が後ろから顔を覗かせその様子を窺い感心する。

 しばらくして、ようやく治療が終了した。

 まるで嘘の様に細砂の傷口は跡形もなく消えていた。傷の痕跡もまったくなく、怪我をしたという証拠は脱がせた服にぽっかりと穴が開いている事に気づかなければ分からないくらいだった。


「これも修行の成果ッスね!」


 残雪が歓喜の声を上げる。


「そういえば、まだ次元の塔に向かったメンバーが戻ってきてないな」


 照火の言葉に、雷人がサッと次元の塔の方を向いた。


――次元の塔には六人も十二属性戦士がいるんだ。大丈夫だろう……。



 心の中でそう呟きながらパソコンを開くと、雷人は黙り込んでしまった。


―▽▲▽―


「そろそろ、次元の塔にある次元の置物も頂くとするか。ンフフフフフフ……」


 オドゥルヴィア博士の不気味な含み笑いが次元の塔の一室に響き渡った。


―▽▲▽―


 次元の塔にある次元の置物を手に入れるためやってきた六人の十二属性戦士は、一本の鉄の橋を真っ直ぐに進んでいた。

 その時、夢幻の足元の足場が腐っていたらしく、突然その部分が崩れ落ちた。


「ぬおわぁッ!! 危なかったわぁ……」


 夢幻は尻餅をつきながら高鳴る鼓動を落ち着かせ、深呼吸した。


「大丈夫か?」


 暗夜が上から目線で夢幻を見下す。


「うるさいわッ! 大丈夫に決まっとるやろ!!」


 体勢を立て直そうとする夢幻。同時に、足が側に転がっていた石コロに当たった。その石コロは真っ暗な暗闇の下に落ちて行った。

 しばらく時間が経ってみても音がしない。それほどまでに底が深いのかと、ゴクリと息を呑みながら眺めるメンバーだったが、一人――楓は違った。


「ねぇ今、ポチャンって音がしなかった?」


「そんな音したか?」


「いや、分からなかったな」


 楓の言葉に暗夜と白夜は顔を見合わせ聞こえないと言った。時音や菫、そして夢幻にもその音は聞こえていない様だった。


「もしかしたら」


「どうかしたの?」


 突然声を上げる時音に楓が訊く。すると、白夜が何かを思い出したように説明しだした。


「ここって確か、次元の塔だったよな?」


「ええ……」


 時音が楓の代わりに応える。


「ということは、恐らくこの場所自体も次元の力が働いてんじゃねぇのか?」


 その言葉に誰もが共感した。確かにさっきから体がいつもよりも軽く感じていた。


「だとしたら……」


 白夜は歩きながら目の前の壁にジャンプした。すると、まるで壁が床になったかの様に、両足が壁に張り付いた。


「す、凄い……っ!」


「ふっ、やっぱりな……」


 楓が驚いている一方で、白夜は自分が想像していた通りの出来事が起きて少し満足そうな表情を浮かべていた。そのまま壁を歩いていき、今度は天井に両足が張りつく。


「頭に血が上らないのか?」


 暗夜の言葉に白夜は言った。


「ああ……どうやらこの場所はあらゆる方向に重力が作用してるみたいでな、天井にはりついても天井の方に重力が引っ張られてっから平気だぜ、兄貴」


 義兄の問いに答えた白夜は、ポケットに片手を突っ込みもう片方の手に懐中電灯を持って暗がりの周囲を照らし出した。暗がりでよくは分からないが、どうやら水溜まりが広がっているようだ。すると、白夜は凄いことに気付いた。他の五人がいる鉄橋の下にキラリと光る一つの丸い球体が見えたのだ。そこから全体に広がるように張り巡らされているのは、どうやら動力のホースみたいな物のようだ。


「兄貴ッ! 今立っている場所の下を見てくれッ!! 何か光る物があんのが見えねぇか?」


 声を張り上げる白夜の言う通り、今いる場所から下を覗き込むと、さっきまでは真っ暗な漆黒の闇が広がっていた場所に淡く光る何かが確認できた。


「ああ見える。――ッ!? あ、あれは……次元の置物だ!!」


 その言葉に他のみんなも慌てて下を覗き込んだ。確かに丸い球体の真ん中には、次元の置物らしきものがはめこまれていた。


「でも、どうやって取ればいいの?」


 菫の言葉に暗夜は視線を次元の置物に向けたまま話した。


「ここは次元がメチャクチャになってて壁や天井にも張りつけるようになってる。現に、白夜も天井にくっついてるしな……。だから、それを上手く利用してその次元の置物を獲ればいい」


 その説明を聴いて、なるほどと言った風に納得の相槌を打つ菫。その姿を見て時音が研究者として普通の一般人に諭されているのはどうなんだろう?と疑問に思いつつ苦笑してその様子を眺める。

 暗夜は、天井に未だ張りついている義弟に言った。


「白夜! すまないが、次元の置物を取ってきてくれ!!」


 暗夜の言葉に白夜は何故か夢幻を見つめた。


「……ん? ってわしかいなッ!?」


「そりゃそうだろ。第一、今俺天井にいるし……こっからわざわざ壁を伝って底に行くよりかは、お前がそこから底へ行く方が速ぇだろ?」


「しゃ~ないなぁ!」


 夢幻は潔く諦め、次元の置物が置かれている場所へ嘆息しながら向かった。

球体の近くまでやって来たところで夢幻は立ち止まる。遠くからでは小さく見えていたが、実際にはその大きさはとてもすごかった。


「これ、どうやって取ればええんや!?」


 こめかみ辺りに人差し指を突きたてすっかりまいってしまった夢幻は唸り声をあげて考え始めた。


「こーなったら、これで……どやッ!!」


 考えあぐねた結果面倒になったのか、夢幻はありったけの爆薬を周囲に仕掛け、少しその場から離れて爆破させた。さすがに球体もその爆破の威力には負けたのか、耐え切れずに粉々に粉砕された。


「よっしゃ! 次元の置物、ゲットやでぇぇえええッ!!」


 某トレーナーの様な決め台詞を吐き捨て置物を大事そうに抱えて十二属性戦士の元へと戻ってくる夢幻。すると、突然低い男の声が聞こえてきた。


「ンフフフフフフ……、よくやってくれた十二属性戦士。わざわざ面倒な事をせずに事が運んでよかった。貴様らには感謝しきれん……だが、それもここまでだ。さぁ、置物を渡してもらおうッ!!」


 その声は十二属性戦士の入ってきた扉の方から聞こえてくるようだった。


「あなたは、まさかっ!?」


「そう、そのまさかだッ!」


 そう言って空間を歪ませ目の前に姿を現したのは、白衣に身を包んだ長い顎ヒゲを蓄えた白髪の老人――オドゥルヴィア博士だった。武器を構える十二属性戦士の目の前に突如姿を現した博士は顔に掛けている片眼鏡をキラリと光らせ口を開く。


「どうやら情報はまだ行き届いておらんようだな……。貴様らの仲間である石吹細砂は、この我の手によって深手を負っているッ!!」


「ま、まさかっ!?」


「真実だ。これは戯言などではないぞ? その証拠にこの手についている真っ赤な鮮血はあやつの物だ……クックックック」


 オドゥルヴィア博士が意味有り気に血のついている方の手で自分の顔を拭いた。まだ乾ききっていないのか、真っ赤な血が顔に少し付着する。

というわけで、三話です。

重傷を負ってしまった細砂ですが、何とか葬羅の力のおかげで一命を取り留めました。ここで、死んでしまったら十二属性戦士一人減っちゃいますからね。また、次元の塔にも姿を現したオドゥルヴィア博士。

そしてそこで少しばかりキャラを定着しつつある夢幻と白夜。

二年前までは完全に恨んでいた暗夜の事を今では「兄貴」と呼ぶ程、関係は修復されているようです。後半は時空元の塔から別の場所へ移動するまでの話をやります。第三の封印、もうすぐ解き放たれちゃいます。

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