表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十二属性戦士物語【Ⅲ】――光と影――  作者: YossiDragon
第一章:五つの封印解除阻止編
6/32

第二話「オドゥルヴィア博士襲来!!」・2


―▽▲▽―


 照火の話を聴いた雷人は、さっそく近くにいた仲間達にそのことを伝え、空間の塔に向かった。そこはいかにも敵のいそうな雰囲気ありありの場所で、今にも敵が襲い掛かってきそうだった。


「いいか? オドゥルヴィア博士は既にここに来てるかもしれない! 気を抜くなよ?」


 雷人は細砂と輝光、そして残雪に注意を促した。


「ねぇねぇお兄ちゃん。本当にここに『空間の置物』があるの?」


「ああ。恐らく照火達が向かった時間の塔にもあったからここにもあるだろう」


 すると、残雪が声を張り上げて指さした。


「あれが空間の置物じゃないッスか!?」


 その声にメンバーが指さす方向を見てみると、確かにそこには綺麗に光り輝く置物の姿があった。


「あれだ! 誰か取って来い!!」


「嫌だよ! 自分で行けばいいじゃんっ!!」


 細砂の言葉に輝光も言った。


「そうだよ、お兄ちゃんが行けば?」


 その言葉に雷人の頭に浮かぶ架空の電球に明かりがついた。


「おお! よし残雪、行って来い!!」


「ええぇぇえっ!? 何で毎回俺なんスか?」


 驚愕の表情を浮かべて一歩後ずさる残雪。そんな彼に雷人がいかつい顔で言う。


「何だとぉ~!?」


 その恐ろしい顔に恐れ(おのの)いた残雪は大きくため息をつき、トボトボと歩き出した。しかし、次の瞬間残雪の姿が消えた。


「む? あいつどこに行った?」


「あ~あ、雷人が残雪をパシリにばっかり使うから怒ってどっか行っちゃった!」


「なッ!? だったらお前がやればいいだろう!!」


「ええぇええっ!? わ、私ぃ?」


 細砂は激しく拒んだが、雷人に強引に背中を押され、しかも雷人の作った発明品を無理やり渡され指図された。


「後で覚えてなよ?」


 彼女は口をへの字に曲げ、半眼で後ろで手を組んで仁王立ちしている雷人を睨み付けて言った。雷人が作り出した発明品は高枝切狭とマジックハンドを合体させた様な代物で、細砂はそれを使い空間の置物を手に入れた。


「や、やったぁああ!!」


 思わず歓喜する細砂。その声に雷人も身を乗り出し拳を握る。


「よし、よくやった! 早く持って来い!!」


「うっさいなぁ、分かってるよ!」


 雷人の上から目線の偉そうな言葉にムスッとしながら細砂が文句を言う。スイッチを押してゆっくりと自分の手元まで空間の置物を運ぶと、神々しく光り輝く置物を見て、宝物などの珍しい物に目がない細砂は自分の意思で抑えることの出来ない探求心にモヤモヤしていた。どうせなら今すぐにでもこれを自分の物にしたいという欲望さえも彼女の心のどこかに存在していたのである。まさに細砂はこの空間の置物の美しさに魅了されていたと言ってもいい。しかし、雷人にふと自分の名前が呼ばれるのが聞こえ仕方なくその置物を手渡そうとした――が、突然置物が雷人の手に行き渡る前にふわりと浮かび、どこかに向かって飛んで行った。置物の向かった先は、なんと先程照火達から時間の置物を奪ったオドゥルヴィア博士だった。


「しまった! 急げ!! あいつから置物を取り返すんだ!!」


 細砂と輝光に命令する雷人。


「ったく、何で私達が雷人の言う事を聴かなきゃいけないわけ?」


 細砂は文句を言いながら武器を取り出した。隣で輝光も冷静に目の前の敵に向かって武器を構える。


「ほう、どうやら貴様らもあやつらと同じく十二属性戦士の様だな。面白い、貴様らもあやつらのように殺られたいようだ! よかろう、そこまでこの我に殺されたいのならば、望み通り引導を渡してくれる!! くらえぇえええええッ!!」


 オドゥルヴィア博士は懐から巨大な爆薬を放り投げ攻撃した。


「くそッ! これでは迂闊に近づけない!!」


 雷人は爆薬による土煙で視界を遮られ、敵がどこにいるのか皆目見当もつかなかった。すると、目の前に信じられない光景が広がっていた。そこには細砂に捕らえられたオドゥルヴィア博士の姿があったのだ。


「な……にッ!?」


 驚いて目を丸くする雷人。慌てて黒縁メガネをかけなおし、もう一度その光景を見つめなおす。しかし、やはりそこにはオドゥルヴィア博士が細砂に捕らえられている姿があった。オドゥルヴィア博士自身も驚いているようで


「ど、どうなっているのだ!?」


 と、驚愕の表情を浮かべていた。


「バカだね! 雷人も気づいてないの? 私は砂属性。近場に砂系統の地形があれば、そこは私にとって有利な場所になることはあなたも知ってるよね? だからこれを使って相手の隙をつき、相手の領域に踏み込んだ……ってわけ! ただそれだけのことよ!」


 細砂の説明を聞いた雷人が大声で叫んだ。


「そうだったのか。なるほど、でかした細砂!!」


 ガッツポーズをキメ細砂を褒め称える雷人。しかし、それも一瞬のことに過ぎなかった。

 刹那――鮮血が飛び散った。その血液の一部が雷人の頬やメガネのレンズ部分に付着する。無論その血は細砂の物だった。オドゥルヴィア博士は拘束された状態で邪悪な気を鋭利化し、自分の背後に立っている細砂に向かってそれを勢いよく放ったのだ。それは彼女の腹部から背中を突き抜け真っ赤な血を噴出させた。


「――っ!? ……な、何っ!? ごぽっ!!」


 細砂自身も突然の出来事で今の状況に理解が追いつけていない。


「クックック……愚かな小娘だ! この我を拘束出来れば勝ったとでも思っているのか?それは実に浅はかな考えだッ!! 貴様らは決して、我に勝つことは出来んッ!!」


 オドゥルヴィア博士が拘束を解き、腹部から真っ赤な血をボタボタと落としている細砂を逆に拘束した。


「くっ……!!」


「細砂ッ!!」


「細砂姉ちゃん!!」


 雷人と輝光が必死に叫ぶものの、オドゥルヴィア博士は紅蓮の双眸でニヤニヤと何かを企む笑みを浮かべているだけだ。

 と、その時、背後から残雪がオドゥルヴィア博士に襲い掛かり武器を使って攻撃を仕掛けた。


「細砂を離せぇえええええッ!!」


 残雪の言葉にゆっくりと後ろを振り向く博士だったが、その表情はあまりにも不気味だった。まるで悪魔の様にその瞳が光りニヒッと不気味に口の端を横に広げる。その姿に思わず畏怖してしまう残雪。その間にオドゥルヴィア博士がサッと懐から取り出したのは不思議な物体だった。それは一見水晶のようにも見えた。そして博士はそれを高々と上空に掲げた。何やら嫌な予感がしたが、勢いがついていて、残雪は勢いを緩めることが出来ず、そのまま相手に向かって攻撃した。しかし、思わぬ事態が起きた。残雪が攻撃していたのは、オドゥルヴィア博士が手に持っていた水晶の様な謎の物体だったのだ。しかも残雪はその場からピクリとも動かず、宙で時が停止して固まってしまっている様な状態になってしまっていた。


「ど、どう……したの、残雪?」


 細砂は掠れる様な声で残雪の心配をする。その言葉に、オドゥルヴィア博士はニヤリと笑みを浮かべて言った。


「無駄だ。この小童はもう動くことは出来ん! ……貴様ら十二属性戦士にとって力は体力、動力は魔法だと言っても過言ではない。その証拠にこいつを見ろ! 既に動けない状態にある」


 オドゥルヴィア博士の言葉に細砂だけではなく、博士の話を聴いていた雷人も一筋の汗――ではなく冷や汗をこめかみから垂らしていた。そして息を呑んで口を開く。


「ま、まさか……それは。その水晶の様な物体は『魔力吸収装置』か!?」


「そのまんまだね」


 輝光が呆れた様に半眼の眼差しで言う。


「その通り。この魔力吸収装置は通常の吸収装置の倍の威力を誇っており、体中に漲っている魔力の中でも、一番生命に関わっている魔力の束のある心臓付近から吸収している!即ち……そこから一気に倍の威力で魔力を吸い出したりすればどうなるか。それは無論、この小童のような末路を辿ることになるのだ。要はこいつに触れればこいつの二の舞になり、この様に石になってしまうのだ!! クックック……フハハハハハハ!! どうだ? 手も足も出まい?」


 ジリジリと細砂を拘束したまま近寄ってくるオドゥルヴィア博士の動きに合わせて雷人も少しずつ後ろに体を動かす。だが、輝光が動いていない。


「おい輝光、何をやっているんだ!! 早くしないと残雪の様に体が動かなくなるぞ? まだ、その吸収装置から魔力を取り戻す方法が解明されていないんだ! 無闇に近づかない方がいい!!」


「その小童の言うとおりだ」


「小童じゃない! 雷人だ!!」


「……雷人。こやつの言うとおりだ。実際に作ったのがこの我だから、この際はっきり言っておこう。この吸収装置は一度でも体の一部に触れさえすれば、例え体から吸収装置が離れていても吸収することが出来る優れものだ! どうだ? これでもまだ我に立ち向かう勇気が貴様にあるか?」


 オドゥルヴィア博士の言葉に動揺しながらも必死に耐える輝光。その姿を見兼ねた細砂が痛みを我慢し、自分の顔の下に腕を回して拘束しているオドゥルヴィア博士の腕にガブリッと噛みついた。


「うぐぅあぁッ!! き、貴様……ッ!?」


 予測しえない事態に飛び上がって細砂を突き飛ばし、噛まれた腕をもう片方の腕で押さえるオドゥルヴィア博士。雷人は細砂の体をタイミングよく受け止めた。


「大丈夫か?」


「う、うん……ありがと。それよりも、あいつを……」


 細砂が指さした方向には、腕の痛みに体をふらつかせるオドゥルヴィア博士の姿があった。


「おのれ……ェ! ならば、貴様の義妹の魔力を奪ってくれるッ!!」


 標的を輝光一人に絞り、その居場所に向かって走り出すオドゥルヴィア博士。危機を察知した輝光は、素早い動きでクナイを放った。そのクナイは運よく博士が片手に持っていた魔力吸収装置に直撃し、水晶を砕け散らせた。同時に、空中で石像同然に固まっていた残雪が行動を再開した。


「うわッ!」


 そして、そのまま地面に激突し顔面を強打する。


ゴンッ!


「イテッ!!」


「チッ! ……まぁいい。十二属性戦士の一人に深手を負わせただけでもよしとしよう。後は次元の置物だけだな。貴様らにもう用はない! ここで、死んでもらおうッ!!」


 オドゥルヴィア博士はそう言って(おもむろ)に懐から何かのスイッチを取り出した。見た所、爆破スイッチのようだ。それは、オドゥルヴィア博士がスイッチを押してカチッという効果音と共に周囲から巨大な爆音が聞こえたことでも理解できた。

 家で例える梁の役割を果たしている大きな円柱が真ん中に立っているのだが、それが一瞬にして土煙に覆われる。ゴゴゴゴ…!! という音が辺りに響き渡り、建物の壁によってその音が反響して聞こえてくる。煙の中、未だに周囲を覆ってしまっている煙で出口を見失った十二属性戦士は、お互いの背中を合わせあい、四方八方を見渡せる状態を作り出した。

 その時、巨大な柱が十二属性戦士のいる場所に倒れてきた。


「まずいッ!!」


 雷人は大声で皆に柱が倒れてきている事を伝えると、その場から一目散に逃げた。実際、雷人の持つ電撃で落下してくる円柱の太い柱を支える事も粉砕する事も可能だったのだが、何分細砂をおんぶしていたため、それをしてしまうと重傷を負っている事もあって細砂を殺してしまいかねないと想い逃げるという選択肢しか選べなかったのだ。

 雷人自身の目では確認することが出来なかったが、どうやらみんなちゃんと逃げることに成功したようだ。気を失っている細砂をおぶっている雷人は、彼女の容体を確認し、それから周囲を見渡して仲間がいないかどうかを確認した。しかし、どこにもメンバーの姿はない。やがて爆発音が聞こえなくなり、辺りは静まり返った。雷人は、気を失っている細砂の体を横にし、片手に白い布を握らせて腹部に優しく当てた。すると、ジワジワと白い布が血で滲んで真っ赤に染まった。雷人は立ち上がり辺りを見回した。


――この空間の塔に来た人数は私を含めて四人。細砂はここにいるとして、残りは残雪と輝光か……。



 心の中でそんなことを呟いていた雷人は、その重たい足を動かし一歩ずつ前に進んだ。顔を左右に動かし二人がいないかどうかを確認する。


――頼む、二人とも無事でいてくれ……。まぁ、残雪は半分どうでもいいが。



 と、多少毒づきながら心の中でそう祈った。


―▽▲▽―


 雷人が二人を探し続けて二時間が経過した。煙が薄くなり、視界がよくなる。雷人はさらに念入りに捜索した。そして、ようやく残雪を見つけた。


「なんだ……お前か。っと、今はそれどころじゃないな。おい、残雪! しっかりしろ!!」


 自分の名前を呼ぶ声に気付いたのか、残雪はゆっくりと目を開けた。


「ら、雷人。空間の置物はどうなったんスか?」


「ダメだった。それよりも、輝光を知らないか?」


 周囲を再び見回しながら不安な表情を浮かべて残雪に訊く雷人。


「いや、見てないッスね」


「そうか。向こうに細砂がいるから見ててくれ! 私は輝光を探してくる!!」


 雷人はそう言って再びその場に立ちあがると、周囲を捜索しに歩き出した。すると、元々出口のあった辺りで輝光の声がした。


「お兄ちゃ~ん!!」


 不安な表情を拭い去ってくれるかの様な明るい声が雷人の耳に聞こえてくる。


「輝光ー! どこだ、何処にいるんだ~?」


 雷人は大声で叫んだ。


「こっちだよ~!」


 輝光の声のする方へ向かうと、壁や瓦礫などの残骸が山積みになったてっぺんから輝光がひょっこりと顔を覗かせた。


「ここ、ここ~!」


「そこで何やってるんだ?」


 雷人がなるべく声の通りやすい様に口の周りに手で丸く囲いを作り、声を張り上げる。


「こっちに抜け道があるんだけど、この壁が邪魔してるの~!」


 雷人は少し考え込んだが、次の瞬間いいことを思いつき、


「今行くから少しそこから下がっていろ!!」


 と、義妹の輝光に命令した。コクリと頷いた輝光はその場から姿を消した。どうやらちゃんとその場から遠ざかったようだ。一方で、雷人も作業を開始していた。その場にしゃがみこみ、荷物の中から何かを取り出す雷人。そしてニヤッと笑みを浮かべた。


「行くぞぉ~! うおおりゃああああああああああッ!!!」


 大声で真っ直ぐ障害物に向かって走って行く雷人。雷人が手に持っている芝刈り機の様な先が鋭利なドリルは、障害物の硬さなど完全無視でどんどん救出口を切り開いていく。そして十分もかからずに人一人が抜けるには少し大きすぎるくらいの大きさのトンネルが完成した。


「よしッ! このくらいの大きさなら怪我してる細砂も通れるな……。ちょっと待っててくれ~!」


 そう言って雷人は輝光をその場に待たせ、細砂達が待っている下へと走って行った……。

というわけで、後半です。空間の置物を取りに向かった雷人、輝光の義兄妹と残雪と細砂という変わった組み合わせ。そして、そこに再び現れるオドゥルヴィア博士。隙を狙い細砂が彼を拘束しますが返り討ちに遭い、腹部を貫かれて瀕死の重傷を負います。しっかし、この博士……何でハンセム博士といい細砂といい、腹部ばかりを狙うんでしょうかね?

とまあ、そんな素朴な疑問はさておき、用がなくなったからと空間の塔を爆破するオドゥルヴィア博士。が、何とか全員無事でした。

果たして、細砂はどうなるのでしょうか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ