第二話「オドゥルヴィア博士襲来!!」・1
十二属性戦士は三つ目の封印を解くために、時空元の塔の中を捜索していた。その三つ目の封印を解くための方法というのが、時空元の塔に隠されている『時間の置物』・『空間の置物』・『次元の置物』の三つを手に入れることだった。そして現在、彼らはそれを探して塔の中をウロチョロしていた。
「なんや急がんと、城で聴いたオドゥルヴィア博士とかっちゅうやつが来るんやろ? 相手もわしらと同じもん探しとるみたいやし、急いだ方がええんとちゃうか?」
夢幻は必死に探しているような口調で喋っているが、実際の所近くから全く動いていない。
「口ばかり言ってないでよく探せ!!」
暗夜の真面目に探す姿を見て、はぁ~と大きく嘆息しながら捜査に加わる夢幻。すると、雷人の持っているパソコンに記してあったスピリット軍団から得た情報のヒントを元に、爪牙が急に血相を変えて時間の塔へ走り出した。
「おい爪牙! どこに行くのだ?」
「もしかしたら置物があるかもしれねぇ!!」
「――ッ!? どういうことだ?」
爪牙の言葉に雷人が腕組みをして首を傾げた。
「パソコン見てみろ!」
そう言われて他のメンバーも雷人のパソコンの画面を見つめる。そして、爪牙が画面に指をさした。その情報の一文にはこう書かれていた。
【三つ目の封印の一つ目の鍵を解くには、時間・空間・次元の三つの置物を手に入れるべし。また、それぞれの場所の頂上にそれらの置物は封印されている】
「このそれぞれの頂上ってのが要は時間の塔、空間の塔、次元の塔って意味だろ? っつーことは、それぞれの頂上に行けばそれぞれの置物があるってことなんじゃねぇのか?」
爪牙の説明を聴いてメンバーはおおっ! と感心した。いつも、喧嘩っ早いあの暴れん坊の爪牙が珍しく頭を使い、頭脳派的な発言をしたからだ。
「なるほどな……」
雷人は腕組みをしたまま、うんうんと頷き爪牙の推測を信じて照火と葬羅と雫の三人を同行させた。
「私達は他の置物を探しに行くぞ! もしも、爪牙の立てた推測が正しければこいつの言うとおり、それぞれの頂上に置物があるはずだからな。私達は空間の塔に向かうから、時音、お前達は次元の塔に向かってくれ」
その指示に時音は頷き、仲間を連れて次元の塔の方向へと向かった。
――▽▲▽――
「ここが最上階か……」
照火は天まで届くくらいの螺旋階段を上り終え、すっかり疲れていた。葬羅も胸を押さえ、苦しそうにして肩で息をしている。
「待ってろ、中の様子を見てくる!」
「ダメだよ! もしかしたら博士が先に入ってるかもしれない!! 四人で入った方が迎撃もしやすいと思うよ?」
焦る爪牙がさっさと先へ進もうとするのを雫が慌てて止め、照火もうんうんと頷きながら爪牙に言った。
「そ、そうだ! 雷人が何のために俺らを加えたと思ってんだ! 火・水・草……そして岩! 自然属性の四種……四人が揃ってるんだ! そうそう俺らのコンビネーション技に対抗できるようなやつはいないはずだ!!」
これにはごもっともと思ったのか、爪牙は一度深く深呼吸し、口元に笑みを浮かべるとわかった、と言って三人の呼吸が整うのを待った。
それから四人はようやく時間の塔の最上階に辿りついた。そして、銀色の扉の取っ手に手を掛けた。
「よし! 開けるぞ……」
爪牙はゆっくりとその扉を開けた。その中はたくさんの歯車がゆっくり回転しており、静かに動いていて、静寂な雰囲気を感じさせた。
「この感じ……、初めてここに来た時と同じ感じですね」
葬羅に言われて他の三人も共感した。三年前に時空元の塔に初めてやってきた時のことである。さらに少し奥の方まで歩いていくと、真上に光り輝く謎の球体があった。目を凝らしてよく見た瞬間、
「あれだ! あれが『時間の置物』だ!」
と、照火が大声で叫んだ。
「おい照火、少し静かにしろ。敵がどこから攻めてくるか分からねぇんだ。面倒事はなるべく避けてぇ……」
珍しい。爪牙からこのような言葉が出てくるとは。そう思う三人は少し感動と同時に動揺を感じていた。あまりにもの爪牙の成長ぶりに照火が思わず涙ぐんでしまうほどだ。周囲に敵がいないことを確認し終え、照火から置物を手渡してもらい誰にも奪われないようにと雷人からあらかじめ渡されていた厳重なロックを掛けることの出来るカプセルの中に入れようとしたその時、何処からか低い含み笑いが聞こえてきた。
「フッフッフッフ……残念だったな。考えはいいが、この我に歯向かう事は誰にも出来んッ!!」
そう言って四人の十二属性戦士の前に姿を現したのは、白髪頭に縁が丸い片眼鏡をかけた白衣姿の老人だった。宙に浮かんでおり、風に靡く様に白衣とその長いヒゲが揺れ動く。爪牙、照火、葬羅、雫の四人はその姿を見た瞬間驚愕の表情を浮かべた。なぜなら、この男こそが中に属性戦士が二年前にハンセム博士の作ったタイムマシンで過去へ行った際に目撃した人物――オドゥルヴィア博士だからだ。
「まさか……。封印が解かれたとは聞いてたが、ここに現れやがるなんて……ッ!?」
爪牙が歯軋りして目の前の敵を睨めつける。
「フッフッフ……封印を解くためだ、ここに来るのは当たり前だと思うのだが?」
オドゥルヴィア博士は宙に浮かんだまま四人を見下す。その紅蓮の真っ赤な双眸が彼らを鋭く睨み付ける。その双眸に睨まれた四人は、金縛りに遭ったかの様にその場から動けなくなった。
「なっ、何ですか……これ!? う、動けません!!」
葬羅が必死に抵抗してか細い肌白の腕を動かそうと試みるが、なかなか思うように動かない。
「クックック……その置物は貴様らが持っていても何の役にも立たぬ代物だ。大人しくこの我に渡せッ!! さもなくば、貴様ら――否、十二属性戦士は世界の終わりと同様、この世から姿を消すことになるぞ? それでもよいのか?」
「くっ……俺達のことを知っている!?」
「当たり前だ。二年前、一度封印が解けかけた時にも密かに魔力を感じていたさ。数十年前の時代に貴様ら六代目十二属性戦士が来たことも知っておる。無論どうやって来たのか、その方法も……な?」
「何て奴だ」
「俺達はこの世界を守るために十二属性戦士を再結成したんだ! 何で俺達が記憶を失って身寄りのない人達にひっそりと育てられてたのかは知らねぇが、てめぇみてぇなやつに後れをとれば、ただの弱い兵士だ!! 俺達は決しててめぇの言う事なんか聞かねぇ!!」
その言葉にオドゥルヴィア博士はチッと舌打ちし、その場から瞬時に姿を消すとどこからともなく現れ爪牙のがら空きの鳩尾に鋭いコークスクリューを繰り出した。
「がはッ!!」
凄まじい衝撃波が急所を直撃し、爪牙は口から体液を吐き出して地面に膝をついた。さらに体勢を崩したと同時に時間の置物を落としてしまった。
「しまった!!」
腹部を片手で押さえ、もう片方の手で置物に向かって飛びかかる。しかし、その手の上からオドゥルヴィア博士がブーツを履いた足で爪牙の手の甲を踏みつけてきた。
「ぐあぁあァぁあアアぁあッ!!」
「その穢らわしい手を離すのだッ!! それは貴様らの物ではない、この我の物だッ!!」
苦しそうに声を上げる爪牙。それに対しオドゥルヴィア博士はさらに追い込むかの様に足でグリグリと押す力を強めていく。
「やめろぉおおおおッ!!」
照火が襲い掛かるものの、オドゥルヴィア博士は半端ではない攻撃力を誇る武器で返り討ちにする。その間にも爪牙の手は的確なポイントを踏みつける足の攻撃に我慢しきれない。体中に電気を浴びせられている感じだ。
「くっそぉおおッ!!」
爪牙はついにその痛みに耐え兼ねて置物から手を離してしまった。それを見たオドゥルヴィア博士はゆっくりと置物に手を伸ばした。
と、その時、博士の腕に植物のツルが絡みついた。
「ぬッ!?」
「爪牙さん、早く置物を!!」
葬羅が手助けしてくれたおかげで何とかオドゥルヴィア博士の手に渡る前に置物を取り返すことが出来た。しかし、それもほんの一瞬の時間稼ぎにすぎなかった。すぐさまオドゥルヴィア博士は強力な除草剤を撒き散らし植物を枯らしてしまった。
「きゃっ!!」
葬羅もまた、その除草剤にやられ軽傷を負った。
「葬羅っ!? て、てめぇぇええええええッ!!」
何度も攻撃する照火だが、どの攻撃もやはりオドゥルヴィア博士の発明品には敵わず、攻撃の殆どが効いていなかった。
「とぅおりゃっ!!」
雫も背後から攻撃をしかけたが、やはり効果はいま一つだった。結局またしてもオドゥルヴィア博士に置物を奪われてしまった。
「クックック……。ようやく手に入れた、『時間の置物』ッ!! 後二つ手に入れれば、三つ目の封印の第一の鍵が解き放たれる! 待っていろWWWよ! 必ずこの我が手に入れてやる!! クックック……、フハハハハハハハッ!!!」
オドゥルヴィア博士は大きな声で高笑いし、空間へ混じりその姿を消した。
「おい、大丈夫か? 三人とも……」
急いで三人の下に駆け寄る照火。しかし、三人とも傷はそこまで深くはないものの、体力を相当奪われてしまっていた。照火は懐から無線機を取り出し雷人に無線を繋いだ。雷人に念の為にと手渡されていたのだ。
「もしもし雷人か? すまない……。オドゥルヴィア博士がいきなり現れて手傷を負わされた上に時間の置物まで奪われてしまった」
〈そうか、分かった。先にホールに戻って休憩していてくれ! 私達は他のやつらにそのことを伝えておく!!〉
雷人との通信が途絶え、照火は三人とホールへ向かった。
というわけで、第二話です。時空元の塔に三年ぶりにやってきた十二属性戦士は、置物を探しにそれぞれの塔のてっぺんを目指します。
そして、そこに現れた含み笑いじじいの魔豪鬼神、オドゥルヴィア博士。そいつに足を踏まれる爪牙。これがヒールだったらもっと食い込んでたでしょうね。まぁ、男だからヒールなんか履かないでしょうけど。いや、オカマだったら……ry
そして、後半では。