第十四話「力の消失」・1
十二属性戦士がその場で悩んでいると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。――闇の神ブラックと鎧に身を包んだ鎧一族の末裔ラグナロクだ。
「どうした皆、こんなところで?」
「どうやら光と影計画を無事阻止してくれたようだな。ご苦労だった」
ブラックは側にある大きなWWWの残骸を一瞥して十二属性戦士に礼を言った。すると、十二属性戦士の暗い顔を見てラグナロクが口を開いた。
「どうした? そんな浮かない顔して」
「ラグナロクの言うとおりだ。もう少し喜んだらどうだ?」
ブラックの言葉に十二属性戦士は顔を見合わせて言った。
「実は、かくかくしかじかで――」
楓の説明を聴いた二人は驚愕を露わにした。
「……本当なのか?」
「恐らく何か原因があると思うんだ! だから、ハンセム博士と一緒に調べようと思って夢鏡城へ行こうと思っているのだが。力がない以上歩いて戻るしかないな……」
雷人がふぅむと顎に手をやり思案する。すると十二属性戦士のその可哀想な姿にラグナロクが咳払いをして皆の注目を集めた。
「私、瞬間移動出来る道具持ってるぞ?」
「本当!?」
雫が身を乗り出した。
「まぁまぁ、落ち着くんだ。確かここら辺に……ん? あれ? 何処行ったんだ?」
ラグナロクが土の地面に荷物を置き、中身を漁って調べた。
――▽▲▽――
十分後……。
「あったのか?」
照火が言うと、ラグナロクは申し訳なさそうに顔を横に振りながら言った。
「ごめん、どうやら何処かで落としたみたいだな」
「ま、まぁ気にしないで? 何とかなるよ!」
雫が必死にラグナロクを励ます。すると、何かを思い出したのかラグナロクはもう一度荷物を漁り、中から何かを取り出した。それは、ブラックと一緒に戦艦――ヴルイメルティニクスを脱出するのに使った物とは少し違った物だった。
「何だそれ?」
雷人が興味津々に訊くと、ラグナロクはそれを腕に着けながら言った。
「これは、私が最初に使おうと思っていた物よりも少し性能が劣るやつなんだが、一応瞬間移動することは出来る! だからこれを使えば夢鏡城にも戻ることが出来る!! だが、これには――」
「何でもいいから頼むッ!!」
最後までラグナロクの説明を聴かずに雷人が準備をした。ラグナロクはいまいち乗り気なさそうな顔で皆の手を繋ぐと、声を張り上げて詠唱を唱える。それと同時に、十二属性戦士と闇の神の一同は一瞬の内に別の場所へ瞬間移動した。
――▽▲▽――
しばらくして、さっきまで十二属性戦士がいた場所に天の神セイラが現れた。どうやら、神界での罰とやらは終わったらしい……。
「お待たせ――あれ? 皆、何処に行ったの? ……ま、まさか私を置いて先に行ったわけぇ~!? 許せな――あっ、いっつ~。もぅ、お父様ったら加減ってものを知らないんだから。で、でも……結構気持ち、よかった……かも。って、ないない! そんなの絶対にありえないわ! よりにもよってこの私が! そんな! そ、そうだわ! あの子達一体どこに行ったのかしら!」
セイラは怒りのオーラを周囲にまき散らしながら真っ白な翼を広げ飛び立った。ふとある部分に手をやりさすっている事を誰にも見られないようにしながら。
――▽▲▽――
十二属性戦士は奇妙な森の中に墜落していた。
「うわぁ!! イテッ、どこ、ここ?」
雫が周囲を見渡し場所を確かめる。他の皆も腰を擦りながら見渡すものの、見覚えがない物ばかり。一体何処へ飛ばされたというのだろうか。
「どういうこと? 夢鏡城に瞬間移動したんじゃなかったの?」
楓の言葉にラグナロクはズボンの裾に付いた泥を落としながら言った。
「だからさっきも言っただろう! 戦艦を脱出する際に使った道具とは違って性能が劣るけど、それでもいいのか? って…」
「そんな話聴いてないよ?」
きょとんと不思議な顔を浮かべる雫にラグナロクが歯噛みして声を張り上げ言った。
「ぐっ! し、仕方ないだろ? 急いでたんだから」
「じゃあ、全部雷人のせいって事ッスか?」
「うぐ!?」
雷人は周囲のメンバーから冷淡な目で見られた。
「何だよ!」
背中を木に押し付けながらメンバーから距離を取ろうとする雷人。
その時、空から翼の羽ばたきの音と共にセイラが宙から舞い降りてきた。思わず不意にその真っ白な純白のスカートから下着が見えてしまう。
「……白か」
「きゃあああ!」
ドゴッ!
「ふぐぉ!」
背中を木で防がれていたため、逃げ場所のなかった雷人はモロに腹部を杖で突かれた。
「信じらんない! この偉大なる熾天使であるセイラ様のぱ、パンツを覗き見るだなんて! 不届き千万よ! 次やったら神罰与えるわよ? まぁ、それはそれとして。ちょっと皆酷いじゃないっ!! 待っててって言ったのに」
「す、すみませんセイラさん。雷人がすぐに追いつくだろうから先に言ってようって言ったものですから」
楓の言葉を聴いてセイラが怒りのオーラをさらに倍増させるのを見ていつも冷静な雷人が珍しく焦り出した。
「ちょっ……待――」
雷人が顔を青冷め震え上がり、否定の言葉を上げようとした時、セイラは“あの目”で彼を睨み付けた。
「いや。あの、私が悪かった! だから許してくれ!!」
珍しく地面に跪き、手を合わせるようにして謝った。よほど殺されたくないのだろう……。
「ふ、ふ、ふ、……ねぇ、後で話があるから」
セイラは満面の笑みを浮かべていたが、目は笑っておらず雷人を容赦なく許すことはなかった。雷人は放心状態でその場に座り込んだ。
「あの、セイラさん。私達力を失ったみたいなんです。それですぐにでもその原因を調べたくて夢鏡城へ行きたいんですけど」
「あら、そんなの簡単よ?」
楓から事情を聴いたセイラは皆を近くに集めると、翼を大きく広げた。すると、それと同時に翼が美しい虹色に光り輝き、十二属性戦士を夢鏡城へ飛ばした。
皆が気付くと、そこは夢鏡城の城門前だった。
「どうやらついたみてぇだな」
爪牙が久しぶりに帰ってきた故郷を見るような目で周囲を見渡した。そして、一同は夢鏡城の中に入って行った。
刹那――皆既に情報を入手していたのか、十二属性戦士が入ってくると同時に一斉にファンファーレが鳴り響き、パラパラと花吹雪が舞った。鎧を身に着けた何人もの兵隊や、鉄砲隊がズラ~ッ! と整列し軽快にラッパを吹き鳴らす。敬礼をし、十二属性戦士を厚く持て成す夢鏡城の人々。しかし、夢鏡城を歩いていた時のこと、気づけばなぜかセイラの姿はなくなっていた。
「あれ? どこに行ったのかしら?」
時音が楓に訊くが、楓は首を傾げただ「さぁ~?」としか言わなかった。
五階に到着し、赤い絨毯が引かれた長い廊下を抜け大きな出で立ちの扉の前に立つ十四人の十二属性戦士。兵隊の一人が扉を開け、深くお辞儀をする。十二属性戦士はまるで何処かの偉い人かの様に奥へと案内された。さらに奥へ行くと、ようやく王の間に着いた。玉座の上に二人、夢鏡城の第六代目国王と女王が座っていた。二人とも杖を持っていて、少し不思議な印象を受けた。
「十二属性戦士、ただいま戻りました!」
楓が十二属性戦士の面々を代表して眉をキリッと吊り上げ敬礼する。
「話は聴いているよ。光と影計画を無事に阻止し、WWWを見事倒したそうだな! ご苦労だった」
国王の神崎零は偉そうに足を組んだ姿勢で言った。すると、照火が楓をどけて前に進み出て零に向かって愚痴をこぼすように言った。
「そんなことよりも大変なんだ! 俺達の力が消えてしまったんだよ!!」
「何!?」
零は目を見開かせて驚愕した。その言葉に隣にいたフィーレも渋面を作る。
「ちょっと照火、失礼でしょ!?」
慌てて照火を後ろに下がらせる楓。それから零に向けて一礼して謝罪する。
「すみません!」
「いや。そんなことよりも力が無くなったというのは本当なのか!?」
少し口調を強めて言う零。確認をとっているのだろう。それほどまでに十二属性戦士が力を失う事は大変な事態なのだ。
「ちょっと零。少し落ち着いて? この子達もパニックになってるはずだから」
優しく夫に語りかけるフィーレに、零がちらと隣を見やり口を開く。
「あ、ああ……そうだな。ちょっと水でも飲んでくる」
零は頭を押さえながら玉座から降りると奥の部屋へ消えた。その事を確認した女王フィーレは、玉座から降りて十二属性戦士の目の前に立った。身長はそこまで彼らと大差ないが、一応年齢の差はある。
世界四大神の太陽の神でもあるフィーレは、十二属性戦士をグル~ッと見回し口元に笑みを浮かべると口を開いた。
「うふ。詳しい話、訊かせてもらえるかしら?」
「はい。雷人、頼んだわよ?」
「ああ、分かった」
雷人は白衣のポケットに手を突っ込み、フィーレと共に別の部屋へと向かった。すると、十二属性戦士の背後の扉が開き周囲を警戒しているセイラが入ってきた。
「何処に行ってたんですか?」
「……ん~、ちょっとね? 私、人間はそこまで好きじゃないのよ。どちらかっていうと、苦手な部類に入るし……。あっ、でもあなた達は別よ?」
セイラは少し十二属性戦士に気を遣って言った。それがただの人間ではなく神王族の血を引いているからなのかどうかはよく分からなかった。
それからしばらくして、ようやく二人が戻ってきた。
「……大体の事情は分かったわ」
フィーレが十二属性戦士に話しかけていると、ふとフィーレの視線がセイラに向けられた。
「……あ、あなたは」
珍しい客人を見るかのような視線をセイラに向けたフィーレ。その様子に慌てたセイラは、思わず何もない場所で躓きながら話し始めた。
「お、覚えてない? わ、私は自然界の三大神の一人、天の神セイラよ! あなたの父親である大神ゴーミストとは兄妹で私は妹なの。つまり、あなたは私から見て姪ってこと!」
手早く説明し自分との関係を教えるセイラ。すると、フィーレは少しきょとんとした表情を浮かべたが、あくまで冷静な態度を取り続けたままで言った。
「ええ、覚えてますよ。セイラさんは私の叔母様ですよね?」
「お、おば――!? ま、まぁ……そういうことになるんだけど、もう少し言い方というものを……まぁいいわ。少し用があって来たんだけど、暗黒の神はいるかしら?」
セイラは話題を転換させ、本題へと移行した。同時に表情も真剣な物へと変わる。フィーレはそんなセイラの単刀直入の言葉に、ふぅと一呼吸置いて言った。
「いいえ、見ていません。第一、あの子は封印して今も漆黒の門の向こうに――あっ」
「そうよ。漆黒の門は破られた。もうあそこに封印してあるものは全てなくなったの。外に漏れ出したかもしれないし、空間と共に消滅したかもしれない。だから、もしかすると暗黒の神も――」
「でも、あの子は生きています! でなければWWWの砲撃を防げるはずがありません。だから、ジョーカーも生きています!!」
一瞬セイラの言葉を途中で遮ってキレさせてしまうのではないかと十二属性戦士は恐れたが、そんなことはなくセイラは至って優しい微笑みを見せているだけだった。まさに天使のような笑顔。まるでそれは可愛い姪の必死な姿を見て嬉しく思っているような、そんな表情だった。
と、そこで――。
「ジョーカーって誰?」
名前の人物が気になった輝光が雷人に訊いた。
「ジョーカー=N=ナイトメア。暗黒の神の名前で、世界四大神の一人だ。大神の息子であり、太陽の神であるフィーレの弟でもある。随分前に行方をくらまして以来姿を見せていないらしい」
得意気にメガネをカチャッ! と上にあげ説明する雷人。
「じゃあ、要するに行方不明ってことなんだ」
雫が縦に頷きながら言う。皆がその場で呆然と立ち尽くしていると、向こうからプシューッ! と音を立て、白い煙を発生させながら一人の白衣姿の男が姿を現した。コツコツと靴底の足音を立たせているその男の正体は――ハンセム博士だった。
というわけで早いものでもう最終話です、Ⅲの。
さて、力を失ってしまった十二属性戦士は途方に暮れ何とかラグナロクの力で城に戻ろうとするのですが――無理でした。そして、そこへ怒らせるとこわーい天の神が再降臨し、ありがたいパンチラをしてひと悶着した後城に連れて行ってくれました。雷人は呼び出されて何されるんでしょうね。くわばらくわばら。にしても、罰は結局なんだったんでしょうかね。ある部分を押さえてたと言っていますが、さてどこなのか。
さらに、城で出会う姪と叔母。まぁ、見た目は明らかに叔母でないんですけどね。そしてついにセリフ内でも出てくるようになってきた暗黒の神。
この人だけまだ未登場なんですよね。世界四大神のなかで唯一。まぁ、Ⅰの挿絵で顔出しはしてるんですが。ちなみに自然界三大神の他の二人もまだ出ません。
では後半を引き続きどうぞ。




