第十一話「三要素の消滅」・2
「な~に、これを使えば周りの壁は絶対に邪魔をしないし簡単に破壊することが可能だと思ってな」
「せやな……しっかし、よぅ出来たもんやのぅ~!」
夢幻が剣を構えながら周囲を見渡す。
その時、ミシミシッと奇妙な音が聞こえてきた。
「何だ?」
それはあの金属のスライムからだった。なんとあの周りの壁が金属など無視で、強制的に絶対防御の壁を作ろうとしていたのだ。
「まずいッ! 急いで次元のコアを破壊するんだ!!」
雷人が言ったが時すでに遅しだった。さきの二倍のスピードで周りの壁が絶対防御の壁を作り出したのだ。しかも、沈む床から足を離しているというのに全く壁を開こうとしない。
「くっ! 一体どうすれば?」
そんなことを楓が考えていると、地響きを立てて勢いよく壁が吹き飛んだ。壁の中心からは大きな爆発音が鳴り響き、煙を舞い上がらせている。
「どうなってやがんだ?」
爪牙が腕で飛んでくる壁の破片を避けながら言った。
「どうやら成功したようだな」
雷人は何やら知った風な口調だ。皆は疑問符を浮かべていた。すると十二属性戦士の近場の足場の床が盛り上がり、細砂が姿を現した。
「細砂! お前何やってんだ?」
爪牙が訊くと、細砂はズボンの膝についた僅かな土などを払い落としながら言った。
「雷人に頼まれたんだ! 『外がダメなら内側から破壊してくれ!』って! それで雷人が創った爆弾を渡されたから、内側に潜り込んで爆弾をセットしてきたの! なかなかの威力だったね」
細砂が自分の服で顔を拭いた。爆弾の煙で顔がさっきまで真っ黒だったのが今では元に戻り、代わりに服の一部が汚れてしまう。
「そんなところで拭いて後で取れるんですか?」
「さぁ? でもまっ、大丈夫でしょ!」
お気楽な細砂はそう言って笑顔で誤魔化した。
その時、次元の効果がなくなったのか、さっきまであちこちに影響を及ぼしていた重力がなくなり、さっきまで壁にくっついてその格好を楽しんでいた白夜が地面に降り立った。
「どうやら完全にコアを破壊したみてぇだな……」
白夜がいつものようにポケットに手を突っ込みながらも少し残念そうな顔をした。
場所は次元の塔から随分と上に上がった階層。外へと繋がる道があり、そこを通って十二属性戦士の内の何人かが外の景色を眺めていた。ウィリヴェラスが夢鏡王国に着いた場合に知らせるようにだ。
「う、ふぁ~あ! 眠いなぁ~……」
照火が大きな欠伸を一つして言った。目を擦りながら辺りを見回す。
日は昇って行き、時刻は朝の七時を示そうとしている。ウィリヴェラスは未だに動き続け夢鏡王国を目指し続けていた。
「にしても、雨が続いているせいか気温が下がって来てるな……」
炎属性戦士である照火もさすがに体温が下がってきていた。
「一体どうなっているんだ? 俺が寒がるなんて滅多にねぇことなのに」
照火が不思議に思いながら体を震わせた。周りの気温は少なくとも予想で十四℃くらいだろうか?
その時、薄暗い景色の中で幾つかの光が見えてきた。
「ま、まさか……?」
照火の思った通りだった。その光は夢鏡王国からの物だったのだ。
「このままだとこいつが王国の人たちを襲ってしまうッ!! ……急がないと!!」
そう言っていた矢先のことだった。十二属性戦士のメンバーの何人かが扉の前に立って何やらざわついていた。
「どうかしたのか?」
「照火、実は扉が変形していて入れないんだ」
「そんなの、俺にとっちゃ関係ないに等しいぜ!!」
照火は皆をその場から遠ざけ灼熱の炎を手に生み出すと、変形しているという扉に思い切りぶつけた。ジュワ~ッ! と音を立てながら溶けていく扉。金属で出来ている扉は、跡形もなくグシャグシャに変形し見る影もなくなった。照火は変形した扉をどけ中に入ると、他の十二属性戦士をその場に残し、一足早く走って行った。しかし、彼は先程ウィリヴェラスがどこを歩いていたのかを思い出し、それを仲間に伝えておこうと仲間の元に戻った。
「どうしたんだ? 行ったり来たり忙しい奴だな」
雷人がボソリ呟く。
「そ、それが。ウィリヴェラスがもう夢鏡王国に向かって歩きはじめてるんだ!」
「な、何!? それは本当なのか?」
「ああ……」
「……くッ!」
唇を噛み締める雷人。すると、隣から楓が話しかけてきた。
「これからどうするの?」
「……もちろんこのまま先に進む! まだ空間のコアが残っているし、最上階にはおそらくオドゥルヴィア博士もいるはずだ!!」
そう言って十二属性戦士は螺旋階段をさらに上がって行った。その先には空間のコアを守っているかのように空間を表す機械が稼働していた。ゆっくりと決まった方向に動き続ける機械。雷人はそれにしばらく見惚れてしまった。
「素晴らしい……」
感嘆の声を漏らし目を爛々と輝かせる雷人。それを見て慌てて楓が現実に引き戻すかのように雷人の腕を引っ張った。
「ちょっと、そんなことしてる場合じゃないでしょ? 夢鏡王国の人達が今にも襲われるかもしれないのよ?」
「わ、分かってる!」
雷人は我に返り自分の持ち場についた。他のメンバーも同様に……。
十二属性戦士は中心に聳え立つ空間の機械を取り囲むようにして立ち魔力を練り始めた。まず初めに考えた案は、コアの周りを回っている邪魔な機械を破壊することだ。これを破壊しなければコアを破壊することは出来ない。そこで雷人は力仕事を得意とする爪牙や魔力の使い方が一番上手い残雪に時間のコアを破壊した時に使ったドライバーを渡した。
「これを使えば簡単にネジを外せるから、後は頼んだぞ?」
「分かった!」
「了解ッス!!」
二人は大きく頷きそれぞれ別の方向に回った。
「私達は何をすればいいの、お兄ちゃん?」
「とりあえずコアを破壊するのに邪魔な部分の機械を片っ端から破壊していってくれ!!」
雷人の言葉に輝光達は急いで指示された場所へと向かった。
邪魔な部分を破壊しはじめてから約五分後。あっという間に周りを回っていた機械はなくなり、コアは丸裸状態になった。
「これで楽に壊せるな!」
夢幻がやりきったと言う風に額の汗を拭う。
「お前は特に何もしてないけどな……」
それに冷静ながらもしれっと鋭いツッコミを放つ暗夜。
「まぁ、細かいことは気にせんと!」
そう言って夢幻はポンポンと暗夜の肩を笑いながら叩いた。
その一方で雷人は特別な弾丸を武器に装填し引き金を引いた。
パンッ!!
空間のコアがある部屋に響き渡る一発の銃声音。
これで空間のコアは破壊された――誰もがそう思った。が、そう上手くもいかなかった。突然コアの周りが輝いたかと思うと、急激に周りの機械が復活して再び稼働しだしたのだ。しかも、さっきよりも倍のスピードで動いているため攻撃することも適わない。だが、雷人は少しも慌てることなく事に対処した。慌てる皆を落ち着かせ、自分も一度深く深呼吸する。そして時音を自分の近くに呼びつけると言った。
「何度もすまないが、また一つ頼まれてくれ!! スローでいいから、あの周りの機械の動作を遅くしてくれないか?」
「……で、でも」
「頼むッ!! もうお前しか頼むことが出来ないんだ!!」
雷人は手を合わせながら深く頭を下げた。その言葉に少し時音はドキッとして頬を染めた。それから少し思案し始める。
――まぁ確かに時間を操ることが出来るのは私だけだから、私にしか頼めないのは当たり前なんだけど……。
というツッコミはひとまず心の奥にしまいこみ、時音は「ふっ」と笑みを浮かべて言った。
「分かった。どれくらい出来るかは分からないけど……やってみる!」
時音の返事を聴いた雷人の表情が一気に明るくなった。
他のみんなを下がらせ、時音が対象物の動きをスローにする。動作が遅くなったことを確認した雷人は、目の前の機械を見つめ桜色に光り輝くコアを一瞥すると、拳銃を強く握りしめた。弾をもう一度装填し銃口を構える。
「雷人、落ち着いてやれよ?」
照火が真剣な面持ちで雷人にエールを贈った。
――お前には言われたくないな。
「ふっ、無論だ!!」
雷人は照火の言葉を聞いて呆れたように鼻で笑うと、口元を緩ませて一気に引き金を引いた。バンッ!! と再び銃声が鳴り響き一瞬時が止まったように感じられた。なぜなら、その瞬間だけ機械の動作音が全く聞こえなかったからだ。皆は周りを見渡し、どうなったのかを確認した。あまり異変は起きていないようだ。すると、ふと感じる違和感に皆は足元に目をやった。真ん中のコアが壊れたと共に、周囲を回転していた機械にコアと同じ桜色をしている球体がくっついているのだが、それが壊れたのだ。球体が破裂し、中から謎の光り輝く液体が一粒一粒の滴となって降り注ぐ。地面にその液体が付着すると、一瞬にして付着した部分のみの床が消えてなくなった。そう、つまり空間の消滅である。
「ど、どどどどうなってるの!?」
雫が足を上げながらまだ少し残っている足の置場に足を移動させる。しかし、そこもすぐに消えてしまい、もう逃げ場がない。
「みんな、上よ! 上に向かって走って!!」
楓が叫ぶと、皆は急いで螺旋階段を駆け上がった。桜色の液体がまるで粉雪のように辺りに降り注ぎ、階段の一段一段を消していく。
「くそッ!」
進んでいく先の足場が消えるのも構わずに爪牙が急いで階段を駆け上がっていたその時、横の壁が崩れそこから見覚えのある怪物が姿を現した。そう――V-orgrossだ。
「てめぇの相手をしている暇はねええええッ!!」
爪牙はハンマーでオルグロスの体を薙ぎ払うと再び階段を駆け上がった。ましな攻撃も満足に行わせてもらえず、無抵抗に終わったオルグロスはそのまま落下して行った。最後まで見届けはしなかったが、恐らく死んだだろうと十二属性戦士は思った。だが、ふとその頭にある疑問が浮かんだ。それは、天空の神殿アファルヴェインでも倒したはずなのにどうしてここにオルグロスが現れたのだろう? ということだった。しかも、オルグロスの最終形態も封印の地の手前で現れた。そうなると、合計でオルグロスが三体いる計算になる。しかし、今はそんなことを気にしている暇はない。
十二属性戦士はその疑問を振り払い扉を開けた。趣のある金属の扉を開くと、再び螺旋階段が続いていた。
「うっそ~! まだ上るのぉ!?」
菫が疲れ切ったような声で言う。
「頑張れ、後もう少しだ!!」
雷人が励まし、半ば諦念して菫も階段を上り始める。そして再び扉を見つけた。
両際に銅像があり、目の前には観音開きの扉がある。光と影計画をモチーフにしてあるのか、目の前の観音開きの扉の左側には影を表す銀色、右側には光を表す金色が装飾の色に使われていた。その扉を開くと、十二属性戦士十四人の視界を眩い物に奪われた。
しばらくして視力が戻ると、目の前には白い白銀の地面と神々しい雰囲気のある建物が建てられているのが見えた。だが、よーく見て見るとそれは凄まじい物だった。白い白銀の地面だと思っていたのは実際には元クロノス軍の屍で、大量の骸骨が集まって太陽の光が反射して白く光っているように見えていただけだったのだ。しかも、目の前に広がるこの場所は円形になっていて壁という壁は全くなく、ほんの少し、足のつま先から膝の辺りまでしか壁というか縁は存在しなかった。
そして、その場所に近づいた十二属性戦士の目線の先に飛び込んできたのは、暗雲に包まれた真っ暗な夜の景色を思わせる夢鏡王国――自分達の大好きな、王国の夜景だった。
――ここに、破壊に満ちた汚れた機械の足を踏み込ませる訳にはいかない!
誰もがそう思った。すると、新たに内心で決意を固めている十二属性戦士の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうやらここまで来たようだな、十二属性戦士」
その声は忘れもしないこの光と影計画の首謀者、恐ろしき陰謀を企てる災厄の存在、魔豪鬼神オドゥルヴィア=オルカルト=ベラス博士の物だった……。
というわけで、ようやく頂上へと到着しました。ただでさえ大きなWWWの上にいるんですから、その山の頂きから見た夢鏡王国の夜景は、例え天気が悪かろうといい眺めなんでしょうね。
後半の内容としてはひたすら登ってコアを破壊しまくる話でした。そして、ふと思った疑問。やたらとⅢでは螺旋階段という言葉が出てくる件について。幻影の塔でも、時空元の塔でも、そしてWWWの中でも螺旋階段が登場。いやあ、普通の階段にしてほしいですよね。そりゃあずっとグルグル階段登ったり降りたりしてたら目回って気分悪くなったりもしますよ。
そして、頂上で待機中のオドゥルヴィア博士。やはりラスボスは必ず目的地で待ってるもんなんですかね。
てなわけで、次回はオドゥルヴィア博士の過去? とかに迫ります。




