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十二属性戦士物語【Ⅲ】――光と影――  作者: YossiDragon
第一章:五つの封印解除阻止編
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第九話「『光と影計画』と『W・W・W』」

 五つの瞳が細砂を睨み付けたかと思うと、そこから大きな手がヌッと出て来た。


「きゃ!!」


 あまりにも突然の出来事に思わず腰が抜けてしまった細砂は、その場に座り込んでしまった。


「あ、ああ……」


 逃げようにも逃げる事が出来ない細砂。口をパクパクと動かし明らかに動揺の色が見える。すると、爪牙がギリギリのところで助けに来た。


「うりゃぁああああああ!!」


 ハンマーを横に振るい、顔面に直撃させる。しかし怪物はケロッとしていた。怪物は背丈が三メートルはあり、とてつもなく不気味な歯を持っている。しかも、背中にはゴツゴツしたトゲらしき岩が生えていて、顔に耳はなく五つの赤く光り輝く瞳がとても印象的だった。足には靴を履き、手のそれぞれの指には指輪をつけている。見た目的には人間のようだが、何よりも信じられないのが尻尾にくっついた怪物。そう、あの時見ていた怪物はこいつの尻尾だったのだ。ただでさえあの怪物がとても不気味な出で立ちをいているのに、さらにこの怪物までとてつもなく不気味な雰囲気を醸し出している。それだけで十二属性戦士は気が引けていた。


「まだこんなやつ相手にするんスか?」


 残雪が大きな溜め息を零しメンバーに訊く。


「仕方ないじゃん? ここまで来たんだし、やるしかないよ!」


 雫が武器を構える。


「せやな! どうせこいつを倒さへんと、あの穴の中にある五つの封印の石は破壊出来へんやろしな!!」


 夢幻が剣を構え刃を光らせる。その刃の切っ先を濃霧に体を包み込んだ怪物に向けると走りだし、一歩手前で足を踏み込み飛び上がると、掛け声を上げながら剣を振り下ろした。だが、怪物はその五つの瞳で夢幻を捉えると、見た目と矛盾するくらいの速さで白羽取りを行った。


「な、何やと!?」


 一瞬の出来事だった。怪物は目にも止まらぬ速さで夢幻を硬い地面に叩きつけていた。ただでさえ地面は水を全く浴びずに硬く干からびてしまっているのに、そんなところに全身を思い切りぶつけたのではたまらない。夢幻の体は悲鳴を上げ、口から血反吐を吐きながら倒れた。


「夢幻!!」


 暗夜が駆け寄り夢幻の身を心配する。すると、それを見た白夜が体をワナワナと震わせ怒りを露わにした。


「て、てめぇえええ! 許さねぇ!!」


「待て白夜、早まるな!!」


 雷人が白夜を制止しようと試みるが、一足遅かった。またしても怪物は背後を取り、その豪腕と豪手で白夜を地面にめり込ませるまで叩きつけた。


「くっ! く、そ……何て強さだ! ……まるで歯が立たねぇ、うっ!」


 唇を噛み締めながら白夜はそのまま気を失ってしまった。すると、濃霧の中から明かりが見えた。


――オドゥルヴィア博士だ。


「グフハハハハハ!! また会ったな、十二属性戦士! こいつの正体が何なのか分かっていないだろうからここまで来た褒美として教えてやろう!! こいつは貴様らが天空の神殿アファルヴェインで戦ったV-orgrossの最終形態だ! こいつを倒すことの出来る存在は何処にもおらん!! 例え猛毒雲菫が作った薬品T-sarivanでもな? ンフハハハハハハ!!」


 宙に浮かぶ乗り物に乗り、怪物が出て来た穴に入って行きながらオドゥルヴィア博士は十二属性戦士を嘲笑した。

 その時、一発の銃声が――それは雷人の持つ銃の音だった。銃弾はオドゥルヴィア博士の乗り物に命中しモワモワと煙を上げながら地面に激突し小さな爆発を起こした。同時にオドゥルヴィア博士の体が硬い地面に振り落される。


「ぐっ!?」


「ふっ! ……残念だが、そんなセコい乗り物に乗らず自分の足で一番下まで降りてもらおうか?」


「小童共の分際で!! 殺れオルグロス! こやつらを叩きのめせ!!」


 オドゥルヴィア博士はそう言い残し穴へと姿を消す。同時に命令に反応するかのようにV-orgross最終形態は大きな咆哮を上げ、赤い五つの瞳をよりいっそう真っ赤に光らせる。しかし、この怪物がどことなく苦しそうな声をあげているように葬羅や時音には聞こえた。すると照火が気合を入れる一言を発した。


「こいつを倒せば最後の封印があるんだ! 頑張ろうぜ!!」


 照火の言葉に皆は頷き合い目の前に立ちはだかる巨大な怪物――V-orgross最終形態を見上げた。怪物は大きな手を十二属性戦士の頭上に覆い被せるように動かしてきた。さっきよりも随分とスピードが遅く、それを躱すのは容易(たやす)かったが、先程までの白羽取りなどと違ってこれほどまでにスピードが遅いのはなぜだろうと理由を考える数名のメンバー。これには何か理由があるようだが、それが何なのかはまだ分からない。あまりにも遅い攻撃は全員簡単に躱すことが出来るが、速い攻撃は何人かが攻撃を受けてしまう……。


「くそっ!」


 十二属性戦士は苦戦していた。相手の攻撃力が高い上に、無駄に相手の大きさが異常だ。こちらの攻撃は殆ど受け付けない上に、硬い皮膚で跳ね返されるため剣がなかなか通らない。すると、濃霧の森から剣が降ってきた。


「これは……ブラックの剣だ!!」


「どうしてこれがブラックさんの剣だって分かるの、お兄ちゃん?」


 雷人が叫ぶのに対して、輝光が小首を傾げて訊く。


「どうしてって……形状は同じだし、何よりもブラックの――闇の神の波動を感じるからな。『崩壊の剣(コラップス・ソード)』、それがあいつの持つ剣の名前だ」


「コラップス・ソード。それってスゴイの?」


「ああ。神の持つ剣ならいくら硬い皮膚を持つあの怪物でも倒すことが出来るかもしれん!!」


 楓の質問に雷人が首肯し剣を引き抜こうと試みる。しかし、深く地面に突き刺さっているのか、なかなか抜けない。


「くそ~っ、抜けろぉぉぉぉッ!! ……っく、ダメだ! ……爪牙、お前が抜いてくれ!!」


「しゃ~ねぇなぁ!」


 爪牙が雷人の側を通り過ぎ、剣を逆手に握る。そして軽く腕を上にあげようとすると、雷人があんなにも力を籠めても抜けなかった剣がいとも簡単に抜けてしまった。


「さ、さすがだね……あはは」


 雫が苦笑しながら爪牙を誉める。すると、その剣を誰が使って戦うことにする? という議題で揉めだした。迷った末に「剣なら俺が……」と挙手をして前に進み出たのは、ついさっきまでV-orgrossの攻撃を受けて気絶していた白夜だった。


「ちょー待ちぃや! わしに少し考えがあるんやけど……ここは暗夜に任せたらどや?」


「なんでだ!?」


 夢幻の提案に即反発する白夜。どうやらよほどその案に納得がいっていない様子だ。


「この剣は闇の神の物……せやったら、同じ闇属性である暗夜がふさわしいんとちゃうか? と思っただけや」


 その説明に誰もが「ああ、なるほど」と納得の声をあげる。白夜も言い返す言葉が無くなり沈黙してしまった。


「……仕方ねぇな!」


「よっしゃ、そうと決まったら暗夜頼めるか?」


「ああ、分かった」


 冷静な声でそう答えた暗夜は一歩前に進み出て剣を握った。淡く光り輝く剣からブワ~ッと闇のオーラが溢れ出し周囲に放出される。暗夜は自分があらかじめ持っている武器の剣と闇の神の崩壊の剣をそれぞれの手に持ち、剣先を後ろに向けて走り出した。怪物が手を伸ばし唸り声をあげる。それと同時に暗夜は深く足を踏み込むと高くジャンプした。


「うらああああああああッ!!」


 掛け声をあげながら剣を上に振り上げ素早く振り下ろす。怪物の指が、ニ、三本切り落とされ地面に転がる。


「きゃあああっ!!」


 菫がその一部始終を直視して悲鳴をあげ、両手で顔を覆い隠した。やはり、グロい物やホラーな物は生理的に受け付けないのだろう。暗夜は怪物のぶっとい腕に剣を突き立てると、剣を刺したまま上にスライドさせ腕に縦方向に深い切込みを刻み込んだ。そして、そのまま腕の付け根よりも少し下の部分から、腕を切り落とした。凄まじい叫び声をあげ、怒り狂うV-orgross最終形態。しかし、暗夜は容赦なく相手を切り刻んでいった。

 怪物は体中から鮮血を迸らせ地面を汚していく。

 ついには怪物は見るも無残な姿に成り果て、ヨロヨロ状態になっていた。スピードもだんだんと落ちてきていた。

 そして、暗夜は怪物の首を標的にし、崩壊の剣を横薙ぎに勢いよく振るっ た。ヒュンという空を裂く音が聞こえ怪物が動きを止める。そして切り込みが怪物の太い首に入ったかと思うと、首がゆっくりと地面にずり落ち、それに合わせるかのように怪物の残った体も倒れた。地面に倒れ込んだV-orgross最終形態の体から砂煙がモワモワと舞い上がる。恐る恐る近寄ってみる十二属性戦士だが、怪物は全く動く様子を見せない。どうやら怪物を倒すことに成功したようだ。それが分かると同時に、十二属性戦士は歓喜の声をあげた。が、怪物は完全には死んでいなかった。なんとV-orgross最終形態は、首だけで動いていたのだ。その不気味な動きに一同は完全にひいていた。菫に至っては泡を吹いて目を回し気絶してしまう始末……。

 暗夜は舌打ちしながら怪物の脳天に素早く崩壊の剣を突き立てた。


【グギュウウウゥウウッゥウウッ!!】


 脳みそに刺さったのか、さすがに怪物は完全に動きを止めた。そして、今度こそ十二属性戦士は怪物を倒すことに成功したのである……。

 十二属性戦士は急いでオドゥルヴィア博士の入っていった穴に入り、その後を追い掛けていった……。


―▽▲▽―


「くっ!? どうやら奴ら、最終形態を倒したようだな。クックック、なかなかやるではないか! だが、それもここで終わりだ。さすがにこいつを倒すことは出来まい!!」


 地中深くまで続いている螺旋の土の階段を、壁を手すり代わりに使いながら降りて行くオドゥルヴィア博士。

 そんな彼は、何かを企んでいるかのような笑みを浮かべ、最下層まで降り終えると封印石の間へと向かい、最後の封印を解く準備を始めた。


「やめろ博士ッ!!」


 オドゥルヴィア博士の動きを制止させたのは雷人だった。息を乱しながらこちらを睨み付けてくる雷人。その後から次々と十二属性戦士がやってくる。


「ふんッ! 一足遅かったな、十二属性戦士。もう準備は整った!! 後は少しの細工をするだけだ!! もう貴様らの役目は終わったのだよ!!」


「いいえ、私達の役目はまだ終わっていないわ!! それは、あなたを倒して光と影計画を中止し、WWW(スリーダブル)を破壊することよ!!」


 楓のハキハキした言葉にオドゥルヴィア博士は顔を俯かせると急に肩で笑い出した。


「ンフフフフ、フッハッハッハッハッハッハッハ!!! 何を言い出すかと思えば光と影計画を中止する? 何とも馬鹿げた話だ! そもそも貴様らの魔力は全てとは言わないまでも、ほぼ搾り取れるだけの量を奪ったのだぞ? 今の貴様らには魔力など微塵も残ってはいな――ッ!? ば、バカな!? 貴様らの体から溢れんばかりの魔力が!?」


 オドゥルヴィア博士が目を凝らしてよく見ると、確かに十二属性戦士の体から大量の魔力が空気中に漂っていた。それを見て思わず目を見開き、こめかみ辺りから一筋の冷や汗を流す……。


「う、嘘だ!! 貴様らの魔力は全てここに……魔力吸収装置に結集しているというのに……一体これは――ハッ! そうか、貴様らがここにいるV-rgross最終形態を倒している時点で貴様らは魔力を取り戻していた……ということか。お、おのれぇ、アファルヴェインに隠された部屋を見つけ出したというのか。なんと悪運の強い餓鬼共だ……」


 歯軋りをし、後ずさるオドゥルヴィア博士。しかし、すぐに冷静さを取り戻し鼻で笑う。


「ふんッ! だがもう遅いッ! これをセットしさえすれば完璧だ!!」


 十二属性戦士がドゥルヴィア博士が立っている後ろを見てみると、そこには確かに五つの石柱の間に丸い窪みがあった。


「そうはさせない!!」


 雫がオドゥルヴィア博士に飛びかかり魔力吸収装置を奪おうと手を伸ばす。


「くっ、何をする!! 離せ、離さんかッ!!」


 魔力吸収装置を持った手を雫の手から必死に離し死守する。そして雫の拘束から逃れると、その腹に一発の膝蹴りをお見舞いした。


「ぐっ!! っくぅ……くそっ!」


 両手で腹を押さえ、地面に膝をつきながらオドゥルヴィア博士を睨み付ける雫。


「貴様らのその瞳を見ていると、あの忌々しい太陽の神の娘と月の神の息子を思い出す。だが、やつらはもうここにはいない。そして貴様らもまた……これで最後だ!」


 そしてとうとうオドゥルヴィア博士が魔力吸収装置を窪みにはめ込んだ。しかし何も起こらない。


「これは一体どういうことだ? 五つの封印の石板にもこのようなことは書かれておらんぞ!?」


 狼狽するオドゥルヴィア博士。十二属性戦士も「もうダメだ」と諦めかけていた最中の不幸中の幸いに呆気に取られている。

 その時、カチッ! という音が聞こえた。それはさっきから気になっていた石柱にもたれかかっている雫の方から聞こえた。そう、石柱が定位置から少しズレていたのだ。しかし、そのズレが雫の背中がもたれかかったことにより元の位置に戻り、起動スイッチの様な物が作動してしまったのだ。


「やられた!!」


 楓が叫ぶがもう手遅れだった。


ドゴゴゴォォオオオオオオオオオオオオオォオオオッ!!!


「地震だわ!!」


 足元に落ちてきた落石を見た時音が声を張り上げる。皆が頭を守ろうと腕で守りながら外へと駆けだす。


「クックック……ンフフフフ、グフハハハハハハハハハハハハハハハ!!! まさか石柱が少しズレていたとはな! これはなかなか気づかなんだ! だが、貴様のおかげで見事WWW(スリーダブル)を復活させ、光と影計画を実行することが出来る! 感謝するぞ、霧霊霜雫?」


「くっそ!!」


「雫、自分を責めちゃだめ! 早く脱出するわよっ!!」


 悔しそうに唇を噛み締め申し訳なさそうな顔を浮かべる雫の腕に自分の腕を絡め、強制的に外へ連れて行く楓。

 地響きがだんだんと大きくなり、岩も小さい物から大きいサイズに変わっていった。出口の光が頭上に見えているが、長い土の螺旋階段を上るのがとても大変で出口に近づいている気配が全くしない。

 ようやく脱出すると、十二属性戦士はなるべく遠くへと逃げた。濃霧がなぜか晴れていて、天に広がる暗雲も十二属性戦士が今いる場所だけ円形に避け、不気味さを一層引き立てている。一体何が起きているのか? 誰もがそう思う。すると、さらに大きな地震が起こり地面が盛り上がって大きな山が姿を現した。その下からは青々と茂った森が出現し、大きな台地が競りあがって行く。四本の手足が出現し、ついにその全体像が明らかになった。それは、正しく四本の柱に乗った世界を表していた。

 二つのくっついた顔が不気味な表情でこちらを見ていて、その黄金色の双眸は神々しく光り輝いていた。凄まじいオーラが十二属性戦士にビシビシと当たる。尻尾には時を示す文字盤が取り付けられていて、何本もの振子がまるで動物の尻尾の様に揺れている。だが、それだけではなかった。その大陸の下にはとても大きな甲羅を持つ亀がいて、亀は宙を飛びゆらゆらと浮かんでバランスを保っている。尻尾は蛇の様な出で立ちをしていて、額には大きな淡く紅色に光る水晶体があった。口からは大量の水を吐き出し、干からびた大地を潤している。

 そう、これこそが五つの封印によって惑星――ウロボロスの中心、マントルに封印されていた『WWW(スリーダブル)』こと、『|Wenabekal・Walmgant・Wilyveras《ウェナベカル・ワルムガント・ウィリヴェラス》』だったのだ……。


というわけで、ついに復活を果たしたWWW。

次回はいよいよこいつと本格バトルです! ちなみにこの兵器は世界の創造と破壊をモチーフにして設計されており、相当な力を持っています。マントルに封印されているだけあって相当熱には強いのでそうそう溶けません。

そして雷人には抜けなかった闇の神の剣が爪牙には容易に抜けるという。

どんだけ爪牙が力持ちなのかがこれで裏付けられたのではないでしょうか?

WWWが復活してしまい、世界は一体どうなってしまうのか。残り五話くらいでⅢは終了です。

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