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十二属性戦士物語【Ⅲ】――光と影――  作者: YossiDragon
第一章:五つの封印解除阻止編
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第六話「南の植物(South Plant)と北の騎士(North Knight)」・1

 照火、葬羅、細砂の三人は、南の城を最奥まで進み、氷像の置いてある変わった場所に辿りついた。

 真ん中には意味有り気な大きな植物が生え、大きな蕾をつけている。

 三人はゆっくりと足元に気をつけながら進んでいた。

 と、その時、植物が小刻みに揺れ出し、蕾が開いて謎の花粉が周囲に振りまかれた。花びらの中心付近には四つの目玉があり、中心部分には口の様な物があった。

 三人は後ずさりしながら氷の地面に落ちてくる花粉に注意した。なぜなら、もしかすると毒を持っているかもしれないと考えたからだ。十分に注意を払い、三人はその植物の周りを円を描く様に取り囲んだ。そして、相手の隙を窺いさっそく攻撃を開始した。


「くらえ、火光球!」


 照火の手に圧縮された高熱の火の玉が出現し、手から勢いよく放たれた。それが植物に直撃し燃えていくと同時に植物の葉の茎の部分がまるで氷が溶けるかのように変化した。植物は蠢きながら花粉を周囲に散布した。それが少し照火のズボンの裾に降りかかると、勢いよくその部分が溶けだした。どうやらこの花粉は酸の性質を持っているのだと確信する照火と葬羅。


「こいつはちと厄介だぜ!」


 自分の服の裾が溶けたのを見て照火がボソリと呟く。植物に相当詳しい葬羅でも、この植物のことには多少困惑する部分があった。一体この植物は何なのか? 謎が深まっていく中、今度は細砂が武器を使って地面に突入した。上がダメなら下から行こうという何とも単純な方法である。

 一方で照火と葬羅も攻撃に専念していた。しかし、火属性である照火は相性的にも抜群だが、葬羅の場合は草属性のため強力な攻撃にはならなかった。それでも負けじと、攻撃を続ける。敵は背中から生えている細長い緑色のツタを自由自在に使いこなし、鞭のように振るって二人を翻弄した。


「くそっ! これじゃあ近づけない!!」


 照火がクネクネと動くツタを見て舌打ちしながら言った。

 と、その時、植物の化け物の動きが突然変わった。どうやら、細砂がようやく敵に攻撃することを開始したようである。しかし、様子が変だ。なかなか地面の中から細砂が姿を現さない。すると、地面から大きな根っこが飛び出した。その太い根っこに弾き飛ばされ、照火達の目の前の地面に叩きつけられたのは細砂だった。


「大丈夫ですか、細砂ちゃん?」


「うん。でも尋常じゃないよ、あの植物の栄養吸収力……。一体どこからあんなにもエネルギーを供給しているんだろ?」


 細砂が地面に落ちている武器を拾い上げ再び構える。


「だとしたら、どうやってあいつを倒せばいいんだ?」


 氷の床に生えている巨大な氷の植物を見て照火が二人に訊いた。しかし、二人共黙ってしまう。答えが出てこないのだ。

 その時、葬羅がふといいアイデアを思い付いた。


「あの、ちょっといいですか? 実はいいアイデアを思いついたんです!」


「何だ?」


 期待の眼差しを向ける照火。


「まず照火さんがこの氷を炎で溶かし、根っこが出て来たところを素早く切断するんです! そうすれば敵は栄養を吸収することが出来なくなって力も弱まるはずです!!」


 葬羅の作戦に照火と細砂の二人は迷ったが、その他にいい考えがあるわけでもなかったためその作戦に乗ることにした。

 さっそく照火は拳に力を込めて声を張り上げると、氷の床に巨大な炎をぶつけた。

 シュ~ッ! という氷が溶けていく音が聞こえ、白い煙が上がっていくのが見える。そして、みるみるうちに氷は完全に溶けてしまい水だけが残った。するとそこには、とんでもない物が隠されていた。

 照火が繰り出した炎攻撃により完全に氷の床が溶け、辺り一面水浸しになってしまった大きな広間……。その一面全てに、真ん中に生えている巨大植物から伸びた根っこが張り巡らされていたのだ。植物の真ん中付近にある太い根。それ以外にも、大量の細かく枝分かれしている小さな根がいっぱい張り巡らされ、さらにその根は蠢いており、どんどん養分を地面から吸収して中心の植物に送り込んでいるようだった。このままいけば、さらにあの植物は肥大化するに違いない、三人はそう思った。

 三年前、草の都で紋章を手に入れる際、世界樹から養分を吸収していた食虫植物『ロルナムト=メドラムナール』よりも少し厄介かもしれないと、誰もがそう思った。

 試しに照火は、炎を手に灯し水浸しの地面にぶつけてみたが、やはり水で湿っているためうまく燃えない。三人は途方に暮れた。

 しばらく考え込み、とりあえず荷物の中身を確認し何かいい道具がないか見てみた。すると、照火の持ち物の中からいい物が見つかった。それは油だった。本当は旅の途中で料理をする際に使うはずだったのだが、まさかそれがこんなところで役に立つとは! と、照火はさっそくその油を水に流して自分が持てるだけの力を振り絞って火炎を作りだし、地面に放とうとした。

と、その時、慌てて葬羅が照火の腕を掴んで炎をぶつけようとする彼を制止させた。


「なっ、何やってるんだよ葬羅!」


 照火が意外な葬羅の行動に驚きの声を上げる。


「ちょっと待ってください! よーく考えてみてくださいよ! 今私達は油の含まれた水の上にいるんですよ? もしも炎を落としたりしたら、私達確実に火達磨になっちゃいますよ!!」


 葬羅のその説明を聞いてようやく照火も理解したのか、数歩後ろに下がり炎を消した。再び振り出しに戻り全員が意気消沈する。すると、どうしようかと迷っている二人を見た細砂がコホンと一つ咳払いをした。


「何かあるのか?」


「じゃじゃ~ん♪」


 テンション高めに細砂がポケットから取り出したのは糸を巻き取るための小さなレバーが取り付けられた小道具だった。その糸の先端には鋭利に尖った三本の鉤爪があり、一見どこでもひっかけられそうな感じだった。細砂はその小道具を上に向けて放り投げた。その先端部分の鉤爪が天井からぶら下がっているシャンデリアに上手く引っかかり、上にあがることが出来るようになった。途中で抜けたりしないかどうかグイグイッ! と引っ張って確認した細砂は「照火、早く火を出して!!」と照火を突然急かしだした。その突然の出来事に、照火はなかなか綺麗な炎を作り出すことが出来なかった。


「まだなの?」


「ちょっ、少し静かにしてくれ!!」


 照火が額に汗をかきながら必死に炎を作り出そうと試み、ようやく炎を作り出すことに成功する。同時に、それを見た葬羅が細砂に合図を出す。


「巻いてください!!」


「よし来たー!」


 葬羅の合図で細砂が勢いよくリールを回転させる。

 シュルシュル! と糸が巻かれていき、三人は天井に上っていった。何よりもすごいのは、中三くらいの年齢である三人を引っ張り上げることの出来る糸の丈夫さだった。何せ、引っ張っている糸の太さはせいぜい五ミリから十ミリ程度の物で、そんな細い糸で三人も持ち上げられるのが不思議でならなかった。

 そして、一番上まで三人が引っ張られたところで、細砂は側に空いていた壁の穴に飛び込んだ。二人もその後に続く。照火は穴に飛び込む瞬間に、手から炎を落とした。その炎が一面に広がった油を含んだ水に触れた瞬間、一気に煮えたぎる溶岩の様に広間全体が火の海になった。中心の植物も火の中にいることしか分からず、死んだのか燃え尽きたのか分からなかった。いずれにせよ、この火が消えるまで待つしかなかった。しかし、事態は急変した。突如地面が割れ、地下に溜まっているマグマから謎の巨大怪物が姿を現したのだ。


「何だあれ!?」


「凄くデカいです!!」


 葬羅が熱気を肌に感じ、腕で顔を覆う。目を細めながら見つめた先には、大きく口を開け先程まで自分たちが戦っていた植物が待っ黒焦げになったのをバクバクと美味しそうに食べている怪物の姿があった。マグマが溶岩となって噴き出し、三人に襲い掛かる。


「うわっち!!」


 照火は慌てて後ろに跳んだ。左手の袖が少々黒く煤けてしまった。


「まずい! このままだと溶岩がこっちに流れてくる……急いで脱出するぞ!!」


 そう二人に呼びかけ、長く続いた横穴から飛び出した三人は、地面におっとっととなりながら地面に着地し、暗がりの城内を幻影の塔に繋がる扉まで走っていった。後ろからは津波――とまではいかないがそれ相応の勢いを持った溶岩がこちらに迫ってきていた。奥には未だに植物をムシャムシャと食べ続けているマグマの怪物の姿。それをしかと目に焼き付けた三人は青い扉を勢いよく開くと、急いで幻影の塔の中に入り扉を閉め胸を撫で下ろすと同時に地面にへたりと座り込んだ。すると、ふと三人に話しかけてくる声があった。


「大丈夫?」


 その声は――雫の物だった。


「何だ……。はぁはぁ、お前達は先に戻ってたのか?」


 照火が息を切らしながら言う。


「うん。それで、結局血は手に入れたの?」


「あっ!!」


 今更思い出したというような声を洩らす照火。そう、この先に進むためには、どうやら東西南北それぞれに存在する怪物の血を不思議な装飾が施された珠に注ぎ込み、ここ――幻影の塔の彫刻の施されたレリーフ四枚にそれぞれ空いている四つの穴に、それぞれはめこむ必要があるようなのだ。


「も~っ! どうするの?」


「そうだぜ? 四つ全て集めねぇとこの場所から上に行くことも出来やしねぇし……」


 爪牙も言う。

 その時、細砂がよっかかっていた青い扉から、ドンドンと扉を激しく叩く音が聞こえてきた。皆が警戒し、武器を構える。まさか扉の向こうからノックされるとは思ってもみなかったのだ。なぜなら城内には人っ子一人いなかったのだから。まぁ、怪物はいたが。

 恐る恐る扉を開けると同時に中に入ってきたのは、一人の薄紫色の髪の色をした鎧を身に着けた人物だった。

 十二属性戦士の目の前に突如姿を現した謎の人物は、スッと自分が顔に着けている兜に手を添えると、それを外した。瞬間、その場にいる全員の目が見開かれた。その正体は、二年前スピリット軍団の基地で出会った鎧一族の末裔――鎧騎士『ラグナロク=ドルトムント』だった。すると、扉を閉めたラグナロクの背後から大きな物音と同時に轟音が響き渡り何かが落下して衝突する音が木霊した。


「どうやら溶岩に柱がやられたようだな」


「こんなところで何やってるの!?」


 雫が驚愕の表情で幼馴染であるラグナロクに訊く。


「お前達こそここで何をやっている!」


 ラグナロクが周囲を見回し十二属性戦士に訊く。


「俺達は光と影計画を企てているオドゥルヴィア博士を倒しにきたんだ!」


 照火の言葉にラグナロクがササッと照火に近寄り胸ぐらを掴むと強い口調で言い放った。


「それは本当なのか!?」


「あ、ああ……」


 ラグナロクの声に対し、照火は消え入りそうな声でそう言った。


「やはりそうか。様子がおかしいと思って飛んできたが、まさか封印を解いていたとはな」


「どういうことですか?」


 一応相手が年上だということで丁寧な口調で訊いてみる楓。


「実はな、この外で今大変な事が次々に起こっているんだ」


 その言葉を聞いた十二属性戦士は目を丸くした。


「例えば?」


 雫が恐る恐る訊く。


「例えば……炎の都ではありえない雨が降ってマグマが完全に冷え固まってしまったり、水の都では湖の水が枯れてしまったりなどと様々な怪奇現象や異常気象が起こっている。おまけに……空を見てみろ」


 ラグナロクにそう言われ、十二属性戦士は幻影の塔に取り付けられた小さな小窓から外の景色を眺めた。

 外は凄まじい物だった。どよよんとした暗雲が雷鳴を轟かせ、周りの景色を邪悪な雰囲気に包みこんでいた。


「こいつは!!?」


 爪牙が目を左右に動かし、辺りの景色を確かめて声を上げる。他の皆も外の様子を確認するが、大粒の雨のせいで遠くの方がよく確認できない。

 十二属性戦士はひどく後悔した。自分達のやってきたことはやはりいけないことだったのか――と。今まで自分達は何も知らずに五つの封印を二つ解き、秘密を知ったうえで三つ目を解かれてしまっていた。そして、ここまで来てしまったらもう後には引き下がれない。こうなったら、封印されているという破壊の兵器――WWW(スリーダブル)ことウェナベカル・ワルムガント・ウィリヴェラスを倒してしまった方が速い、と甘く考え三つ目の封印を解こうとしていたが、それも実際には浅はかな考えだったのかもしれない。そう思うと、悔やむ気持ちが溢れて止まなかった。すると、十二属性戦士の曇った表情を見てかラグナロクが口を開いた。


「まぁ、そう悔やむな……。まだチャンスはある。もう一度WWW(スリーダブル)を封印すればいい!」


「そんなこと出来るんスか?」


 残雪が地面に膝をつきながら訊いた。


「ああ。だが、そのためにも十二属性戦士は全員いないといけないんだが……、後の五人はどうした?」


 ラグナロクの質問に楓が説明した。


「実は今、北の城に三人と時空元の塔に二人いるんです」


 楓の俯きながら言う言葉にラグナロクも顔をしかめた。


「そうか……困ったな。仕方がない! 本来ならこいつを渡す訳にはいかないんだが……この際だ、今更止めたところで意味はない」


 そう言ってラグナロクが懐から取り出したのは――南の城で取り損ねた珠だった。しかも、ご丁寧に南の植物の血も既に注がれている。


「どうして、あなたが持ってるの?」


「てか、いつの間に!?」


 細砂と照火が次々に質問をふっかける。が、ラグナロクは至って冷静に答えた。


「な~に、偶然近くを通りかかった際に落ちていてな。しかも、更に偶然が重なって南の植物らしき血が側にあったんでな。何かに使う物だろうと持っておいたのさ。まぁ、周りは火の海だったが……どこかの誰かさんの浅はかな行いのせいでな」


「うっ、それはともかく……サンキュー!」


 照火が軽々しくラグナロクの手から珠を奪おうとする。しかし、ラグナロクはそれを軽くあしらってひょいと躱し頭上に高々と掲げた。


「バカ! そう簡単に渡すものか!」


 ラグナロクはそう言って頑なに照火に珠を渡すのを拒んだ。すると、雫がラグナロクの肩を叩いて笑みを浮かべ言った。


「いいじゃない。渡してやりなよ」


 その笑顔に気圧されたのか、頬を薄く赤らめたラグナロクはため息交じりにそっぽを向きながら仏頂面で照火に珠を手渡した。照火は、それを大事そうに両手で持ち東西南北を意味する装飾された壁の空いたくぼみにはめた。


「これでよし!」


 照火は手をパンパンと交互に叩きホコリを落とした。

というわけで南の怪物を無事に倒し終えた照火、葬羅、細砂の三人。なぜこの三人を選んだのかは内容を見てもらえれば自ずとわかってもらえるかと。

そして、今回Ⅲで初登場のラグナロク! Ⅱ以来ですね。今回の目的はWWWを再封印することのようですが、十二属性戦士全員でないとそれは無理のようです。さて、封印の方法とは。というか、本当に封印して終わらせるのか。そのへんは最期でわかります。

にしてもホント、ラグナロクはファインプレーですね。あのままでは先に進めなくなっちゃいますから。所謂RPGでいうお助けキャラ的な役回りですかね。後は男っぽい女の子キャラがいなかったのでその分……ですかね。まぁ、お色気担当ではない気がします。担当は別にいますので。

そして次回は男しか出ません、はい。かといってアレというわけではないので。

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