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十二属性戦士物語【Ⅲ】――光と影――  作者: YossiDragon
第一章:五つの封印解除阻止編
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第五話「西の機械(West Machine)」・2

「くっ」


 歯噛みし武器を握りしめる雫。他の二人も片足を踏み込み攻撃態勢に入る。コンピュータウイルスと同化した怪物――西の機械は、体中に大量のコードを巻きつけ、下半身が完全に物体創造されていないために空中に浮遊していた。しかも、下半身の付け根部分からは二本の太いコードがねじれて地面に垂れている。まるで尻尾の様な雰囲気があった。顔には大きな目玉が二つあり、前と後ろについていた。ギョロ目の赤い瞳は周囲を見回し、十二属性戦士の姿を発見すると標的(ターゲット)を三人に絞り込んだ。同時に瞳が赤く鋭く光り輝く。そして、顔の横から飛び出している二つの腕を自由自在に振り回し攻撃してきた。

 ドリル状の鋭利な突起物は、回転しながら十二属性戦士の一人――楓を襲った。だが、危機一髪で楓はその攻撃を躱し西の機械の背後に回った。しかし、敵は後ろにも目がある。そのため背後をとっても意味は無に等しかった。


「くっ!」


 素早い動きで鞭の様に器用に曲がりくねる腕は楓に鋭い一撃をくらわせた。


「うぐっ!!?」


「楓! 大丈夫?」


 菫が心配そうに楓の元に駆け付ける。


「え、ええ。それよりも気を付けて! あいつは前だけじゃなく後ろにも目があるから厄介よ?」


「分かってる。でもどうやったらそのコアを破壊できるの?」


「それは私にもまだ分からない。けど、急がないと……あ、あれを見て」


 そう言って楓は地面にしりもちをついたまま西の機械の下半身を左手で指さした。菫がその方を見ると、下半身からさらにどんどん形が形成されつつあるのが見えた。


「このままだと完成体になってしまう! だから、その前に何としてでもケリをつけないといけないんだけど」


 楓がそう言って負傷した腕を押さえながら立ち上がった。




 一方で雫はというと――西の機械の攻撃を全て躱していた。だが、避けるだけが精一杯で、なかなか相手に反撃することが出来ない。


「くそ! なんて素早いんだ! コンピュータウイルスだけにこっちの動きが速く予測されてしまうっ! たぶん、次に何処から攻撃してくるかをコンピュータ頭脳で計算して、それをあの怪物に教えてるんだろうなー」


 そんなことを一人でブツブツ呟きながら地面に降り立つ雫。そして、次の攻撃をしようと動き出した時、雫に危機が訪れた。なんと、地面から謎の白い紐が飛び出し左足に絡まっていたのだ。


「な、何コレ!?」


 焦りながら急いで紐を解こうとしたが、なかなか解けない。それどころか、紐はどんどん雫の足を締め上げ地面に引きずり込もうとしているのだ。

 その時、ようやく雫がその紐の正体に気付いた。


「ま、まさかこれは!?」


 その一言を発した途端、雫の体から大量の鮮血が迸った。


「ごはぁあっ!!」


 地面に倒れこんだ雫は左半身を負傷していた。西の機械からの斬撃を不覚にも受けてしまったのだ。

 霞む意識の中、周囲を見渡せる範囲で見渡し楓と菫の二人を探す雫。しかし、何処にも二人の姿はない。


――くっ、一体どこに行ったの? 楓! 菫!!



 声を出すのも辛くなってきていた雫は、心の中でまるでテレパシーを二人に送るかのように二人の名前を叫んだ。




「くっ! 何て破壊力なの!? あんな攻撃、一撃くらっただけでもひとたまりもないわ!!」


 楓が敵の攻撃に翻弄されながらも必死にその攻撃を躱しながら言った。


「そういえば、雫は?」


 菫のふとした質問に楓がようやく義兄の存在を思い出す。攻撃を躱しつつ、その僅かな隙を使って雫を探すが、近くにはどうやらいないようだ。


「も~っ! こんな肝心な時にあの(バカ)は何処に行ったわけぇ~!?」


 必死にもう一度探すが、やはり雫の姿は何処にもない。すると、周囲を見渡していた楓の背後を西の機械に取られてしまった。容赦ない西の機械は、そのまま二本の鋭利なドリルで楓に攻撃してきた。


――殺られるっ!?



 楓はそう心の中で思いながらも出来る限りその攻撃を躱そうと動いた。その結果、何とか運が味方してか、多少のかすり傷を負いながらも間一髪で重傷を免れた。


「はぁはぁ……危なかった」


 肩で息をし呼吸を乱している楓は、キツそうな表情を浮かべ胸を押さえていた。西の怪物は宙に浮いている浮遊物――自身の体の一部を使用し、そこからレーザー光線を発射した。赤い光線が二人の十二属性戦士を襲う。それを何とか躱すと、二つの光線は先程まで二人がいた場所の床を綺麗に抉って行き、同時にその床から煙を出していた。さらに光線は床にXの字を刻み付けた。その光線の威力に二人とも驚愕の表情を浮かべながらも唖然としていた。


「冗談でしょ!?」


「そ、そんな……!」


 焦りを隠せない二人。その二人を追い詰めるかの如くレーザー光線が二人に襲い掛かる。二人の頬から冷や汗が流れた。肝心の雫は魔力吸収装置で相当な量の魔力を奪われた上に重傷を負っていて動けない。


――やばい、動け! 動けええぇっ!!! くっ、急がないと……二人がッ!!



 腹から出てくる血が体の動きをよけいに鈍らせる。しかも、このまま出血が止まらなければ出血多量で死ぬという可能性もなきにしもあらず。

 雫は何とかしてこの状況を二人に伝えようとした。しかし、生憎と横たわっている上に少しこの場は障害物などが死角となって見えにくいため、攻撃を躱している楓と菫の二人には分かりにくい状況だった。オドゥルヴィア博士はそんな三人の哀れな姿を見て相変わらず不気味な笑みを浮かべている。だが、だんだんと見るのが飽きてきたのかすぐ側にある転送装置に近づいた。


「まぁ頑張りたまえ、十二属性戦士。グフハハハハハハ!!!」


 そう言い残してオドゥルヴィア博士はその姿を消した。雫は這いつくばったまま悔しそうな表情を見せた。だが、体が思うように動かない。しかし雫は根性で自分の体を起こし始めた。大量の血が滴り落ち、真っ赤な水溜まりが出来ていく。それから、ようやく雫は立ち上がった。


――もうあいつを倒すには雷人の考えた方法しかない! 一か八かの賭けだけど、これに賭けるしかない……ッ!



 雫は心の中で何かを決意し、荷物から二つの爆弾を取り出した。

 楓と菫の二人が何も知らず西の機械と戦っている間に、よろめく体を必死に保ったまま爆弾をコンピュータに設置する。その後、雫は物陰に隠れタイミングを見計らった。そして、西の機械がこっちに倒れ掛かってきた瞬間を見逃さず、


――今だッ!



 と心の中で叫びカチッとスイッチを押した。

 刹那――大量の爆薬が入った爆弾が爆発し、コンピュータがその爆破の威力によって破壊された。また、それと同時に西の機械の体にノイズが生じた。体中からバチバチッ! と電撃が走り火花が散る。やがて西の機械の体から漏れたオイルに火花が散ったせいで、その体が急激な炎上を始めた。

 楓と菫は驚愕の表情を浮かべ呆気にとられてその光景を口を開けて眺めている。雫はしばらくの間、物陰に隠れたまま西の機械が壊れるのを待った。

一分後、ついに西の機械が動きを停止した。どうやら倒すことに成功したようである。体が炎上したおかげで西の機械のコアも簡単に破壊することが出来た。ガラスの破片の様に砕け散ったコアはキラキラと赤い光を放ちながら消えた。雫は急いでその場に行き、西の城に入ってきた際に拾った装飾の施された珠に西の機械と同化した化け物の血液を注いだ。


「……ふぅ」


 雫は静かに嘆息し、額の汗を腕で拭い取ると後ろを振り返り楓と菫を交互に見た。二人とも未だに状況が理解できていない様子で、首を傾げながら雫の顔を見る。武器を直した雫は、二人に「帰ろうか」と笑みを浮かべながら言った。しかし、またしても危機的状況が訪れる。

 キィィンとハウリング音が聞こえ、スピーカーからオドゥルヴィア博士の声が聞こえてくる……。


〈よくやった、十二属性戦士。貴様らの活躍は相当なものだ。だが、お遊びもここまでだッ! ここから先へ貴様らを進めるわけにはいかん! コアの研究データも十分に取れたことだ、本来ならば貴様らから魔力を供給するまでしておきたかったところではあるが、それどころではなくなりそうだからな……貴様らにはここで消えてもらおう!!」


「な、何だって!?」


 雫はスピーカーを睨み付けながら文句を言う。


「クックック! 後三分後にこの西の城を完全に破壊する! その前にここから脱出して見せろ!! では健闘を祈る、グフハハハハハハハハッ!!!」


 そう言ってオドゥルヴィア博士の笑い声はブツリ! というスピーカーの音声が消えると共に消えた。


〈爆発まで、後三分……〉


 爆破タイマーの残り時間を告げる機械の音声が聞こえてくる。

 雫たち三人は急いでその場から駆け出した。周囲を見渡し脱出を試みるが、こんな広く大迷宮のある城は初めてだったため、なかなか思うように脱出することが出来ない。そこで雫達は壁を無視して先に進んだ。壁を魔法や武器を使って破壊し進んで行く。壁はまるで発砲スチロールのように簡単に壊れ、彼らに道を作っていく。建築されて相当年月が経っているせいもあるだろう。

 そして、三人は何とか西の城が爆破される前に脱出することに成功した。

西の城の外にある風力発電の回転が止まっている。風が吹いていないからだろうか。しかも、天候も西の城の中に入る時には雲一つない真っ青で澄んだ青空だったが、今ではどんよりとした暗い雰囲気を醸し出す暗雲となってしまっている。まさしく光と影計画によるWWW(スリーダブル)がこの世に姿を表せる前触れ――その兆しの様に三人には想えた。


――▽▲▽――


「どうやらあいつらは全員、西の城が爆発する前に脱出することに成功したようだな……。まぁいい、計画通りだ。……おい、聞こえるか? こちらオドゥルヴィア=オルカルト=ベラスだ! 艦長はいるか?」


〈現在、こちらに艦長はおりません。伝言を窺いますが?〉


「ああ、頼む。実はな、先程西の城を爆破させる際に十二属性戦士が三名脱出した。残る城は二つ――北と南だけだ。そして、そこには最強の二体の怪物が住み着いている。しかも、天空の神殿には最後の怪物がいる。そいつを倒すには少々骨が折れる。第一あいつらは今十二人。全員揃っていない状態のあやつらなどただの小童にすぎん! さっきも言ったが、残る二人の雷人と時音を決して塔に近づけるな? そうすれば我々の勝ちは確実だ……グフフ、グハハハハハ!!!」


 そう言ってオドゥルヴィア博士は通信を切った。


――▽▲▽――


 ここは幻影の塔周囲を飛び回る飛行戦艦。

 その艦内の艦長室にて。


「どうかしたのか?」


 鎧で体を覆っている一人の男が元クロノスの研究員の一人である操縦士に訊いた。


「たった今、オドゥルヴィア博士から伝言を預かりました」


「して、内容は?」


 操縦士の言葉に身を乗り出す艦長。


「『幻影の塔を見張り、雷人と時音という十二属性戦士二人を塔へ近づけるな!』とのことです」


「……最初に言った伝言と変わらないのか。まぁいい」


 命じられた内容を聞いてフッと鼻で笑った鎧の男は、椅子に座り手を前方へかざした。


「全速前進! (ふね)を進ませろッ!!」


 そう操縦士に命令した後、鎧の男は顔に着けている兜を取り外した。


「ふぅ……。十二属性戦士……か」


 嘆息しながら鎧の天井を見上げる男の顔には大量の包帯が巻きつけられていた。その隙間から覗く青と黄の二つの瞳は、どことなく哀しそうな目をしていた。包帯からはみ出ている髪の毛の色も少し黒みがかっている青に似た少々濁った藍色の様な色をしていた。

 二十秒くらい経ってから天井を見上げて項垂れていた男は再び兜を頭に被り椅子の背もたれにもたれかかった……。

というわけで、西の機械とのバトルです。魔力吸収装置で雫がやられてしまいピンチに陥りますがギリギリで何とか雷人の作戦が功を奏しました。

そして、オドゥルヴィア博士は建物破壊するの好きですね。西の城が崩壊して東の城の二の舞。

さらに、暗躍しだす空中戦艦の面々。そしてその艦長である鎧の男の正体とは――。

ちなみに、髪の毛の色と瞳の色でわかる人は分かると思います。

次回は閑話? みたいな感じです。

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