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 四十年後の二一二〇年。


 エウロパからシャトルが帰ってきた。

 アンダーグラウンドエイジアの東棟にいる幹部だけで構成されたチームが戻ってきたのだ。任務は、マサトの地球帰還だった。マサトの冷凍保存から四十年が経過しても、エウロパは開発再開はされなかった。しかし無人探査機で、エウロパの有毒ガスの発生が沈静化したことが確認できたので、マサトの地球帰還が実現したのだ。

 マサトの身体は、東棟地下の解凍専用室に安置され、解凍が完了するとリハビリが始まった。

 時間の流れが分かりにくい東棟地下で生活しているマサトは、今が何年なのか、何処にいるのか理解していなかった。

「すいません。俺、冷凍保存されてたんすよね?」

「今は何もお話できません」

 マサトが何を聞いても回りのスタッフはそう答えるだけだった。マサトはどれ位経ったのか分からないまま、どこにいるのか分からないまま、目覚めてから三ヶ月を過ごした。冷凍保存されたような感覚はなかった。冷凍保存されたのは嘘であったのではないかと思い始めた頃、白衣の老人の男性が目の前に現れた。

「今日は、マサトの今の状態と、今の環境について話をする」

 いつも過ごしているフロアから一階層上のフロアの一室で、マサトは現状を認識することになった。

「まず、マサト──、おぬしが冷凍されたのは、二〇八〇年のことじゃった。エウロパでウイルスが蔓延し、感染したので冷凍保存されたのだったな。それは覚えているかな?」

「はい」

「そして今は、それから四十年経過している」

「──え?」

「今年は二一二〇年。ちょうど四十年後なんじゃ」

「───」

「場所はアンダーグラウンドエイジア。地球に戻って来ておる」

「───」

「大丈夫かね?」

「嘘ではないですよね? 俺、冷凍保存された感覚はないんです。普通に眠って目覚めた。そんな感じだったんですけど」

「ほぅ──それは興味深い。研究資料に残しておくことにするかの。──もちろん冷凍保存された君は、四十年の時を経て目覚めたのだ」

「───」

「───理解できないかね?」

「──いえ──、驚いているだけです。理解はできます」

「それを聞いて安心したよ。他に何か質問は?」

「ユウジとシュウは?」

 マサトは、少し不安げな表情で聞いた。目の前の白衣の老人が、手元の資料を広げた。

「一緒のチームだった人だね。ふむ。シュウは、契約を終了してアングラから出て行ったよ。それからユウジは──地球に帰ってきてから、ガニメデの開発チームに入ったのだが、向こうの事故で無くなった。今から十三年前の事じゃ」

「そう──ですか」

「ユウジの子供が、今このアングラにいるよ。シゲというんじゃが──」

 マサトは、目を閉じて一呼吸した。

「年はいくつですか?」

「今年で二十九歳だったかのう」

 マサトは暫く目を閉じていた。ユウジの子供が自分よりも年上になっている。奇妙な感覚だった。自分が眠る前に共に過ごしたユウジやシュウはここにはもういない。それならせめて、ユウジの子供と共にいたかった。ユウジの存在を傍に感じながら、新しい世界で生きていきたかった。

 マサトは目を開いて、老人を正面に見据えた。

「そのシゲと同じチームに入れてください。俺は新人技術者ってことで置いてもらえませんか?」

「それは構わんが──。四十年前同様、ここの研究、開発には携ってもらうよ。それから、自分が冷凍保存されたと言うことは、誰にも言わんように。冷凍保存は未だ研究途中のプロジェクトなんじゃ」

「──わかりました」

 白衣の老人は、広げた資料をまとめ、部屋から出て行った。


 遠ざかる足音を聞きながら、部屋に残されたマサトは机に突っ伏した。

「──ユウジ──!」

 もうユウジと会う事ができないのが、信じられなかった。長い時間が過ぎて行ったのだと痛感する。

出発の前日、熱いコンクリートの上で共に空を見たのが昨日の事のように思い出された。「絶対地球に帰って来よう」と誓った仲間。こんな形で地球に帰ってくるなんて思いもしなかった。

 そして、生き長らえた事が、嬉しいとは正直に思えなかった。

「迎えに来るって約束したじゃないか──ユウジ──!」

 もう二度と泣かないと思いながら、四十年前の思いに身を委ねていた。

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