勇者・雷電
思いついたら、書きたくてたまらなくなってしまって………
相撲関係者の方々、そして、ライディーンファンの方、すみません。ごめんなさい。
西暦2XXX年。
大相撲は、これまでにない超人気スポーツとなっていた。
上位を独占する外国人力士たちの中にあって、
小兵ながら大関にまで上り詰めた日本人力士「鷹の羽」。
秋場所千秋楽。その横綱昇進を掛けた大一番が、まさに始まろうとしていた。
「お父さん!!頑張れ!!」
土俵際で声援を送る少年は、日引アキラ。鷹の羽の一子である。
会場を揺るがす声援を浴びて、東から鷹の羽が土俵入りした。
「こなた鷹の羽。鷹の羽~」
対する西は、最近好調の外国人力士「猛虎山」である。
たてがみのように乱れた髷の結い方は、厳しい批判を浴びたが、その強さは本物だ。
「あーっと、にらみ合いだ!!」
アナウンサーの声が響く。
猛虎山の鋭い視線を、鷹の羽は正面から受け止めた。
「時間いっぱいです!!」
両力士は、土俵中央で激突した。
「Oh!!痛いデース。
鷹の羽関?もう少シ、お手柔ラカニ、頼みマース」
ひそひそと猛虎山が話しかける。
「立ち会い中だぞ!!何を考えている!?」
鷹の羽は、怒って言い返した。
「簡単な話デース。今後、ホンノ少し手加減シテくれると、約束してくれタラ
コノ勝負、差し上げマース」
「貴様はそれでも、力士か!?恥を知れ!!」
怒りの唸り声を上げ、鷹の羽は上手投げを放った。
しかし、猛虎山の下半身は大地に根を下ろしたかのようにビクともしない。
「ムダデース。私達、相撲協会ダークネスは、バイオテクノロジーで
新しい力士ヲ、作り出しマシタ。生身の古い力士では、我々、バイオ力士には勝てマセーン」
「な………なんだと?!」
「鷹の羽関……残念デスガ、アナタハ見せしめデース」
猛虎山は、簡単に上手を切ると、鷹の羽関の腰に手を回し、まわしを取って上からのしかかった。
重量級の猛虎山に、鷹の羽はよく耐えたが……ついには膝を突いてしまった。
しかし、猛虎山は止まらない。なんと、そのまま体重を加え続けたのだ。
「やめろ!離れなさい!!」
行事の四季森猪野助が割って入るが、はじき出された。
「うわあああ!!」
鷹の羽の背中でイヤな音が響き、悲鳴が上がる。
「鯖折り」相撲最大の殺し技とされる、決まり手である。
歴代の多くの名力士が、この技で再起不能となってきたのだ。
しかも、これほどの体重差でこの技を仕掛ける残酷さは、これまで例がない。
土俵上に崩れ落ちた鷹の羽に、土俵下から審判が駆け寄る。
「救急車だっ!!救急車を呼べ!!」
*** *** *** ***
鷹の羽関は、集中治療室に入院した。
命は取り留めたものの、背骨の損傷は深刻で、二度と土俵には上がれないとの診断だった。
「ちくしょう!!なんで、なんでお父さんが………」
日引アキラは、稽古場の床を叩き、泣き続けていた。
『奴等は、すでに力士じゃない。いや、人間ですらないんだ。
もう日本の相撲界はダメだ。お前も、力士になる夢は………捨てなさい』
一人自宅に帰ったアキラは、父の言葉を思い出し、悔しくて眠れなかった。
「相撲協会ダークネス!!猛虎山!!バイオ力士どもめ!!」
部屋の壁に突っ張りをかましながら、恨みの言葉を叫んだ。
その時……階下からかすかに声がした。
「わ……を……つかえ」
アキラは、声に導かれるように、一階の仏間へ向かった。
「わ…しの……を使え……」
声は、仏壇から響いてくる。
毎朝仏壇を拝んでいるが、アキラは、こんな声を聞いたのは初めてだった。
「まさか……幽霊?」
そう思うと急に怖くなったが、ふと見ると燭台の裏に、かすかな光が見えた。
まるで、ホタルがそこに止まっているような、青白く小さな、しかし、確かに存在感のある光。
「これって………」
手を伸ばした途端、仏壇がぐるりとひっくり返り、アキラは地の底へ落ちていった。
「う……ここは?」
どのくらい気を失っていたのだろう。目を覚ますと、周囲は薄暗い空間だった。
「やっと、目を覚ましたか」
アキラは、急に声を掛けられて飛び上がった。
見ると、青白い光に照らされ、目の前に大柄な力士が立っている。
いや、立っていると見えたが、そうではない。何か、ガラス製の容器の中に入っているのだ。
何かの液体で満たされているのか、容器の中で力士は浮いているように見えた。
体からは、いくつもの管が出され、そこを通って光の玉が力士に供給されているように見える。
「私は、雷電為右衛門。今より200年前の力士だ」
「雷電?あの、伝説の力士?」
「そうだ。私は200年前、闇の力士達と戦った………」
「闇の……力士?」
「当時、各藩お抱えの力士達が次々と脱藩し、聞いた事もない小藩から出場したのだ。
そして、凄まじい強さを見せた。それが、闇の力士達だ」
「まさか………」
「闇の力士達の裏にいたのは、古代ギリシャの神々だった………」
「古代ギリシャの格闘技?それって…………パンクラチオン?」
「その通りだ。私は彼等、闇の力士達と対抗するため、伊賀の里に伝わる秘伝の薬で、
己の肉体を改造して戦った。長い………戦いだった」
「………」
「闇の力士達を倒しはしたものの私も力尽き、奴等の本拠地、浮上要塞コクギカンは
はるか西の海底へと消えたのだ」
「私の寿命は尽きた。しかし、再び相撲が悪に狙われた時のため、
この肉体だけは、奴等の残したバイオ技術を利用して保存したのだ」
「関取は………亡くなっているんですか?」
「そうだ。ゆえに、私だけではこの肉体を動かせない。
しかし、大柄の大人の力士もまた、この肉体を着る事は出来ない。
勇気と、闘志と、知力を兼ね備えた小兵の戦士のみが、私と一つになって戦えるのだ」
「それはまさか………」
「そうアキラ、君だ。叫べ、フェードインと……
そうすれば、私の力は君の物だ」
雷電と一つになる……とはどういう意味なのか?なんとも不気味に感じた。
しかし、父・鷹の羽の無念の敗北、そして猛虎山への怒りが、その恐れを凌駕した。
「フェード………イン!!」
アキラの叫びとともに、雷電の肉体は光り輝いた。
*** *** *** ***
「さあ、今年の春場所初日も、最後の大一番となりました。
東の大関、猛虎山と、西の張り出し横綱、獣王山の取り組みです」
「おや、猛虎山はもう土俵下へ来ていますが……獣王山の姿がありませんね?」
「これはどうした事でしょうか。このままでは猛虎山の不戦勝に………あ、やっと姿が見えました」
「いや、これは………獣王山じゃない!?誰だアレは!?」
西入口から駆けてきた大柄の力士は、地面を蹴って軽々と土俵際に降り立った。
着ていた赤いマントを脱ぎ去り、東側にすわる猛虎山を指さして高らかに笑った。
「ははははははは!!
輝く海を!!
眩しい空を!!
悪魔の手には渡さない!!
みんなの願いを体に受けて、今、蘇る無限の力!!
勇者・雷電とは、俺の事だ!!」
「雷電……ダト……?」
猛虎山の目が赤く光る。
「マサカ貴様………雷電……為右衛門!?」
「いかにもそうだ!!
久しぶりだな猛虎山、いやさ、八角政ェ門。
俺の禁じ手だった鯖折りで、鷹の羽関を倒したそうだな。
また閂で、その腕へし折ってやろうか!!
どうだ?正々堂々、俺と戦う気はあるか!?」
「望む……トコロダ!!」
かくして、相撲協会ダークネスと、勇者・雷電の宿命の戦いの幕は切って落とされた。
勇者・雷電に変身したアキラは、果たして父の仇を討てるのか?
そして、恐怖のバイオ力士どもを蹴散らして、大相撲の伝統を取り戻す事が出来るのか?
戦え、アキラ!!戦え、勇者・雷電!!
大相撲の、そして日本の未来のために!!
つづく
もちろん、つづきません。