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ほのか  作者: 環 円
candy store
8/19

よっつめ お出かけの準備と。

お題:プリン


 絵を描いた。

 こういうモノがあるのだと、作り方を交えてボクは説明する。

 ティナはぶつぶつと、作り方を暗記していた。

 そんな事をしなくても、ボクがいればいつでも教えてあげるのにね。


 「ダメ。ミドリがお留守の時、食べられないもの。それに、もう少ししたら王都にちょっとだけ行くんだから」

 ああなるほど。

 採取でふらりと出掛けちゃう事が増えてるし。

 それにボクの所に来れなくなる、イコール自分で作らざるを得なくなる、だもんね。

 たった5カ月くらい、我慢すればいいのに。

 ボクなんてキミを食べたくて仕方が無いのに、こんなに、こーんなに耐えてるんだよ。

 言って無いからわからないよね。

 分からなくてもいいから、必ず帰って来て欲しい。


 「焼くのと蒸すのと、どっちがいいかな」

 ボクはティナに尋ねる。

 「どっちも」

 即答だった。

 だよね、愚問だったよ。

 

 ぱちりと暖炉で燃える薪が音をたてる。

 今日はずいぶんと寒い。

 夏の間、冷たい暗室に居たつららの精霊は無事、外に出る事が出来た。

 温度調節を日課としていたおかげで、苦手だった魔法の制御もしっかり出来るようになったし、なによりここを訪れる誰か、が増えたのが一番嬉しいかな。

 今までは近くに住む小人達や、風、木の精霊、あとはティナママと狩人のおじさん、くらいだったんだ。でもこの頃はドワルガやエルフナの人達もよく来るようになってる。

 賑やかなのっていいよね。

 

 やはり、というか未だに解明されていないのが、ボクの家どこかな問題なんだよね。ボク的にはすごく解りやすい位置にあると思うんだ。けれどここ、に来るには、誰もが気合を入れなきゃ迷っちゃうらしいんだよね。するりと障害無く来られるのは、ティナだけ。そこはまあ、なんとか来て貰わなきゃボクとしてはその、森の外には行けないし、がんばれ!って応援するしかない。

 不満に思ってるわけじゃないんだよ。

 森って簡単に言ってるけどすっごく広いし、まだまだ歩いた事が無い場所の方が多いくらいだもん。探検する、には事欠かない。

 中央のお姉さん曰く、直径を歩こうと思ったら、エルフナ達で3カ月くらい、普通の人間だと半年以上かかるんじゃないかって言う広大さ、らしいんだ。

 ボクもティナがお出かけした後、少し家を空けようと思ってる。

 この前手に入れた、ココの実でチョコレートを作りたいんだよね。

 貰った分だけだと、ほんのちょびっとしか出来なかったからさ。砂糖を入れてなんだかんだってしてたら、あっという間に無くなっちゃったんだ。

 

 ただ。

 ティナと半年近くも会えないだなんて、憂鬱なんだよね。

 ボク、干からびないかな。それだけが心配なんだ。

 いっぱい補給しておかないと、禁断症状が出そうでさ。

 癒しという潤いを求めて、壁に勝負を挑まなきゃいけないかもしれない。


 

 「作りながら覚えるといいんだ。ほら、おいで。ティナは座学より実地の方が吸収率が高いからね」

 「むー。また難しい言葉使ってる。そんなにわたし、太って無いもん!」

 ぷっくりと頬をティナは膨らませる。

 成長したとはいえ、まだまだお子様だ。

 …やたら、そう言う仕草が可愛いんだけど。

 

 そうだね。

 ティナは出会った時から可愛いよ。

 はちみつ色のふわふわな髪も、澄んだ空のようなその瞳も、そしてなにより、今でも一体何なのか分かって無いボクを怖がらずにいてくれる。

 キミの柔らかな手が作るお菓子が美味しいのは、きっとキミが優しいから、なんだよ。

 太ってもなんかいない。

 ちょっとくらいふっくらしてる方が、ボクは好みかな。

 女の子を抱きしめるとき、柔らかでふにふにしてると抱き心地がいいんだ。

 

 「…あのね、ミドリ」

 そんなにぎゅーっとされたら、はずかしい、のよ。

 

 小さなつぶやきにボクはその、困ったような顔をする頬に口づけする。

 顔が真っ赤だ。

 「ボクはこのままでも良いけれど」

 むしろこのままがいいなぁ。だってティナからいい匂いがするだもん。

 頬を染めながら、恥ずかしいって言いつつも、ボクの腕をぎゅーってつかんでるティナを抱っこするのって、気持ちいんだ。

 

 でも。

 「じゃあここまで。続きは作ってからにしよう」

 だって、そろそろおやつの時間だしね。ティナのお腹がボクに催促するだろうから。

 にっこりと笑う大好きな人の手を引いて、台所へ向かった。


 「カラメルソースから作っていくよ」

 「はい!」

 じゃあ始めようか。蒸す鍋はあらかじめ水を張って、木の枠を入れておくんだよ。

 鍋に砂糖と水を適量入れて、熱する。この時混ぜちゃだめ。泡がぶくぶくきても混ぜない。鍋を傾けたりして、揺するのがいいかな。

 色づき始めたら、好みの濃さで火を止める。苦いのが好きな場合、ゆっくりと水を注いで焦がせばいい。

 あら熱が取れたらビンに入れておくと便利かな。

 

 じゃあ本体。

 ティナが黒砂糖が良いって言うから、黒を使うね。鍋に砂糖を入れ、そこに牛乳とバララシェを投入する。

 「いつもみたいに混ぜるのね」

 「そうだよ」

 木へらを持ったティナがゆっくりゆっくり混ぜている間に、別の器に卵を割り入れ、塩を少々入れるのがコツだよ。

 ときほぐした卵は出来るだけ泡をたてないほうがいいんだ。その方が滑らかになるからね。牛乳が温まったら、卵が入ってる器の方で混ぜ、手早く、ざるで濾す。

 ドワルガの職人さんには改めてお礼を言わないとね。これすっごく使いやすいんだよ。

 布で濾すとバララシェの黒い、美味しい部分も取り除かれてしまったから、悩んでたんだ。ビンの加工もお願いしちゃってるし、無くてはならない器になってる。


 厚手の瓶にプリンのタネを入れて、蒸す器へ。水蒸気が入って表面はざらりとなっちゃうんだけど、いい方法が思い付かないんだよね。

 火を止めるのは大体4分くらい、で、その倍くらい放置すれば綺麗に固まってくれる。

 焼きプリンの方はタネを四角の鉄容器に流し込んだ後、釜に入れておけば自然に焼けてくれるんだ。


 さて出来上がるまで。

 「ティナ。ボクのお勉強に付き合って」


 最近、と言ってもここ1カ月くらいなんだけれど、ボクはお出かけを覚えたんだ。

 そのおかげでいろいろ、知る事が出来てる。

 ただ来訪者の皆さん曰く、世間知らずを通り越した無智、というのはまだ払拭できてないんだよね。

 それに中央のお姉さんは、ボクが余りで歩くのをよく思っていないみたいで、行ってはいけない場所を挙げてくる。いいんだ。それは。ボクが忘れている事、に関係していて、知れない方が良いって言うなら、いい。ボクは今の生活が気に入ってる。だから無理に思い出そうとは思っていない。

 

 なのになんだか周囲がざわついてるんだよね。

 本人を置いてきぼりにするのはどうかと思うんだ。

 言いたい事があるなら聞くし、ちゃんと配慮もする。

 今のボクが一番恐れるのは、ティナが失われる事だけだ。


 ぐう。

 「…う。あのね、ミドリ、今のはね」

 「ん。ティナのおな…ぐふう」

 

 そうだった。ティナもそろそろお年頃、で気をつけなきゃ、って思ってたんだ。

 

 見事にきまったひじ打ちは、ボクの鳩尾に綺麗にはまって、ボクは意識を失った。

 目覚めるとベットの上に転がっていて、額には温くなったタオルがあった。

 お腹が空いたなぁとランプをつけて台所に行くと、綺麗に洗われたビンと鉄のトレイが、台形の形に、積まれて鎮座していたんだ。

 「このパタンは」

 

 ヤケグイ?

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