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ほのか  作者: 環 円
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13/19

空へのハガキ

 拝啓 残暑の候、友人共においてはご機嫌麗しくお過ごしのことと存じます。

 

 こっちは暑いぞこんちくしょう。

 クーラーいいよなぁ。

 扇風機も文明の利器なんだ、こんなもんあっても仕方がねぇとか言うんじゃなくて、マジ有効利用してくれ。おれなんか今じゃ、クーラーつけて、扇風機回すだけで天国だった、って思える。

 アイスなんてこっちに来てから一口も食べて無いしさ。

 どっかにはあると思うんだ。探すのが面倒なだけで。

 そういえばアイスってどうやって作るんだろうな。

 牛乳と砂糖は絶対だろうけど。ああ、あとバニラかチョコレート。

 生まれた時からあるもんな。昔の人は偉大だよな。作ったんだもんな。

 しかもおれさ、送ってくれーって気軽に言えない場所にいるしなぁ。

 くそっ、お前らばかり安全安心安楽な場所に居やがって。

 

 …まあいいさ。

 こっち側もいい事、あったと思いたい。

 こっちじゃ無いと出来ない経験をしてるんだからな。

 へっへーん、いいだろ。サバイバルだぜ。

 

 …って思わなきゃやってられない。

 代わってやれるもんなら、代われ、是非だ。先輩からのしごきなんて屁じゃないぞ!嘘じゃないから!


 

 「おーい、シンヤ。小川があるぞ。涼んで行くか。ついでに飯、獲れるかな」

 「わーった、てかこの前の変な魚じゃねェよな?嫌だぞ、キシャーって出てくんのは嫌だぞ」

 「シャショーリャ、美味いじゃないか」

 「ひとを生き餌にす・ん・な、って言ってるんだ。おーけい?」

 豪快な笑い声を横手に聞きながら、おれは被っていた帽子を脱ぎ、荷物を下ろして息をついた。新品の運動靴は3日しか履いて無いのに砂まみれだ。

 旅の連れはガタイのいいアルバっていう、まあなんだ。命の恩人かな。


 ってなんか言い方が変な感じだな。なんて言えばいいのか分かんねぇんだけどさ。

 アルバはおれを助けてくれた。それは間違いの無い事実なんだ。

 今の関係を、プレイしてたゲーム風に言うならば、寄生、だな。


 ちょっとは体力に自信あったんだけど、全く敵わないし、反対に気を使って貰ってる位で申し訳なく思う。ここ数日で出来るようになった事、っていえば火を起こすくらいかな。小学生の時に2本の棒と紐を使って火を付けるっていうあれ、覚えてたんだよ。我ながら胸を張れたね。

 知ってるか。

 火を起こすのってすっげぇ大変なんだぞ。二の腕が筋肉痛になるくらいは、覚悟しなきゃだめなんだ。

 木こりを自称しているだけはあって力も凄いし、暮らしてる所から久しぶりに出て通るらしい森でも迷わない。ってんだから、すごいよな。

 どこから来たのか上手く説明できなくて混乱してたおれを、落ちつかせてもくれたんだ。

 まあなんだ。多少は力づくだったけど、そうでもしなきゃなにするか解らなかっただろう。

 

 悪い奴じゃないって信じたい。優しさを疑うのは簡単なんだ。逃げ出すのもきっと出来る。

 きっとアルバもそれを止めない。


 だって考えてもみろよ。

 おれにとっては非常事態さ。見知らぬ場所、に放りだされたんだ。

 でもさ、アルバにとってはどうだろう。

 要らぬ厄介事が舞い込んできた、なんて思ってるかもしれない。


 ひとりで、ここから走り出しても死ぬだけなんだろなって想像くらいおれだって出来る。

 だってさ、オオカミとか群れでいるんだぜ。犬だ、可愛いなぁって近づこうとしたら、自分から獲物になりに行くなら別段構わないんだがな。仮に助かったとして、噛まれればたいてい抵抗力の無いヤツは伝染病に罹って終わりだがそれでも行くのか、って止めてくれなきゃ絶対に、よしよーし、お手、とかしてたぜ。


 「無難に木の実とか探すか」

 「ん。この前教えて貰った赤い実、美味かった。あれ、無いかな」

 オレは靴ひもをしっかりと結び直し、下ろした鞄を肩にかけて立ち上がる。

 オレが暮らしてた町はどちらかと言えば昔っからある住宅街で、緑もそれなりにあるとは思ってたんだけど、こことは天と地の差、がある。婆ちゃん家はさすがに山、だったけどな。危険な動物はいなかったし。ああ、気を付けろと言われたのはヘビくらいなもんかな。マムシって知ってるか?怖がる必要はないけど、注意はしろって教えられた。

 カブトムシが取れる裏山に入る時、言われてたんだ。


 「シンヤ、お前といると運が良い。ウマい肉がまた食えるぞ」

 「え。またクマがい…」

 おれはアルバの後ろからひょっこりと顔を前方に覗かせる。

 指を向けている方向を見ればそこにあったのはだな。

 「でけぇヘビ」

 「塩を持って来て正解だったな」

 

 アルバが弓矢を取り出し、構え、引く。

 木こり生活を10年以上やってると、狩猟の技術もつくもんなんだってさ。

 斧を振りあげるだけじゃ、効率が悪いらしい。

 太い木の幹を移動中のヘビの胴を狙ったのかと思いきや、撃ったのは緑の葉が生い茂る中だった。


 一撃必殺。

 

 数秒の沈黙の後、どさりと落ちてきたのは太い赤と黒の模様が毒々しいヘビだ。


 おれはその場から動けなかった。

 怖かったっていうかさ。クマの時もそうだったんだけど、食べるため、生きるためとはいえ、殺すってことに嫌悪感が先立った。

 アルバは、「随分と平和な国に住んでたんだな」って言っていた。

 確かに平和だよ。

 戦争なんてテレビの中だけで、聞こえてくるのは専ら、どうでもいい事なんだから。

 ニュースが流れてても何やってたかなんて、覚えても無い。

 学校に向かう為の、電車に間に合うように時間だけを見ていた。

 

 とどめを刺し、運ぶのを手伝ってくれというアルバの声に我に返って、蛇の胴体を持つ。ヘビに触る事さえ初めてで、案外つるつるとしたその肌触りに撫でていると、なぜかアルバが笑ってた。

 おれ何か変な事、したのかな。

 

 ヘビは美味かった。

 クマはどちらかと言うと匂いがあったし、肉も硬くてさ。なんかゴム食べてるみたいだったんだけど、ヘビは鶏肉みたいで美味かった。

 食った、食いまくった。

 塩だけだったけど、なんか懐かしい味っていうのかな。

 下ごしらえはアルバが全部してくれたんだ。見学しても構わないと言ってはくれたんだけどさ、見る気にならなくて、焚き木を集めに行かせて貰ってた。

 血を見るのに慣れて無かったからさ。

 スーパーに母親に連れられ、買い物に行ったときだって、肉はパックに入って売られてるんだ。どうやって肉になってるかなんて、想像もしてなかった。

 だから、っていい訳にするつもりじゃないけど、なんか、いいようの無い感情があったんだよ。

 帰ってきたらすでに葉っぱに巻かれて蒸し焼き出来る状態になっていた。

 剥がした皮は乾かせば装飾品として買い取って貰えるらしく、細めの幹に掛けられて干されている。食べきれない分は木の棒にさして、これまた炙るようだ。

 

 「目的地まであと3日ってところだからな。保存食にはもってこいだ」

 

 あー、うん。

 期待はするなって言われてはいるんだけどさ。

 戻れるもんなら戻りたい、よな。

 あと3日、どうなるのかはわからないけど、両親にも友達にも会いたい。

 バカみたいに、意味無く騒いで笑ってた場所に戻りたい。

 

 末筆ながら、みんなが元気であるように願ってる。突然いなくなったおれの事、きっと探してくれてる、なんてちょっとは期待しながらさ。


                                                敬具

2011年 03月 20日 投稿文です。

消去してしまったので、再度掲載。

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