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せっかく【転生】するのだから、「推し」の悪役令嬢コピーして難易度「ヘル」の攻略したいと思います!

作者: ワクさん
掲載日:2026/10/13


〈 約束通り、君の心臓をもらい受ける 〉


白銀の髪をした美青年が私の目の前にいる。


〈 君は、僕の「心臓」を奪った。だから、今度は僕の番だ 〉


そう言って私に近づいてくる。


ふほっ、ふほほほほほほほほ……


なんという美声。

なんというビジュアル。


長い睫毛に縁どられた「ウルフアンバー」の瞳が細められる。


〈 恥じらうのか?あれだけ僕を追い詰めておいて―――― 〉


いやいやいや、これも私の手の平の上でございますよ。


〈 いざ自分が受け身になると、こうも脆いとは 〉


そう言って青年は私の腕を掴み、引き寄せる。


〈 捕まえた 〉


体が近い。

顔が近い。


うへへへへへっ


私は変な笑いがこみ上げてくるのを必死に堪えた。


〈 さあ、観念して僕に君の「心臓」を差し出すんだ 〉


そして、「王子様系イケメン」の顔が、あと数センチ前くらいまでに迫る。


〈 そして、僕の永遠の「伴侶」となれ――――― 〉


彼はそっと目を瞑り、私の唇へと――――――



「うっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



私は奇声を上げて床をゴロゴロと転がった。



《 【システムエラー】コンテンツの視界外です 》


視界は暗転して、目の前にはエラーメッセージが出ている。


私は暗転したままの視界をよそに、足をバタつかせて床を足裏で叩く。



「うるさぁぁい!」


ドアが乱暴に開けられ、怒声が飛んできた。


私は、装着している「VRゴーグル」を外し、声の主を見た。


「今、何時だと思ってんのっ!ご近所メイワクでしょっ!」


廊下の明かりを背に、腰に手をあてているシルエット。

この声は、「我が母」ではございませんか。


「ごめん、お母さん。つい、ハイになっちゃって」


私は素直に謝った。

だって、下手に抵抗しても無駄だって学習しているから。

だてに30ウン年もつき合っていない。


「いい歳の女が、三十路に入ってまで、会社から直帰のゲーム三昧なんて……」


うわ~、お小言が始まったぁ~

長いんだよなぁ、こうなったら。


「たまには、その……オシャレなカフェとか~、あ~、バルとかでさぁ―――」


母が言った時、私はそれを制した。


「それは、無理」


「何が無理なのよ」


「だって、私、そういう友達いないもの。一人で行けっての?」


そう、私には「友達」と呼べる存在は、一握りほど。

そして、その類はそういったキラキラした場所には行かない。

いや、バルってキラキラしてたかな?

VTuberのイベントとかで行ったことあるけれど。

まぁ、「バーチャル」ですからねぇ……



「だったら、一緒に行ってくれる人を探しなさい!職場にイイ人いないの?婚活パーティとかでも……」


ハッ、何を言っているのやら。お母様。


化粧っ気もなくて、瓶底眼鏡。

髪は、クセの強い猫の毛。

凹凸の少ない、なだらかな体形。

とくにくびれもなく、最近は主張をし始めた脇腹の肉。


「こんなの」の誰が相手をしてくれるというのですかっ!お母様っ!


スキンケアーとかぁ、化粧水つけてそれなりにやったりもしてますけれどぉ。

30歳入る前は、ちょっと運動だってして、スッキリ美バディ(自称)にもなったりしましたけれどぉ。


まったくの「ムダムダムダムダぁぁぁ」って感じですわん。


「婚活とかしなくていいのぉ~、なんせ私は『ハティさま』に今、告られて、求婚されてる最中だもの」

私は投げやりに言った。


もちろん、彼は「ゲームの中のキャラ」だけれどさ。


「『ハティ』……?誰?中東系の人?外国人?アンタ、騙されてんじゃないわよね?」


私の言葉に母が首を傾げた時だ。


私の外した「VRゴーグル」。

そこにセットしたモバイルから、音声が漏れ出る。


〈 この「ハティ・アガートラーム・マクスウェル」。君を【眷属】とし、生涯を共に――― 〉


「あ――――」


「……」


ひじょ~~~~に、気まずい「沈黙」が訪れる。


ややあって、母は口を開く。


「アンターー!ファンタジー(妄想)の住人じゃないのぉぉぉぉ!」



「母」は激怒した。


そして、かの邪知暴虐な「最狂の魔人」を除かねばならぬと決意した。(ようだ)。

私から「VRゴーグル」を取り上げようとする。


母には、「乙女ゲーム」がわからぬ。

母は、ごく一般的な主婦である。

朝食や夕餉、時には弁当まで用意し、家事をこなしてきた。

けれども、娘の「婚期」については人一倍敏感であった。


と、某文学作品のように綴りましたが、このあと大変でした。

怒れる母に追いかけられ、そりゃぁもう羊飼いの青年のように走り回りましたとも。



◇


私は、アラサーの地方中小企業の女子事務員。


日々、書類やら受注管理やら、経理補助やらをしている。


専門学校卒。


彼氏いない歴=年齢。


ビジュアルどころか学歴もない。

ほんと、なんもない。


さらに、小さなころから「コミュ障」。

男の子にまともに話しかけたためしも、話しかけられたためしもない。


それでも、私は「逃げ場」があった。


「妄想の世界」「夢想の世界」。


最初は「アニメ」、「ラノベ」から入って、「ゲーム」をするようになった。


この世界の人たちは「優しい」。


誰も悪く言わない。


誰も蔑まない。


もし、悪く言ったり、蔑んだりするんだったら、それは決まって「悪者」だ。

すぐに「ざまぁ」が待っている。


なんて―――――「優しい世界」。


私はこの「優しい世界」にドハマりしていた。

この世界に触れている時だけは現実を忘れられる。


時には、「スカッ」と。

時には、「乱暴」に。


そして、「きゅんきゅん」もできる。


私だって、本当はいろいろ頑張ったんだよ?

でも、全部……ぜんぶ、ムダに終わったんだ。

だから「諦め」た。


いいんだ、もう。


頑張らなくたって。


誰かの期待に添おうとしなくって、さ――――――


30歳っていう壁の前でジタバタしたけれど、それすら何の意味もなく、むしろ「ハズカシイ」黒歴史で終わったんだからさ。


だから、会社で飾ることもしなくなった。


必要最小限……といっても、もともと「コミュ障」だから、普通にしているだけで最小限なんだけれど。


ああ、とっても楽なんじゃない?


誰からも相手にされないから、変な奴に飲みに誘われることもなければ、絡まれることもない。

残業もそこそこ。

人事評価もそこそこ。


「クビ」切られないように気をつけて、働きさえすれば。


まぁ、そんなに世の中甘くないってわかってるけどさ、「陰口大会」「足の引っ張り合い」「派閥つくっての覇権争い」……それよか、よっぽど健全だと思いますよ?


メンドクサイのはポイっと捨ちゃって、私はすぐに「理想の彼」と「夢の世界」を満喫するのであります。



――――終業時間1時間前。


スマホに「通知」が表示される。


ごく一般的に使われる緑っぽいアイコンの「連絡アプリ」。


《 ゴメ~ン!18時『トンキー』で話せない? 》


「同好の士」から連絡。

ちなみ「トンキー」とは、居酒屋チェーン「この豚貴族!」のことだ。



◇


「くっそぉ、『初見殺し』めぇぁぁぁぁ」


目の前でメガハイボールのジョッキを乱暴にテーブルの上に置く「同好の士」。


彼女が興奮しているのは「ゲーム」のことだ。


ちなみに彼女のプレーヤーネームは「リンさぶろう」。

れっきとした女性ですけれどね。


「お待たせいたしましたぁ~、【ガリガリな豚】と【真紅の豚】でぇす」

店員さんがそう言って私たちのテーブルに注文した品を置く。


【ガリガリな豚】って別にやせ細った豚ではない。

「ガリ(ショウガ)」と「ガーリック」を使った「豚の生姜焼き」。

スキレットの中で音を立てるソレから、ガーリックの芳ばしい香りが漂ってくる。

口に入れると甘辛くもガリのパンチがタコ殴りにしてくる一品。

白飯もいいけれど、ハイボールもどんどん進む。


【真紅の豚】は、「紅ショウガ」を豚バラで巻いたもの。

豚肉の中に「真紅」の毒々しいまでの「赤」が目を引く。

でも、一口頬張れば、豚の油と中の紅ショウガのさっぱり感がクセになる一品。

これなんかは、ジンソーダとかと流し込みたい。


なんで、「ショウガ」づくし?

いや、だって「代謝上がる」ってなんかの番組で言ってたから。

せめてもの抵抗ですよ。


「リンさぶろう」は、何かよくわからないうめき声を上げて、【真紅の豚】を箸でつまみ、口に放り込む。


モムモムと咀嚼し、メガハイボールで流し込んだ。


「くぁああああ、コイツで飛ばなきゃただの『豚』だぜぇ」


おっさんくさい感じで、息を吐いた。


ちなみに、この「リンさぶろう」、専門学校時代からの友達。

数少ない「ヲタク」仲間。


でも、私とのビジュアル格差は「月とすっぽん」。

もちろん「リンさぶろう」の方が「お月様」。


ほっそりとしていて出るところは出ている。

ミルクティカラーに染めた髪を、ブリーチしてウェーブきかせたショートボブにしている。


その見た目から、モテて「ヲタサー」の「姫」だった。

でも、彼女は二次元にしか興味がない「重度のヲタク」。


見た目の「格差社会」を私に感じさせつつも、当の「リンさぶろう」は私と気が合うらしく、こうして定期的に会っては「情報交換」をしている。


話は、自然と私たちがハマっているコンシューマー乙女ゲーにうつる。


「ちょっと、聞いて!きのう、ついに『ハティ様』ルートはいったんだけどさ!『我が姉のためだ。君の心臓を貰い受ける』って言われて即死!バットエンドしたわ!」

リンさぶろうが、声高に言う。


そう、興奮しているのはコレのことだ。


「出たぁ!『心臓、貰い受ける』!あの、『初見殺し』!」

私も彼女に合わせて言った。


「ねー!もう、Wikiってさ!やっとわかったんよ!数話前の『モブオ』配置ミスってたら詰むって!制作、鬼畜すぎ!あそこのガチャで『偽のピジョンブラッド』ゲットしなきゃ、即死エンドってないって」

リンさぶろうが興奮気味に言う


「でもさぁ、でもさぁ」


私がそう言うと、リンさぶろうも意を得たりと顔を寄せる。


『すまない。白百合のような君を手折るのは本意ではなかった』


同時に「ハティ様」のセリフを言って興奮のあまり、足を踏み鳴らす。


「バットエンドでも何でも、ワザとルート入って聞きたいわーーーー!」

リンさぶろうが天井に向けて吠えた。


「私、ソレ聞くために、もう五、六個心臓あげちゃった!心臓そんなにないのに!」

私も声を上げて笑う。


「心臓、五、六個って『悪魔』やんっ!」

リンさぶろうが「きゃははは」と笑いころげる。



―――「乙女ゲー」【花冠のヴァルキュリア】。

通称【花ヴァル】。


乙女ゲーなのに、そこそこ本格的なタクティクス系RPG。

戦乱の中、領地を運営しつつ「攻略対象」と愛を育んでいくというストーリー。


主人公は「帝国」の下級貴族の娘。

帝国は国内の「郡部」どうしが覇権を競う内乱状態。

そして、同時に隣国「王国」との戦もしている。

いやいや、これって「乙女ゲー」かよってツッコミたい世界観。


ちゃんと「恋愛シミュレーション」がメインになっているんだけれど、かなり骨太な「領地運営」とか「政治」とか「バトル」とかある。


生き残るために、内政・諜報担当の“パシリ”「モブオ」と、バトルパート担当の“じいや”「リュック」を上手く使って生き残らないといけない。


あらすじとしては、ある日、「帝王」の第二親王が、自分の勢力へと引き込むため、主人公の領地へとやってくるところから話は始まる。


メインの攻略キャラはもちろん、この「第二親王」。

キラキラ、長髪さらぁりの王道キャラ。

(ルート次第で、悪魔の依代になって消えてる)


続いて、他の攻略対象キャラ。


戦の途中で仲間になる傭兵団「黒金の鷹」の頭目「ガレット」。

いわゆる頼れる兄貴キャラ。

見た目もちょいワイルドでセクシー。

(でも、コイツ、ルート次第で「王国」に寝返るんだよね)


敵国「王国」から亡命してくる「謎の貴公子」の「ウォルター」。

金髪イケメン。

誠実で、聡明。実力もある。

(でも、コイツ、実は「悪魔憑き」。ルート次第でラスボス)


さらに、敵国「王国」からの亡命者、「ランドルフ」。

赤毛のヤンチャ系イケメン。

「王国」の将軍に自分の「師匠」を殺された恨みと、自分の仕える人物の処罰を憤り、主君と共に亡命。

(でも、コイツの主君って「男の娘」。ある意味ラブラブ。BL好きにはもってこいだけれど)



そして、最後は最高難度を誇る、私の「激推し」。

「ハティ・アガートラーム・マクスウェル」。


敵国「王国」の将軍の一角。

白銀の髪を持つ「王子様系イケメン」。

ビジュアルは最高にいい。

けれど、敵でもあり、主人公を脅かす存在。

冷酷で、感情を表に出さない―――――――


と、思いきや!

主人公の前では「ポンコツ」ぶりを発揮してくる。


さらぁぁぁに!


全ルートで、この「ハティ」をどうにかしないと、彼は闇堕ちして「魔王級」の障害となって現れる!!


これはもう「沼」るっしょ!


ということで、多くの女性プレーヤーは躍起となってこの「ハティ」を落そうとするのです。


あ、ちなみにこの【花ヴァル】のラスボスも紹介するね。


「悪役公爵令嬢」の「エリーゼ・カナン・マクスウェル」。


白銀の髪。

アイスブルーの瞳。

とんでもなく豊かな胸。


小柄ながらも人目を惹くその容姿。


加えて「王国」の聖騎士長。

【ステータス】の平均値が、とんでもなく高くて隙が無い。


それどころか「ウォルター」の元・恋人。

「ハティ」の実の姉。


もう、この「エリーゼ」は「ラスボス」だけあってストーリーに絡みまくるのよっ!


憎さ余って可愛さ百倍!


「やっべ、切ねぇ」

「ちょ、ヤバ!イジリがいあるぅぅぅ」

と何度画面の前で悶えたか。


私は「エル姉」(エリーゼ)の「ぐぬぬぬぬ」見たさにこのゲームをプレイしているのかもしれないと、なんど思ったか。


ということで、私は「激推し」攻略対象として「ハティ」。

そして、推しキャラとしては「エリーゼ」。


この二人を愛でるために【花冠のヴァルキュリア】をプレイしている。



「『制作』ってさぁ~、まさに『悪魔』よね。廃課金者を生み出す、拝金主義者ども!」

リンさぶろうが【ガリガリな豚】を取皿に分けながら言う。


そう、この【花ヴァル】はコンシューマーゲームでありながら、いろいろな仕掛けがしてある。


その一つが「キービジュアル(イベントシーン)」の「VR特典」。

各「イベント」攻略後、解放された「シーン」にパスワードが表示される。

Web上で「ユーザー」登録と「シリアルコード」、「シーン別パスワード」を入力。

そして、「課金」すれば、ダウンロードできる特典。


なんということでしょう!

「VR」でそのシーンを何度も「擬似」体験できるというものだ。

モニターで見るのとは一味違った臨場感。


ちなみに、「バッドエンド(死亡)」すらも「VR」で体験できるという、誰得かわからない(いや、私だけれど)仕様にもなっている。


昨晩、私が自宅の部屋で大暴れしていたのもソレ。(既に何千回もリピート済み)


だって「推しキャラ」が、リアルに私に迫って来るんだよ!?

ヘッドセットとかしていたら、耳元で甘い声で囁くのよっ!!!


興奮しない方がおかしいってのっ!


ホント、まさに悪魔の所業。


このシステムを私たちは「腐のブースターパック」と呼んでいる。


「ほぉんと、リアルで『ハティ様』みたいなのいないかなぁ」

リンさぶろうが言う。


「それな~」

私も同意した。


「私は二(2.5)次元に生きるって決めてるんだけれどさぁ。親がねぇ」


「ウチもぉ」


「『アンタ、このまま独り身って、老後の孤独死まっしぐらじゃない』『婚活パーティ行きなさい』ってさぁ、パンフレット渡されたの」


「あ、私も昨日言われた!」


私は、昨日あったことを彼女に話した。


「でね、『ハティ様から求婚されてます』って言ったの」

お母さんとのやり取りを話す。


「ほうほう、やるじゃないですか」

リンさぶろうは頷いていた。


「そうしたら、お母さんなんて言ったと思う?『ハティ?誰?中東の人?』だって!」


「ぶはっ!『中東の人』って、マジそれっ!?」

ゲホゲホとリンさぶろうが咽る。


「リアルでさぁ、ハティ様みたいな『命がけで家族やヒロインを守る激重男』なんていないじゃん!しかも、私が何とかしないと『闇落ち』する『沼らせ男』なんてさぁ」

私はメガジンソーダを飲みながら言う。


「だよねぇ、リアルの男ってさぁ~会社の愚痴とか、人をバカにして『イジリ』とか『煽り』とかっていうバカしかいないじゃない?それ面白いのオマエだけだろっての。ガキかよ」

リンさぶろうは、おしぼりで口元を拭いて言った。

うっすらとおしぼりにリップがついている。


「わかるぅ、学校とかでもそうだった。先生とか先輩とかターゲットにしてさぁ、イキッていてマジで『キモ』って思った」

私は、少しだけ「見た目にやっぱ気をつかった方がいいのかなぁ」なんて思いながらも彼女に合わせて言った。


「ホント、それな~~~」


私とリンさぶろうは、メガジョッキを軽く打ち合わせて乾杯した。


◇



――――――あれ?


私は気づくと、真っ白い空間にいた。


(ここ、どこ?)


辺りを見回す。


しくしくしくしく……


すすり泣く声が聞こえる。


というか、なんだか「体育座り」している子がいる。


え~、たぶん、10代後半くらいかなぁ。


「あ、あのぉ~」

私は彼女に声をかけた。


「ひぅ!」

彼女はビクリと身を震わせた。


「ここは、どこ?私はなんでここにいるの?」


コミュ障の私だって、現状把握のためには人に尋ねることはする。

相手が「人畜無害」そうな場合に限り。


「う、うう。ごめんなさいぃぃ」

その子は顔を上げた。


うっわぁ、ちょ~ちょ~~~、美少女なんですけれどぉぉぉ!


「怒らないで聞いてくれますか?」

少女は上目遣いで尋ねてきた。


同性の私でも、ちょっとこれはドキドキしてしまう。


「え、えっと聞いてみないとわからないんだけれど。たぶん、怒らない……よ?知らんけど」

私は適当に言った。


「じ、実はですね」


―――そして、その少女は語った。


私が何かの手違いで「事故って」、三十●年の「生涯を終えた」ということを……



「ぬわぁんですってぇぇぇぇぇ!?」


私は絶叫した。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

彼女は平謝りだった。

いや、なんか「女神さま」とかいうポジションらしいのに。


「ああ……女神さま?」

私はこの謝り続ける女神さまに申し訳ない気持ちになって声をかけた。

有名なラブコメ漫画のタイトルみたいになったのは偶然です。


「確かに驚きはしましたけれど、生き返らせるって、できないんですか?」

私は聞いた。


「無理です。だって、肉体はもう『●◇▽※』になっちゃってますから」


―――――オエッ!


それって「手違い」レベルじゃないでしょっ!


「ということで――――」


女神さまは立ち上がると、ひとつ咳払いをした。


「アナタには新たなる世界で人生の『Re.スタート』をきっていただくことになります」


……はい?


「わたくしの手違いでご迷惑をおかけしましたので、『望む世界』への転生、『望む生活環境』、『望む容姿と力』を与えましょう」


威厳を示しながら女神さまは伝える。


「もちろん、前世での知識なども引き継げるようにします」


そこまで言った時、私が黙っていることに急に不安になったようだ。


「あ、あの~、聞いていますか?」

女神さまはオドオドしながら尋ねてくる。


「ふっ」

私は思わず声を漏らした。


「ふ?」

女神さまは首を傾げた。


「うふふふふふふふふふふふふふふふ」

私の体は自然と震え、そして口の端から声が漏れ出た。

もう、「肉体」はないというのに。


「え?なに?ちょっと怖い」

女神さまはドン引きしている。

でも、私には関係ない。


だって……


「【転生イベント】キターーーーーー!」

私は両拳を突き上げて叫んだ。

いちおう、「霊体」っていうのか「幽体」っていうのか、体の輪郭はあるんだね。



ガシィィッ!


私は女神さまの肩を掴んだ。


「今、言ったことは本当ですねっ!?」


「ちかいちかいちかいっ、顔近いっ!そしてアナタ怖いっ!」


女神さまは怯えていた。


「私の『望む世界』!私の『望む環境』!私の『望む容姿と力』!それらを全て叶えてくれるんですよね!?」

私は念を押した。


「は、はいっ!もちろんですっ」

女神さまは約束してくれた。


「では――――――」


私は女神さまと交渉を開始した。


第一条件。

乙女ゲー【花冠のヴァルキュリア】そっくりの世界はあるのか?


「あります」


いや、マジかよっ!最高じゃんっ!


「ちなみに、キャラクターというか現地の方は?」


「ええ、『エリーゼ』という方も、『ハティ』という方もいますよ。というか、生まれる予定です。たぶん、あなたの好きなその……【花ヴァル】の登場人物と似通った人たちが」


ひぃやぁぁぁぁぁぁっ!

神様ありがとう!


「じゃあ、そこでお願いします」

私は伏してお願いをした。


「え?あ、いえ……」

なんだか、女神さまが目を泳がせている。


「いいんですか?本当に?」

女神さま、やたら確認するなぁ……目も合わせないのに。


まぁ、いいか。

愛しの「ハティ」さまと、「エル姉」に会えるんだもの。


ん~、じゃあせっかくだから、設定もいじっておこうかなぁ~


私は考えた。

せっかく、いろいろ【ステータス】いじれるんだ。


なら……


「白銀の髪、アイスブルーの瞳。背は低くてもいいから、成長したらボンッキュッボンッ!のセクシーダイナマイツな容姿になるようにしてくださいっ」


そう、私の「推し」、エリーゼこと「エル姉」を「コピー」するのだ。

だって、私には無い物!

めっちゃ羨ましかったんだものっ!


「ええ、その程度のこと造作もないですよ」

話題が変わったことに、ホッとしたような顔で女神さまは答えた。


「ちなみに、その姿は転生先では……」


「絶世の美女ですね」


「ヒィッヤッハーーーーー!」

私は跳び上がって喜んだ。


「じゃあ、【ステータス】は……」

憶えている限り、「エル姉」に寄せた。


「う……むぅ、かなり厳しいというか、『チート』すぎですけれど、何とかしましょう」

女神さまは悩みながらも頷いた。


(ハッ!?)

満足げに頷きながらも、私は気づいてしまった。


そう、私は「運動音痴」だったのだ。

ゲーム知識はあっても、リアルの「バトル」なんて経験もなければ、わからない。

学校の授業で「武道」があったけれど、「柔道」の受け身すらまともにできなかった。


(や、ヤバい。【ステータス】高くても、『即死』もアリかもしれない)


一抹の不安が、私を次第に支配し始めた。


「あ、あの~、ちょっとお願いと申しますかぁ訂正箇所が」

私は女神さまにお願いをした。


それは【AGL(素早さ)】を平均よりちょっと高いくらいに抑える代わりに、【DEF(防御力)】を限界突破した『鉄壁』の化身にしてほしいというもの。

【スキル】も【即死無効】・【ステータス異常無効】をつける特典まで懇願した。


「死にたくないんですぅ~、せっかく生まれ変わってソッコーで死ぬって嫌なんですぅ」

私は泣いて頼んだ。


「あ~、ハイハイ」

負い目もあってか、女神さまは渋々というか「遠い目」をして承諾してくれた。


フフフッ、これで、大抵ことではコロッと死なないでしょう?

「完璧」な……ハズ。


「では、これでよろしいですね?」

女神さまは確認をした。


私は、「誓約書」を読み、遺漏がないかを確認した。

さんざん、事務仕事でやってきたことだ。


「問題ないです」

私は答えた。


「それでは、『新しい生』へと向かう前に――」

女神さまは言った。


私は、女神さまに頷く。


もちろん、「最期のお別れ」を家族に言うのだ。


こうなってしまったら、「仕方ない」と割りきったつもりだ。


でも、正直な話。

「寂しい」し、「悲しい」。

「後悔」だっていっぱいしている。


たくさん、たくさん迷惑をかけた。

謝りたいし、お礼も言いたい。


本当は、まだまだ、みんなといっしょにいたかった。


嫌な奴、嫌いな奴がたくさんいるなかで、みんなのことは「好き」だった。


だから、心残りがない訳じゃない。


私は「思いのたけ」を伝えた。


そして、まだまだ足りなかったけれど、伝えて―――――


そして……光の渦に包まれる。

私、暗く温かい脈動の中へと落ちていった。


次に、気づいた時には、明るい方へと押し流されるところだった。


―――怖い!


私は声を上げた。

これが「生まれる」瞬間なの?


そして、私は【花冠のヴァルキュリア】の世界に転生した。


……ハズだった。


でも、私はこの時には知らなかった。


女神さまが「遠い目」をしていた理由。

何かを黙っていた理由。


「事実は小説より奇なり」っていうことを。


私の転生先は―――――


乙女ゲー【花冠のヴァルキュリア】にそっくりってだけでっ!

出てくるみんな、「オカシイ」ってことに!!!


クッッソーーーー!騙されたぁぁぁぁっ!


こうなりゃぁ!


こっちだってやってやるよぉぉぉっ!


「廃乙女ゲーマー」なめんなよぉぉぉ!!!


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