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追放された魔力ゼロの偽聖者、四体の神獣と冷徹な氷の国王に拾われて溺愛され、幸せな王配になりました  作者: 水凪しおん


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第12話「四神獣の祝福と王配の宣誓」

 甘い沈黙が部屋を満たし、二人の体温が混ざり合う。

 窓の外では星が瞬き、風の音が遠くで聞こえる。

 しかし、その静寂は長くは続かなかった。

 ドタン、という鈍い音が廊下側の扉の向こうから響いた。

 カインが驚いて体を離そうとするが、ライアスは腕の力を緩めない。

 扉の隙間から、白い鼻面が無理やり押し込まれてくる。

 シロだ。

 部屋の隅に退避していたはずの神獣たちが、いつの間にか扉の前に集結していたのだ。

 シロが前足で扉をこじ開けると、その後ろからクロ、コン、ユキが雪崩を打って部屋の中へ転がり込んできた。

 四体の神獣は、二人の周囲を取り囲むようにグルグルと回り始める。

 コンが高い鳴き声を上げ、ユキがカインの足元にじゃれつく。

 クロがライアスの背中に前足を乗せ、ドスンという重い衝撃が伝わる。

 シロはカインとライアスの間に鼻先を突っ込み、二人の顔を交互に舐め回す。

 部屋の中は一瞬にして、毛玉たちの歓喜の渦に飲み込まれた。


「こら、お前たち。少しは空気を読め」


 ライアスが苦笑しながらクロの頭を押し除けるが、神獣たちは全く気にする様子がない。

 カインはライアスの腕の中で身をよじりながら、堪えきれずに声を上げて笑い出した。

 腹の底から湧き上がるような、明るく、澄んだ笑い声。


「仕方ないですよ。この子たちも、祝ってくれているんですから」


 カインの言葉に、ライアスも小さく息を吐き、シロの頭を乱暴に撫でる。

 その時、開け放たれた扉の向こうに、エリオの姿が見えた。

 片手には分厚い書類の束を抱え、もう片方の手で眼鏡のブリッジを神経質に押し上げている。

 エリオは部屋の惨状と、神獣たちに埋もれながらも笑い合う二人の姿を冷ややかな目で見渡す。


「……全く。夜更けに何事かと思えば。陛下。明日から、私は死ぬほど忙しくなるということですね」


 エリオは深い深いため息をつき、廊下の壁に背中を預ける。

 ライアスは神獣の毛皮にまみれながら、エリオに向かって不敵な笑みを浮かべる。


「ああ。国法を一つ、書き換えてもらう。エルトリアにおける同性婚の承認と、王配制度の正式な法制化だ。明日の朝一番で、法務局の役人を全員集めろ」


 エリオは顔をしかめ、胃のあたりを押さえる。


「……御意のままに。ですが、貴族たちからの反発は必至です。準備期間が全く足りません」


「反発する者は、直接俺の前に連れてこい。言葉で分からなければ、力でねじ伏せる」


 ライアスの言葉に、エリオは諦めたように肩をすくめる。

 カインはエリオの苦労を思い、少しだけ申し訳なくなりながらも、胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 この国の人々は、王の無茶な要求にも、最終的には全力を尽くして応えてくれる。

 それだけライアスが信頼され、愛されている証拠だ。


◆ ◆ ◆


 その夜からの半年間は、エルトリア王国にとって怒涛の日々となった。

 ライアスの宣言通り、国法の改正は凄まじい速度で進められた。

 エリオをはじめとする文官たちは不眠不休で働き、反対派の貴族たちはライアスの冷徹な論理とカインがもたらす圧倒的な利益の前に次々と沈黙していった。

 カインの農業改革は確実な成果を上げ、国庫は潤い、民の生活は目に見えて向上していた。

 さらに、魔瘴の嵐から大陸を救った真の聖者としての名声は、反対派の意見を封じ込める最大の武器となった。

 そして何より、四体の高位神獣が常にカインの周囲を護っているという事実は、彼が神に選ばれた存在であることを誰の目にも明らかにしていた。

 季節が冬から春、そして初夏へと移り変わるころ。

 エルトリア王国は、大陸史上初となる同性王配制度の法制化を公式に宣言した。

 王城のバルコニーからその宣言が読み上げられたとき、王都の広場を埋め尽くした民衆からは、地鳴りのような歓声が上がった。

 カインの日常は、地位が変わってもそれほど大きくは変化しなかった。

 朝は早く起きて農地の視察へ向かい、昼は執務室でエリオと共に書類の山と格闘する。

 夜は自室で神獣たちにもみくちゃにされながら本を読む。

 唯一変わったのは、夜の時間がライアスと共有されるようになったことだ。

 ライアスは執務が終わると必ずカインの部屋を訪れ、時にはそのままベッドを共にするようになった。

 ライアスの執着は日に日に深まる。

 少しでもカインの姿が見えないと、城中を巻き込んで探し回ることも珍しくない。

 カインはそんなライアスの過保護な愛情に苦笑しつつも、深く満たされていた。

 追放されたあの日、雪山で凍え死にかけていた自分が、今では一国の王の隣で誰よりも愛されて生きている。

 運命の歯車が噛み合い、完璧な調和を奏でているのを、カインは確かに感じていた。

 婚儀の準備が着々と進む中、カインは自身の机の引き出しから、真新しい革張りの手帳を取り出す。

 前世の習慣で、日々の出来事を記録するための日記帳。

 羽ペンにインクを浸し、真っ白なページにペン先を落とす。

 これから始まる新たな歴史と、最愛の夫、そして騒がしい家族たちとの記録をここに刻みつけるために。

 窓の外から、潮風に乗って初夏の日差しが執務室へと差し込んでいる。

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